街の喧騒から一歩離れた、静かな路地裏にあるコーヒースタンド。CFOの杉浦が店長を務めるこの店では、経理の悩みを抱えた人々が杉浦に相談を持ちかけているのが日常の風景だ。今日やってきたのは、転職で新たな業界に飛び込んだばかりのEさんである。
異業種からの挑戦—新天地での戸惑い

「いらっしゃいませ。」
杉浦は温かな笑顔でEさんを迎えると、丁寧にコーヒーを淹れ始めた。
「本日のおすすめです。」
コーヒーを受け取りながら、少し緊張した様子で杉浦に話しかけるEさん。
「杉浦さんの噂を聞いて、ちょっと遠くから来てみたんです。」
Eさんは、はにかみながら続ける。
「杉浦さんはこのお店を開く前、まったく違う業界にいらっしゃったって本当ですか?…というのも、実は私、業界を変えて新しい職場に転職したばかりなんです。でも、経験のないことが多すぎて、毎日戸惑ってばかりで…。せっかくプロジェクトを任せてもらえる立場になったのに、新しい仕事をゼロから形にするのが難しいと感じています。」
「なるほど。実は僕も、以前はコーヒーとかけ離れた業界だったので、その気持ちは本当によくわかります。」
杉浦は深く頷いて共感した。
「僕もここのCFOになったばかりの頃は、未知のことが多すぎてかなり苦戦しました…。」
ゼロからの成功法則—最も大切なマインドとは?

「僕がいつも大切にしているのは、『知らないことは知らないと言う』ことです!」
「え?」とやや驚いた表情になるEさん。
「『知らないこと』を恥ずかしがる必要はありません。知らないことがあったらむしろ、『知らない』『できない』と自覚できたことを誇るべきです!」
「そうなんですか?!プロジェクトを動かしていく立場で転職してきたのに、『知らない』なんて情けなくて言えないと思っていました…。」
「Eさんの立場ならそう思ってしまいますよね。でも、世の中知らないことの方が断然多いんです。知らないまま進んで取り返しのつかないミスをしてしまうことの方がもっと怖い…僕はそう思いますよ。」
「確かに、そのとおりですよね。知らないことが多いことを認めるのは少し恥ずかしいですが…取り返しのつかないミスはもっと怖いです。」
Eさんは納得した様子で答えた。
「そうそう、その心構えでいきましょう!ただ、知らないなりにも”やり方”があるんです。あ、ちょっとお待ちくださいね。」
杉浦は他の客にコーヒーのおかわりを注いでから、腕まくりをして説明を始めた。
「まずは、『知らないこと』を調べることから始めましょう。調べたいジャンルで初心者向けの参考書を探します。そのとき、参考文献が多い本を探すことがポイントです。良い本を見つけたら、『目次』と『まえがき』、『あとがき』をチェックしましょう!」
「え、最初から『あとがき』を読んじゃうんですか?」
「そうなんです、『あとがき』はその本のまとめになっていることが多いので、本に書いてあることの全体像をサッと掴むことができます。全体をじっくり読み込む必要はなくて、”知りたいのはコレだ”という部分だけをピックアップして、その部分の参考文献や参考サイトを調べてみるのがおすすめです。」
「本は全部しっかり読まなきゃいけないと思っていました。そうやって使えば良いんですね。」
Eさんはメモを取りながら頷いた。
「次に、アンチパターンを探ります。Eさん、『アンチパターン』って聞いたことありますか?」
「あるような、ないような…という感じです。すみません、わかりません!」
「お、しっかり『知らないことは知らない』と言えましたね!その調子です。『アンチパターン』はシステム開発などでよく使われる用語で、“これをやったら失敗する”という悪い意味での定番を表す言葉です。」
「ありがとうございます。この先のお話を、知ったかぶりで違う意味で捉えて進んでしまうより、思い切って聞いて良かったなと実感しました!」
「素晴らしいですね。このアンチパターンから“コレはやっちゃいけない”という例を学ぶことが大切なんです。たとえば、『管理会計』や『サプライチェーン』など、自分の仕事に関連するキーワードで情報を検索してアンチパターンを集めます。日本語では出てこない情報であれば、英語でも検索してみましょう。ちなみに、chatGTPに聞いてみるのも有効ですよ。」
