新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世の注目を一気に浴びることになったテレワーク。同時に、withコロナ時代のオフィスの必要性を問う声もチラホラ聞こえてきました。
ビジネスで利用するための住所を提供する“バーチャルオフィスサービス”を手掛ける株式会社ワンストップビジネスセンターは緊急事態宣言解除後、申込み数が急増しているといいます。
同社代表取締役社長の土本真也さんに、コロナ禍における需要変動や、バーチャルオフィスへの移行を検討する際にチェックすべきポイントについてお聞きしました。
バーチャルオフィスの申込みが「6月から急増」
1976年生まれ。株式会社ワンストップビジネスセンター代表取締役社長。
大学卒業後、家具・建築金物メーカー、貿易商社を経て起業。その後、2009年にインテリア販売を手掛ける株式会社MOORを設立(のちに株式会社ワンストップビジネスセンターに社名変更)。2010年にバーチャルオフィス事業に参入。
――バーチャルオフィスサービスについて教えてください。
バーチャルオフィスとは、ビジネス上で利用するための住所提供を行うサービスです。基本的にワークスペースは提供していません。
オプションサービスは運営会社によって異なりますが、レンタル会議室を設けていたり、電話や郵便物の転送を行ったりしていることが多いですね。
――新型コロナウイルスの影響でテレワークが推進されています。バーチャルオフィスの需要に変化はありましたか?
6月に入ってから申込数が急増しましたね。融資や助成金の申請や、社内の対策が一旦落ち着いて、これからオフィスをどうしようというフェーズの企業が多いんだと思います。
もともと当社のバーチャルオフィスは、新規開業時にコストを抑えたいという方の利用がメインです。でもコロナの影響で、オフィスを退去してバーチャルオフィスに移行するケースが増えていますね。これまではオフィス移行需要は全体の3割ほどでしたが、外出自粛要請以降は1割ほど増えています。
オフィス退去も解約予告が必要になりますし、解約までに数カ月要するケースもあります。なので夏頃からバーチャルオフィスへの移行需要がさらに増えると予想しています。
――みなさんどんな目的でバーチャルオフィスを利用されているんですか?
基本的には会社設立前のタイミングで契約される方が多いです。コストを抑えて会社設立をしたいというニーズが多数を占めますね。
自宅で業務されている方で、自宅住所を明かしたくないというニーズもあります。例えばECサイトを運営するときに、特別商取引法に準拠して、事業主の名前、住所、電話番号などをサイトに明記する必要があるんです。
趣味の延長で自宅で作業している方や女性の方だと、自宅住所をサイトに記載するのは抵抗がありますよね。それでバーチャルオフィスの住所を借りて、自宅で作業するというケースも多いです。
“オフィス”に悩まされた原体験
――もともと主体はインテリア・家具販売業ですよね。なぜバーチャルオフィス事業に参入したんですか?
はい。2009年にインテリア販売を手掛ける株式会社MOORを設立しました。設立当初から家具を販売するだけでなく、そのリソースを別の事業にも活かせないか模索していました。
それで新たに始めた事業がバーチャルオフィス。インテリアというリソースやノウハウを持っていたことと、自分たちもオフィスというものに悩まされバーチャルオフィスを利用した経験があることから、この事業への参入を決めました。
――オフィスに悩まされた経験とは……?
オフィスの壁にぶつかった経験が2つあります。
1つは住所によるブランディングに悩んだことです。MOORを設立した当初、東京都大田区馬込に倉庫兼事務所をかまえていました。
馬込はとても素敵な街ですが、「閑静な住宅街」「ファミリー層に人気」といった地域イメージですよね。ECサイトで本社住所を表示する際に、馬込の親しみやすい地域イメージが、僕たちの扱うイタリアンモダンな家具の販売に必ずしもマッチするわけではなかったんです。
例えば、表参道や恵比寿の住所なら、イタリアンモダンと言われても違和感がないですよね。そんなときにバーチャルオフィスを知り、恵比寿の住所だけを借りて、ワークスペースは馬込として事業をスタートすることにしたんです。
――バーチャルオフィスはブランディング文脈での需要もあるんですね。もう1つの経験は……?
もう1つは、そのバーチャルオフィスが自分たちにとっては“Too much”だったんです。外資系のサービスで、受付は大理石、常駐秘書はバイリンガル……。
恵比寿の住所は借りたいけど、創業したての20代そこそこの起業家にはサービスが充実しすぎていました。
――そういった問題を解決したいと。
そもそも起業にはたくさんの障壁があります。僕たちがぶつかったオフィス賃貸の壁もその一つです。でも、僕自身が起業して人生がより楽しくなったんですよ。だから起業家を応援したいと常々思ってきました。
それで、僕たちがぶつかった起業家の一つの社会課題を、僕たちのノウハウで解決しようと考えたんです。僕たちがインテリアで快適なオフィス空間を作って、創業したての起業家にとって必要最低限のサービスを提供したらいいじゃないかとスタートしたのが2010年でした。
バーチャルオフィス選びのポイント3つ
――バーチャルオフィスのニーズが今後ますます高まりそうとのことでしたが、バーチャルオフィスを選ぶ際のポイントはありますか?
