クラウドは社労士の敵じゃない。社会保険労務士法人たじめ事務所が目指す「ITベンチャー企業のような社労士事務所」とは

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クラウドは社労士の敵じゃない。社会保険労務士法人たじめ事務所が目指す「ITベンチャー企業のような社労士事務所」とは

社会保険労務士法人たじめ事務所は「士業もサービス業である」を掲げる、ちょっと“社労士事務所っぽくない”社労士事務所。大手企業からベンチャー企業まで、幅広く労務相談に応じてきた代表社員の田治米洋平さんは「クラウドツールがある程度普及した結果、企業の人事労務や社労士業界に新たな課題が生まれている」と話します。課題解決に向けて社労士として何ができるのか。これからの時代に求められる社労士の在り方についてお話しいただきました。

経営者と目線を合わせてフェアな労務コンサルを

法律論にとらわれず無理なくホワイト化を目指す

──一般的な社労士事務所と同様、労務相談や労務アウトソーシングを展開されているたじめ事務所ですが、事業方針として「士業もサービス業である」ことを掲げているのが非常に特徴的です。具体的にどのような部分に表れているのでしょうか。

一言で言い換えるなら、私たちは一般企業により近い感覚の社労士事務所を心掛け、事業を展開しています。
特に労務コンサルティングで大切にしているのが、顧客それぞれの実態に即した現実的なアドバイスを提供すること。法律論だけで「この運用はNGです」と頭ごなしに否定してしまうのは簡単ですが、あまり生産的ではありませんよね。実際、相談に来られる経営者の方の多くは「NGである」という事実を多かれ少なかれ認識していながらも、資金面の問題や長年の慣習などさまざまな事情で、問題を抱えた運用を続けてしまっているケースが大半です。そのような状況ですべてのリスクを一気に解消するのは現実的に困難でしょう。そこで、業界の動向や顧客企業の社風、財務状況、経営者や従業員の方々の想いを踏まえ、どうすれば無理なく「ブラックからホワイトへ」改善できるのかを、顧客に伴走する形で模索するようにしています。

──確実に実現できるアドバイスは、経営者にとっては頼もしい限りだと思います。

一方で、顧客と“なあなあ”の関係にはならないように注意していますね。士業の先生方の中には「顧客の経営者とは、多少ウエットでも個人的な付き合いをするべきだ」と考える方もいらっしゃいます。確かに、顧問にとって相談しやすい雰囲気は作れると思いますが、社労士として課題に冷静に向き合えなくなる側面も否定できません。加えて、担当者個人と顧客の関係が業務の属人化を招き、仮に同じ事務所内で担当社労士が交代になったら、それだけでスムーズな相談対応ができなくなってしまう恐れもあります。

顧客に寄り添いながらも、労務サービスを提供する専門家として適度な距離を置く。それが「サービス業としての士業」だと考えているんです。

返信は1週間後?! 士業業界と一般企業のカルチャーギャップ

──いわば「ビジネス」として人事労務サービスを提供しているのですね。

ビジネスの世界で活躍する経営者の方にとっては、士業独特の雰囲気や慣習にカルチャーギャップを感じるシーンも多いと思います。例えば、顧問社労士に「社員を採用したので手続きをお願いします」とメールしたら、返信が来たのは1週間後……というのも珍しくないんです。スピード感が一般企業と異なるのは仕方ない部分もあると思いますが、こうしたコミュニケーションひとつとっても、やはりビジネスシーンの「当たり前」とはちょっとズレていますよね。

こうしたギャップを顧客になるべく感じさせないよう、細かなところから気を配るようにしています。コミュニケーション面では即レスを徹底したり、万が一担当者が不在だった場合に備えてメール管理システムでブラックボックス化することなくメール対応できるようにしたり。アウトソーシング業務ではSlackなどのチャットツールも積極的に活用して、顧客が社内コミュニケーションと同じように、弊所の社労士ともシームレスにやり取りができるようにしています。

──たじめ事務所が大企業や、上場ベンチャー企業などからも支持を集めているのは、こうした一般企業と同じ感覚を共有してお付き合いできることも大きな要因なのではないかなと思いました。

経営者の方々と目線を合わせるのは大切ですね。実は、私が個人でやってきた事業を法人化して社員を雇用するようになったのも「社員を雇用してマネジメントしている経営者の方に対して、個人事業主のままアドバイスするのはフェアじゃない」と考えたからなんです。開所当時から、一般企業のような社労士事務所を目指していたところはあると思います。

返信は1週間後?! 士業業界と一般企業のカルチャーギャップ

会社員からいきなり独立 大学院で学び直しも

──そうした「より一般企業的な感覚を持った社労士事務所」を目指すようになったきっかけは何だったのでしょうか。

私の経歴がちょっと特殊で、よくも悪くも社労士業界に染まりきっていないのが背景にあると思います。一般的な開業社労士は、まず社労士事務所に入って実務経験を積み、顧客を引き継いで独立するパターンが多いのですが、私は会社員時代に資格を取ってからいきなり個人で開業してしまったんです。実際、実務も集客もかなり大変でしたが、反面、社労士業界特有のルールや価値観を意識しすぎずに、顧客と同じ感覚を持ったまま社労士になれたのはよかったのかなと今になって思います。

──しかし、ゼロから社労士としての仕事をスタートされたというのは、想像しただけでも大変そうです……。どう困難を乗り越えてきたのですか?

