• 作成日 : 2025年10月6日

垂直型M&Aとは?メリット・デメリットから適している企業まで徹底解説

垂直型M&Aとは、製品やサービスを顧客に提供するまでの一連のプロセスを統合するM&Aの手法です。製造、販売など複数の段階を結合することで、サプライチェーンを安定させたり、コストを抑えたりできます。

本記事では水平型M&Aとの違いをふまえ、垂直型M&Aのメリットとデメリットを解説し、さらに向いている企業像を事例とともに紹介します。

垂直型M&A/垂直型統合とは

「垂直型M&A」とは、原材料の仕入れから製造、流通、販売など、それぞれ異なる製造段階を担う企業を統合する組織再編のことです。

製品が作られ消費者のもとへ届くまでの一連の流れをサプライチェーンといいます。サプライチェーンを自社内に組み込むことで、安定的な供給体制の確立やコスト削減ができます。

「垂直型統合」とも呼ばれており、大手製造業から中小企業まで幅広く採用されている仕組みです。経済環境が不安定な中でも、調達リスクや価格変動の抑制を期待できる戦略とされています。

水平型M&A/水平型統合とは

垂直型M&Aとよく比較されるM&Aの形態に、「水平型M&A」があります。水平型M&Aとは、同じ業界や同じ製造段階に属する企業同士が統合することです。

たとえば、市場シェアの拡大や競争優位の確立を狙い、同業の競合企業を買収します。「水平型統合」とも呼ばれ、業界再編を目的としても用いられる手法です。共通する業務の効率化やスケールメリットの活用により、コスト削減の効果も期待できます。

垂直型M&Aが「供給過程の統合」を目指すのに対し、水平型M&Aは「市場での存在感の強化」を狙う点が大きな違いです。

垂直型M&Aのメリット

垂直型M&Aにはさまざまな効果が期待できます。以下に代表的なメリットを4つ取り上げ、具体例を交えて解説します。

  • コストを削減し利益率を改善できる
  • 既存顧客への提供価値を拡大できる
  • サプライチェーンの安定性が高まる
  • バリューチェーンを強化できる

① コストを削減し利益率を改善できる

垂直型M&Aで資材の仕入れ先や販売チャネルを取り込めば、中間マージンの削減につながります。製造業にとっては大きな効果を生みやすく、調達コストが下がることで利益率を改善できます。

たとえば原価率を60%から50%に抑えられれば、売上100億円規模の企業で増加する粗利の額は5億円です。

このように、規模の大きい製造業では数%の改善でも大きな収益効果につながります。

② 既存顧客への提供価値を拡大できる

製造業と小売業がM&Aを通して一体化することは、双方の顧客へのダイレクトアプローチを可能にします。顧客との直接的な関係の構築は、顧客満足度やLTV(顧客生涯価値)の向上につなげるチャンスです。

たとえば、現場で吸い上げた顧客からの反応を商品やサービスの開発に活かせば、顧客への提供価値の改善につながります。

たとえば年間300万円を購入する顧客のLTVが10%改善すれば、1人あたり30万円の売上増が可能です。

③ サプライチェーンの安定性が高まる

サプライチェーンとしての安定性を高めることは、企業にとって、持続的な成長を支える基盤づくりにつながります。

川上の事業による川下の事業の取り込みは、販売先の確保を可能にし、景気の波に左右されにくくなります。たとえば小売やEC事業者を傘下に置けば、需要の変動が激しい時期でも自社製品の効率的な販売が可能です。

一方、川下の事業にとって川上の事業を取り込むことは、原材料調達の安定と、価格変動リスクの抑制につながります。

④ バリューチェーンを強化できる

バリューチェーンは、日本語では価値連鎖という意味に訳されます。企業が行うひとつひとつの活動のつながりを、価値を創造するためのプロセスとして分析する考え方です。

M&Aは製造から販売までの一貫した管理を可能にし、品質や納期を安定させやすくします。また、マーケティング部門と製造部門の連携が密になり、需要に即した商品開発が可能です。

大手企業にとっては市場をリードする体制を整える手段となり、中小企業にとっては弱点を補う手段になり得ます。たとえば中小メーカーが大手の傘下に入れば、仕入れの安定化や研究開発コストの削減を実現しながら、商品の競争力を高められます。

垂直型M&Aのデメリット

垂直型M&Aを検討するのであれば、デメリットとなり得る側面の把握も大切です。以下にあげる4つのリスクとその対策方法について解説します。

  • 統合コストの負担が大きい
  • シナジー効果を過大評価するリスクがある
  • 独占禁止法に抵触するリスクがある
  • 既存顧客との関係悪化のリスクがある