「なるほど…。失敗例から調べていくんですね。」
「そうなんです。ある程度調べたら、次はアウトプットですね。調べたことを基に理想のたたき台を作ったら、他の人に見てもらいましょう。批判されることもあると思いますが、それも大歓迎です!なぜなら、たたき台を作っている時点で十分評価されるべきですし、意見をもらって改良していくという“良くなる未来”しかないわけで…それは喜ぶべきことですよね?」
「批判されるのは怖いと思っていました…。そうやってポジティブに考えることが大切ですよね!」
力強い杉浦の言葉に、Eさんの表情もだんだん明るくなっていく。
「そのとおりです!この考え方ができれば、どんなことにも挑戦しやすくなりますよ。もしミスをしてしまっても、それが“取り返しのつくミス”なら、価値のあるミスなのでどんどん経験していきましょう!」
「ありがとうございます、杉浦さん。これから僕も自信を持って新しいことに挑戦できそうです!」
「でも一つ、注意点があるんですよ。」
しまいかけていたメモを再び取り出し、Eさんは身を乗り出した。
「重要なのは、インプットとアウトプットをバランス良く進めること。というのも、知らないことの情報を集めることに時間をかけすぎてしまうと、アウトプットが遅くなってしまうからです。特に経営判断に関わる場合は、遅くなってしまうとその分対応が後手になってしまいますよね。僕も昔苦労した部分なので、そういったところも気をつけてみてください。」
「とても勉強になります。今日のお話を実践して、僕も必ずレベルアップしてみせます!」
Eさんは残りわずかだったコーヒーを飲み干し、意気揚々と宣言した。
まっさらな心で未知への一歩を
「コーヒー、とても美味しかったです。ごちそうさまでした!」
「今日のコーヒーはエチオピア・シダモ地区のもので、実はデカフェなんですよ。もうこんな時間ですしね。」
人もまばらになった真っ暗な窓の外に目をやりながら、杉浦はイタズラっぽく笑った。
「え、デカフェなんですか?全然気づきませんでした!」
驚きの表情を隠せないEさん。
「デカフェってなんとなく美味しくないイメージがあって、あまり飲んだことがなかったのですが…。フルーティーな甘さとキャラメルのようなほろ苦さが感じられて、すごく美味しかったです!」
「ありがとうございます。『デカフェ=美味しくない』と思っている人も多いと思いますが、うちで出しているデカフェはそんな常識に反して、コーヒーとして楽しめる高いクオリティを備えています。華やかな香りと深い味わいを感じていただけたようで良かったです。」
「本当に目からウロコですね。デカフェというイメージだけで避けていた自分が恥ずかしいです。」
「人間のもつ先入観や思い込みは、時に物事の本質を歪めてしまうことがあります。世の中には実際に経験してみないとわからないことがたくさんあるので、まっさらな心で真の価値を確かめるようにしたいですね。」
「まさにこのデカフェが教訓ですね。僕はこれから、“まだ知らないこと”にたくさん出会うと思いますが、思い込みにとらわれずに進んでいきます!」
Eさんは、新たな挑戦へと踏み出す勇気を得て、深夜のコーヒースタンドを後にしたのだった。
■杉浦大貴(スギウラマサタカ)のプロフィール
立教大学在学中、下町のカフェを中心としたコミュニティで過ごし、コーヒーの持つ多彩な魅力を知る。
卒業後は一部上場企業経理部を経て、マネーフォワードに入社。
2019年8月から京都に移住し、プロダクトマネージャーとしてクラウド会計Plusの立ち上げより関わる。
会計PlusはIPO市場を中心にPMFを達成。0→1、1→10のプロダクト成長フェーズを経験する。
大学時代よりコーヒーが好きであり続けたことからKOHIIに興味を持ち、2022年9月よりプロダクトマネージャーを担当。
2023年7月から会計とプロダクトマネジメントの知見を活かして、合同会社KurasuのCFOとしてジョインする。
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