<つぶれない会社の負けない経理戦略>第8回 有事でわかる経理という職種のポテンシャル

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3人の同じ危機感を持った経営者

先日あるお店でラーメンを食べていると、しばらくして別のお客さんが入ってきました。店主との会話から、そのお客さんは近所の飲食店のオーナーだということがわかりました。

ラーメン店の店主が、「うちの店もやっと先週宅配代行会社の審査が通って、これから宅配を始めるんです。申請が混んでいて審査期間に半年かかりました」と言うと、飲食店のオーナーは、「うちもやりたいけど、審査が殺到しているというのを聞いて。自分の体調も悪いし、面倒になってしまって申請していない」と言っていました。そのほかにも「食材を仕入れ過ぎて腐ってしまうと損失になってしまうからメニュー数を減らした」とか、「長年アルバイトで働いてくれている子に休んで欲しいとなかなか言い出せない」など、ぽつぽつと出てくる会話が身につまされました。

昨年の春ごろある経営者の方から、知人のラーメン店の店主が宅配代行会社に申請してラーメンの宅配を始めたという話を聞いたときには、すぐ申請が下りたという話だったので、やはり初動の素早さが大切だなと思いました。

有事に経営者はとても事務手続きなどできない

これらの経営者の話を比較してみると色々なことが見えてきます。

まず共通していることは、経営危機になったときには経営者にさまざまな負荷が降りかかってくる、ということです。経営危機でないときは数字よりも現場優先のことも多いでしょうが、経営危機下では「雇用をどうするのか」「時短営業のさなかに店を開けても売上があるのか」「食材の仕入れをどれだけ調整しようか」「家賃などの固定費をどうするのか」と、さまざまなことに同時並行で対処していかなければいけません。ここで「従業員のスキルレベルの差」が、経営者の負荷の差に直接結びつき、それが売上の差にもつながっていくように思います。

コロナ禍ですぐ宅配を始めたラーメン店は、従業員たちも将来独立を目指して働いている人が多いそうで、宅配代行の申請手続きなども従業員が調べてくれ、手続きも従業員がすべてやってくれたそうです。そして宅配にはどんな新たなメニューがいいかなど店主と従業員で一緒に考え、案が採用されたらインセンティブなども付与していたそうです。だから一時的に売り上げは下がったものの今はかなり回復して、従業員も全員雇用し続けたまま、なんとかやれているということです。

宅配代行の審査に半年かかったお店は、前述のお店に比べると対応は遅くはなったものの、調理や接客のオペレーションは普段から従業員を中心に行っている店なので、店長も資金繰りの対応など経営者として先にやらなければいけない仕事を一通り終えた後、やっと夏ごろに宅配代行の申請手続きを自分でしたと言っていました。

一方で飲食店のオーナーは、普段から自分で調理も接客もして、アルバイトの方がサポートに入る、という経営スタイルだったそうです。経営に加えて日常的な調理や接客の仕事まであれば、とても宅配代行の手続きのことまで頭がまわらないはずです。実際に、「助成金の申請はしたけど、もうそれで精一杯。毎日色々なことを考えないといけないから宅配をするかしないかまでは今もとても考えられない」と言っていました。

有事に有利な組織構成、不利な組織構成

大きな組織にいると、「なぜ自分の仕事が必要なのか」「なぜ経理が組織で必要なのか」など基本的なことほど見えにくくなっていきますが、こうした事例を見ればその「なぜ」の輪郭が割とはっきりわかってくると思います。この話に出てくる3人の経営者の方に、私はそれほど差があるようには思えませんでした。どの方もコロナ禍の初期から危機感を持って、何とかしなければいけないと思っていたように感じました。けれど、ある経営者は初動が早く、ある経営者は初動が遅れ、そしてある経営者は動くことすらできないということが実際に起きました。

初動が早い組織は、従業員も経営者マインドです。初動が遅い組織は、従業員に経営者マインドはありませんが、日常業務は経営者が手を貸さなくてもまわせるスキルレベルがあります。初動はおろか動くことすらできない組織は、日常業務にも経営者が加わらないとまわっていかない組織です。これはもちろん従業員のせいだということではありません。

まず経営者が「どのような組織を構築していくのか」という、方針の違いが一番に影響しています。

初動が早い組織は、経営者が従業員に自分と同じレベルのスキルとマインドを普段から求めて統括をしていたでしょうし、初動が遅かった組織は、経営者が「経営は自分でやるからオペレーションだけはきちんと従業員だけでまわるようにやって欲しい」と伝えていたことでしょう。そして動けない組織は経営者が「自分が経営もオペレーションも全て統括するから、従業員あなたたちは自分のいうことを聞いてくれればそれでいい」という方針だったと思います。

この3つ、どれも間違いではないと思います。日本人はすぐに「優劣」や「正誤」をつけたがる傾向がありますが、これらは経営方針の「違い」であり、違いは違いでしかないと私は思います。

ただし「有事の場合」には、これらに「有利不利の差」は生じます。「有事に戦力になる従業員が何人いるか」という差が、この3店舗の経営者が置かれている状況の差であることは明らかです。

特に今回のコロナ禍では、一般企業でも融資や助成金の申請手続きなど、経理や総務の体制がしっかりしている会社とそうでない会社では初動に大きな差が出ました。実際に、昨年の春、まさに宅配代行の申請と同じように、すぐ金融機関に融資の申請をした会社はすぐ決裁を下してもらえましたが、その後多くの会社の申請が殺到して2か月待ち、3か月待ちということもざらにありました。この初動の差は、「経理社員がすぐ手続きしてくれた」「税理士からすぐ申請するように連絡があった」会社です。そうでない会社は、初動が遅れたはずです。

有事でわかる経理という職種のポテンシャル

経理社員としてコロナ禍で今回何ができたかといえば、まず自分たち経理の業務である金融機関の融資や、助成金などの情報収集とその実際の手続きでしょう。

次に、本来は経理の業務ではありませんが、家賃や人件費の補助などの助成金制度の情報など、少しでも資金繰りに関してプラスになる情報をキャッチアップして、経営者や総務人事担当に、「既に情報をキャッチして検討や手続きをしているかどうか」の共有などです。

3つ目としては、少しレベルは上がりますが、宅配代行など「リアルに」売上や利益を少しでも補完できるような、経理の視点から見た新たな、あるいは既存の事業を転換させたビジネスモデルの案と、それらに関する諸手続きの詳細の提言です。特に業態転換などは、どれくらいの期間で、どれくらいの諸手続きをクリアすれば可能なのか。そしてどれくらいの費用がかかり、反対に業態転換することでどれくらいの費用が削減されるのか。経理で分析、集計をして資料をまとめるだけでも、経営者にとってはかなり助かります。そして実際に売上や利益が回復する可能性があります。

もちろんこれらのことは、経理社員がこれらのことをしよう、という気持ちになる「土壌」がその組織にあるかどうかということも大きく影響します。経営者が普段から経理を軽視していたら、経理社員も「会社にそこまでする義理はない」と思うでしょう。ただ、経理という仕事は、経理経験が1年くらいあれば、これくらいのことはできるポテンシャルのある職種であることは明言できます。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(クロスメディア・パブリッシング)



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