アメリカが「タックスヘイブン」になるかも… 日本企業は対応に悲鳴?

アメリカが「日本のタックスヘイブン」になるかもしれない――先日、日経新聞がこんなニュースを報じました。

法人税率などが著しく低い国や地域をいう「タックスヘイブン(租税回避地)」といえば、2016年の文書流出で大問題に発展したパナマや、ケイマン諸島、バージン諸島などがよく知られています。

これらの国と横並びに、アメリカも「日本のタックスヘイブン」になる可能性があるとのことですが、なぜいきなりこのような問題が浮上したのでしょうか? 背景には2つのポイントがありました。

トランプ政権の米法人税減税


アメリカのタックスヘイブン化の背景にあるポイントのひとつが、お気づきの方も多いであろうトランプ政権の法人税減税です。

トランプ大統領は就任以降、税制の抜本的な改革を進め、2017年12月に税制改革法案に署名しました。企業と個人をあわせて10年で約1.5兆ドル(約169兆円)の減税となり、1986年のレーガン政権以来、約30年ぶりの大型税制改革となりました。

焦点となった法人税率(連邦法人税率)は35%から21%へ大幅減税。現地で事業を展開する日本企業にも減税効果は広がり、自動車メーカーを中心に一時増益につながりました。

これだけでも十分な気もしますが、実は法人税減税だけがアメリカのタックスヘイブン化の要因ではないのです。

日本のタックスヘイブン対策税制改正も


もうひとつのポイントは、2017年度の日本の「タックスヘイブン対策税制」の改正です。一体どのような税制なのでしょうか。

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、法人税率の低い外国に子会社を置くなどして租税回避をはたらく日本企業に対し、外国子会社の所得も合算して課税する制度です。

とはいえ、全ての外国子会社を持つ企業に適用されるわけではありません。その外国子会社が実質的な活動を伴わない会社である場合など、次の基準を満たさない場合はタックスヘイブン対策税制の適用対象となります。

<タックスヘイブン対策税制の適用対象を判断する基準>

事業基準
主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと

実体基準
本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること

管理支配基準
本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること

④ 次のいずれかの基準
1.所在地国基準
主として本店所在地国で主たる事業を行っていること
※下記以外の業種に適用

2.非関連者基準
主として関連者以外の者と取引を行っていること
※卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機貸付業の場合に適用
※また、外国子会社等が経済活動基準を全て満たす場合であっても、実質的活動のない事業から得られる所得(いわゆる受動的所得)については、内国法人等の所得とみなし、合算して課税されます。

参考|外国子会社合算税制の概要(財務省ウェブサイト)

タックスヘイブン対策税制はどう変わった?


では、2017年度のどのような改正が今回の問題につながったのか、公認会計士・税理士の深堀宗敏さんに聞きました。

――2017年度のタックスヘイブン対策税制の改正では、どのような見直しが行われたのでしょうか?

深堀さん:2017年度税制改正で、タックスヘイブン対策税制は大きく変わりました。具体的には、「トリガー税率の廃止」「外国関係会社の範囲の見直し」「適用除外基準(経済活動基準)の見直し」「ペーパーカンパニー等への課税制度の創設」などの変更がありました。

今回、アメリカが日本のタックスヘイブン対策税制の適用対象となるかもしれないという話は、このうち「ペーパーカンパニー等への課税制度の創設」が最も影響しています。

そもそもタックスヘイブン対策税制は、企業が日本での課税を回避することを防ぐために創設されました。改正前は、外国子会社の現地での税率(※)が20%以上であれば、経済活動の実体がない会社であってもタックスヘイブン対策税制の対象となりませんでした。しかし、改正後は税率が30%未満の場合まで、利子、配当、ロイヤリティなどの収入しか得ていないような外国子会社等は、租税回避をしているリスクが高いとして合算課税の対象となりました。具体的には次の3パターンの会社が対象になります。
※税率:本来は「租税負担割合」として細かい規定・計算があります。

<税率が20%以上でも合算課税の対象となる会社>

ペーパーカンパニー
事実上のキャッシュボックス
タックスヘイブン「ブラックリスト国」所在

――外国子会社の現地での税率が30%未満の場合まで引き上げられたため、法人税が下がったアメリカに子会社がある場合も、合算課税になる可能性が出てきたのですね。

深堀さん:今回報道されているアメリカの法人税減税ですが、タックスヘイブン対策税制で判定する際は、一般的に連邦法人税と州法人税を考慮して算定します。

トランプ政権による減税では、連邦法人税が35%から21%に引き下げられました。州法人税は州ごとに異なりますが、約0%~約10%の範囲で設定されているようです。

単純に連邦法人税と州法人税の税率を合計した場合、21%~31% になります。そのためアメリカにある外国子会社で、前出のようなペーパーカンパニー等に該当した場合には、日本で合算課税される可能性がでてきたのです。

日本企業はどんな対応に追われる?


――財務省は、事業実体がある企業は適用対象にしない制度を検討中とのことです。一方、企業側はどのような対応に追われるでしょうか?

深堀さん:企業側としては、日本での納税額が増える可能性があるため、納税額を予算に織り込んでおく必要があります。あわせて事務手続きの煩雑になることを想定しておく必要があります。

具体的には、今まで合算課税の検討対象にならなかった税率20%以上の外国子会社に対して、従来の管理に加え、少なくとも次のような事務作業が求められます。

<日本企業が外国子会社に関して必要になる事務作業>

① 外国子会社が外国関係会社に該当するかの確認
② 外国子会社の租税負担割合の計算やペーパーカンパニー等に該当するかの判定
③ ペーパーカンパニー等に該当する場合には、各外国子会社の決算書や法人税申告書を用意する
④ ペーパーカンパニー等に該当しない場合でも、該当しないことを明らかにした書類の整備
⑤ 以上の情報を、親会社の法人税確定申告書の別表記載および関係書類の添付

このように事務作業が非常に煩雑でかつ専門的な内容になるため、税理士など外部の専門家に頼らざるを得なくなるかと思います。調査には時間や費用も掛かることが想定されますので、早めに対応する必要があります。もちろん対応せずに税務調査で指摘された場合には、申告漏れとして追加納税と罰金が課されることになるので注意が必要です。

この制度は適用対象となった外国子会社が2018年4月1日以後に開始する事業年度から適用されますので、もう少し先の話ですが早め早めに対策を取りたいところです。

なお、2018年12月下旬に出る税制改正に適用対象にしない制度が盛り込まれる可能性があるので、あわせて注視しておくことが望ましいですね。

【取材協力】深堀 宗敏(ふかほり むねとし)@FukahoriTax
公認会計士・税理士/深堀宗敏税理士事務所
PwC税理士法人にて申告書作成業務、M&A、オーナー企業の事業承継対策等に関する会計・税務コンサルティング業務に従事。深堀宗敏税理士事務所を開業。現在、税務実務経験とシステム開発の経験を生かし、クラウドサービスについてのアドバイスを会社のみならず、会計事務所に対して多数行なっている。

BIZ KARTE編集部

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