<つぶれない会社の負けない経理戦略> 第7回 売上や利益を極力下げずに済むコスト削減方法を考察、分析、提案する

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コロナから1年経つことで迎える経理の大きな転機

私たちもコロナのある社会と付き合い始めて1年になります。まだ先は見えませんが、一つ転機となるのは、どの会社でも「過去12カ月分」の実績数字が取得できているということです。つまり今後は、どの会社も「前年対比」の分析や対策ができるようになっていくはずです。

そのとき、こうした「素材」を活かせる優秀な経理がいる会社とそうでない会社とで、企業間格差が広がっていくのはむしろこれからではないかと私は思います。

客観的な過去データを正確に集約できる経理体制ができている会社は、過去1年間のデータを分析した上で、今後の資金繰りや売上などを予測し、これから会社はどう行動すべきか、ということを提案できます。

一方で経理体制が手薄の会社は、コロナ禍のオペレーション対応だけで手一杯、月次決算も概算で処理し、かろうじて決算で帳尻を合わせている、ということもあるでしょう。その場合は正確な月次決算の数値にはならないので、今後の前年対比分析も粗いものにならざるを得ません。あるいは分析する余裕もないくらい、今日現在も経理チームが日々のオペレーションを追い付かせるまでがやっと、という会社もあるかもしれません。

他社が過去分析から次の行動にとりかかっている場合、相対的に出遅れてしまい、余計に売上などを同業他社に取られて数字が落ちていくというスパイラルも考えられます。それくらい、経理部というのは有事には重要な部署になります。

「経費節減」の部分は既に企業間で優劣が出始めている

もし同業他社の中に上場企業があり、数字を開示していたら、経理社員の方たちは継続してそれらを見て頂きたいのです。特に費用の部分です。売上に関しては対外的なものですから、コロナ禍に限らずそのすべてを自社内でコントロールすることはできません。しかし費用は違います。原価や販管費などは、自社内でコントロールできる部分です。

コロナの影響が長期的なものになると昨年の早い段階から予測していた会社は、すぐ費用の圧縮に取り組んでいるはずですから、前年対比で主要な発生した費用科目の金額を見比べるだけでも、家賃や人件費、宣伝広告費など、その会社が何を大幅に削減させてコロナ禍を乗り切ろうとしているかがわかるはずです。

一方で「コロナは一時的なものだろう」と予測し、費用削減の対策が出遅れてしまった会社は売上だけが激減して、原価額は売上に比例して下がっていたとしても、販管費などの支出額は前年度と変わらず「そのまま」になっているはずです。

昨年から今年にかけて、多くの業界や会社が売上に関しては前年対比で下がらざるを得ない状況がまだ続くでしょうが、こと「利益」に関しては別です。「どの会社も今期は赤字だからうちの会社も仕方がない」と思っていても、よくよく見てみると、同じ赤字でも、あらゆる費用を削減して赤字額を抑えている会社と、全く費用削減をしておらず売上が減った分そのまま赤字を垂れ流している、という会社があるということが開示資料を見比べて理解できると思います。

それらを踏まえて「では自分の会社はどうあるべきか」そして、「このコロナ禍で経理部として、自分として会社に提案できることは何か」ということを考えることが大切だと思います。

会社としては、売上が下がれば誰もが費用を抑えたいのは当たり前ですが、簡単にはいきません。先日付まで契約が確定してしまっているものは、期日前に解約したら違約金が出てしまうものなど、どちらにしても契約満了日が来るまでは費用が出続ける、という形態のものもあるでしょうし、人件費に関しては、今の人員でオペレーションが手一杯の会社は、そこに削減の手をつけることはできないでしょう。

このような現実的な理由とは別に、経営者が「社員や外注先がかわいそうだから費用を削減できない」「費用を削減するなどというみっともないことは自分にはできない」というマインドセット的な理由で削減に踏み切れないケースも実際にあります。

「経費節減」は、やり方を間違えると売上も社員のモチベーションも同時に失いかねない

費用の削減の仕方に関しては多くの方がご存知だと思いますので、ここでは、削減をする「ポイント」を間違えてしまうと、さらに売上の逓減につながってしまうということについて触れておきたいと思います。

