越境経理 ~経理から組織を変えていく~ 4.自分のキャッチコピーを作って「越境」しやすくする

読了まで約 7

スーパー経理部長…

先日、あるところから講演会の依頼がありました。事前打ち合わせが終わって、粛々と講演会用の資料作成をしていたところ、担当者の方から連絡がありました。

「今になってすみませんが、講演タイトルに『スーパー経理部長』という文言を入れていただけないでしょうか」という依頼でした。もともとのタイトルが仮に「DX化後の経理の展望」というタイトルでしたら、「スーパー経理部長が語る!DX化後の経理の展望」に変えて欲しい、ということです。

「わかりました」とお応えをしたのですが、これまでも同じようなことが何度もありました。私が最初に出版した本のタイトルが『スーパー経理部長が実践する50の習慣』という題名で、それに気づいた講演会の担当者の方は「スーパー経理部長」という言葉をタイトルに入れて欲しいとおっしゃいます。

でも冷静に考えてみると、自分で自分の講演会のタイトルに「スーパー経理部長」を入れるというのは、ある意味滑稽なような気もします。芸人の方がコントで「はい、私が変なおじさんです」と言っているのと同じように、「はい、私がスーパー経理部長です」と言っているのと同じです。

第三者から見ると「こいつちょっとやばい(危ないという意味での)奴だな、と思われないかな」と頭の片隅にはいつも思ってはいます。

しかし実際には、「スーパー経理部長」というタイトルが入ると毎回多くの方に参加していただけるので、「スーパー経理部長」というキャッチコピーは実際にインパクトがあり、集客力もあるのだと思います。

確かに「真面目な経理部長が語る!」「計算能力が高い経理部長が語る!」では、それは当たり前のことですからインパクトもありません。

「スーパー経理部長が語る!」だから、「え?」とか「ニヤリ」、となって「スーパーって何がすごいのだろう」「スーパー?どれどれ、どんなやつか見てやろう」など、理由はさまざまでしょうが、「興味を持ってくれる」のだと思います。

「興味を持ってもらうこと」の重要性

私もそうですし、読者の経理の皆さんもそうでしょうが、経理という仕事は基本的には「裏方」「縁の下の力持ち」の仕事ですから、それに携わる人は「仕事の評価はして欲しいけれど、だからといってそれほど目立ちたくはない」と思う人が多いのではないかと思います。

私もできれば「真面目なフリーランスの経理」として評価され、自分の発信する意見や情報を聞いてもらえるのが理想だと思っています。しかし現実というのは、「目立たないと、そもそも評価自体をしてもらう段階まですら行きつかない」という側面もあります。

私の例で言えば、そもそも講演会に人が集まってくれないと、その講演会の内容が良かったかそうでなかったさえ評価してもらえる段階に行きつかないということです。

会社員の経理の仕事も同じことが言えるかもしれません。せっかくいい仕事をしていても、経理部内では評価してもらえても、経理部外の人達には、まず経理の仕事や経理の人達に興味を持ってもらわないと何をしているのかさえ見てもらえていないこともあるかもしれません。

経営陣や現場の人達に経理部門の仕事や経理社員に興味をもってもらい、その上で、いい仕事をしてくれているという評価を得る、という2段階のステップが必要なのだろうと思います。

そして経理の場合は、「いい仕事をしている」という部分は多くの人はクリアできていると思いますので、「興味を持ってもらう」ことが超えなければいけないハードルなのではないかと思うのです。

