「企業の人事労務アドバイザー」というイメージが強い社労士ですが、社会保険労務士法人ステラコンサルティングでは、開業時から一貫して個人向けの障害年金請求サポートをメインにしているのが特徴です。近年ではグループ会社で就労支援施設を運営するなど、社労士業務にとらわれない活動を展開。いずれも社会的意義の大きな領域ですが「決して慈善事業として行っているわけではなく、確実に収益化できるビジネスモデルを確立している」と代表社員 坂田新悟さんは話します。その想いや背景について、詳しいお話を伺いました。
目次
社労士業界では稀有な障害年金のプロフェッショナル
相談件数は12年間で1万件超 場数を問われる障害年金請求
──ステラコンサルティングによる「障害年金請求サポート」とは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
一言でいえば、障害年金請求の代理業務を行っています。障害年金は複雑な制度で、受給希望者本人だけで適切に手続きするのは困難な場合もあります。例えば「どの障害等級が妥当と見込まれるか」「障害基礎年金と障害厚生年金のどちらを請求できるのか」「保険料の納付要件は満たしているのか」など、さまざまな受給要件を考えて申請しなければなりません。加えて、たとえ認定されたとしても、それが適正であるかどうかを判断するのも難しいでしょう。現に認定が適正でないケースも少なくなく、再審査請求の17%(2020年)が認められているというデータもあります。
このような手続きの負担を軽減し、受給者の不利益を防ぐのが、私たちの障害年金請求代理業務です。流れとしては、まず顧客へのヒアリングをもとに請求方針を立案。請求方針が決まったら、必要書類の入手、提出書類の作成、最終的な窓口手続きまで行います。サービス全体の6割を占めるといってもよいのが請求方針の立案で、社労士によるサポートの意義が大きな部分ですね。
──ちょっと聞いただけでも難しそうな制度ですね……。障害年金請求に対応している社労士事務所はいくつかあると思いますが、その中でもステラコンサルティングの強みは何だと思いますか。
障害年金請求実績は埼玉県内随一だと自負しています。開業から10年余りで相談件数は1万件を超え、約1,800件もの代理請求、審査請求、再審査請求を行ってきました。障害年金請求は一件一件がまったく異なるケースなので、いかに場数を踏んできたかがサービスの質を左右すると考えています。
──社労士業界における障害年金請求の第一人者として活躍されてきたのですね。
2010年の開所後7年ほどは障害年金請求代理業務に特化し、この領域ではまだまだ競合が少ない時期から専門性を高めてきました。おかげさまで、社労士向けセミナーや地域の学校向け講演会をご依頼いただく機会も多いですし、著書『障害年金相談標準ハンドブック』などの執筆もさせていただいています。引き続き専門性を磨いていけたらと思っていますね。
「障害ねんきんナビ」など知識提供にも注力
──とはいえ、そもそも社労士に障害年金の相談ができるとは知らない人が多そうです。
おっしゃる通りです。そこで、まずは社労士に障害年金を相談するという選択肢を知ってもらうべく、問い合わせの窓口としてポータルサイト「障害ねんきんナビ」を運営しています。こちらで障害年金の入門知識や請求事例、障害認定基準などのコンテンツを提供するとともに、弊所やパートナー社労士への相談窓口を設置している形です。
──問い合わせ窓口としてわかりやすいだけでなく、コンテンツも非常に充実していますね。
解説記事はすべて自ら執筆しており、法令改正などに伴って適宜リライトもしています。「制度」というものは知らなければ活用できないので、いかに情報を行き届けられるかは常に意識していますね。
例えば、障害年金請求のよくあるケースに「腎疾患で人工透析を受けることになったから障害年金を請求する」というものがあるのですが、人工透析が必要となる状態は障害等級でいうと2級。障害厚生年金の場合はより等級の低い3級も設定されているため、透析を始める前に給付を受けられる可能性もあるはずなんです。こうした知識の有無で、障害を持つ方の生活は大きく変わってくると思っています。そのため「障害ねんきんナビ」以外でも啓発資料の監修を行うなど、知識提供には積極的に取り組んでいますね。
「制度の知識が人を救う」壮絶な離職体験で痛感
──ユニークな社労士像を確立されている坂田さんですが、そもそもどのような経緯で社労士になられたのでしょうか。
私自身、知識の重要性を身をもって実感した経験が背景にあります。
