「現在の経営陣では不十分」。ユーグレナ社が「18歳以下のCFO」を募集した理由

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ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を活用した食品や化粧品の開発・販売で知られる株式会社ユーグレナ。「人と地球を健康にする」を経営理念に、社会課題解決型ビジネスに積極的に取り組んでいます。

そんなユーグレナ社が2019年8月に掲載した新聞広告が話題になったのをご存知でしょうか。その内容は「18歳以下のCFO」を募集する求人広告。CFOといっても、「Finance」ではなく「Chief Future Officer(最高未来責任者)」。未来を担う役職です。

前代未聞の肩書「CFO」とはどのような役割なのか? ユーグレナ社のCOOであり、CFO(Chief Financial Officer(最高財務責任者))でもある永田暁彦さんに募集の意図や背景をお聞きしました。

地球のために、未来を生きる当事者を募る

<プロフィール>永田 暁彦(ながた あきひこ)
株式会社ユーグレナ 取締役副社長。慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベート・エクイティファンドを経て、2008年にユーグレナ社の取締役に就任。事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。現在は食品から燃料、研究開発など全ての事業執行を務めるとともに、技術系VC「リアルテックファンド」の代表も担う。
Twitter:@NagataAkihiko

――今回募集したCFO(Chief Future Officer)とは、どのような役職ですか?

当社のSDGs(持続可能な開発目標)に関するアクションに取り組んでもらうほか、SDGs達成目標に携わるサミットの運営、イベントでのプレゼンテーションなど「最高未来責任者」として多岐にわたり活動してもらおうと考えています。

任期は2020年の9月30日までの一年間で、報酬も支払います。応募条件は2020年3月31日の時点で18歳以下であること。国籍は問いません。エントリーにあたっては、SDGsについての作文を提出する課題を設けました。

また同時に、サミットメンバー10名も募集しました。募集要項はCFOと同じです。当社のSDGsに関するアクションおよび達成目標の策定に携わるメンバーとして、CFOが議長を務めるサミットに参加して意見を出し合ってもらいます。「未来の大人」の視点から経営に活かせる意見が挙がれば、どんどん取り入れていきます。

――CFOを募集した経緯を教えてください。

スタートは、小学生をインタビューした動画「未来の大人たちに聞いてみた。」を制作したことです。

動画制作の発端になったのは、国連気候行動サミットの演説でも話題になった、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんです。

彼女はスウェーデンの一高校生ながら、「学校ストライキ」という手段を取って、地球温暖化のためのアクションを起こすよう社会に訴えかけています。活動の広がりは、彼女が世界中の児童・生徒に呼びかけた9月20日の「学校ストライキ」をニューヨーク市教育局が容認したほど。グレタさんの呼びかけは今や世界中に広がっているんです。

ところが、日本人の多くは遠い海外のニュースとしか捉えていません。「欧米だからでしょ? 日本では無理だよ」なんて冷めた反応も聞こえてきます。けれど、そんなことはないんですよ。日本にだってグレタさんのような子どもたちがいます。それを証明するために、インタビュー動画「未来の大人たちに聞いてみた。」を制作しました。

――動画では、小学生たちが地球温暖化の進む未来への不安や、行動を起こさない大人たちへの失望を吐露していましたね。

正直なところ、僕の想像を超えていました。大人では考えも及ばない言葉がたくさん飛び出してくる。中でも印象的だったのは、「私たちに人生をください」という発言。これには言葉が詰まりました。

大人たちは、子どもというだけで「幼い」「未熟」「能力がない」と決めつけてしまいがちですが、そんなことはありません。子どもたちは大人と違って、「未来」を見据えているんだと気づきました。

当社は今まで、地球の未来を考えてミドリムシを活用した事業に取り組んできました。しかし、振り返ってみると、そこに未来を生きる当事者である子どもたちが直接関わっていないと気がついたんです。だから、戒めを込めて募集広告に「現在の経営陣では『不十分』と示し、未来を一緒に考えてくれる仲間を募りました。

――なぜ「18歳以下」にしたのですか?

子どもたちに、政治やビジネスの世界で活躍の場を作りたかったんです。18歳以上であれば、大学生であっても社会人であっても、企業の社長になれるチャンスがありますよね。しかし18歳以下は、選挙権が与えられていないように、社会的に大人として認められておらず、チャンスを手にする機会すらありません。

すべての子どもを大人と同等に扱うことは難しいかもしれませんが、100人、1000人に一人はしっかり自分の意見を持っている子がいると思います。でも、10代の頃って学校だけが“世界”ですから、そこに馴染めないと生きていくことがとてもしんどくなる。社会を変えたいと思っている子たちも、スマホゲームに没頭している同級生の中では浮いてしまうかもしれません。

そこで、今回のCFO募集を通して、「社会を変えたい」と思っている子が声を挙げて活躍できる機会があるよと伝えたい。少しでも多様性に子どもたちの関心が向くと嬉しいですね。

予想を超える500件以上の応募

――CFO募集にあたり新聞の朝刊広告を打たれました。新聞広告を選んだ理由は?

