「わたし、このままでいいんでしょうか?」前田先生に聞く経理の現在地、そして将来のこと ~経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対する不安や悩みにお答えします~
給料が上がりません」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.2~

『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』クロスメディア・パブリッシング
前田康二郎 著
今回の相談内容:スタッフが辞めてしまいます
昔と同じように接しているつもりなのですが、最近、経理の部下が長続きしません。私のマネジメントに問題があるのでしょうか?
今の時代は「退職=ネガティブ」とは限らなくなった
はっきりとした原因もわからず部下が退職してしまうと、上司としては「自分に何か原因があったのではないか」ともやもやしてしまいますよね。以前と今とでは労働環境が大きく変わりましたので、まずその変化を認識したうえで、ご相談者様に何か心当たりがあるかどうかを考えたほうがいいと思います。
まず、以前のような「終身雇用」や「年功序列」といった組織構成が多くの会社で崩れ、中途採用も一般的となりました。それによって何が変わるかというと、「会社を辞める」ということに対するマインドセット(考え方)が以前より大きく変わってきています。
終身雇用や年功序列の時代に会社を辞めるということは、特に大企業や有名企業にお勤めだった方は、上司や同僚から退職時に「一生後悔するぞ」「お前の社会人人生は終わったな」というネガティブマインドの声掛けをされた人もいることでしょう。
一般的に考えれば、日本に数百万社存在する会社の1社を辞めたくらいで人生が終わるわけがないのです。しかし、日本の社会全体が新卒採用のみで中途採用をなかなか採用しない以前の環境でしたら、確かに次に働く会社を見つけるのは至難の業だったでしょうし、給与など条件も良くないこともあったかと思います。
しかし今は中途採用が当たり前の時代になりました。中途採用が当たり前になったということは、それと同じだけ会社を退職する人がいるわけですから、会社を辞めること自体も「人生の一大事」ではなく「当たり前」になった、ということです。そして、特にここ数年は転職後の待遇条件も良くなり、ポジティブな転職が増えてきています。
「今の会社には特に不満はなかったけれど、今と同じ仕事で年俸が150万円上がるから」「同じ業務内容で、転職先は経理課長のポストを用意してくれているから」など、ポジティブな理由で転職をする人も増えました。「会社を辞める=職場で嫌なことがあった」とはならないケースが増えてきているということです。
そのため、ご相談者様は「自分の部下が短期間で辞めた=自分が何かハラスメント的なこと、老害的なコミュニケーションをとっていたのだろうか」という心配もあるでしょうが、「100%そうだ」ということではなく、「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」とまずは考えたほうがいいと思います。
退職を考えている人を引き止められるのは「人」
転職をポジティブにとらえている人に絞ってもう少し深掘りしてみましょう。「転職先を決定する理由」と「今の会社を辞める理由」、これは似て非なるものではないかと思います。
たとえば、転職エージェントから「今と同じ業務内容で、今お勤めの会社よりも年俸が100万円アップしますけどいかがですか」と打診されたとき、その100万円の差を埋めて「いや、やっぱり今回は転職はやめておきます」という動機づけになることができるのは「人」だと思います。
以前、クライアント先の経理社員の方で、とても優秀な方がいました。その方の年俸はそれほど高くなく、他の会社だったらプラス200万円でも出すのではないかなという方でした。
でもその方曰く、「確かに私も以前、転職エージェントに登録して金額的には良いオファーをたくさん頂きました。ただ、今の上司や同僚たちのような良い人たちが転職先にいるかどうかを考えると、これ以上働きやすい職場はない気がしたので、お金は確かにもう少し欲しいですけど(笑)、転職するのはやめたんです」と話してくれました。
今は、ポジティブマインドの転職をしようとしている人に、会社が「今より年俸を増やすから」と金額面の条件を上げたり、福利厚生を充実させたりしても、辞める人は辞めてしまう時代です。でも、そのような人でも「本当に辞めてしまっていいのかな」と迷うのは、「人」の存在です。
