インボイス制度開始後の課題と解決①

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インボイス制度が2023年10月より開始されました。

インボイス制度対応後において、制度対応だから従来と請求書関連の運用業務が大きく変更したことは仕方ない、業務負荷が重くなったけれど対応せざるを得ない、と諦めていませんか。

制度対応により業務見直しを行ったものの、想定していたよりも上手く運用できていない、ということはありませんか。

制度対応を適切に行うことは大事ですが、せっかくであれば効率的・効果的に対応したい、他の会社はどうしているのか、と思ってきている状況があれば、本投稿を参考にしていただければ幸いです。

今回は受領した請求書についてご紹介し、次回に発行と書類保管等について触れたいと思います。

制度開始後の課題とは

まずは、具体的に制度開始後の請求書受領業務における、一般的にありそうな課題について考えてみます(制度の基本的な理解については、制度解説をした回の記事をご参照ください)。

例えば、以下のような状況がインボイス制度対応をすることによる課題ではないでしょうか。

    • 1. 受領した請求書に記載されている相手先の登録番号が正しいことを、受領した請求書ごとに目検でチェックしており業務負荷が重い

 

    • 2. 受領した請求書に取引日、消費税率などが適切に記載されていることを、受領した請求書ごとに目検でチェックしており業務負荷が重い

 

    • 3. 受領した請求書の、消費税の端数処理計算が適格請求書の要件を満たした方法で実施されていることを、請求書ごとに手計算にてチェックしており業務負荷が重い

 

    • 4. 適格請求書ではない請求書を受領し、経過措置として処理しようとするとき、会計システムが経過措置に対応しておらず、日々の処理に迷っている

 

  • 5. インボイス制度対応のために、制度開始時は目検チェックや手作業で実施する方針としたが、社内担当者がチェック(運用)していない、またはチェックしているがミスが多い、もしくはチェックはしているが業務負荷が重くなったことに不満を言っている

まず1から3は、適格請求書の要件となる各項目の確認を手作業でチェックすることとした影響です。

これらは、インボイス制度対応を検討する段階において、なるべく従来の運用方法から変更することなく対応しようとした場合、既存のシステムとの整合性の問題やシステム導入コストの抑制のためにシステム導入を見送った場合、さらには実務担当者の負担を考慮しない運用方法としてしまった場合に起き得る状況から想定されるものです。

受領した適格請求書で仕入税額控除要件を満たすためには、適切な取引先の登録番号や取引日、消費税計算が必要になります。項目によっては、ただ対象の事項が記載されていればいいというものではなく、記載の内容が正しいことを確認する必要もあるかもしれません。

それを自社でどの頻度でチェックするのか、どのようにチェックするのか、ということが負荷軽減のポイントです。

4はインボイス制度が開始されるにあたって、受領した請求書の区分に応じた自社の税務処理の方法を明確に決めていなかったことによる影響です。

簡単には、受領した請求書が適格請求書の要件を満たしていない場合、経過措置の適用(請求された消費税の一定割合は税額控除を認めるとする期限付きの制度)が認められるが、対象となる取引を申告の際に把握し、税額影響などを集計できるようにしておかなければなりません。

制度開始となっても税務申告までは直ちに重要な影響がでるものではありませんが、今後何も対応しなければ重要な影響がでるかもしれないものです。

最後に5は、制度対応について全社従業員を巻き込み、新しい運用方法などの対策をしたものの、従業員へ業務の内容が上手く浸透しなかったものです。

新しい運用方法の業務負荷が重いことや制度理解が不足していることによる担当者の怠慢など、複数の要因が考えられ、従業員への周知の徹底方法などの業務負荷軽減がポイントとなります。

受領した請求書のマニュアルチェックへの対応

手作業による運用などマニュアルによるインボイス対応については、前項で記載した課題だけではなく、もちろんメリットもあります。

制度施行に伴い、追加的なキャッシュアウトを生じさせずコストを抑えられるといった点です。しかし、前項のような課題が生じえることも事実です。

これらの課題に対応する方法として、最も優良な解決策の一つはインボイス制度に対応したシステムを導入することです。

事前に取引先のマスターとして取引先の登録番号をシステムに登録しておくと、受領した請求書の登録番号と自動で照合し、不整合が生じていた場合にはエラーとして通知してもらえる、といった機能があるシステムも最近ではよく見受けられます。