たとえば、「社員が売上を上げるために業務上必要な会社の経費」です。旅費交通費や通信費といった「会社の業務のために」使っている費用を経営側から「さらに削減して」と言われたら、社員の立場としては優秀な人ほどモチベーションが下がってしまいます。仕事量が多い人は、倹約をしていてもこれらの費用はかさんでいくものです。ですから個人別に使用合計金額を単純比較して、一番使用金額が多い人が倹約をしていない、とは限らないのです。

もしタクシーばかり使っている社員がいたら、公共交通機関や自転車を使うなど削減できる方法を考えるよう指導すればいいですが、既にそのように努力をしていても、営業部のエース社員で使用した経費が結果的に社内で一番多くなってしまったような人に、「経費が高すぎるから2割減らす努力をしてください」と言ってしまったら、その人は「わかりました。もう仕事をしません。そうすれば経費も発生しませんので」となってしまいます。

現に「全員経費精算を10%削減するように」という一律的な言い方を経営側からされて、「仕事をする気が失せた」と言っている現場責任者を見たことがあります。費用を削減する際は、時間がない中でも繊細に対応することが大切です。オフィスの光熱費を全員で協力して節電など協力しましょう、というものは一律にアナウンスすればいいですが、旅費交通費や会議費などはケースごとに見ていく必要があると思います。

「プライスレス」な領域と「経費節減」

また、「ブランド」「品質」に関わる費用を削減するリスクについても触れておきたいと思います。たとえば「華やか」、「スマート」なイメージを大切にしている業界などは、その本社所在地がどこなのか、ということも一つの「信頼」になっている場合があります

「あの一等地を借りられるのだから、取引や契約をしても大丈夫だろう」という与信的な目線や、「この業界ではあの地域に本社が置けないようでは一流ではない」、「あの場所にオフィスがあるから就職したい」という理由で優秀な人材が集まるかどうかということもあるかもしれません。特にオフィスなどは一度良い場所を手放してしまうと、またそこに戻れるという保証はどこにもありません。たとえば本社の賃料が高いから移転しよう、という案が出た時に、自分の会社が「どの場所に本社があるのか」というブランドイメージが影響する業界にいるかどうかも考えた上で、結論を出した方が良いと思います。

仮に移転をするにもすべて解約するのではなく、1フロアや一部屋だけは契約を残しておく、という提案なども経理や総務からできると思います。考えが古いと思われる方もいるかもしれませんが、おそらくコロナが完全収束まで至らなくても、共存の道が見えたときに、やはり良い場所、便利な場所のほうが人も仕事も集まりやすいと思いますので、テレワークを併用しつつも、企業間同士でまた良い立地の取り合いになると私は思います。

そして製品のある会社に関しては、品質管理に関わるコストを削減すると一気にリスクが高まります。営業など直接的な売上に関わる部門の費用を削減すると、さらに売上が減ってしまうのではないか、という心理になる経営者の方は多くいます。そのため、売上を持たない部署の経費を削減したがる傾向があります。経理総務といったバックヤードはもちろんのこと、現場の中でも営業や開発よりも品質管理などのような「管理」という名前がつく部門の経費を削減したくなってしまうのです。そこだったら、少しくらいは大丈夫かなと。

そのように品質管理の人件費を削って仮に検品漏れで不良品を出荷してしまった場合、製品の回収、損害賠償、クレーム対応のコストなど、「負」のコストが爆発的に増えます。そして何より「信用」「信頼」を失ってしまいます。そうなると経費節減どころか、会社の存亡の危機に関わることもあります。経費の削減というのは、思っているよりも「奥が深い」のです。

経理ができることは、一見単純に見える経費節減をこのようにケースごとに分解し、「どの部分をどのように削減すれば、将来的に売上にも利益にも影響を極力与えずに済むことができるか」という考察、分析をし、会社や経営者に提案をすることではないかと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(クロスメディア・パブリッシング)



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