① 統合コストの負担が大きい

企業統合に不可欠なシステムや顧客データ、在庫マスタの統合には多大なコストを要します。買い手側の立場としては、買収資金そのものも大きな負担となるでしょう。

M&Aの実施後には、在庫コストや運転資金の増加も見込まれるため、統合による効果を得るまでの間は財務を逆に圧迫するリスクもあります。

かかったコストを将来的に回収できるよう、事前の十分な試算が必要です。

② シナジー効果を過大評価するリスクがある

シナジー効果の獲得は垂直型M&Aのメリットである一方、期待したほどの利益を生まない可能性もはらんでいます。

下記は、期待どおりのシナジー効果を得られない原因として考えられる要素の一例です。

  • M&A成立後の経営統合が円滑に進まない
  • 買い手企業と売り手企業の企業文化に隔たりがあり、現場での業務の統合が困難である
  • M&Aをきっかけに優れた人材が退職してしまい、業務に支障が生じる

原価率を5%改善できると試算していても実際には2~3%しか改善しないケースも考えられます。場合によっては、M&Aによって得られる利益が買収コストを下回る可能性もあるでしょう。

M&Aでは、買収を経て得られるメリットも期待し、買収額を売り手企業の時価だけでなく、売り手企業がもつ超過収益力を考慮して決定します。

超過収益力とは、企業が築いてきたブランド力や取引先・顧客との信頼関係、従業員の質などを含めた、測定できない企業価値のことです。超過収益力を見込んで時価よりも高い金額で企業を買収した場合、買収額と時価との差額を「のれん」といいます。

のれんが減損した場合、帳簿価額を見込み額が回収できるラインまで引き下げ、当初からの差額を減損損失として計上しなくてはいけません。このリスクを、「のれん減損リスク」といいます。

統合によるシナジー効果を最大化できるよう、交渉段階で双方の企業文化や価値観のすりあわせ、また、統合後の経営方針についてよく検討しておくことが肝要です。

③ 独占禁止法に抵触するリスクがある

独占禁止法とは、公正で自由な市場を維持し、各事業者が自主的な活動のもと互いに競争できることを目的とした法律です。

特定の原材料や販路を押さえるようなM&Aの進め方は、独占禁止法の市場シェア規制に抵触するおそれがあります。

取引が制限されてしまわないよう、法務面の確認も漏れなく行いましょう。

④ 既存顧客との関係悪化のリスクがある

M&Aは、既存顧客への提供価値を高められる一方で、関係悪化のリスクを伴う手法です。具体的には、経営統合による取引条件の悪化を忌避した顧客が離脱してしまうといったケースが考えられます。

たとえば製造業者が流通業者を買収した場合、従来取引のあった卸売業者との関係が悪化する可能性があります。

対策として、情報開示後はすみやかに取引先へ統合の目的や今後の取引方針を丁寧に説明し、透明性の確保につとめましょう。取引条件の維持や代替的なメリットの提示を行い、不安を和らげる工夫も求められます。

垂直型M&Aが適している企業

垂直型M&Aは多角的なメリットをもつため、さまざまな業界・業種の企業に効力を発する手法です。以下に、垂直型M&Aがどんなケースに適しているかの具体例を紹介します。

品質の向上・コスト削減をしたい製造業

垂直型M&Aは、製造業のサプライチェーンの強化に効果的です。

製造業には、サプライチェーンの脆弱性が課題となりやすい傾向があります。仕入れや流通に欠陥が生じた場合、通常の営業活動に支障が出てしまいかねません。

M&Aを経て資材の仕入れから販売・マーケティングまでを一貫できれば、品質の担保・改善の効果を見込めます。各プロセスにおける中間マージンも節約でき、コスト削減にも有効です。

クロスチャネル化をしたいECサイト運営企業

垂直型M&Aを活用すると、クロスチャネル化の実現も可能です。

クロスチャネルとは、複数の集客・販売経路をもち、顧客や在庫のデータをチャネル横断で管理する仕組みを指します。

クロスチャネル化はECサイト運営企業にとって、顧客の囲い込みやLTV向上を見込める手段です。

実店舗をもつ販売業を買収できれば、下記のような展開が可能となります。

  • ネット注文品の実店舗での受け取りをする
  • ネット掲載商品を実店舗で直接確認する
  • 実店舗で買い物した商品を、ネットストアから自宅に配送する

顧客にとっての利便性が高まることは、ロイヤルティの向上につながります。「顧客はどのような状態を望んでいるか?」を意識することは、M&Aの成功のため重要なポイントです。

競合との差別化をしたい販売業・プラットフォーム業

販売チャネルをもつ企業が製造業を取り込み、自社PB(プライベートブランド)商品を開発して競合との差別化を図るのも、垂直型M&Aの活用のひとつです。

PB商品の展開は、自社のオリジナリティを高め、顧客の囲い込みにもつながります。製造業者の観点からも、販売のコストを抑えて高品質・低価格なオリジナル商品の開発は、競合に対し優位性を発揮できる可能性があります。


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