<図で考えると数字は良くなる> 第5回 事業・製品・サービス数を絞るほど、利益率は上げやすい

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利益を会社が再投資する際の二択

どの会社でも、起業した当初は一事業、一製品、一サービスから経営をスタートすることでしょう。資金も人材も最初は限りがあるからです。

そしてその製品・サービスがヒットし、経営が軌道に乗り、資金や人材にも余裕ができたときに、次の選択肢が生まれます。

    1. 引き続き既存の一製品・一サービスに特化して、さらなる成長を目指す

    2. 新製品・新サービスの開発、新規事業に進出し、多角化展開していく


もし皆さんが経営者から意見を求められたら、経理担当者として、どちらを進言するでしょうか。

経理担当者とは、経理処理だけでなく、このような経営判断の局面に適切な提案や意見を言うことが本来の役割の一つであると私は思います。

だから経理処理が自動化されても、経理の仕事がない、ということではなく、経理処理にかける時間は機械化などでより少なくし、経営判断のサポートとなる資料や指標、意見を経営者に提供すれば良いと思います。

1と2のどちらかを選択することで何が変わってくるかといえば、

    A.利益率
    B.経営リスク

この二つではないかと思います。

事業・製品・サービス数を絞れば絞るほど利益率は上がりやすい

利益率に関していえば、経営資源(ヒト・モノ・カネ)をひとつつの事業・製品・サービスに集中させるほど、基本的には原価率が低下します。

製品の作り方、サービス提供の仕方などは既に生産ラインや社員教育などで徹底されていますから、そこにさらに高度な設備や優秀な人材などを投下すれば、さらに効率化し、生産性も上がります。

大量生産が可能になり、原材料を大量に仕入れることでコスト単価も仕入先と交渉して可能になるでしょうから売上総利益率も上がることでしょう。

サービス提供においても、現場の人員が増えることで多店舗展開も可能になり売上が増える一方で、管理部門のコストはそこまで比例して大きくはなりませんから、営業利益率は上がっていくことでしょう。

このように、軌道に乗った事業、好調な事業に経営資源を投下することで、会社はより成長速度を高めていきますので、「数字上のことだけ」を考えれば、利益の再投資先は、一つの製品やサービスに集中して投下したほうが、良いように思えます。

経理以外の側面からも、会社のブランディングや認知度を向上させる目的であれば、既存の好調な製品やサービスに経営資源を一極集中させて、「あの製品の会社」「あのサービスの会社」と認識してもらいやすくなります。

製品・サービス数を絞れば絞るほど突然の環境変化によるダメージの確率は上がる

しかしその一方で、一極集中には「リスク」があります。

昨今のコロナ禍でおわかりのように、一つの事業しか行っていない会社で、緊急事態宣言に伴う営業制限などを受けたところは軒並み壊滅的な影響を受けました。

資金繰りはもちろんのこと、一旦流失した人材のスキルをもう一度採用して育てるのも一定期間かかります。何より、経営者や社員の方達の心の持ちよう、モチベーションをもう一度上げるということ自体、とても大変なことです。

このような状況の会社の中には、「一事業・製品・サービスだけではなくて、コロナに影響を受けない事業や製品・サービスを作っておけばよかった」と悔やまれている経営者の方もいるかもしれません。

もしコロナに影響を受けない事業などをもう一つ持っていれば、たとえコロナによって営業自粛を余儀なくされても、その期間は、もう一つの事業に人材や資金などを全てスライドさせて営業活動を行えば、資金も確保でき、人材もリストラなどする必要もなく、給与を払い続けることができます。

そしてコロナが一段落したときに、再び資金や人材を元の事業などに戻すことで最小限の影響で済ませることができます。

これが何もない場合、コロナの影響で営業停止になり、資金が枯渇し、助成金があるにしても従業員の雇用の維持が難しくなり、従業員自体も将来に不安を感じ、コロナの影響がない業界へ人材が流出していきます。

コロナが一段落しても、人材や資金が枯渇している中で、以前のような回転率で生産性を上げることができず、売上や利益の確保が一定期間は難しい場合も出てきます。

このように、突然の天変地異や疫病の流行、外交問題など、外的リスクが発生した際に、一つしかないその事業がそれらの影響を受ける際にうまくかわしながらやり過ごす選択がないこともあります。

「天変地異?そんなこと心配していたら何もできないよ」「疫病?映画の見過ぎじゃない?」「外交問題?うちの商売と何の関係があるの?」そう思われている人は考えを改めて頂いたほうが良いと思います。

日本では、地震や台風、コロナ、周辺諸国との課題など、経済に直結する外的リスクは、恒常的に起きています。これは「特別」ではなく「日常のリスク」の一つとして考えなければいけないことです。

自分の会社が、「もし、外交問題で、原材料が輸入できなくなったり、人の往来が制限されたりしたら」「もし、大きな災害が起きたら」売上や資金繰りがどうなるか。

そのようなことも経理の視点から着想し、既存の売上等の経理データから算出してシミュレーションをするという「リスク予測」も、経理のこれからの新しい価値ある仕事の一つではないかと思います。

圧倒的な「一強」でも油断できない時代になった

また、以前であれば、圧倒的なシェアを持った一強製品、一強サービスは、後から追ってくる会社も、簡単には追い付けないことが多かったのですが、今の時代はベンチャーキャピタルや、エンジェルと呼ばれる個人投資家、クラウドファンディングなどの支援を得て、大きな資金を元手に追随してくる会社も増えています。

資金調達した金額の多くをプロモーション費用に大量投下することによって認知度を上げ、市場を草刈り場のように奪っていく可能性も実際にあります。

自社のビジネスが模倣、模造、シェアを簡単に奪われやすいビジネスモデルかどうかという視点で検証をしてみるのもよいのではないかと思います。

いくらお金を積んでも、簡単にシェアを奪われないビジネスモデルであれば問題ないですが、そうでない場合は、常に周囲の動向をチェックしていく必要がありますし、たとえば新興企業や大手企業が大量のプロモーション費用をかけて新規参入してくる動きがあれば、一点集中はリスクがあると判断して、他の事業などにも予算をかけて分散型、多角化の体制に半年から1年かけて急遽シフトチェンジしていくという判断も良いと思います。

多角化によって生産性や効率は一時的に落ちることはありますが、既存の事業に万が一のことがあった場合、リスクヘッジはとれます。

経理しかアクセスできないデータを活用すれば「個性」を出せる

経理の大きなメリットの一つは、会社の計数的なデータに直接アクセスすることができるということです。これは他部署の社員ではできません。

つまり、この環境を活かすことで、経理独自の提案、皆さん一人ひとりの個性的な提案ができるということです。

経理社員だけしか閲覧・収集することができないデータから、会社の「利益の最大化」と「リスク予測」両方を満たす最適な製品数、サービス数、事業数はどのあたりになるのか、ということを分析し発表すれば、経営者や現場から一目置かれる経理部、経理担当者になり得ると思います。

逆に、このような仕事がこれからの時代には必要だから、そのためにも経理の日常処理の機械化を進めましょう、と、経理関連のクラウドサービスの導入を会社に提案しても良いと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『図で考えると会社は良くなる』(クロスメディア・パブリッシング)

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