評価を受けた時は素直に肯定する

私はなぜ会社員時代の自分が、結果や成果を出したつもりなのに、自分が思い描いていたほどの評価を組織から得られなかったような気がするのかを客観的に考えてみました。

その結果、私の出した結論としては、自分の「成果や実績の過少報告や報告不足」にあったと思います。せっかく周囲から褒めてもらう場面、注目される機会があったのに、

  • どうぞ自分にはお気遣いなく
  • 裏方なのでやって当たり前のことです
  • こんなこと大したことじゃありませんから

と、「裏方だから」「縁の下の力持ちだから」と、反射的に常にこのような言動をしてしまっていた気がします。

これでは経営者から見ても、「そうなんだ。わかった。じゃあ引き続き頑張ってね」で終わってしまうのは当たり前だなと思いました。もっと素直に「そうなんですよ。本当に頑張ったんですよ」「ありがとうございます。査定期待しています!」と言えば評価してもらえたのかもしれません。

その点においては、私自身が「自分からは控えめにしか言えないのだから、『そんなことないでしょう、いい仕事ぶりだったね』と周囲は評価してくれるはずだ」という甘えがあったのだと思います。

その反省から、独立してからは、そのような遠慮はなくすように努力しています。「いい講演会でしたね」と主催者の方に言っていただけたら「いえいえ」と否定するのではなく、「ありがとうございます!また次回お願いします!」と肯定から入るようにしています。

そして、普段から「フリーランスの経理」と自称することで、「フリーランスの経理って何ですか?」と、経理の人にも、経理でない人にも興味を持ってもらうきっかけを作るようにしています。

まず自分のことに興味を持ってもらい、そして経理の仕事や重要さを経理を知らない人にも知ってもらえたら、結果的に経理部門や経理として働いている人達の仕事環境もよりよくなるのではないかと考えて活動しています。

「控えめな人」でも自己開示できる方法

私たちが職場の仲間に興味を持つ時は、一つはその職種から興味を持つ時、もう一つはその人自身に興味がある時の二パターンがあると思います。

そして会社で皆から評価されている人というのは、きっかけはどちらからでもいいのですが、「その人がいてくれないと困るし、その人がしている仕事の内容もとても重要だ」ということが、役員も他部署の人達も認知している状態の人なのだと思います。

経理社員の皆さんであれば、職種からの面で言えば、コロナ禍での資金管理など、ディフェンス面での活躍を褒められたら素直に「ありがとうございます。常に万が一に備えているので今回の対応ができました」と答えれば「やはり経理って大事だな」と役員や他部署の方は認識してくれるはずです。

有事の場合は、このように仕事面から評価される機会も多々ありますが、平時の時は逆にそのような機会は経理は少なくなるので、その時はパーソナリティの部分で役員や他部署の方達から興味を持ってもらえることをしてもいいのかなと思います。

たとえば「簿記1級の営業社員」という人がいたら、経理の皆さんだったら「どんな人だろう」「一度話をしてみたいな」「なぜ営業に」と興味が湧くのではないでしょうか。

同じように、他部署の人達から「ちょっと話しかけてみたいな」と思われるようなキャッチコピーを考えるのもいいと思います。自分ではすぐ思い浮かばないかもしれませんし、気恥ずかしいかもしれませんので、まずは経理部内でお互いにキャッチコピーを付け合ってみるのもいいと思います。

「経理部不動のセンター」「経理部の良心」「サーファー経理」「100メートル11秒台で走る経理」「昭和レトロ好き経理」など、経理の仕事のことだけでなく、特技や趣味、性格など、何でもいいと思います。

「サーファー経理」でしたら、普段はどこの海に行くんですか、と他部署の同じ趣味の人達から話しかけてもらえるでしょうし、「昭和レトロ好き経理」でしたら、普段はなかなか話す機会がお互いにない昭和世代の方達が、嬉々として話しかけてくれることでしょう。

自己紹介や他己紹介などで、そのようなキャッチコピーがあれば、仕事でのやりとりや休憩中などに、話題のきっかけになり、他部署や役員の方達ともコミュニケーションを取りやすくなると思います。そして、それが業務にも良い影響をもたらすと思います。

無理をしない、背伸びをしない範囲で自分を開示する方法を見つけて、経理の外に越境してみてはいかがでしょうか。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。