20代後半の頃、チャレンジする気持ちで大手メーカーから零細小売店へ転職したのですが「手取り18万円、社保なし、翌朝まで残業」といった過酷な労働環境に耐えられず、半年後に退職。その離職手続きの際に「特定受給資格者」の制度を知りました。私は「離職の直前6カ月間のうち、 3カ月連続して45 時間以上の時間外労働を行っていた」と認定を受けられたため、失業保険給付の給付制限(3カ月間)がなくすぐに給付を受けられ、さらに当時の年齢では給付日数が90日から120日まで拡充されるとわかったんです(2008年時点)。心身共に疲弊し、さらに家族を養わなければならないというギリギリの状況でしたが、この特定受給資格者に認定されたおかげでなんとか生活をつなぐことができました。このとき「同じように知識があれば救われる人もいるのではないか」と思い、社労士試験の勉強を始めたのが経緯です。
──壮絶な経験をされたのですね。離職中の勉強も大変だったのではないかと思います。
お金がなかったので、市販のテキストと問題集の2冊だけを使い込んで独学しました。離職して4カ月後には国家試験を受けたのですが、ちょうどそのタイミングで給付が終わったので急いで転職活動をし、中小企業の人事総務担当として採用。その後程なくして試験の合格通知を受け取りました。
壮絶というより、滅茶苦茶なキャリアですよね(笑)支えてくれた家族には頭が上がりません。
──晴れて社労士試験に合格したあと、障害年金請求を専門にしようと思ったのはなぜなのでしょう?
人事総務担当として働いていた際、障害で働けなくなってしまった社員の休職対応をする中で、障害年金請求支援の実務を一通り経験できたのがきっかけです。同時に、障害年金が特定受給資格者以上に認知度が低い制度であること、複雑な制度であるにもかかわらず対応している社労士が極めて少ないことも実感。「今この領域を追求すれば、ほかの社労士と差別化できる!」と考え、専門性の軸を定めました。
──「困っている人を助けたい」という福祉的な精神だけでなく、ビジネス的な観点も含めての選択だったのですね。
お金に困った経験から「社労士としての事業をしっかり確立して稼ぎ続けなければ」という意識は強かったですね。集客面でも、多数の企業にアプローチして中長期的な顧問契約を獲得していくより、広く一般の方からスポットの障害年金請求を依頼してもらえるような仕組みを作っていくほうが、私にとってイメージしやすかったのもあります。
開業後最初の1年間は兼業で、その間に事務所のWebサイトや「障害ねんきんナビ」を整備。社労士としての仕事が安定した段階で独立しました。
現金給付から自立支援へ 就労支援施設の運営
Win-Winだからこそ持続可能な障害福祉サービス
──近年では社労士業務にとどまらない事業も展開されていますね。2019年には合同会社こちを設立し、就労継続支援B型事業所「てんとうむし上尾」、就労移行支援事業所「てんとうむし上尾駅前」を開設されています。
就労継続支援B型は一般就労が難しい方に対して軽作業を提供し、訓練しながら一般企業への就職を目指すサービス、就労移行支援は障害をお持ちの方へ技能訓練や就職活動支援を行い、一般企業への就職と定着を目指すサービスになっています。「障害年金という現金給付だけでは、受給者にとっては解決にもなっていないのではないか」と感じて、これらの新規事業をスタートさせました。
※ 「てんとうむし上尾」「てんとうむし上尾駅前」のパンフレット抜粋。就労移行支援と就労継続支援B型との違いや、具体的な支援内容について、難しい内容をわかりやすく紹介しています。
例えば、うつ病の方の障害年金請求をサポートさせていただき、障害年金支給が認定されると、だいたい2〜3年後の更新時期にまたお問い合わせをいただくんです。そこで現状についてヒアリングすると「状況は何にも変わっていません」という回答が返ってくる。そのたびに残念に思いましたし、何より本人がつらいだろうと感じていました。根本的な問題解決のためには、障害年金給付をもとに障害福祉サービスを活用してもらい、自立を促すことが大切なのではないか──そう考え、就労支援施設を運営するに至りました。利用者の方が通所を通じて生活リズムを整え、就労という社会復帰へつなげられるよう取り組んでいます。
──就労支援施設にもさまざまありますが、社労士法人のグループ会社が運営する施設ならではの仕掛けも期待できそうですね。
