- 作成日 : 2025年12月25日
IT重説対応物件とは?導入のメリット・デメリットと具体的な運用手順
不動産取引のデジタル化が進む中、IT重説(オンラインによる重要事項説明)を活用できる「IT重説対応物件」が注目されています。従来は対面でのみ実施されていた重説が、法改正によってオンラインでも認められたことで、遠隔地の顧客との取引や海外在住者への対応がより柔軟になりました。
当記事では、IT重説対応物件の定義、法的背景、導入メリット・デメリット、実施手順、運用時の注意点について詳しく整理します。
目次
IT重説対応物件とは?定義と法的な背景を解説
IT重説対応物件とは、宅地建物取引業法第35条で定められた重要事項説明(重説)を、オンライン上で対面と同様に実施できる取引対象の物件を指します。国土交通省は、テレビ会議などのITツールを活用して重要事項を説明する方法を、一定の条件を満たす場合に限り「対面と同等」と認めています。
実施場所に制限はありませんが、音声や映像が不十分な環境では適切な説明と認められないおそれがあるため、静かで通信環境の整った場所で行うことが重要です。
そもそも「IT重説」が誕生した法的な経緯
IT重説は、国土交通省による社会実験を経て制度化された仕組みです。賃貸取引では2015年に社会実験が始まり、2017年10月から本格運用が開始されました。売買取引では2015年に法人間での実験が始まり、2019年に個人を含む売買取引へ拡大された後、2021年3月30日から本格運用が始まっています。背景には、不動産業界におけるデジタル化の推進や、遠隔地の顧客にも公平な取引機会を提供するという目的があります。
その後、2022年の宅地建物取引業法改正により、重要事項説明書や契約書の電子交付・電子契約も可能となり、非対面での取引を実現する仕組みとして普及が進んでいます。
IT重説対応物件が意味する具体的な条件
IT重説に対応するために、特別な設備や仕様を備えた物件である必要はありません。重要なのは、IT重説を実施するための環境と運用が整っていることです。具体的には、下記を満たす必要があります。
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スマートフォンを使った説明も可能ですが、画面の小ささや通信状況により説明内容が伝わりにくくなるため、安定した通信環境と視認性の高い端末を使用することが望ましいでしょう。
売買契約におけるIT重説の現状と可能性
売買契約でも、2021年以降はIT重説の本格運用が始まっています。2022年5月の法改正により、重要事項説明書や契約書を電子的に交付できるようになり、一定の条件を満たせば、説明から契約までを完全にオンラインで完結させることが可能になりました。これにより、遠隔地の顧客との取引や海外在住者への対応もスムーズに行えるようになっています。ただし、電子契約の利用には当事者の同意や業者側の体制整備が前提となり、住宅ローンや登記手続きなどは別途対応が必要な場合もあります。
また、説明内容を録画・録音して残すことは義務ではありませんが、後日のトラブル防止やコンプライアンスの強化に有効な手段といえます。今後は、顧客同意の取得方法や記録データの保存管理など、運用面での体制整備が企業の信頼性を左右する重要なポイントになるでしょう。
IT重説導入のメリットは?
IT重説によって、重要事項説明をオンラインで実施できるようになったことで、業務効率や顧客満足度の向上が実現しています。ここでは、IT重説を導入することで得られる主な4つのメリットについて解説します。
遠隔地との取引を可能にして顧客層を拡大できる
IT重説を導入すれば、物理的な距離を問わずに重要事項説明を行えます。これまで来店が難しかった遠方の顧客や、地方在住の投資家などとの取引もスムーズです。オンライン環境での説明は、出張や移動の制約を取り払うため、物件の販路拡大にも大きく貢献するでしょう。
特に法人契約や転勤者の契約では、全国規模で対応できる点が強みです。地域密着型の不動産会社でも、IT重説を活用することで新たな顧客層を開拓し、商圏を拡大するチャンスが広がります。
移動時間とコストを大幅に削減できる
IT重説の導入によって、従来の対面形式で発生していた移動時間や交通費を大幅に削減できます。特に複数の契約を抱える営業担当者にとっては、出張の回数が減り、業務効率が飛躍的に向上します。オンラインで完結することで、顧客側の負担も軽減され、遠隔地からでも手軽に説明を受けられる点が評価されています。
さらに、移動時の事故リスクや天候によるスケジュール変更の心配も減るため、企業にとっては人的・時間的コストを同時に抑えられる合理的な手段です。
重説の日程調整が柔軟になり契約までのリードタイムを短縮できる
対面での重説では、顧客と担当者の予定をすり合わせる必要があり、スケジュール調整に時間がかかることがありました。IT重説を導入すれば、オンライン上で簡単に日時を設定でき、夜間や休日など柔軟な時間帯で説明を実施することも可能です。その結果、契約までのリードタイムが短縮され、取引のスピードアップが実現します。
特に法人契約や繁忙期の賃貸取引では、効率的な日程管理が顧客満足度にも直結します。スピーディーな対応は、他社との差別化にもつながるでしょう。
説明の様子を記録として残しコンプライアンスを強化できる
IT重説では、説明の様子を録画・録音して記録を残すことができます。これは法令上の義務ではありませんが、適切に運用すれば、後日トラブルが発生した際にも、どのような説明が行われたかを客観的に確認することが可能です。対面では難しかった説明履歴の保存が容易になり、説明漏れや誤解を防ぐ効果も期待できます。さらに、記録を活用して社内教育や説明品質の改善に役立てることもできます。
コンプライアンスの徹底は、企業の信頼性を高める上で欠かせない取り組みであり、IT重説はその強化に寄与する有効な手段といえるでしょう。
IT重説対応物件の導入におけるデメリットは?
