- 作成日 : 2025年10月6日
後継者不在率とは?最新データから主な原因・影響・解決策をわかりやすく解説
後継者不在率とは何を意味し、なぜ中小企業にとって大きな課題とされているのでしょうか。日本の企業の多くが後継者不足に直面しており、廃業や倒産のリスク、さらには地域経済や雇用への影響が懸念されています。
- 黒字なのに廃業せざるを得ないのはなぜか
- 後継者不在が企業存続にどのような影響を与えるのか
- 承継を円滑に進めるための具体的な方法を知りたい
このように悩む経営者や担当者も少なくありません。
本記事では、後継者不在率の定義や最新データ、黒字廃業が社会問題となる理由、さらに原因と影響をわかりやすく解説します。加えて、後継者不足を解決するための方法や国の支援制度も紹介しているため、事業承継に備える経営者の方に役立つ内容となっています。
目次
後継者不在率とは?なぜ注目されるのか
後継者不在率とは、企業が「後継者がいない」または「未定」と回答した割合のことです。日本の中小企業では長年6割前後を推移してきましたが、近年は改善傾向が見られます。
しかし、高齢経営者の増加により廃業や倒産のリスクと直結しており、企業存続や地域経済、雇用にも大きな影響を及ぼす重要な指標として注目されています。
中小企業における事業承継の重要性
中小企業は地域経済や雇用を支える存在であり、事業承継は地域の活力維持に欠かせません。
承継が滞れば黒字でも廃業や倒産に至るケースが増加し、技術やノウハウ、人材育成の継続性が失われるリスクが高まります。親族内承継だけでなく、社員の内部昇格やM&Aといった多様な手段を活用することで、円滑な承継につなげる動きが広がっています。
「黒字廃業」が社会問題となる理由
経営が黒字でも後継者を見つけられず廃業に至る「黒字廃業」が増加しています。
これにより雇用喪失や取引先への悪影響が広がり、地域経済に影響を与えることも珍しくありません。
また、独自の技術やノウハウの喪失は、日本経済全体の競争力低下につながります。帝国データバンクの調査では「後継者難倒産」が2024年1〜10月に455件発生しており、深刻な社会課題となっています。
最新データで見る後継者不在率の現状と動向
2024年の全国後継者不在率は52.1%となり、調査開始以来で最低値を更新しました。ただし改善ペースは鈍化しており、地域差が顕著です。
三重県の34.1%が最低である一方、秋田県は72.3%と最高水準を示しています。また、全業種で不在率が60%を下回ったのは初めてですが、「後継者難倒産」は2024年1〜10月で455件と前年並みの高水準が続いています。
同族承継は減少傾向
2024年の同族承継比率は32.2%となり、2023年の36.0%から大きく低下しました。
子ども承継は31.4%と前年から減少し、配偶者承継は4.9%にとどまっています。親族内承継の割合は年々縮小しており、従来ファミリー企業と呼ばれた中小企業でも親族外へのシフトが進む傾向が鮮明になっています。
内部昇格は増加傾向
2024年は内部昇格が36.4%に達し、初めて同族承継を上回りました。
2023年の34.4%から約2ポイント増加しており、社内で経験を積んだ役員や従業員を登用するケースが拡大しています。内部昇格は企業文化の継承と即戦力性の両面で評価されており、中小企業にとって現実的かつ安定的な承継手段となっています。
M&A・外部招聘の拡大
2024年のM&Aや出向を中心とした承継は20.5%、外部招聘は7.5%となり、社外から経営資源や新しい視点を取り入れる方法が定着しつつあります。
M&Aは資本やノウハウ獲得の効果が期待され、外部招聘は専門知識や経営経験を生かす手法として活用されています。ただし悪質な仲介によるトラブルも報告されており、制度の健全な運用が今後の課題です。
後継者候補の属性は非同族が最多
2024年の後継者候補の最多は「非同族」で39.3%に達し、3年連続でトップとなりました。子ども承継は31.4%、親族承継は24.4%といずれも減少傾向にあります。
とくに外部招聘企業では候補の9割が非同族であり、親族企業でも非同族を候補とする割合が上昇しています。中小企業の脱ファミリー化が進展し、後継者選定の多様化が進んでいるといえるでしょう。
