近年注目のトルコリーグは“手取り保証”が魅力 欧州サッカー日本人選手の税金事情(後編)

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前回に引き続き、ヨーロッパでプレーする日本人選手の税金事情をお伝えします。後編はイギリス、スペイン、トルコです。これらの国でプレーする日本人選手はそう多くないですが、どんなハードルがあるか少しご紹介できればと思います。(執筆者:公認会計士・税理士 國井隆)

プレミアリーグでは「労働許可証」が重要

最近、吉田麻也選手がイギリスの永住権(レジデントビザ)を取得したことで話題になりました。世界最高峰のプレミアリーグでプレーする場合には、税金事情よりも、労働許可証の取得に関して注目されることが多いですね。

日本人選手がイギリスでプレーするのに必要な労働許可証には、日本代表(A)のFIFAランキングが大きく影響してきます。ランクに応じて条件が異なると言われています。

日本代表のFIFAランキング(2019年2月7日時点)は27位となっていますが、このランクの選手が労働許可証を取得するには、過去2年の国際Aマッチ公式戦で60%以上の出場が必要とされています。つい最近までは日本は50位までに入っていない時期も多かったですが、51位よりも順位が低いと労働許可証はかなり厳しいと言われています。ただ、今後EU離脱になれば、現行のランキング制度による労働許可証の可否についても再考されるかもしれませんね。

さて、所得税は20%~45%で、先進国としては平均的な税率になっています。付加価値税(VAT)も標準税率は20%であり、ヨーロッパ諸国ではやや高めの税率ですね。

細かく言うと、イギリスは当然ながら連合王国で、イングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドに別れているため、税率も微妙に違うところは興味深いですね。

リーガエスパニョーラにあった「ベッカム法」

スペインもサッカー大国でありますが、ドイツに比べて日本人選手はやや少ない印象もあります。最近では、乾貴士選手や柴崎岳選手が活躍していますね。

近年のスペインサッカー界は、有名選手の肖像権をめぐる節税対策に極めて厳しい姿勢で臨んでいます。代表的な例では、リオネル・メッシは肖像権収入を脱税したとして有罪判決を受け、クリスティアーノ・ロナウドも肖像権収入の脱税での有罪判決と20億円を超える罰金報道が出ています。スペイン課税当局が有名選手の節税対策を「脱税」として厳しく取り締まっていることが窺えます。特に、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、肖像権等を譲渡する方式を利用したスキームは、完全にアウトと認識しているようです。

スペインの税制の特徴は、税率を含めた税法が頻繁に変わることが挙げられます。ラテン系の国民性かもしれませんが、世論の動向を意識して税制が大きく変わることがあります。

スペインの所得税の税率は15~45%(国税と地方税の合計)と、他のヨーロッパ諸国とそれほど変わりありません。過去には「通称ベッカム法(Royal Decree 687/2005)」という、海外のサッカー選手がスペインに来る場合に税率を半分ほどに引き下げてリーガエスパニョーラを活性化させる施策を講じていた時代もありました。現在は廃止されています。

サッカー選手に限った税法の特例措置とは何とも大胆なサッカー大国ですね。この大胆な優遇税制があったがゆえに、今回のサッカー選手の肖像権収入の脱税に関して厳しく目を光らせている側面もあると思います。

近年注目のトルコリーグは“手取り保証”が魅力

香川真司選手や長友佑都選手が所属するトルコ1部リーグのスュペル・リグ。最近日本人サッカー選手が増えていますね。

トルコの所得税の税率は15~35%と他のヨーロッパ諸国からすると若干低めに設定されています。付加価値税は18%と他のヨーロッパ諸国とほぼ同じですね。

そもそもトルコはヨーロッパなのかという問題があります。トルコはEU加盟国ではなく、東ヨーロッパと西アジアをまたぐ国土の97%がアジアにあり、人口7,000万の大半がイスラム教徒ですが、サッカーではヨーロッパに含まれていますね。

トルコでプレーするサッカー選手の税金面で特徴的なのは、手取り保証契約がよく見受けられるということですね。選手は手取り額が保証され、税金面はクラブが立て替えて払い、手取り額から報酬総額を逆算する「グロスアップ方式」が採用されているケースが多々あります。

手取り保証契約と比較的安い税率が、著名選手を呼び込んでいる要因かもしれません。

手取り保証契約だと選手は嬉しいが…

海外におけるサッカー選手は、手取り保証契約で契約する場合も結構あります。この場合は手取り額から総額を計算するグロスアップ方式なので、報道発表で手取り額になっている場合には、税率を考慮しないと比較できないのでわかりにくいですね。

個人的な印象では、アングロ・サクソン系やゲルマン系の国々(イギリスやドイツなど)では総額で表示する場合が多く、ラテン系の国々(イタリアなど)では手取り保証契約の純額が多いように感じますね。

選手からすると、手取り保証の方がいいように感じますが、私の経験上、実はクラブが経営難で税金を滞納していたということもありましたので、必ずしも良い面だけではありませんね。【参考】
イギリスの所得税(英内閣府)イギリス所得税率表(英内閣府)イギリス労働許可証(英内閣府)
スペイン国税局
トルコ財務省歳入局

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