コーヒー片手に豆知識〜vol.1〜:
経理が面白くなる?!秘訣はビジネスモデルの理解だった!

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プロローグ

オフィスビルが立ち並ぶエリアを少し歩き、喧騒を抜けて細い路地に入ると、小さなコーヒースタンドがあった。白を基調にしたその店は、ありふれた街並みに溶け込みながらもどこか独特の存在感を放っている。柔らかな朝の陽が射し込む店内には、通勤ラッシュで慌ただしい街とは別世界のように穏やかな時間が流れていた。

このコーヒースタンドの店長は、上場企業の経理担当者として長年経理に深く携わっていた杉浦大貴(スギウラマサタカ)。企業の経理部勤務を経て、転職先では新規事業の立ち上げに携わり、プロダクトオーナーとして事業の成長を牽引した。

そんな彼のコーヒーとの出会いは、大学時代にさかのぼる。下町の小さなカフェを中心としたコミュニティで過ごした日々は、彼にとって忘れがたい貴重な経験だった。

コーヒーの香りに包まれながら交わされる何気ない会話の楽しさは彼の心に深く刻まれ、“いつか自分もコーヒーを通じて人とのつながりを創り出したい”という思いを強くしていったのである。

晴れて開店したこのコーヒースタンドには、なぜか多くの経理マンが来店する。お昼休憩の時間や夕方には、客が店長である杉浦に経理の悩みを相談する光景が日常となっている。

これには、彼自身の人柄も大きく関係しているのだろう。豊富な経理の知識だけでなく、“困っている人は放っておけない”という性分の杉浦。

顧客や取引先の信頼も熱く、「頼れる経理社員」としての評判はコーヒースタンドを開店したその後も、業界内でさらに広がり続けている。

数字が面白くない…若手経理マンの退屈な日々

よく晴れた冬のある日、いかにも仕事の休憩中という様子の若い男性が、静かに店に足を踏み入れた。男性は少し緊張した様子で、カウンターに近づく。

「いらっしゃいませ。」
(今日も悩める経理担当者が来たかな。)杉浦は心の中でそっと呟き、客に近づいた。

「お客様へのおすすめは、“エチオピア ハマショウ”です。華やかな甘い香りで、気分転換にピッタリですよ。」

男性はハッと驚いたように顔を上げ、何かに納得したように小さく頷いてから「それでお願いします。」と注文した。

運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、男性はその素晴らしい味わいに目を見張った。

「これは…魅力的な味わいですね。なんというかすごくフルーティーな香りで、少し甘みもある気がします。心がぱっと明るくなるような感じですね!」

「さすがですね。エチオピア ハマショウはレモンやシードル、グアバの味わいが特徴なんです。桃のような瑞々しい甘みと余韻が楽しめますよ。まさに気分転換や気合いを入れたい時にぴったりのコーヒーです。」

「…で、今日はどんなお悩みがあるんですか?」

杉浦は客の話に耳を傾ける準備ができている様子で、温かい微笑みを浮かべながら優しく問いかけた。

「実は、経理の仕事が最近面白くないんです。毎日の数字との格闘が、ただつまらない作業の繰り返しだと感じてしまって。」

男性の言葉には、日々の業務への倦怠感がにじみ出ていた。

「なるほど、毎日の仕事にマンネリを感じているわけですね。」

「ええ、私はすぐ近くの株式会社〇〇で経理業務を担当しているAと申します。経理歴は数年になるのですが、数字に面白みを感じられないので毎日が退屈で…。もっと楽しく仕事に取り組めたらと思ってるんですが。」

「確かに、経理は集中力や注意力が求められる繊細な仕事ですから、そう感じることもあるでしょう。」

杉浦は自身の過去を振り返るかのように、しみじみとAさんに共感の意を示した。

「Aさんは、経理を“数字との睨めっこ”みたいに感じていませんか?
数字をただの数字として捉えるのではなく、ある方法で見方を変えると、もしかしたら経理の仕事にまた違った楽しみが見出せるかもしれませんよ。」

「本当ですか? どうしたらいいんですか?」
Aさんは期待に満ちた表情で、真っ直ぐ杉浦に問いかけた。

コーヒーとともに紐解く数字の魅力

「経理の数字はただの数字ではなく、“ビジネスのストーリーを語るもの”なんです。」

Aさん「ビジネスのストーリー…?」

「そう、まずはお金の流れとビジネスモデルを図にしてみると分かりやすくなります。こんなふうに。」

杉浦はそう言うと、メニューの黒板を使って図を描き始めた。

「たとえば、うちのコーヒースタンドだと、こんなビジネスモデルになります。」

図1(ビジネスモデルの概要図)

「こうやって整理するとお金の流れが見えてきて、自分が今見ている数字がどこの部分かが分かりやすくなりませんか?帳簿の中身とビジネスのストーリーが一致して、数字としてじゃなく物語の一部として見えてくるんですよ。」

Aさん「本当ですね!初めて聞く話なのに、とてもわかりやすいです!」

「会社の中ではさらに細かく仕事が分かれているので、一つずつ描き足してみましょう。たとえばこのお店では、仕入れた生豆を焙煎チームが焙煎しています。」

図2(焙煎チーム追加)