特に大きかったのは、社労士会の先輩に勧められて、青山学院大学院法学研究科のビジネス法務専攻で学び直したことです。社労士試験の勉強をするまでほとんど法律に触れてきておらず、法学の基礎すら身についていなかった“劣等生”の私にとって、大学院生活は相当ハードでしたね。それでも同じコースの仲間にどんどん質問したり、教授にも修論研究をみっちり見てもらったりして、ぐっと成長できたと感じます。鍛えられたおかげで、修論研究は学内で優秀賞を獲得しました。

──素晴らしいですね! そのときの経験は今の業務にも活きているのではないかなと拝察します。

はい。法律的な知識と実務的な知識の両方をしっかり身につけられたので、特に労務相談は自信を持って受けられるようになりました。

また、学生同士の交流から得るものも多かったです。同じコースの学生は9割が社会人で、その大半は企業内社労士。開業社労士とは異なる発想での意見に刺激を受けた経験は、今にもつながっていると思います。

若い企業ほど陥りがちな人事労務IT化の落とし穴

たとえIT化しても法律、制度の知識は必要

──これまでさまざまな顧客企業を見て来られたかと思いますが、最近の人事労務現場の印象はいかがですか。

やはり現場が回りきっていないのを肌で感じます。バックオフィスの中でも人事労務はとりわけ人手が足りていない印象で、従業員1,000人規模の企業でも、経理などの担当者が人事労務を兼任しているケースは珍しくありません。特にベンチャー企業など比較的新しい企業は、バックオフィスまで手が回っていないなと感じます。

──人事労務を効率的に回すためには、やはりクラウドツールなどを使ってIT化するのが効果的なのでしょうか。

給与計算や勤怠集計など作業的な部分については、基本的にIT化するのがよいと思います。ただし、必ずしもIT化だけで解決するとは限りません。現に顧客から相談を受けていると、IT化以前の問題、すなわち社内体制の整備や運用の課題解決から取り掛からなければならない場合も多いです。

例えば、ある顧客は雇用契約書を電子契約にしたり、退職届を社内のワークフローシステムで申請する運用にしたりして業務効率化を目指していましたが、私のほうで詳細にチェックしたところ、そもそもの雇用契約書や退職申請の内容自体に多数の問題があることが判明しました。雇用契約書では契約社員の契約期間が自動更新になっており、上長が当該社員の能力や評価をもとに契約更新の有無を適正に決められない状態に。退職届のほうでは、退職希望者に申請させて人事労務側で機械的に受理するという運用となっており、例えば退職理由が「労働条件を一方的に下げられたため」となっているなど、本来なら人事労務側が状況を確認すべき内容でもノーチェックで受理するという、非常にリスクの高い運用になっていたんです。結局、その顧客のケースでは、運用の整備からやり直さなければなりませんでした。人事労務に関する法律や制度の知識が経営者や人事労務担当者に不足していると、こういった問題も起こりがちです。

──経営者や人事労務担当者もしっかり法律や制度を理解している必要があるのですね。ついクラウド任せ、社労士任せになってしまいそうです。

特にベンチャー企業など、ITに慣れている企業ほど「クラウド化すれば何とかなる」という発想に陥ってしまいがちで、問題が別のところにあるとは思い至りにくいのだと思います。しかし、人事労務は必ず「人」を介する業務。すべてはIT化できないというのが私の考えです。

また、IT化の前に社内制度や運用を見直すに当たっても、社労士に丸投げでは問題を繰り返してしまうでしょう。もちろん、専門家として法律の知識面でサポートするのが社労士の役目ではありますが、あまりにも受動的なお問い合わせには、私たちのほうからお断りする場合もあります。逆に、課題を自分事として捉えて解決しようとしていたり、少しでも法律や制度について理解しようと前のめりに相談してくださったりする顧客には、私たちもアドバイスしやすいですね。実際、課題もうまく解決しやすい傾向にあると思います。

