田村夕美子の『経理塾』第6回:経理ならではのプレゼン術をさまざまな観点から再考する

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経理としてスキルアップし、社内での評価を上げるためにはどうすれば良いのか?一番大切なのは「本質に対し向き合いながら、自身に備わっている“個”の潜在能力を引き出し、具体的に行動してみること」と言う、経理向けの研修やセミナーを行っている田村夕美子さんのBizpedia読者に向けた経理塾、連載最終回をお届けします!

田村夕美子の『経理塾』第5回:組織図の正しい読み方を問う

組織における経理のプレゼン術

経理のプレゼン術となると、会議の場で経営状況をプレゼンテーションすることが、真っ先に浮かぶのではないでしょうか。しかしながら、多くの企業では、経理部スタッフに対し、プレゼン術を習得してもらうような機会があまり存在しないため、各人に任せられているか、上司や先輩の手法を引き継ぐようなやり方で進められているのが一般的のようです。

そうなると、効果的なプレゼンテクニックを追求したり、プレゼン後の実績がどのように向上されているかといった成果について検証をしたり、といったことがおざなりになっていると考えられるでしょう。日々の実務が多忙で、なかなかそこまでの余裕がない…という現状もあるのでしょうが、経営管理者の集合体である経理部門なのですから、プレゼン術についても改善の余地があるか否か、探る必要があるはずです。

そこで今回は、組織における経理のプレゼン術について考えていきたいと思います。

CASE6:昇進後、会議でプレゼンに臨もうとするも、物言いしにくい雰囲気が…

(今回の塾生→建設業 財務・経理室 Aさん 課長女性40代)

「課長に昇進したことで、経営会議の場で実績データなどをプレゼンさせてもらえることになりました。ただ、上司は会議を穏便に済ませたいらしく、肝心なプレゼンテクニックなど教示してくれないのです。何でも、昔から言われる“シャンシャン会議”に近いらしく、特に新しい議題を挙げてディスカッションすることなどあまりない様子です。確かに、自社は私のような若輩者が物言いするような文化ではないのですが、どうも腑に落ちなくて…」

プレゼン効果がいかがなものか?課長も責任を担うべし!

今回の塾生は、課長に昇進したAさんです。これまでの手法や自社の文化を鑑みて、物言いしにくい文化に懸念を示しつつも「何とかしたい!」との意思が見え隠れしています。このような姿勢は経営参画者の立場として当然であるはずですが、もし、二の足を踏んでいるのだとしたら、課長職として相応しくないと思うべきでしょう。より良いプレゼンスタイルを築くことに遠慮など無用ではないでしょうか。

本項をお読みの方も、Aさんと共に次項からの実践編を紐解いていきましょう。

実践編:効果に直結したプレゼンテーションに臨むための3つのポイント

ポイント1:検証

本項をお読みの方々が活躍される企業内でも、規模や業種は様々でしょうが、これまで会議等で経理部側がプレゼンをする場面があったはずです。まずは、それらを思い返しながら、誰に対してプレゼンテーションをおこない、そして効果のほどがいかがなものだったのか。また、方法について改善する必要性があるか否かなど、個別に検証することは非常に大切です。

ここで、Aさんが懸念している経営会議についてQ&A方式で検証してもらいましたので、以下に紹介していきます。

※塾生Aさんの例
Q1:誰に向けてのプレゼンテーションか?

A1:経営陣や各セクションのマネージャー

Q2:どのような資料を提供していたのか?方法は?

A2:予算実績管理表に添いながらのプレゼンスタイル。詳細は不明

Q3:効果の程は?

A3:今まで参加していないので不明

さて、皆さんの検証結果はいかがでしたでしょうか?もし、一つでも明快なアンサーが浮かばなかったとのであれば、早急に改善するための行動が急務です。まずは、誰に向けてのプレゼンなのか改めて見直し、その方々に対して、これまでのプレゼンスタイルについて、感想や意見を集めて、改善箇所や要望するデータや見せ方など、ヒアリングするのは基本中の基本でしょう。経理部側の一方的な思案によるプレゼンスタイルでは、相手に届くことの方が難しいと捉えるべきで、プレゼンする相手方の意向に沿いながら、理解しやすく、そして活用できる方法を模索し、実行していくことが大切です。

ポイント2:自己研鑽を積み、経理部の視点で発信したいことを添える

検証の場面で、プレゼンの相手方の意向を十分にすくい上げた後は、経理部ならではの視点で何をどのように伝えるべきか、都度の検討、実行も視野に入れる必要があるしょう。経理部員は言わずもがな、実績データを処理する中で、各セクションのトップマネージャーや経営陣よりも、早期の段階で変動に気付く位置にいるはずです。それらをどのような形でプレゼンすれば相手に届くのか、十分に検討しながら、実行することを定例化すれば、経営管理者らの視点が効いた企業体制を築きやすくなり、ひいては徐々にでも自社の経営改善・成長に繋がるはずなのです。