後継者不在の主な4つの原因
後継者不在の背景には、主に次の要因が絡み合っています。以下では主な4つの原因について詳しく解説します。
少子高齢化と人口減少
日本全体で少子高齢化が進み、若い働き手の絶対数が不足しています。とくに地方では都市部への若年層流出が深刻で、地域企業の後継者候補が大幅に減少しています。
経営者の平均年齢は60歳を超えており、高齢化が進む中で承継準備が間に合わない場合も珍しくありません。60代・70代では後継者不在率の改善傾向も見られますが、人口減少の影響により依然として大きな課題が残っています。
親族内での後継者不足
同族承継の割合は年々低下し、子どもや親族が事業を継がない傾向が強まっています。若者世代は家業よりも自分のキャリアや夢を優先する傾向があり、家業に魅力を感じにくい状況です。
したがって、従来の「子どもが継ぐのが当然」という考え方から「最適な人材に託す」という発想へと移行しています。その結果、親族以外に承継を任せるケースが増加し、従業員昇格やM&Aといった選択肢が広がっています。
経営環境の複雑化と経営負担の増大
グローバル化や技術革新、市場変化により、経営に求められる知識や判断力は高度化しています。経営負担の重さから若い世代が承継をためらうケースが増え、「責任が重すぎる」と感じることも大きな原因です。
経営環境の急変で承継計画が中断する事例もあり、高齢経営者ほど長期的なビジョンを描きにくくなっています。その結果、設備投資や改善が遅れ、業績悪化が後継者に敬遠される要因となっています。
相続税や贈与税など経済的・税務上の課題
事業承継には相続税や贈与税など大きな経済的負担が伴い、後継者の意欲を削ぐ要因となっています。事業承継税制による優遇措置は整備されつつあるものの、制度の複雑さやリスクへの懸念から十分に活用できない企業も少なくありません。
そのため、経済的負担を避けるために承継を断念し、廃業やM&Aを選択する企業も存在しており、後継者不在問題の深刻さを一層際立たせています。
後継者不在がもたらす影響
後継者不在は単なる企業内部の課題にとどまらず、次のような影響をもたらします。以下では具体的な影響を解説します。
「後継者難倒産」の増加
経営者が高齢化する中で承継準備が整わず、後継者不在のまま倒産に至るケースが増加しています。代表者の病気や死亡といった不測の事態で承継が間に合わず、事業継続を断念する例も目立ちます。
前述のとおり、帝国データバンクの調査でも「後継者難倒産」は過去最多水準で推移しており、直近でも増加傾向です。黒字経営であっても後継者不在が原因で廃業や倒産に追い込まれる企業は少なくありません。
地域経済や雇用への悪影響
中小企業は地域雇用と経済の基盤を支える存在であり、後継者不在による廃業は地域活力を大きく損ないます。とくに地方では若年層の都市部流出が深刻で、経済人材の空洞化が進んでいます。
製造業や建設業といった基幹産業で承継が滞れば、サプライチェーン全体に影響が及ぶことも多いです。さらに医療業など公共性の高い分野では、承継不在が地域住民の生活や安全に直結するリスクとなっています。
事業承継の遅れによる企業価値の低下
高齢経営者が設備更新や投資を先送りすることで、企業の競争力は徐々に低下します。事業承継には5〜10年かかるとされるため、準備の遅れは後継者の育成や経営改善を困難にします。
候補者が辞退や退職することで承継計画が白紙化し、企業価値が毀損する事例も少なくありません。結果として、優良な事業資産や独自技術が十分に活用されず失われる可能性が高まり、長期的な企業存続に大きな影響を与えます。
後継者不在を解決する3つの方法
後継者不在は深刻な課題ですが、企業の努力や外部支援といった解決方法も存在します。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
会社の魅力・価値向上を行う
新規事業の展開や新サービスの導入により、若い世代や外部人材にとって魅力的な企業に変えることが有効です。フレックスタイム制や在宅勤務の導入など働き方改革を進めれば、多様な人材が働きやすい環境が整い、後継者候補も見つけやすくなります。
