<図で考えると数字は良くなる> 第12回 「知識+経験+知恵」で経理スキルを啓蒙する

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会社間でデジタル化の格差が広がり続けている

私が本やコラムを書いたり、講演会でお話をさせて頂く際にいつも悩むのは、いくら理想の経理を書いたり話したりしても、実際のリアルな職場で果たしてどれくらい実現できるのかということです。

それは、私があまりにもたくさんの会社のケースを見聞きし過ぎてきているからということもあります。令和の時代になっても信じられないくらい封建的な会社もありますし、事務系の仕事を軽視している会社もあります。

このように書くと、創立何十年の歴史のある会社のことを想像するかもしれませんが、昨日今日出来たベンチャー企業でも、経営者がそのような思想の場合、同様のことが起こっています。一方でクラウドのソフトウェアをどんどん取り入れて、先進的に組織を構築し、経理や会社全体をDX化している会社もあります。

その格差があまりにも大きすぎて、全ての会社に勤める経理社員の人達を同時に満たす内容を書いたり話したりすることは、日増しに難易度が高くなってきていると感じていますし、今後さらにそうなっていくのだろうと思います。

経理社員の提案をどんどん採用してくれる会社の経理社員であれば、デジタル化された後の新しい経理の働き方の話を知りたいでしょうし、反対に、経理からの提案など年に一つも叶えてもらえないような会社であれば、DXの話をしても異次元の世界で、その前にまず、どうすればクラウドのソフトウェアの導入を社長に受け入れてもらえるのか、という知恵を知りたいでしょう。

「経理社員」といっても、勤める会社次第でものすごい格差、落差があるのが現実です。

経理のデジタル化、DX化へ向けての挫折

私の会社員時代は、両方の経験をしました。上場準備会社が多かったので、必要最低限のソフトウェアの準備や組織体制作りは「全て任せるから急いでやって」とお願いされ、自分がやりたいかやりたくないかということではなく、「やり遂げなければならない」という状況でした。

一方で、必要最低限のものを揃えた後の「プラスアルファ」のもの、たとえば、これがあればもっと経理も価値や生産性の上がる仕事ができる、というソフトウェアを見つけ、見積までとって提案しても「今は余分なお金を使えないから」という理由だけで実現できないこともありました。

その時に、私自身は会社員としての自分に限界を感じてしまいました。いくら自分が努力をして結果を出しても、相手が「経理という仕事」に対して敬意がなければ、これ以上自分が何かをやっても、逆に何もやらなくても、相手にとっては「どちらでもいい」のだなということに、当時の私はこれ以上なすすべがないと思ってしまいました。

その後新規事業で海外に赴任し、そのプロジェクトが終わったと同時に帰国、退職をし、「フリーランスの経理」として独立をしました。

独立した当時も周囲からは「フリーランスの経理って何?」「どうやって食べていくんだ、食べていけるわけないだろう」と、会社員が副業をするという概念すらない時代でしたから、今考えれば至極もっともなことを言われました。

自分でも今振り返るとどうしてそんなことをしてしまったのだろう、と思うのですが、きっと当時は、海外に居て日本の閉塞感から抜け出したこともあり、「やる気があればなんとかなる」と思っていたのだと思います。

「一寸の虫にも五分の魂」と言いますか、経理の仕事を通して人間形成をさせてもらった自分が、経理という仕事を上場のための「道具」としてだけ使われ、それが終わったらまた見向きもされないということに一石投じたい、という悔しさもあったのかもしれません。

会社員時代の自分に足りなかったものが見えてきた

それから何とかこうして今も生きながらえているわけですが、独立してから初めて、宇宙空間から地球を見るように、「会社」「経営者」「経理」「現場部門」「組織」というものを客観的に見ることができるようになりました。

    • ・もっとこういう提案の仕方をすれば経営者は「おっ」と振り返ってくれたんだな

 

    • ・もっとこういうコミュニケーションの取り方をすれば、部下とも仲良く仕事ができたんだな

 

    • ・もっとこういう伝え方をすれば経理という自分の誇りに思っている仕事を認識してもらえたんだな

 

    ・当時の自分に誰かそうした「知恵」を教えてくれていたら、自分も独立せずに会社で活躍し続けることができたかもしれないな

このように、客観的に自分の会社員時代を振り返ることができるようになりました。

そして改めて会社員時代を振り返ると、「経理知識」の面においては、自分や同僚、部下も含めて経理知識が業務に支障が出るほど足りていなかったという人はいなかったと思います。

知らない知識があっても、上司や税理士、会計士の先生方に一度教えて頂ければ会得できるのが経理の仕事の良い部分ですので、知識不足、経験不足というのは、日々の作業の中でいずれ合格点になっていくのだと思います。

ただ一つ自分に足りなかったのが「知恵」なのだと思いました。経理社員の方達の中で、もし「自分は思ったように評価されていない」と感じている人は、知識不足でもなく、経験不足でもなく、知恵不足なのだと思います。

他の職種の方達の中には、営業なりマーケティングなりのスキルを、セルフブランディングに活用して自分をアピールするのが得意な人がたくさんいます。

経理の「知識+経験+知恵」が会社の数字を伸ばす

経理社員の方達も、そのようなアピールをこれからの時代は積極的に行っていってもいいと思います。

そのアピール方法は、現場部門の方達のように「前へ前へ」ということでなくても、経理のスキルを使ったアピール、たとえば会社の計数データを抽出して、それを現場社員や経営陣にわかりやすく解説をつけて、定期的に社内に配信するというような方法でもいいと思います。

私のクライアント先の経理社員の方は、先日「なぜ私たちは、給料の3倍売上を稼ぐことを意識しなければいけないのか」というタイトルで、全社会議で現場に役立つ数字の捉え方について講習をされたそうです。それだけでも、現場や経営者と経理が繋がることができます。

近年、ビジネス界隈では「越境」という言葉が流行っていますが、経理も経理内だけに留まらず部署や役職の垣根を越えて「越境」し、自分の持っている経理スキルを「調理」して、現場社員や経営陣に「ふるまう」というコミュニケーション方法をとることで、自分達経理の役割や重要性もより理解してもらいやすくなるのではないかと思います。

経理社員の活躍が、社内を活性化し、計数感覚の整った黒字集団を形成できると信じていますし、私自身もそのお手伝いができるような内容をこれからもお伝えできるよう、努力していきたいと思っています。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。

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