はい。中でも、障害年金請求手続きを訓練の一環として組み込んでいるのは最大の特徴ですね。ステラコンサルティングの社労士が請求方針の立案まで行い、書類を集める作業や窓口手続きは利用者自身でやっていただく、という取り組みを行っています。利用者の方は社労士報酬分の費用負担を軽減しながら受給権を得られ、年金で生活を安定させながら、就労に向けた準備が可能に。施設の利用が増えると施設の報酬が増えるため、私たちの事業としても問題なく継続できるWin-Winの仕組みになっています。実際に複数の利用者がこの仕組みを活用しており、中には就職につながった方もいらっしゃいますよ。
クラウドツールを活用した事務作業で工賃アップも
──就労継続支援B型事業所のほうでは、クラウドツールを活用した新しい取り組みも始めていると伺いました。
ステラコンサルティングが請け負っている給与計算業務の一部を「てんとうむし」に委託し、利用者の方の作業として提供して工賃をお支払いする、という取り組みを始めています。具体的には、ステラコンサルティングが顧客からエクセルなどの形式で受け取った出勤簿をGoogleドライブで「てんとうむし」に共有。それを利用者の方が「マネーフォワード クラウド給与」に入力する形です。よく就労支援施設で行われている軽作業と比べると工賃が高くなるため、利用者のメリットになるのはもちろん、自治体から施設への報酬も支払った工賃に即して増額されるんです。ここでもWin-Winの仕組みを確立できればと思っています。
──こんなクラウドの活用方法もあるのですね! より高度な作業に取り組む中で、利用者の方も一層やりがいを一層感じられそうです。
利用者の方にも気に入っていただいていて、「やってみたい」という人も増えてきていますね。より多くの給与計算をやってもらえるようになれば、社労士事務所の生産性を向上でき、施設が獲得できる報酬も増え、その資金で新しい就労支援施設を増やせる──そうしたよいサイクルを回していけたらなと思います。
目指すはトータルな障害者雇用サポートの実現
──今後、坂田さんがステラコンサルティングでチャレンジしたいことはありますか。
法人向けの障害者雇用コンサルティングに力を入れていきたいと考えています。2013年以降の障害者雇用促進法改正*などを背景に障害者雇用サポートへのニーズは拡大しており、実際に自治体の相談支援センターや企業からの相談も少しずつ増えているところです。そこで、グループとしての専門性を活かし、障害者雇用関連サービスをワンストップで提供していければと考えています。例えば、障害者雇用を始めたい企業と、就労を希望する「てんとうむし」の利用者をマッチングして、利用者が就職したら定着支援まで行ったり、その企業の障害者雇用関連の規則・制度を整備したり、さらに助成金申請の手続きまで行ったり……と、トータルな支援サービスを提供できるのではないかなと思っていますね。
事業的な観点でも、フロービジネスである障害年金請求代理業務に加え、ストックビジネスであるコンサルティングも強化することで、より安定性を高められると考えています。
*2013年の障害者雇用促進法改正では、障害者の法定雇用率が従業員56人に1人以上から50人に1人以上へと改定。2021年3月にはさらに43.5人に1人以上になるなど、法定雇用率は上昇している。また障害者雇用納付金の対象企業も、2015年の改正で常用労働者数200人超から100人超の企業へと拡大された。
──社労士業務である障害年金請求にとどまらず、幅広く事業展開されてきたからこその構想ですね。
障害年金請求を行う競合の社労士が増えている中、私たちにしか提供できない価値とは何かを一層突き詰めていかなければならないと思っています。
とはいえ、現段階では何か画期的なアイデアがあるわけでもないんです。これまでもそうでしたが、目の前の仕事に取り組む中でしか課題は見つからないと思いますし、試行錯誤してこそ解決策のアイデアが少しずつ浮かんでくるものだと思っています。今後もまだまだ模索しながら、できることを広げていきたいですね。
社会保険労務士法人ステラコンサルティングの各種サービス
てんとうむし上尾
「てんとうむし上尾」は障がいをもつ方の就職や安心感に包まれた生活を個別のプログラムでサポートする埼玉県指定の就労継続支援B型事業所です。
お問い合わせは以下のホームページから:https://ladyb-ageo.ko-chi.net/
障害ねんきんナビ
障害ねんきんナビは、平成22年に開設・運営を開始した、障害をお持ちの方が受給できる(可能性のある)年金である「障害年金」の請求事例や用語を解説したポータルサイトです。
障害ねんきんナビ ホームページ:https://www.shougai-navi.com/
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