<つぶれない会社の負けない経理戦略> 第4回 新規事業計画には、策定時から経理部のメンバーを入れる

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期待の新事業。…のはずが、計画外のコストが発生?

皆さんの会社でも、「ニューノーマルの時代に対応し得る新事業を考えなければならない」と経営陣の方たちは常日頃考えていることでしょう。そして多くの場合、幹部同士や役員会など、いわゆる「上のほう」だけで概要を決めてしまい、経理部などへは「今度からこのような新しい事業を始めることになったからフォローしてあげて」と、「事後報告」となっていることが多いのではないでしょうか。

私は会社員時代から、このことがとても不思議でした。「どうして大事な新規事業なのに、事前に経理に数字の確認や手伝い、意見などの依頼がないのだろう」と。

経理の人たちは薄々認識していることでしょうが、多くの会社の新規事業は、予算実績を実際に集計し始めると、当初の予算に比べて売上は未達。一方で、コストは増大しているのではないでしょうか。新規事業が簡単に成功したら誰でも億万長者になっているでしょうから、売上の未達は仕方がありません。

ただし、問題なのはコストのほうです。売上が未達であればコストもそれほど増えないはずなのに、当初の事業計画より増えていることもよくあります。これは経理の意見や精査が入っておらず、コストの見積が甘かったのだろう、ということが挙げられます。

新規事業の売上や利益が計画に比べて未達になる原因には、経理的なアプローチからみると次のようなものがあります。

  1. 売上の立ち上がりそのものが遅れる
  2. 原価率が予算より高くなる
  3. 販管費が予算よりかかる
  4. 予算計画に記載していなかった費用が発生している

1.売上の立ち上がりそのものが遅れる

これは経営者の意見が強く、無理なスケジュールを強行してしまうケース、または現場担当者が非常に楽観的な場合によく起こります。たとえば店舗経営などをする際に、工期を「すべてうまくいったとして」というスケジュールで予算計画を立ててしまい、実際には工期がアクシデントやトラブルで仮に2か月遅れた場合に、それに伴い、当初の2か月分の売上実績が丸々0円になってしまうというようなことです。その影響で初年度の利益計画も大きく狂い、事業が始まる時点で既にその年度での黒字化はほぼ不可能、ということもあります。

経理が介入していれば、「どのような事業も、アクシデントによる立ち上がり時期の遅延の可能性がありますから、万が一、立ち上がりが1、2か月遅延した場合でも予算の数字を達成できるように、立ち上がり3か月くらいは実際の予想値よりも7掛けか5掛けくらいの売上想定にしておきませんか」というようなアイデアが出せます。

このような発想や意見一つで、多少のアクシデントがあっても、年度末では予算とそん色ない範囲内での売上実績におさめることが実際に可能になります。

2.原価率が予算より高くなる

これは経営者の方が、「原価率もっと抑えられるはずでしょう」と、強く他の役員や社員に進言し過ぎて、実態に伴わない原価率を予算で設定、そして決定してしまう会社に多い特徴です。これをしてしまうと、ほぼ毎月、利益が予算未達となってしまい、営業会議、役員会議、全体会議などで「なぜ原価率がこんなに高いのだ」という話を延々議論することになり、職場の雰囲気も悪くなります。

1と2に関しては、経営陣と現場だけで議論をしてしまうと、現実的、具体的な理由を無視して「気合が足りない」などといった根性論になってしまうことがあります。バックヤードのメンバーが事業計画の策定時に参加していれば、「1年で1日もトラブルがない日など現実的にあるでしょうか?」と、ある程度、現実的かつ具体的な売上の機会損失やアクシデントによるコスト増の可能性も考えた原価率の策定、進言をすることができます。

3.販管費が予算よりかかる

優秀な現場社員の方であれば、1と2に関してはクリアできる可能性は十分にあります。しかし販管費に関しては別です。現場の方たちは会社の販管費についてレクチャーを受ける機会や実際の数字を見せてもらう機会なども少ないでしょうから、販管費について詳しくないのは当たり前のことなのです。

そのため、現場の売上や原価には精通していて粗利レベルまでは予算実績が管理できていても、「入退社が多く、求人してもなかなか適任者がおらず、採用コストが想定以上にかかってしまった」「お金の回収オペレーションが複雑・煩雑で、思っていたより作業に手間がかかり管理コストが増えた」といった販管費的な要素のコストに関しては、いくら優秀な現場の方でもバックヤードの社員の協力なしに想定することは難しいです。

事業計画やワークフローのチャート図などを事前に経理や総務などのバックヤード部門が見れば「このオペレーションだと、こういった費用も追加でかかる可能性がありますよ」ということを現場担当者に進言し、予算のコストに事前に加味することができます。

4.予算計画に記載していなかった費用が発生している

たとえば「クレーム処理や損害賠償、ネットでの中傷対策など、今の時代はそういったことに対応する費用もある程度発生する」と考え、万が一そうした事案が発生し、対応に費用がかかってもなお利益が残るというイメージで、事業というのは考えなければいけません。

それがリスクヘッジの基本だと私は思うのですが、とくに安全な組織で守られて働いてきた人の中には「そんなことあるがわけないがないから、そのための予算など設定しなくても大丈夫」と言って耳を貸さない人がいます。1%の発生確率でも、真剣にその可能性と対策を真摯に考えられるかどうかが、リスクヘッジのセンスがあるかないかの境界線だと私は思います。

誰でも考えられるリスクというのはリスクではありません。単なる課題です。本当の意味でのリスクというのは、ほとんどの人が真剣に考えても「そんなことあるわけないでしょう」という「万が一」の事案のことを指しています。

「万が一なんてあるわけがないから対応しなくていい」と考えていた人の多くは、今現在危機に直面しているかもしれません。ただ、今「万が一の大切さ」に気付いても、周囲はもう助けようがない状態のことが多いのです。だから「事前に」対策が必要なのです。

「万が一」が発生しなかった時に、「だから万が一なんてないと言ったでしょう」ではなく「今年は、万が一がなくてラッキーだったね」、という発想で常にいられる人が、ビジネスには必要です。それに一番適しているのは、数字に精通している経理担当者なのではないかと思います。企業の危機というのは、お金や数字に換算されるからです。

リスクを事前に換算し、どれだけ「想定内」に収められるかが経理の腕の見せどころ

これら1から4の一つひとつは、どれも発生確率やそれによる影響額は軽微なように見えるかもしれません。しかし1から4まですべてまとめてみたらわかるように、この中のどれかひとつ以上起こる確率というのは、何も起こらない確率よりも圧倒的に高いのではないでしょうか。

1年のうち、何のトラブルもアクシデントもない、などということは、現実的にあり得ないのです。リスクの洗い出しというのは、こうしたことを「可視化」させるために、非常に有効です。

「想定外」と思われるトラブルやアクシデントをどれだけ会計上は「想定内」に収めることができるか。これが企業にとって重要であり、プロの経理はそれができます。新規事業の策定時からバックヤードのメンバー、特に経理部も参画することで、リスクの発生頻度と予算実績との差異を大幅に減らすことができるのです。

<つぶれない会社の負けない経理戦略>
第1回「売上が突然0円になったら」を想像する
第2回「粗利50%以上」の意識を社内に浸透させる
第3回 自分達の会社の良さや強みを徹底的に見直す

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(クロスメディア・パブリッシング)



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