システム投資コストは生じてしまいますが、その後の労務コストは大きく抑えられるかもしれません。

そのほかの運用方法による解決方法として、チェックの運用方法を見直すことが想定されます。受領した適格請求書に記載されている登録番号や取引日、消費税率の表示などのチェックの頻度を減らせば、人的コストは抑えられます。

すべての請求書をチェックしないと、適格請求書の要件を備えていない請求書を見逃してしまう可能性がありますが、取引先の状況などを勘案し、チェックが漏れてしまうリスクを認識したうえで、割り切って対応する実務もよく見受けられます。

また、同じマニュアル運用に対応した結果の課題である5は、社内担当者さらには全社への制度理解や協力依頼が不足している可能性があります。インボイス制度は、文字面だけでは経理関係者だけしか影響しないように思えますが、適切に対応しないと全社として損失が膨らんでしまう可能性があります。

その意味では、インボイス制度の対応は営業担当から経理担当まですべての従業員を巻き込んだ対応が必要になります。運用ルールの徹底のために全従業員へ経営側から協力依頼、説明会の実施、など啓蒙活動をあらためて実施することで課題を解決できる可能性もあります。

なお、当該課題解決においてもやはりシステム対応は全社の労働コストを軽減でき、従業員の抵抗や不満に対応できる一つの有力な解決方法にはなり得ると思います。

現状、受領した適格請求書のチェックの頻度については法制度により定められているものではなく、各社の実行可能性を考慮した対応ができます。実際に制度が開始されたばかりの今、適切な状況分析により、最適な運用方法の落としどころをご検討ください。

会計及び税務処理時への対応

続いては、受領した適格請求書のチェックではなく、それら受領した請求書の種類に応じた自社内の処理および認識方法の課題についてです。

制度施行当初は、比較的、請求書フォーマットや適格請求書の発行の有無などの対応に労力を割いていた会社も多いと思います。当該課題は、受領した請求書に応じた自社内の管理方法についてです。

例えば、受領した請求書の状況により、適用する(集計する)税率が10%や8%とといった税率だけではなく、それらに経過年を適用した場合の消費税の算定方法もあり、各パターンに応じた消費税申告計算の集計対応は必要になります。

利用している会計システムが経過措置(例えば10%消費税率であれば8%、8%消費税であれば6.4%など)に対応していない場合、消費税の申告の際にどのように計算するかを決めておく必要があります。

課題の解決として、最も従業員の不満を含めた労務コストを抑えられるのは、会計システムへ起票する段階でシステムが経過措置対応取引を区別して処理できるようになっていることです。システムが対応していれば、日々の記帳から事業年度末の消費税の算定の際には容易に集計、算定できます。

一方で、経過措置対応がなされていない会計システムは、どのような方法で事業年度末の消費税を把握し算定するかを決めておかなければなりません。

起票の都度、手作業により消費税率を調整するか、起票のタイミングでは会計システム上で他の取引と区別できる“フラグ”などで区別しておき、最終的に申告計算の際に集計しやすくしておく、といったことが一般的に想定されます。

課題への対応方法の候補はそれほど多くないですが、インボイス制度開始当初に検討していなかった会社は制度施行当初の今、見直しておくことをおすすめします。

最後に

いずれの課題においても、最も労務コストを抑えて対応できる方法はインボイス制度対応システムを導入することだと考えます。

システム導入コストが高価になりがちと想定されるかもしれませんが、最近では比較的低価格で導入できるシステムも多くなってきているイメージです。制度対応に際して、システム導入の検討をされていない会社があれば、ぜひ一度ご検討いただくとよいかもしれません。

システムを導入すると業務が大きく変化することから社内抵抗が大きいかもしれません。しかし、将来的な労務コストを考慮すると、決してあり得ない選択ではないと考えます。

また、インボイス制度は全社を巻き込んだ対応が必要になる制度です。経理や経営トップの独断だけで対応を図ると運用において想定外の課題や失敗が生じることもあります。

ただし、早期に課題に対応することで損失は最小限に抑えることも経営には非常に有効です。ぜひ、課題の対応をご検討ください。

次回はインボイス制度の発行時および書類保管時の課題と解決方法について検討してみたいと思います。

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