
ニューノーマルな時代の経営のための経理戦略
先日、『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』という本を出版しました。
これは外出自粛要請の期間中にオファーを頂いて書き上げたのですが、その一方で、私が「フリーランスの経理」と名乗っていることもあり、「前田さんフリーランスで仕事大丈夫?」「ちゃんと生活していけている?」というお声がけもいただきました。
幸いなことに、私の場合は5月や6月で契約更新になる仕事も全て無事更新され、そしてまた新しいお仕事もいただいています。
それはなぜかというと、「偶然」や「たまたま」ではなく、自分なりに「つぶれないための戦略」を常に立てているからです。
フリーランスというと一般的には「弱い立場」と言われていますが私は全然そのようなことはないと思っています。むしろ小回りが利いてその時々の環境の変化によって柔軟に対応することができます。自分の裁量が大きいですから、この時期に電車に乗りたいか乗りたくないかということも、自分で決めたり取引先と交渉したりすることができます。
ただし、会社員と違ってフリーランスは、何もしなかったら1円もお金は入ってきません。いわゆる「不安定」ということです。ではその不安定を安定にするためにはどうしたらいいのか。そこに「経理的な発想」、つまり「経営のための経理戦略」を私は駆使して、収入を安定化させています。
そして今、多くの会社が新型コロナウイルスによって「不安定な」外的環境にさらされています。会社であっても、今までのように「キャッシュがまだあるからいい」「自分らしく働ければいい」というハッピーな発想ではいられなくなりました。フリーランスが小舟なら会社はフェリー。つまり早めに「ニューノーマル」といわれる状況を察知して自ら早めに動かないと、フェリーのほうが方向転換するのに時間がかかりますから、手遅れで座礁してしまう可能性が高いのです。そうならないためにも、「戦略」はどの会社においてもこれから重要になってくることでしょう。その戦略というのは具体的に何か、ということをこれから連載でお伝えしていきたいと思います。
「突然売上が0円になる」事態に備える
まず何よりも大切なのは、「もし突然売上が0円になったら、ということを常に考えておく」ということです。
会社員の経験しかない方はピンとこないかもしれませんが、フリーランスや、自己資金・借入のみで起業した経験がある方なら切実にわかることでしょう。たとえば、自分が病気になって突然入院したり、隔離されたりしたら、1円も売上を上げることができなくなる恐れがあります。するとまたたく間に手持ちの資金は減っていきます。家賃など固定費は関係なく出ていってしまうからです。
これは新型コロナウイルスだけに限らず、一般的な病気やケガなど、日常的にもしばしばあることです。
それ以外にも売上が突然0円になる、という事例はあります。受注先が1社しかなく、その会社から突然仕事のオファーがなくなる、ということです。いくらその1社から毎月100万円、1,000万円受注をしていても、突然相手が発注先を変えたり、あるいはその会社が倒産したりしてしまったら、売上は突然0円になってしまいます。今回でいえば、新型コロナウイルスの影響で、各企業が夏のキャンペーン活動を自粛、中止した影響で、そうした仕事に関わる業界の人達は受注を失った、金額を減らされた人も多いことでしょう。不景気による受注先の倒産や発注予算の削減ということは、新型コロナウイルスに関係なく、不景気であればしばしばあり得ることです。
規模の大きな会社では、社員1人、クライアント1つ欠けても、その影響は何十分の一、何百分の一で、さほど影響はないかもしれませんが、一人会社で1つのクライアントしか持っていない人であれば、その受注金額がたとえ毎月100万円あったとしても、自分が病気になって仕事が請け負えなくなるか、それとも相手方の都合で発注がストップしてしまえば、突然売上は0円になる、という2つの大きなリスクを常に抱えているということです。
「危機感」というのは、このように小さな組織ではいやでも思い知らされるのですが、大きな組織に属していればいるほどイメージすることが難しくなります。しかし大きな組織であっても、元をたどれば社員1人、受注先1社からほとんどの組織はスタートしているわけです。だから「自分は安定した大きな会社にいるからそんなことは関係ない」ということではなくて、むしろそうした組織にこそ「フリーランスの気持ちと同じくらい危機感を持っている」社員が「何人いるか」で他社との競争にこれから生き残っていけるかが決まっていくと思います。