もし今の会社で、上司や同僚などと良い関係性が築けていたら「転職先にこんなに自分のことをわかってくれる上司がいるだろうか」「せっかくこんなに信頼できる仲間がいる良いチームを何年もかけて作ったのに、そこを離れてしまっていいのだろうか」と迷うと思います。
そしてなかには、「年俸100万円のアップと今の良い職場環境とを比較したら、100万円ではちょっと転職できないな」と、転職を思いとどまる人も出てくると思います。
ご相談者様にお願いしたいことは、ご相談者様を含めて、経理部門全体がそのように良い職場環境を築けていたかどうかを振り返っていただき、その努力をしていただくことは大切だと思います。
それでも会社を出て行ってしまう場合もあるでしょうが、待遇よりも職場環境重視で会社にとどまる人も増えてくると思います。
自分と仕事のやり方が異なっていても「見守る」

一方、どうやらポジティブな退職ではなさそうだった場合、その退職理由の一つは上司との折り合いが悪いことが理由の一つとして挙げられるかもしれません。
ただし、目に見えてお互いに折り合いが悪いのではなく、上司は「部下とうまくやっているつもり」だったのが、部下からすると「上司と接する時間がとてもつらかった」というケースもあります。
そのなかでも顕著なのが、部下が上司と違うやり方で仕事の結果を出したときに、「自分と同じやり方じゃないからそれを認めない」という上司です。すでに結果が出ているにも関わらず、自分と同じやり方でもう一度やり直しを命じる上司もいます。
わかりやすい例でたとえてみましょう。たとえば1から100まで順番に足していくといくつになるか。経理の皆さんなら簡単な問題でしょうが、その答えの導き方は無限です。少し挙げるだけでも
- 純粋に1から100まで電卓で足していく
- 1+100=101、2+99=101…という組み合わせが50組あるから101×50=5050
- Excelで1から100まで計算式を入れて集計する
- AIに「1から100までの合計値は?」と聞く
- 最初から知識として「1から100までの和は5050」と覚えておく
など挙げられます。経理の仕事も、ゴールは一つですが、そのプロセスは人それぞれです。もちろん、「必ずマニュアル通りにやるように」というものや、内部統制上、必ず面倒でも順を追ってやらなければいけないものもたくさんあります。
ただ、たとえば「ダブルチェック」など、「部下が処理したものを上司がチェックをする」というような場合は、そのチェック方法は明記されていませんから、どのようなやり方でも、チェックができていればいいわけです。
前述の1から100までの合計を出すときのように、人それぞれ工夫があってもいいと思います。その工夫によって、早く正確にチェックが終わればそれが優秀な経理といえます。しかし、そのようなことを認めず、「自分のやり方と全く同じやり方で仕事をしないと、いくら結果を出しても認めない」という人がいます。私の会社員時代には、年上の部下にそのような方がいました。
その方は、先ほどの1から100までを計算するとしたら、地道に1から100まで電卓を叩くことが本来の経理のあるべき姿だ、という考えでした。私はそうではなく、全体を見て、どことどこの数字が合っていたら他の数字はチェックをしなくて問題ない、など、どれだけ効率化できるかを考えたり、簡単なものは暗記をしたりして作業処理をするタイプでした。そのため、その方から「異端」と言われていました。
でも結果から申し上げると、私よりも、その方のほうが作業はやはり遅かったですし、間違いも多かったです。ただ私は、その方のやり方を別に否定はしませんでした。
「あ、面倒なことをやっているな」と思うだけでしたし、私より多少時間がかかっても、制限時間内に正しく作業が終わっていればそれでいいと思っていました。そしてその方の作業をダブルチェックした際に間違っていたらそっと直してあげました。
それが「過干渉」でも「放任」でもない「見守り」という立ち位置なのではないかと思います。「あなたの仕事のやり方は邪道だから私は絶対に認めない」という過干渉でもなく、部下の処理が間違っていても見て見ぬふりをして全責任を部下に押し付ける「放任」でもない、「見守り」。この立ち位置を意識してみると、お互い働きやすい環境が作れるのではないかと思います。
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