外部資金・広告費ゼロで5万社が導入した情報共有ツール『Stock』が非IT企業に特化する理由

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チームの情報を簡単に共有して残せるツール『Stock』を運営する株式会社Stock。このサービスはそのシンプルな操作性から、会計事務所・製造販売業・内装工事会社や病院などの「非IT企業」を中心に利用されています。2018年の正式版リリースから2年半、「外部からの資金調達ゼロ」「広告費ゼロ」で、2020年10月末時点で50,000チーム以上が登録するまでに成長しました。

早い段階での資金調達や広告を打ってユーザーを獲得したりするサービスが多いなか、なぜ『Stock』は右肩上がりで成長を続けられたのでしょうか。

「弊社は私とエンジニア2名で立ち上げました。当時は事業アイデアもありませんでしたが、私たちは当初から『世界中にインパクトを与えるプロダクトを作りたい』という想いが非常に強く、その想いを実現できるサービスを探していました」と語る株式会社Stock代表・澤村さんに、サービス成長の哲学をお聞きしました。

ゼロからの立ち上げ、地道なヒアリングを継続しニーズを獲得

<プロフィール>
澤村 大輔(さわむら だいすけ)
1986年生まれ。早稲田大学法学部卒。2009年、野村総合研究所(NRI)にて、経営コンサルタントとして入社。2014年、株式会社リンクライブ(現:株式会社Stock)を設立し、代表取締役に就任。「世界中のチームから、情報共有のストレスを取り除く」ことをミッションに、チームの情報を最も簡単に残せるツール「Stock」を2018年に正式ローンチする。2020年、ベンチャーキャピタル(VC)等から総額1億円の資金調達を完了。
Twitter:@d_sawawa388

――『Stock』とはどのようなサービスかお教えください。

「チーム情報のストック」と「タスク管理」ができ、チームの情報を最も簡単に残せるツールです。もともと社内用の情報共有ツールとして生まれました。「チャットツールだと情報が流れてしまうがファイル共有だと面倒くさい」という問題があったのですが、既存ツールで解消できるものが見当たらなかったので、自社内で開発したのがきっかけです。

あくまで社内用として作ったものでしたが、使っていて非常に便利だったため、他の企業でもニーズがあるのでは? と、知り合いの会社30社に『Stock』の原型となるプロダクトを見せてみました。ところが「是非利用したい」と言っていただいたのは、ある会計事務所1社のみでした。それでも私たちは、強烈な興味を持ってくださった企業が1社あることを指標に本格的な開発に取り掛かりました。

――なぜたった1社のニーズを指標に開発を進められたのですか?

米国の著名なシードアクセラレータY Combinatorの創設者として知られるポール・グレアム氏の「100人のLikeより1人のLoveを獲得したサービスが、結果として世の中を変える」という言葉を信じたからです。当時はまだ相談できる相手もほとんどいなかったこともあり、とにかく彼のこの言葉だけを信じて『Stock』の立ち上げに着手しました。

――現在『Stock』は、「外部資金ゼロ」「広告費ゼロ」で導入チーム数50,000にまで成長し注目を集めています。1社のニーズからスタートし、どのように成長したのでしょうか?

まずはプロダクトを強固にするべく、やはりポール・グレアム氏の「ユーザーと対話せよ」という言葉に従って、とにかく私が直接トライアル利用してくださるユーザー先に足を運んでヒアリングを実施。そこで得たフィードバックをエンジニアに伝えて反映する作業を、地道に1件1件続けてきました。メールでのフィードバックも受け付けていましたが、より深く温度感を理解するため、できる限り対面で話を聞きながらニーズを吸い上げる行為を重要視していました。

しかしながら、事業として回せるほどのニーズがあるかはなかなか分からず、当初は「果たしてお金を払ってまで利用されるサービスなのだろうか」という葛藤を抱きながら開発を続けていましたね。

――サービスとしての確証を持ったのはどの段階ですか?

2017年にベータ版を出したタイミングです。それまではひたすらユーザーのフィードバックを吸い上げ反映する作業を続けていたのですが、先ほど話したように最初は1社にしか刺さっていなかったですし、知り合い同士で使用してもらうだけではフィードバックの弾切れが起きてしまって。まずはベータ版をリリースして多くのユーザーに使ってもらい、さらにフィードバックを集めようと思い立ちました。

そのベータ版をwebメディアで取り上げていただいたのですが、記事の反響が大きく、記事公開日にサーバーがダウンするほどの問い合わせを受けることに。ここでようやく「このサービスにはニーズがある」と手応えを得られました。

また、ベータ版の反響や積み上げてきたユーザーヒアリングから、当初私たちが抱いていたような情報共有の悩みを非IT企業の多くが抱いていることが見えてきました。そしてその課題を『Stock』で解消できると確信するようになりました。

「誰からも愛されるサービス」よりも、「誰に嫌われるか」を明確に

――『Stock』のサービス運用において、徹底していることは何でしょうか?