たとえIT化しても法律、制度の知識は必要

社労士こそクラウド人事労務の知識を身に着ける必要

──人事労務のクラウド化、IT化が進むと、社労士の在り方も変わっていくのでしょうか。

アウトソーシングで請け負ってきた作業部分が自動化されるため、社労士としては「仕事を奪うクラウドは敵だ」と捉えてしまうところもあると思います。しかし、作業を自動化して生み出された時間や労力で、社労士こそ「人」にしかできない業務に注力するべきだと私は考えているんです。労務相談、労務コンサルティングはもちろんですし、アウトソーシングでもシステム化できないイレギュラーな手続きを整理するなど、IT化したからこそ社労士の専門性が求められるシーンは少なくないでしょう。

さらにいえば、今後は社労士が人事労務領域のクラウド導入支援、運用支援までできるようになる必要があると個人的には思います。弊所でもクラウド導入支援を行っていますが、サービス業など複雑な勤務体系の企業では、初期設定の段階でつまずくケースも多いです。そうした部分を手助けし、現場の方が自立してツールを使いこなせるようサポートするのも社労士の新たな役割になるのではないかと。そのために、社労士自身もさまざまなクラウドツールの知識を身に着けなければならないと思いますね。

データ分析も視野に労務コンサルを次のステップへ

経営者の人事労務に対する真剣度は高まっている

──新たな課題も生じている中で、逆に人事労務領域でポジティブな変化を感じることはありますか。

人事労務の課題へ真剣に取り組む経営者の方が増えたように感じますね。特に働き方改革で残業時間が規制されたり、いわゆるブラック企業に対する世間の目が厳しくなったりした頃から変化が見られるようになったと思います。実際の労務相談も「労働基準監督署の調査に入られた」「従業員から訴えられた」といったきっかけからお問い合わせいただくことが増えた印象です。さらに、ここ数年で人手不足、採用難が一層深刻化してからは、激しい人材獲得競争で生き残るべく、どの企業も本腰を入れて待遇改善=ホワイト化に取り組まなければならなくなっています。やや受動的な側面もあるかもしれませんが人事労務が重要な経営課題として捉えられるようになったというだけでも大きな前進ではないでしょうか。社労士としても、その真剣な想いに応えたいと思っています。

──実際に、そうした相談を受けて課題解決した事例はありますか?

ある飲食業界の顧客からの相談が印象深いですね。「月220時間、月6日休みのシフト制を労働条件としてきたが、法対応のために労働時間を減らして休日を確保しなければならない」といった趣旨の相談が来たのですが、勤怠状況を見てみると、実は月220時間もシフトが入っている従業員の方はほとんどなかったんです。現場の方にヒアリングしてみても「シフト以上の残業はなく、調整すれば完全週休2日も可能」とのこと。それを経営者の方は知らなかったんですね。そこで、実態に即した労働条件に変更して「ホワイト化」したところ、求人への応募数が増え、人手不足の解消にまでつながったそうです。「人手不足は給与を上げないと解決しないと思っていた」と経営者の方は驚いていましたね。

こうしたちょっとした視点の転換を助けるのも、社労士の役目だと思っています。意外なところにヒントが隠されている場合も多いので、やはり各企業の状況に丁寧に向き合って課題を解決していくことが大切だと感じます。

経営者の人事労務に対する真剣度は高まっている

「ブラック企業への制裁」ではなく前向きな課題解決を

──今後、たじめ事務所として目指していきたいことはありますか。

クラウド時代を生き抜く社労士事務所を目指し、データ分析による労務コンサルティングに対応できるようにしたいと考えています。そのために、まずは社員全員のスキルアップを図りたいですね。併せて、さまざまな働き方のアドバイスをする社労士事務所として、私たち自身も柔軟な働き方を実現したいと考えているところです。「一般企業に近い社労士事務所」からさらに一歩進んで「ITベンチャー企業のような社労士事務所」を目指していきたいと思っています。

──社労士の在り方も多様化していくのだなと思います。これから社労士になろうとする方に、田治米さんはどのような姿を目指してほしいと思いますか。

社労士の仕事のやりがいは、目の前にいる顧客の課題を解決し、喜んでもらえることに尽きると私は思います。これから社労士を目指す方にも、ぜひそうしたポジティブな想いを大切にしていただきたいですね。社労士志望者の中には「ブラック企業に制裁してやる!」といったネガティブな気持ちが原動力になっている方も多いのではないかなと感じることがあります。しかし、それで晴れて社労士になったとしても、企業の課題解決を実現するパートナーにはなれませんし、何より自分自身が仕事をしていてつらくなると思うんです。それよりも、人事労務について真剣に悩む顧客の熱意に応えられるような社労士を目指すほうが、きっと楽しいはずです。もちろん、私自身もそうした社労士であり続けたいと思っています。

社労士法人たじめ事務所へのお問い合わせについては、以下メールアドレスまでお気軽にご連絡ください。

お問い合わせメールアドレス:info(@)sr-tajime.com
社労士法人たじめ事務所のホームページ:https://sr-tajime.com/

取材・文:西東美智子

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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