たとえば、商品・サービスごとの利益推移に著しい変動があれば、定例の経営会議ではなく、事前に関連のセクションに的確に情報発信することで、軌道修正のタイミングが早まることも大いにあるでしょう。

また、会議の場でも、考えられる変動要因等を解りやすく伝えれば、中には各セクションの見解とは異なる因子が見つかることもあるはずです。このようなプレゼン方法を実践するには、経理部員として、日頃からデータ処理をする際も広い視野で変動の背景を読み解くスキルを習得するなど、自己研鑽は必須となります。

既に実践している方も多いでしょうが、単に相手方のリクエストに応じたプレゼン内容ではなく、経理部ならではの、的を射た情報もプラスして発信できるように、スキルをさらにに磨いてはいかがでしょうか。

ポイント3:テクニックの再考

最後にプレゼンテーションの現場でのテクニックを再考します。塾生のAさんのケースでは、経営会議にて、新しい案件についてのディスカッションの場があまりなかったようですが、話し方や資料の表し方、あるいは見せ方のタイミングを刷新するだけでも、受け手側が注目してくれることもあるかもしれません。

以下に再考していただきたいプレゼンテクニックを三点挙げてみたいと思います。本項をお読みの方々もご自身のプレゼンスタイルを振り返りながら、取り入れてはいかがでしょうか?

①相手方に視線を向ける
プレゼンする際、資料ばかりに注視して、視線が下にばかり向いていることはないでしょうか?言うまでもありませんが、ビジネスマナーとしても、情報を発信したい側に視線を向けるのが、基本スタイルです。

また、相手方からしても、自分に視線を向けてくれることで、「注目してくれている」「認めてくれている」といった気持ちになり、心理面でプラスの効果が表れることもあるでしょう。ひいては、あなたのプレゼンテーションを今まで以上に傾聴してくれることも、十分にあり得るものです。

あなたがプレゼンする際、視線はどこにありますでしょうか?特に外部の方と接する機会が少ない経理部員が客観視することは難しいかもしれませんが、できれば録画等のシステム機能を活用して、改善すべきところを探ってはいかがでしょうか?

こうした取り組みはやがて、あなた自身への注目度アップに繋がり、ひいては社内外への貢献度アップにも繋がるはずなのです。

②経理畑以外の人でも解りやすいワードを使う
経理のプレゼンテーションは、主に予算実績管理表など数値データと勘定科目の羅列ばかりで構成された資料を活用しているのが一般的なようです。しかしながら、経理畑を耕したことがない人は、「見方が解らない」「ピンとこない」と感ずることが多いものです。私はセミナーや研修の場にて経理担当者向けの講義をする際、資料についても単に損益計算書をベースとしたデータではなく、相手方にとって馴染みやすい、資料提供を勧めています。

たとえば、売上や費用の推移を示す際も、単に勘定科目ごとのデータ値ではなく、具体的な商品・サービスごとや、あるいは、取引先ごとに区分して表せば、相手方は普段、直接接しているモノ・ヒトとのやりとりを振り返りながら、プレゼンに耳を傾けるでしょう。

相手方の“畑”に寄り添いながらのプレゼンもぜひ心掛けてみてください。

③得意な見せ方を追求する
プレゼンの主役級に位置するのは、何も“話し方”のみではないでしょう。中には、人前で話すことが苦手な人も多いはずです。そのような方は、口頭で伝えるばかりではなく、他の方法を模索してみましょう。ヒントはあなた自身の強みを探ることです。

たとえば、図表やイラストを描くことが得意、あるいは、実践しているところを見せることが得意など、何かしらあるのではないでしょうか。それらの強みをプレゼンテーションのどの場で表すか、じっくりと検討してみましょう。専門用語を廃して、イラストや図表を盛り込んだり、時には、関連部署に所属している人に経理部内まで、足を運んでもらって、実際の取り組みをライブで見てもらったり、諸々のアイデアが浮かぶはずです。

実践に繋げれば、これまでよりも興味深く経理のプレゼンテーションを傾聴する可能性が高まるでしょう。

まとめ

筆者は、経理マネージャーや担当者向けのセミナーや研修の中で、受講生の方々に自身の意見やアイデアをプレゼンしてもらう場を設けています。その際は、希望者に挙手を願うのですが、残念ながら自分から手を挙げる方は僅少です。ところが、私から当てれば、大抵の方は、ハキハキした姿勢・声でプレゼンするものです。つまり、人前でのプレゼンにとまどう人も、機会提供することで、経験値が上がり、効果的なプレゼンスタイルを自身で築くことができると考えられるでしょう。

経営活動の生産性アップに経理部側の的を射たプレゼンテーションは外せません。あなどることなく、これまでの記述の中の一つでも、試してはいかがでしょうか。

本連載は今回が最終回となります。最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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