私たちのサービスが目指すべきは「世界中の『非 IT 企業』から情報共有のストレスを取り除く」ことです。そのためにも、誰からも浅く広く好かれるサービスにするよりも、あえて「IT に詳しい人達に嫌われるものを作ろう」という発想を持っています。

開発では「65歳の人が説明なしでサービスを理解できるか」「40℃の熱が出ていても0.5秒で分かるか」を判断基準に、直感的なUIを徹底。社内メンバーには「KISS (Keep it simple stupid.)を絶対に忘れるな」とよく言っています。

改善要望・機能要望は1,000以上ありますが、そのすべてに応じて実装を重ねていたら機能が増えすぎ、「ITに詳しくない人でも直感的にサービス」ではなくなってしまいます。だからこそ、要望の多くに対して私たちは誇りを持って“実装しない”選択を取っています。

私たちのサービスを届ける先は「非IT 企業」であるという強い意識は、チームを支える核です。そのため、チームメンバーには入社前の面接でしっかりとビジョンを伝え、意識をすり合わせています。人手もほぼゼロの状態からスタートして現在社員数は10名以上になり、採用も引き続き進めていますが、いま入社する人々は創業メンバーになるわけです。全員が強くこの意識を共有していることが欠かせません。

――なぜそこまで、「非 IT向け」にこだわるのでしょうか?

もともと私自身がそれほどITに詳しい人間ではなかったという点が大きいです。どのくらいのITリテラシーの低さだったかというと、親戚中のおばあちゃんがみんなスマホを買っても、私はまだガラケーを使っていたほど。そんな自分だからこそ、非ITの人達の気持ちや悩みが真骨に染みてよく分かります。

いま、世の中のスタートアップ企業やITツールを作るっているチームはITに詳しい人達が中心です。一方でITリテラシーが高いと、苦手な人達が困っているポイントや難しいと感じる点がなかなかピンとこないのではないでしょうか。だからこそ、非IT企業の課題を彼らの悩みも理解した上で取り除けるのは、私たちしかいないという信念を抱いています。

一人一人のユーザーに向き合い、社会にインパクトを与え続ける

――2020年9月には初となる1億円の資金調達を実施されました。これまで外部資金ゼロでストイックにサービス開発を続けてきたなかで、なぜ資金調達を始めるに至ったのでしょうか?

ありがたいことに『Stock』のユーザー数が増えて『Stock』が非IT企業のインフラとなりつつあり、社会的な責任を感じるようになったためです。

実際に資金調達をしてみると、投資家の方々の目線の高さや、事業・システム双方に関する知見など非常に勉強になっていますし、同時に緊張感や覚悟をさらに伴うようになったので、今では「もう少し早くに調達を実施してもよかったな」とも思っています。

とはいえ、これまで1件1件愚直にユーザーに対してヒアリングをしてブラシュアップしてきたからこそ「非IT企業に受け入れられるサービスだ」という手応えが得られたので、今でもあの期間は無駄じゃなかったと確信を持って言えます。新型コロナウイルス感染症の影響で企業への訪問が難しくなってからも、Zoom等を使ってユーザーへのヒアリングは徹底して続けています。

--外部の視点が入ることにより御社が大切にされている信条やサービスにも変化が起こりそうですが、今後はどのような展望を抱いていますか?

まずはこれまでの信念通りサービスのシンプルさを決して失うことなく、引き続き世界中の『非IT企業』から情報共有のストレスを取り除くことを目指していきます。

『Stock』は今でこそ50,000チームに導入いただいていますが、これまで特別に目標数を設けてきたわけではありません。日々、目の前のユーザーと向き合い、彼らの声を真っ直ぐに受けてサービスに反映していく。成長はその繰り返しの結果で「振り返ったらいつの間にか達成していた」という感覚です。

今回の資金調達も、50,000チームの導入も、まだ私たちにとっては通過点。これからも一人一人のユーザーと向き合って、実直に進んで行きたいですね。

(取材・文:伊藤 七ゑ、編集:東京通信社)

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