インボイス制度理解は経理担当者だけでいいのか

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インボイス制度(以下、制度とします)の開始まで、残り数ヶ月となりました。

制度の影響は大きく、対応しなければならないことも多くなっています。そして、その制度内容は、請求書発行・受領担当者だけ把握していればいい、というわけではありません。

制度は会社の事業に広く影響し、多くの担当者に制度理解を求めることが重要となります。今回は、社内へ制度理解の周知方法や周知の対象者などの例を紹介したいと思います。

制度対応における社内周知まとめ

今回ご紹介する社内への周知内容とその目的、誰に周知すべきか、周知のタイミングを簡単に表にまとめてみました。内容の詳細については後述を参考ください。

制度に関する基本・詳細理解

まずは制度の内容全般の基本理解が必要なことは、本稿を読まれている方は必要性を認識されているものと思います。

その制度全般の理解については、主に2つのレベルが考えられます。いずれのレベルにおいても制度理解の必要性は非常に高いです。

まずは基本理解です。「インボイス制度」という単語は世間に広く知られていますが、その内容を基本だけでも適切に理解している方は多くないかもしれません。

制度は会社環境によって会社の業績に少なからず影響を及ぼし、さらには制度対応のために新規システム投資やシステム改修、社内の様々な担当者を巻き込む運用が必要になることも多いです。

そのため、まずは全社員に基本理解を求めることが大事です。全社員には役員を含めることもポイントです。基本理解をしてもらうことで、全社として投資が必要な場合や業務運用の変更が必要な場合もスムーズに対応できます。

なお、基本理解の周知方法は、あくまで基本であるため、従業員を集めて説明会を開催せずとも、国税など制度概要について多く出回っている内容を発信することで終えている会社も多くあります。

次に詳細理解です。詳細理解の対象は全従業員までは不要ですが、経理担当者などを中心に、制度対応をする直接の部署や担当者、制度対応を指示・管理する担当者は必須です。

会社が制度対応のために実施すべきことを漏れなく把握し、制度対応に必要な事項を会社内で適切に指示するために、会社に影響する制度要求事項を適切かつ網羅的に理解することが必要となります。

当該周知対象者は限られた担当者と想定するため限定的な情報共有などで足りるかもしれませんが、要点のズレない制度理解に留意が必要です。

制度準備段階における周知

制度対応をするために、会社内で様々な準備が必要になります。ここでは、準備する内容に応じた周知を3パターン紹介いたします。

1つ目は、取引先アンケートを実施する場合です。とくに仕入先等が多くいる会社は自社の置かれた環境を把握し、制度が自社に与える影響の程度を図るために、取引先にアンケート等を実施し、取引先の登録番号を確認します。

アンケート等を実施する際、送付する取引先がみな制度内容を適切に理解しているとは限りません。その場合、アンケート等を送付した取引先から内容に関する問い合わせを受けることも想定されます。

アンケート等を実施する目的はいくつかあります。

実施するのであれば担当者は実施する目的や趣旨を理解しておかなければならないですし、状況によってはアンケート等の直接の担当者だけではなく、営業担当者に取引先から質問などの連絡が来る場合もあるかもしれず、アンケート等の対応に携わる可能性のある従業員への制度内容と実施趣旨の周知が必要になります。

2つ目は、取引先からの問い合わせ対応です。1つ目とは逆に取引先等からアンケート等を受領することや、取引先が制度対応をするうえで皆さんの会社の制度対応方針を質問されることもあると思います。

質問される可能性の内容は範囲が広く、制度登録状況や登録予定、発行する請求書のフォーマット確認など実務対応面なども想定されます。

これらに対応するために、自分の会社の方針や状況を整理できており、質問に的確に回答できる担当者を準備しておかなければならず、周知が必要になります。

周知対象者は、1つ目の対応者と同じ場合も考えられます。1つ目のアンケート等を実施しない会社については、2つ目を想定した周知担当者を考えておかなければなりません。

3つ目は、運用方法の見直し担当者への周知です。例えば、制度対応する場合のイレギュラー対応として、請求書を発行せず契約書で制度要件を満たす場合があります。

契約書で要件を満たす対応とは、都度発行する適格請求書に必要な要件を契約書自体に落とし込んでしまうというものです。

大きい会社になればなるほど契約関連業務は総務や法務部が担当しており、そのような場合は一見制度対応に影響がない担当者も巻き込んだ対応が必要です。そのため、同担当者に対しても対応内容に関連した制度周知が必要になります。

上記3つでご紹介した周知はそれぞれ、全従業員が必要とする制度周知ではないため、簡単な情報発信や連絡で周知する方法も想定できます。巻き込む担当者が多くなってくるのであれば、簡単な説明会や協議会などをして周知する方法も考えられます。

制度開始後を想定した周知

最後に紹介するものは、制度開始後の運用を考慮した、全従業員向けの説明会や制度に対応した運用方法のマニュアルによる情報発信、E-Learningによる情報発信など、多くの対象者に周知する関連のものです。

まず、運用方法の周知です。会社の経費や取引先から受領する請求書を精算・処理する場合、制度開始後は経費や請求書の内容が適格請求書の要件を満たすか否かの区別が必要になります。

その要件の判断を実施する担当者は会社の運用方法によって異なり、広い範囲の担当者となることが想定されます。

一般的な会社運用を想定すると、領収書や請求書等を受け取った担当者がまず要件の判断をします。次にその経費等をチェックもしくは承認する上長も、要件の理解が必要です。

そして最終的に経費や請求書の精算・会計処理する経理担当者も、申請された内容を確認できるように申請内容の判断ができなければなりません。このような状況はどの従業員にも起きえる対応であり、制度に対応した運用方法を広く周知させる必要が生じます。

もう1つは、営業への影響周知です。会社が営業を行う際、取引先が適格請求書発行事業者か否かで、取引価額への影響を考慮しなければならない際に向けた制度理解及び対応の周知です。

制度開始後、新規に取引を開始する、または継続取引において価格の見直しをする、といったときに営業担当者が適格請求書発行事業者ではない事業者と交渉する場合、制度による影響額を的確に把握したうえでの交渉も重要となってきます。

もちろん制度開始後の取引価額に関する会社方針があったうえでの交渉等になると想定しますので、その方針を策定する役員を含む担当者も制度及び会社影響の理解が必要です。

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