「こうして一つずつ図にしてみると、取引内容が視覚的に把握できますよね。」

「これだと取引内容がしっかり理解できて、仕訳も切りやすくなりそうです!」

Aさんはまた一口コーヒーを飲み、納得の表情で頷いた。

「たとえば、焙煎チームの中でも焙煎機というひとつの資産がどれだけの利益を生んでいるか、そういう数字の分析をすることもできるようになりますよ。」

「なるほど…。」

興味深そうに聞き入っているAさん。

「全体を図にしてみてわからない部分があれば、現場に聞きに行くのもいいですね。そうやってコミュニケーションが取れれば信頼関係を築くこともできますし。もっとも、あんまり聞きすぎると煙たがられてしまうのでほどほどに(笑)」

「なるほど…直接コミュニケーションを取るのはいいですね!」

杉浦は再び黒板に向かい、新たな図を描き始めた。

「ほとんどの会社には複数の事業がありますから、部門ごとの要素をこうして図に加えると、もっと面白いものが見えてきますよ。」

図3(部門追加)

「こうすると、どの部門がどれだけの数字を持っているのか一目瞭然ですよね。さらに時系列で追っていけば、どの事業が伸びているのかも分かります。こうやって図解しながら分析してみると、“どの部門を強化すべきか”といった戦略的な提案までできるようになるんです。」

「すごい…僕にも何かできそうな気がしてきました!」
Aさんは目を輝かせている。

「私自身は銀行相手に話をするときなんかにこの図をよく使っていましたが、社内で日々の業務を行う場合でも十分効果的です。現場と話をするときや、上司に提案をするときも、ビジネスのストーリーを意識して伝えれば、Aさんも“頼れる経理社員”になれますよ。」

「頼れる経理社員、いい響きですねぇ。僕は目の前の数字しか見えていなかった。全体のストーリーを把握することが大切なんですね!」

Aさんはトンネルの出口を見つけたかのように晴れやかな表情になり、またコーヒーカップを傾ける。コーヒーを飲むたびに、彼の心はどんどん晴れていくようだった。

「そのとおり。調子が出てきましたね。じゃあ今度は、もうひとつの図を。」
杉浦はそう言って、新しい図を描き始めた。

図4(企業集団

「同じように資産の状況も図にしてみると、把握しやすくなります。どこからお金を借りて、どこにお金を出しているのか、こうやって自分で整理してみると会社の現状を把握できますよね。借入れに関しては、多くの会社で借入金台帳があるので、それを見るとわかるはずです。」

「なるほど…。」

いつの間にかAさんは手帳を取り出し、杉浦の一言一句を聞き逃すまいとメモを取りながら熱心に聞いていた。

「会社が今どうなっていて次に何をすべきか、それを考えることが大切です。こうやって現状を理解できれば、次に取るべき行動が見えてきます。つまり、成長戦略が立てられるんです。」

「経理は経営の鍵を握っているんですね!」

「そういうことです。Aさんの提案が経営を動かすことになるんですよ。」

「僕はただ帳簿をつけているだけではなく、実はかなり大きな力をもっていたんですね!」

Aさんの表情はパッと明るくなった。杉浦は続ける。

「経理の仕事はビジネスモデルを理解することでもっと楽しくなります。勘定科目など帳簿の細かい部分につい目が行きがちですが、なるべく俯瞰して見ることを意識すると良いですよ。ちょうどいい解像度で切り取って今回のように図にしてみてくださいね。」

「はい!自分の役割が見つかった気がします。明日から新しい気持ちで仕事ができそうです。」

Aさんは清々しい表情でコーヒーを飲み干した。たった一杯のコーヒーで、彼の経理に対する見方、そして仕事への向き合い方は大きく変わり始めていたのだった。

Aさんの見つけた光


季節が移りつつある数週間後、Aさんが再びコーヒースタンドを訪れた。 前回とは打って変わって、彼の表情は明るくやる気に満ち溢れている。

「いらっしゃいませ、Aさん。お元気そうですね。」

「店長、先日は本当にありがとうございました!あの後、仕事がまったく違って見えるんです! 数字がただの数字ではなく、一つひとつに意味があるように思えてきて。ただの作業に思えていた仕訳も、会社のストーリーの一部として楽しく捉えられるようになりました。」

興奮冷めやらぬAさんは、矢継ぎ早に報告を続けます。

「実は、図解で気付いたことをまとめて、改善案をいくつか上に提案してみたんです。そうしたら、それが評価されて、この度プロジェクトのリーダーに任命されました!」

杉浦はすべてを見透かしていたかのように柔らかく微笑み、一杯のコーヒーを差し出した。

「経理の新たな魅力を発見しましたね。じゃあ今日は、新しい一歩を踏み出すAさんにぴったりの、このコーヒーを——。」

■杉浦大貴(スギウラマサタカ)のプロフィール

立教大学在学中、下町のカフェを中心としたコミュニティで過ごし、コーヒーの持つ多彩な魅力を知る。
卒業後は一部上場企業経理部を経て、マネーフォワードに入社。
2019年8月から京都に移住し、プロダクトマネージャーとしてクラウド会計Plusの立ち上げより関わる。
会計PlusはIPO市場を中心にPMFを達成。0→1、1→10のプロダクト成長フェーズを経験する。
大学時代よりコーヒーが好きであり続けたことからKOHIIに興味を持ち、2022年9月よりプロダクトマネージャーを担当。
2023年7月から会計とプロダクトマネジメントの知見を活かして、合同会社KurasuのCFOとしてジョインする。

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