3つあげるとしたら①住所、②料金、③運営会社ですね。
まずは住所です。「住所に傷がついていないか」「どんなビルに入っているか」「アクセスはいいか」の観点をチェックするといいです。
バーチャルオフィスは、1つの住所をたくさんの会社が使ってるんですよ。なので、ネットで検索して過去に事件などが起きてないか確認しましょう。バーチャルオフィスって、かつては「犯罪の温床でしょ」という見られ方をしていたこともあり、実際にそういう業者さんもいたそうなんですよね……。せっかく開業したのに、後から判明してまた移転するなんてことは避けたいですよね。
次に、どんなビルの住所か実際に確認しましょう。ほかのテナント次第で会社の信用性にも影響してきますよね。実際に足を運ぶか、Googleストリートビューで確認しましょう。
あとはアクセスです。せっかくなら駅近の住所をというのはもちろんですが、契約するバーチャルオフィスに訪問するケースも0ではないんです。当社は郵便物を転送するサービスを行っていますが、契約書などなるべく早く確認したい郵便物もありますよね。その際は速達での転送を行う他に、拠点に取りに来ていただくこともOKとしています。その場合は駅近の方がラクです。
また、当社は拠点を会議室として貸していたりもするので、長期的に見てもアクセスがいい住所を選ぶことをオススメします。
――続いては「料金」ですね。
この業界に多いのが“従量課金”です。これは注意していただきたいポイントです。
バーチャルオフィスの料金は、運営会社によってピンからキリまであります。最近では「月額500円」というサービスもあったりします。でもよく調べると「郵便一通転送がいくら」「HPへの住所記載でいくら」という風に細かく料金設定がされていて、最終的に費用がかさんでしまうということがあります。必要なオプションと料金を調べて、事前に計算しておきたいですね。
あとは各々が求めるサービスやエリアによって料金はさまざまなので、自分が必要なサービスを洗い出して予算と合致するものを選ぶといいと思います。
――3つ目は「運営会社」ですね。
バーチャルオフィスの運営会社は、自分の大事な会社の住所を守ってもらう存在になるんですね。だからどういう人たちが運営しているか、住所のあるオフィスの中はどんな様子か、実際に内見して確かめることをオススメします。
コロナで一時的に停止した時期もありましたが、当社もご希望のお客様には内見をしていただいています。内見をお断りしてるような運営会社は辞めたほうがいいでしょう。内見すると運営会社の人が横柄だったり、オフィスが不潔だったりということがわかります。神は細部に宿りますからね。
あと、たまにあるのが運営会社が倒産してしまうことです。せっかくその住所で登記しても、運営会社がつぶれてしまっては住所が使えなくなってしまいます。決算書や業績を公開していないとなかなか難しいですが、わかりやすい基準だと自社所有している物件だと安心感はあるかもしれないですね。ユーザー数も判断基準の1つになります。
あとは審査基準を設けているか聞いてみるのもいいと思います。郵便物や電話の転送サービスをしている運営会社は、犯罪収益移行防止法という法律を守るためにお客様の本人確認書類を提出してもらう必要があるんです。こういった審査を設けているかどうかを確認すると、運営会社の信用性が増したり、別の顧客によって住所が悪用されているリスクを避けられたりしますね。
1.住所
・住所に傷がついていないかネットで検索しよう
・どんなビルに入っているかチェックしよう
・アクセスはいいかチェックしよう2.料金
・従量課金は注意
・必要なオプションサービスを洗い出し、月額いくらになるか試算しよう3.運営会社
・できるだけ内見をしよう
・信頼できる運営会社か見極めよう
・審査基準がしっかり設けられているか確認しよう
悪用リスクは「こう回避しています」
――バーチャルオフィスの悪用リスクはどう回避しているんですか?
先ほども触れたとおり、当社は審査基準を厳しく設定しています。提出書類は多岐にわたりますし、時には事業実績や個人SNSも提供していただくなどして、犯罪組織の利用を防いでいます。
あと、定期的に本人住所をチェックしていますね。さらに、バーチャルオフィスに届く郵便物から異変に気づくこともあります。不審なところからの郵便物などがあれば要注意ですね。
――これまで巻き込まれたトラブルなどありますか?
お客様の脱税が発覚して、国税局から協力を求められ、調査の対応に追われたことはありますね。
ほかに大変なことと言えば、お中元・お歳暮と年賀状ですね(笑)。お中元やお歳暮のギフトは本来転送するんですけど、「いらない」というお客様も少なくなくて処理に困ることがあります。
そして年賀状が届く年始は一番の繁忙期です。お客様宛てに届いた年賀状の仕分けに忙殺されます。もうとんでもないことになってますよ(笑)。
――ミニ郵便局状態ですね(笑)。ありがとうございました。
(執筆:久住梨子)
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