そうしたことを踏まえて、今回は会社員の皆さんも、自分がフリーランスになったと仮定して、このテーマについて一緒に考えてみましょう。
収益を安定化させるための経理的発想とは
仮に、皆さんが「フリーランス」だったら、収益を安定化させるためには、どのような「戦略」を打つでしょうか。
経理の皆さんならお分かりになる方も多いかもしれません。私の「経理戦略」の1つ目は「病気になってもできる仕事、収入源を確保しておく」ということです。そして2つ目は「複数の会社から仕事を請け負うようにしておく」ということです。私のケースでいえば、1つ目に関しては、執筆の仕事があればそれを最優先に仕事を頂くようにしました。なぜかというと執筆の仕事は「自分の体調や場所を選ばずできる」からです。病気になっても海外出張があっても、どこででも「書くこと」はできます。そしてインターネットがあるので、どの場所からでも納品ができます。
2つ目に関しては、2つ以上の会社から仕事をいただくように心がけているのはもちろんのこと、「なるべくいろいろな業界からの仕事をいただく」ようにしています。なぜかというと、不景気や、今回のような新型コロナウイルスのようなことが起こると、その影響をまともに受ける業界があります。その場合、たとえば3社契約していたとしても全て同じ業界の会社と契約をしていたら、3社とも経営状態が悪化して、「仕事の発注を今回は見送らせてください」ということが起こり得ます。いくら有事や不景気であっても、景気の良い業界というのは必ずありますので、そうしたことも前提として、なるべく幅広い業界とお付き合いすることを心掛けています。
この2つが守られれば、たとえ「弱小フリーランス」であったとしても、突然売上が0円になる、というリスクは相当に抑えられます。反対に、今それなりの規模でも、売上が激減している会社というのは、売上形態が1つしかない、というところです。だからこうした発想はフリーランスだとか、大企業だとかに関係なく「全員が」持っていなければいけない発想にこれからの時代はなります。
ただし、こうした発想が誰でもすぐ浮かぶのか、できるのかというと、やはりそうではありません。経理経験のある方はここまで読んでも特に違和感なく「自分もそう思っていた」「まあそうだよね」という感想をお持ちの方が多いと思いますが、経理以外の人達がこうした発想をすぐ自分のものにするのは難しいと思います。なぜなら、「売上を一極集中させない」というようなリスク分散の発想というのは、「赤字にならないためには」「資金繰りがショートしないためには」という「計数的発想」「経理的発想」が元になっているからです。
そのため、私は「経営に必要な経理的な発想をもとにした会社を安定的に維持するための戦略」を略して「経営経理戦略」と名付けました。
「新型コロナウイルス」レベルのような有事というのは、これからも一定周期で起きるでしょう。今までは、経営者が孤独に会社の危機問題を抱え、社員にはそうした姿を見せない、というのが「美徳」でしたが、もうそのレベルは超えた時代に入ったと私は思います。
これからの組織というのは、「全員で素早く課題を共有して、全員で一刻も早く解決方法を見つけた」会社から順番に生き残りの椅子に座れると思います。経営者1人の力だけでは組織の居場所は確保できない、つまり会社員であるならば、自分の会社は自分で守らなければいけない時代になったと思います。
それでは経理社員は会社を守るためにどのような点について貢献ができるのでしょうか。それは「会社を赤字にしない」「会社の資金をショートさせない」ための、ありとあらゆる手段、アイデアを考え、提案することに尽きるのではないかと思います。
しかし、いくら経理社員であっても、何もないところからいきなりこうした発想を考え、提案することは難しいかもしれません。次回以降、そうした発想のヒントになるものをお伝えしていければと思っています。
まずは「もし自分の会社の売上が突然0円になったら」の備えはできているでしょうか。検証してみてください。
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