多くの企業の「経理の現場」を歩き、実務の最前線でコンサルティングを行ってきた、中尾篤史先生による連載第4回をお届けします。
テーマは「経理の現場のリアル」。現場で実際に起きている「本音の悩み」にフォーカスし、実務家ならではの視点で、解決の糸口を提示していただきます。
第4回のテーマは「経理システム」。よかれと思った選択やちょっとしたミスが、後々になって「牙をむく」。──そんな景色を、どなたも見たことがあるのではないでしょうか。これを回避するための、リアルなチェックポイントを教えていただきます。
目次
システムを入れたはずなのに、なぜか忙しい?
「経理業務をもっとラクにしよう!」と一念発起し、最新のクラウドサービス(SaaS)を導入したものの、いざ始まってみると「やることが増えた」「エラーの処理ばかりで、かえって残業が増えてしまった」というお悩みを、実はよく耳にします。
経理のデジタル化や業務プロセスの見直しは、単に紙をデータに置き換えるだけのものではありません。現場の実務をじっくり見つめ、将来の全体図を描きながら進めていくことがとても大切です。
今回は、経理SaaSの導入プロジェクトでつまずきがちな「3つの落とし穴」について、現場のリアルな苦労話を交えながら、優しくクリアするためのヒントをお届けします。
落とし穴①:目先の便利さにとらわれ、気がつけば「バラバラなシステム」に
最も多く、かつ後からの手戻りが大きくなってしまうのが、将来の「拡張性」を考えずに進めてしまうケースです。
リアルな失敗談:つながらない「独立国家」たち
例えば、営業チームが「一番使いやすそうだから」と経費精算システムを選び、別の担当者が「今の課題に合っているから」と請求書発行システムを導入したとします。
全体を統括する調整役がいないまま、それぞれの部門が自分たちの都合だけでシステムを選んでしまうと、導入した直後は個別の業務が便利になったように見えます。
しかし、いざ「システム同士を連携させて、仕訳データを会計ソフトに自動で流し込もう!」とした段階で、大きな壁にぶつかります。システム同士がうまく連携できず、結局は「CSVデータを書き出して、手動で別のシステムに取り込む」という、二度手間が発生してしまうのです。
最悪の場合、データをつなぐためだけに高い開発費用を払ってプログラムを特注することになり、予算を大幅にオーバーしてしまうこともあります。
回避策:一歩ずつ進めるからこそ、最初に「全体像」を描く
すべてのシステムを一度に新しくするのは大変なパワーが必要です。だからこそ、まずは「将来的にこれらをどうつなげていくか」という大まかなロードマップを描いておくことが欠かせません。
最初の一歩は「経費精算だけ」といったスモールスタートであっても、将来的にシームレスに連携できるシステム構成を意識しておくことが大切です。必要な機能から少しずつ追加でき、最終的にはすべてが同じプラットフォーム上でスムーズにつながる「コンポーネント型」のサービスを視野に入れておくことが、長い目で見たときにお手頃かつ快適に運用できるかどうかの分かれ道になります。
落とし穴②:運用の盲点。マスタの登録漏れで「取り込みエラー」の繰り返し
異なるクラウドサービスを組み合わせて使う際、APIなどを通じて、それぞれのシステム間でマスタ情報を自動で同期・共通化できる仕組みはとても便利です。しかし、オンプレミスの統合システムのように、最初から一つのデータベースを全員で共有しているわけではありません。
システムごとに独立したデータベースが存在するからこそ、「どちらのシステムを基準にして、どのようにマスタを同期させるか」というルールをはっきりと決めないまま運用を始めてしまう企業が、実はとても多いのです。
リアルな失敗談:「エラーリスト」との戦い
現場で新しいプロジェクトが立ち上がり、経費精算システム側にはコードを追加したものの、会計システム側の登録をうっかり忘れてしまう……。そんな小さなミスが、連携時に牙をむきます。
経費データを会計システムに送ろうとした瞬間、未登録のコードが原因でエラーが大量に発生してしまうのです。「両方のシステムに手作業で二重登録する」というルールになっていると、どうしても登録漏れや入力ミスが起こりやすくなり、その確認や修正作業に大切な時間を奪われてしまうことになります。
回避策:マスタの「一元管理」と「同期の自動化」
あらかじめ、マスタの作成・更新のルールをはっきりと決めておく必要があります。
「どちらのシステムを基準とするのか」「新しく追加したときに、自動で他のシステムにも反映されるか」をシステム選定の段階で確認し、日々の運用フローにしっかりと組み込んでおくことが大切です。
落とし穴③:スケジュールの遅れが招く「監査の負担増」と「二重のシステム利用料」

システム移行のプロジェクトは、さまざまな要因で予定が後ろにずれ込みがちです。この遅れは、担当者の予定が狂うだけでなく、企業にとって予想外の「余計なコスト」を発生させる原因になります。
リアルな失敗談:決算間際のスレスレ稼働
とくに監査を受けている企業や、その準備を進めている企業にとって、スケジュールの遅れはかなり深刻です。「決算日の数ヶ月前には新しいシステムを稼働させ、運用の安定を確かめておこう」という計画だったものが、移行作業が長引いて決算の直前までずれ込んでしまったとします。
稼働実績が足りず、運用がまだ不安定な状態で決算を迎えてしまうと、監査法人や内部監査人による「システムの正しさの検証(IT統制の監査)」に、想定以上の時間と手間がかかってしまいます。必要な情報がスムーズに提示できず、結果として、監査工数の増加によって監査費用が上がってしまうケースも十分に起こり得ます。
さらに、旧システムから新しいシステムへの乗り換え期間(並行稼働期間)が長引くことで、旧システムの利用料と新しいシステムの利用料が二重に発生し続け、コストがかさむ原因にもなってしまいます。
回避策:「遅れ」を見込んだ余裕のあるロードマップと、事前の共有
システム導入は、多少の遅延はつきものという前提に立ち、とくに「決算期」と重ならないゆとりのあるスケジュールを組むことが重要です。
また、システムを大きく変える場合は、導入前の早い段階で監査法人に「移行計画」を共有し、あらかじめ求められる条件(データの確認方法やアクセス権限の設計など)を確認しておくことが、後からの「やり直し」を防ぐ一番の近道です。
まとめ:部分の効率化ではなく、これからの業務プロセスをデザインする
経理のSaaS導入における一番もったいない失敗は、システムを単なる「入力ツール」としてしか見ず、従来の紙やExcelのやり方をそのままシステムに当てはめようとすることです。
システム導入は、これまでの非効率だった業務プロセスを根本から見直すチャンスです。
目の前の業務がラクになるかだけでなく、
という視点を常に持ち、経理部門も現場も、関わるすべてのメンバーが恩恵を実感できるような、そんな前向きなプロジェクトを進めていきましょう。CSアカウンティング 中尾篤史先生の過去の連載は、こちらの一覧ページからご覧いただけます。
多くの経理の現場を見ているCSアカウンティング社だからこその、リアルな知見・知恵をまとめていただいています。
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