IT重説は利便性が高く業務効率を向上させる一方で、導入や運用においていくつかの課題も存在しますが、適切な事前準備や社内体制の整備によって解決可能です。ここでは、IT重説を導入する際に想定される主なデメリットと、その対策方法を具体的に解説します。
通信環境の不備が説明の中断や遅延を引き起こす
IT重説はインターネットを通じて行うため、通信環境が不安定だと映像や音声が途切れ、説明の中断や遅延が発生する恐れがあります。通信トラブルは顧客に不安を与えるだけでなく、再説明による業務負担にもつながります。
対策としては、事前に通信テストを実施し、Wi-Fi環境が不安定な場合は有線接続を推奨することが効果的です。また、トラブル時に備えて代替手段として電話連絡や再接続手順を明示しておくと、スムーズな対応が可能になります。
Web会議システムなどの事前準備に手間がかかることがある
IT重説を実施するためには、Web会議システムやカメラ・マイクなどの機器を整備する必要があります。操作に不慣れな社員や顧客がいる場合、初期設定や使い方の説明に手間取るケースもあります。
こうした負担を軽減するには、マニュアルや操作ガイドを事前に共有し、社内研修を行うことが有効です。また、顧客には接続テストを行う日を設けるなど、準備段階でトラブルを防ぐ体制を整えておくと安心です。使いやすいシステムを選定し、運用手順を標準化することで、スムーズな導入を実現できます。
対面時より説明内容が相手に軽視されてしまう懸念がある
オンラインでの重説は、対面に比べて説明の重みや真剣さが伝わりにくいという課題があります。画面越しのコミュニケーションでは、相手の反応が見えづらく、理解度の把握が難しくなる傾向があります。これを防ぐためには、説明中に相手の表情や反応を丁寧に確認しながら進めることが大切です。
また、重要な部分では資料を画面共有し、該当箇所を示しながら説明するなど視覚的なサポートを加えると効果的でしょう。終了時には、理解度を確認する質問時間を設けることで、対面と同等の信頼性を確保できます。
関係者全員からのIT重説実施の同意を得る必要がある
IT重説を行うには、重要事項説明を受ける相手方(および電子交付を受ける当事者)から事前に同意を得る必要があります。相手方が同意しない場合は、従来通り対面での重説を行います。同意手続きが遅れると契約スケジュールにも影響するため、早期の案内と確認が不可欠です。
対策としては、契約手続きの初期段階でIT重説の説明資料を提示し、メリットや実施方法を明確に伝えることが挙げられます。電子メールやWebフォームなど、記録が残る方法で同意取得を標準化すれば、手続きの負担を減らせます。透明性の高い運用体制を整えることが顧客との信頼関係構築につながるでしょう。
IT重説をスムーズに進めるための具体的な流れ(方法)
IT重説を円滑に実施するには、技術面・法的要件の双方を満たした手順を確実に踏むことが重要です。通信環境の確認や資料の事前送付、本人確認、同意取得など、各段階には明確なルールがあります。トラブルを防ぎ、顧客に安心してもらうためにも、標準化された流れを作っておきましょう。
ここでは、IT重説をスムーズに行うための実践的な手順を段階ごとに紹介します。
事前準備としてIT環境とツールの整備を行う
まず行うべきは、通信環境と使用ツールの整備です。国土交通省の運用要件に従い、映像と音声を相互に確認できる双方向の通信環境が必要があります。パソコンやタブレット、Webカメラ、マイクなどの機器を点検し、通信速度の測定や接続テストを事前に実施しておくと安心です。利用するWeb会議システム(Zoom、Teamsなど)は、画面共有や録画機能があるものを選びましょう。
顧客にも同様の環境確認を依頼し、当日の接続がスムーズに進むよう操作マニュアルを事前に送付しておくことで、トラブルの防止につながります。
重要事項説明書を相手に事前に送付する
IT重説では、宅地建物取引士が記名した重要事項説明書および添付書類を、説明前に顧客へ送付することが義務付けられています。紙媒体または電子データのいずれでも構いませんが、顧客が説明内容を確認しながら視認できる状態であることが条件です。
送付時には、資料の受領確認をメールなどで記録に残しておくと、後日のトラブル防止につながります。説明当日は、資料のページ番号や項目を示しながら説明すると理解が深まりやすく、説明漏れの防止にも効果的です。
説明開始前に宅地建物取引士証と本人確認を行う