さらにICTやデジタル技術の導入で農業や製造業といった業界の将来性を高められます。新規事業や新技術導入時には、地域金融機関や自治体の支援、補助金を活用することで企業価値を維持・強化できるでしょう。
外部から人材を募集する
社内に適任者がいない場合は、外部招聘によって経営経験や専門知識を持つ人材を迎える方法が有効です。専門スキルを持つ外部人材の加入は企業の成長や新規事業推進につながります。
ただし、従業員昇格や外部採用を成功させるには、計画的な育成の仕組みや採用戦略が欠かせません。求人市場や人材マッチングサービスを活用すれば、企業ニーズに合った候補者を効率的に探すことができ、承継課題の解決に直結します。
M&Aを活用する
後継者不在を解消する手段として、他社との合併や買収によるM&Aの活用は増加しています。M&Aは資本やリソースを統合し、企業の持続可能性を高めるとともに、新しい市場や顧客層への展開を可能にします。
後継者候補を抱える企業との一体化により、人材不足を補いながら事業拡大を図れる点も魅力です。ただし、統合後の文化調整や悪質な仲介によるリスクもあるため、専門家の支援を受けることが安全な承継につながります。
後継者不在に活用できる国の支援制度
後継者不在の課題に対しては、国や自治体、金融機関による支援制度が整備されています。次のような支援策を活用することで、承継やM&Aを円滑に進めることが可能になります。ここでは代表的な取り組みを紹介します。
中小企業庁が提供する支援策
中小企業庁は全国の事業承継を後押しするため、多様な支援制度を提供しています。承継準備やM&Aに関する相談から、税制面の優遇措置まで幅広く整備されており、後継者不在で悩む中小企業の強い味方となっています。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは全国に設置され、事業承継やM&Aに関する相談窓口として機能しており、地域ごとの実情に合わせたきめ細かなサポートを展開しています。また、マッチング支援や専門家の紹介を通じて承継を円滑に進める役割も果たしています。
事業承継・引継ぎ補助金 / 事業承継税制
事業承継・引継ぎ補助金や事業承継税制といった制度も重要です。
補助金は承継や廃業に伴う経費を一部補助する仕組みであり、税制は相続税や贈与税の納税猶予や免除を通じて承継時の大きな負担を軽減します。これらの制度は廃業回避や世代交代を後押しする手段として注目されています。
金融機関や自治体の取り組み
金融機関も事業承継支援に積極的に関与しており、相談窓口を設けることで経営者が早期に準備を進められる環境を整えています。
自治体も独自の施策を打ち出しており、たとえば三重県では「事業承継支援方針」を策定し、後継者不在率を全国最低水準にまで改善しました。
こうした取り組みは、地域におけるM&Aや第三者承継を支える制度の整備につながり、黒字廃業を防止するだけでなく、地域経済や雇用の維持にも大きく貢献しています。
専門家(税理士・弁護士・M&A仲介)の活用
後継者不在問題を解決する上では、専門家の活用も欠かせません。税理士は相続税や贈与税対策、さらには事業承継税制の適用に関する支援を行い、弁護士は承継契約や株式譲渡に伴う法的リスクの回避をサポートします。
さらにM&A仲介業者は第三者承継を希望する企業に対し、マッチングの実施や企業価値評価を行うことで承継の可能性を広げています。もっとも、近年は悪質な仲介業者によるトラブルも報告されているため、信頼できる専門家を慎重に選定することが重要です。
後継者不在率を確認し自社の事業承継に活かそう
後継者不在率は依然として中小企業の大きな課題であり、黒字廃業や地域経済への悪影響を招くリスクがあります。近年は内部昇格やM&Aなど承継の多様化が進んでいますが、承継準備には時間がかかるため早期の取り組みが不可欠です。
国や自治体の支援制度や専門家の活用を組み合わせれば、承継に伴う経済的・法的負担を軽減できます。最新データを確認し、自社の現状を客観的に把握した上で計画的に事業承継を進めることが、企業存続と地域の活力維持につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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