小学生新聞のような子ども向けのメディアも考えたのですが、大人に向けたメッセージでもあったので、あえて一般紙の朝刊に広告を掲載しました。広告掲載はお盆前に合わせて8月9日。お盆で家族と集まったときに、新聞を読んだ親が子どもへ応募を勧めるという流れを想定し、大人も子どもも話題に巻き込もうと考えたんです。

TwitterやFacebookなどSNSでも告知宣伝しましたが、やはり新聞広告がきっかけでSNSやwebメディアでも話題が大きくなりました。

――応募はどの程度あったのでしょうか?

500件以上ありました。最初は200件くらいだったのですが、締め切り数日前にドカッと300件の応募が届いたんです。みなさん、ギリギリまで熟考していたのでしょう。応募者は10代半ばから18歳が多く、学生起業家やNPOを立ち上げている方もいます。

――当初から500件もの応募があると予想していましたか?

まさか、これほどとは思っていませんでした。提出課題の作文も、どれも内容がしっかりしていました。当社が解決に取り組んでいる世界の食料問題、エネルギー問題をテーマにした作文もあれば、別の分野を取り上げた作文もあります。

SDGsの17の目標のうち「質の高い教育をみんなに」「安全な水とトイレを世界中に」を挙げている人が比較的多かったです。この2つは、子どもたちにとって、より身近な話題ですよね。みなさん、本当に自分の興味のあることについて書いている印象でした。

――最終面接では永田さんが面接官を務めますが、何を重視しますか?

思想は大事ですよね。どんな思いがあるのか、何がしたいのか。表層だけでなく、本音をじっくり伺いたいです。

一次面接の担当者に子どもたちの印象を聞いてみると、「中身はまったく大人に引けを取らない。ついていきたくなるような求心力があった」と言っていました。

――CFOが決定したら、どんなサポートをしたいですか?

普通は体験できないようことを体験させてあげたいです。例えば、国際的な会議に出席しプレゼンするとか。今年の6月に、福岡で開催されたG20サミット関連会合では、片山さつき前地方創生担当相と当社代表の出雲充が同席しましたが、そこにCFOが加わるイメージです。想像するだけでワクワクします。

この先、社会インパクトを起こす企業が支持される

――今回の募集にあたって周囲からはどういった反響がありましたか?

うちの社員は、CFOについて全面的に肯定していますね。「ユーグレナでよかった」という声も挙がっています。

他のベンチャー企業では「先を越された!」と悔しがっていた友人がいたり、大企業からも今後の取り組みについて問い合わせがあったりしました。

これらの反応も狙いどおり。先に述べたように、CFO募集は大人たちへのメッセージでもあるからです。社会を変えようと頑張っている若者はたくさんいるのに、企業が手を差し伸べるケースはごくわずか。未来のことには目もくれず、目先の利益を追ってしまっていがちです。自分のことばかり考えている大人たちの考えに、問題提起したかったんです。

――募集広告の「現在の経営陣では『不十分』」というコピーにハっとした経営者も多かったはずです。

僕は36歳、社長の出雲は39歳。一部上場企業の中では若いほうでしょう。しかし、本気で未来のことを考えるなら、まだまだ「不十分」なんです。

アメリカのベントレー大学の研究によると、2025年には世界の労働人口の75%が35歳以下の「ミレニアル世代」になると言われています。そういった状況で企業が生き残るにはどうすればいいのか。答えは簡単です。年長者が権限を持つような組織構造をやめて、優秀な若手に愛される企業を目指せばいいんです。

――今回のCFO募集は、すぐには利益につながらない事業だと思います。それでも“未来へ投資”する意義について教えてください。

現在、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業への投資)のプレイヤーは、30代が主力です。20年後、彼らが業界のメインプレイヤーになる頃には、当社のような企業が支持されるようになっているのではないでしょうか。それを見据えての取り組みでもあります。

僕個人としては、社会インパクトを起こしたい。その1つが今回のCFO募集だった。特に“未来への投資”と意識しているわけではなくて、マーケティングで物を買わされる社会を変えたいんですよね。

だから、売上と社会インパクトが相関している当社は、企業の理想形です。うちのバイオ燃料の使用量が増えると、それだけCO2排出量が減る。商品が売れれば、我々が行っているバングラデシュで子どもたちにユーグレナ入りクッキーを配布する量が増える。そこへCFOが加われば、当然ながら事業にも変化が起こり、それがさらなる社会インパクトを呼び起こすでしょう。

我々のような一部上場企業が、そういった意思を貫き通すことが大切。たとえ、株式時価総額が1兆円になっても、そのスタイルはゆるぎません。

(取材・文:名嘉山直哉、編集:東京通信社)

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