IT重説を開始する前に、宅地建物取引士は必ず取引士証を画面上で提示し、相手に確認してもらう必要があります。この際、氏名と顔写真が明確に映るようカメラの位置や明るさを調整します。説明を受ける側についても、なりすまし防止や取引の安全性確保の観点から、運転免許証などによる本人確認を行うのが一般的です。
双方の確認が終わった段階で、映像・音声に問題がないか最終チェックを行いましょう。これにより、法的要件を満たした状態で重説を開始できます。
録画・録音の同意を得てからIT重説を実施する
IT重説では、説明内容を録画・録音することが望ましいとされています。ただし、法令上の義務ではないため、個人情報保護の観点から、録画・録音の実施には顧客の同意が必要です。開始前に、記録の目的と利用範囲(社内確認やトラブル防止など)を説明し、明確な同意を得ましょう。同意を得たら、録画を開始してから説明を進めます。
録画データは契約完了後も一定期間保管し、万一の確認や社内研修に活用することで、説明品質の向上とコンプライアンス強化の両立が期待できます。
実施後に署名済みの書面を返送してもらう
IT重説が終了したら、契約書や重要事項説明書の署名を行い、紙契約の場合は宅地建物取引業者に返送してもらいます。電子契約システムを導入している場合は、電子署名でオンライン上での完結も可能です。返送時には、署名漏れや押印の有無を確認し、控えを適切に保管します。いずれの方法でも、署名漏れや押印の有無を必ず確認し、控えを適切に保管することが重要です。
返送または電子署名の完了後には、説明の録画データや通信記録とあわせて社内保存し、監査対応にも備えます。これらの手続きを標準化しておくことで、業務効率と法令遵守の両立を実現できます。
導入担当者が押さえるべきIT重説対応物件の運用上の注意点は?
IT重説を導入しても、運用段階でのトラブルや顧客対応に不備があるとスムーズな契約進行は難しくなります。特に、顧客のITリテラシー差や通信障害など、現場で起こり得る課題を想定した準備が欠かせません。ここでは、運用上で注意すべき3つのポイントについて具体的に解説します。
ITツールに不慣れな顧客への対応フローを確立する
顧客の中には、Web会議システムやオンライン接続に慣れていない方も少なくありません。操作に不安がある場合、接続までに時間がかかったり、説明中にトラブルが起きたりすることもあります。そのため、事前に接続テストの日時を設け、通信環境や操作方法を確認するフローを整備することが重要です。
また、当日は担当者が接続サポートを行えるよう体制を組み、必要に応じてマニュアルや画面共有で説明を補助すると顧客の不安を軽減できます。顧客の安心感を高める対応が、信頼構築とスムーズな契約進行につながります。
契約の重要性を十分に理解してもらうための工夫をする
オンラインで行うIT重説では、対面に比べて説明の重みや契約の重要性が伝わりにくくなることがあります。導入担当者は、契約内容を形式的に読み上げるだけでなく、重要な項目では画面共有で資料を示したり、具体的な事例を交えて説明したりする工夫が求められます。
また、説明の最後に「理解しているか」を確認する時間を設け、顧客から質問を受け付ける姿勢を示すことも大切です。オンラインでも誠実で丁寧な対応を心がけることで、信頼性と満足度を高められます。
トラブル時の代替手段(電話など)を事前に用意しておく
通信トラブルや機器不良など、IT重説では突発的なトラブルが起きる可能性があります。説明が中断してしまうと、再実施や日程調整の手間が発生し、契約全体の遅延につながりかねません。
こうしたリスクを最小限に抑えるためには、トラブル時の代替手段をあらかじめ用意しておくことが重要です。たとえば、音声のみを電話で継続する、再接続までの手順を共有しておくなど、柔軟な対応策を準備します。トラブル対応マニュアルを整備しておけば、現場担当者も落ち着いて対処でき、顧客への信頼維持にもつながります。
IT重説対応物件が広げる取引の可能性
IT重説対応物件は、重要事項説明をオンラインで実施できる環境が整った物件を指し、移動時間やコスト削減、契約の迅速化、遠隔地との取引機会の拡大など、多くのメリットがあります。一方で、通信環境のトラブルや同意取得の煩雑さなど課題も存在するので、接続テストや環境整備、分かりやすい説明方法の確立、トラブル発生時の代替手段の準備など、運用面での細やかな工夫を行いましょう。
顧客に安心して説明を受けてもらえる体制を整えることで、効率性と信頼性の両立が可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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