生産性が高いことが通常モード!社内交渉をスムーズに進めるヒント【田村夕美子さん寄稿】

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直接的に利益を生み出す部門ではないからこそ、業務効率化のアイデアや会社全体の生産性向上のための動きなども求められることが多い経理部門。しかしながら、「生産性向上」とは一朝一夕にできるものではないことも事実です。日々業務に追われる経理スタッフが、どうすれば会社の生産性向上に貢献できるのか?そのヒントについて、経理環境改善コンサルタントの田村夕美子さんに教えてもらいます!

〜企業M経理チームの定例会議の様子〜

「今期は増収増益が見込めるでしょう。ここにいる経理チームが営業や製造ラインの事務処理ヘルプや通信費用の見直しをするなど、直接部門の支援や固定費用削減に当たったことも功を奏しています。又、これから新規事業の開設準備も控えていますので、よろしくお願いいたします」

チームリーダーの張りのある声がミーティングルームに響きます。リーダーのプレゼンを聴きながら、一人のスタッフが拍手をすると皆が同調し、パチパチと心地よいリズムが経理チームを包みました。そんな時です。スタッフのAさんがリーダーに質問を投げかけました。

「新規事業の企画室の開設時期はいつ位ですか?我々も準備を進める必要があります。先行費用や設備投資の案件もあるでしょうから」
真剣な表情で話すAさんに他のスタッフも頷き、口々に発言します。
「新規の企画室は、確かアグリ事業のノウハウ輸出が主なので海外出張もありますよね?これから外貨での経費精算などの発生もあるでしょうし…」

「そうね、これを機に我々経理チームも、経費精算フローの改訂や企画室をどのような面で支援するか、検討しないと!」

経理チーム各人で次のミッションの模索を始めています。来月の定例会議では、どこまで進展しているのでしょう。着実な歩みは見られるはずです。

受身はNG。各人が能動的にあたることが生産性アップのカギ

冒頭のシーンは企業Mの経理チームで繰り広げた定例会議の場面です。近年では生産性向上が重視されていますが、定例会議のスタイルも例外ではないはずです。チームメンバーらが単にリーダーのプレゼンに耳を傾けて指示を受けたり、求められた進捗状況を報告したりといった受身スタイルではなく、M企業内の経理チームのように、スタッフら個々が能動的に会議の場で次の課題を取り上げて、ミッションが何かを話し合い、実行に繋げていくようにすれば、チーム全体の仕事の生産性向上が期待出来るでしょう。

各人が能動的に仕事に当たるスタンスで臨めば、日々の定型業務の中でも各人に課題感が生まれやすくなります。こうした中で、生産性をあげるために、システム導入や業務フローの改革などある程度の資金が必要で、組織全体にも影響が及ぶようなハードルが高い起案をしたいスタッフが現れ、バックアップ体制が必要になることもあるでしょう。

冒頭の例のM企業では、アグリ事業の新企画室の開設が予定されているようです。新事業の企画室が加われば、予算策定や設備投資案件のチェックの他、先行費用の精算業務など、経理チームの出番がこれまで以上に多く現れるでしょう。その中で、定型業務の位置である経費精算業務に焦点を当て、専用システムの導入が実現すれば、新企画室分のみならず、既存部門の経費精算業務が軽減され、経理チームとしても有益な仕事に集中して取り組むことも可能です。

さて、システム導入までの道。どのようにすれば、上司に対して良好に交渉を進めることが出来るのでしょうか。次に実際の方法について述べていきます。

有効な交渉を図るには、上司よりも経営改善に焦点を絞る

交渉の相手は直属の上司であることが一般的でしょうが、上司も人間。完璧ではあり得ません。筆者も経理スタッフ時代は、様々なタイプの上司と接してきましたが、中にはマネジメント能力が疑われるような人の存在もありました。つまりは、上司としての資質が備わっていないために自社にとって有益になる企画であっても、適切な判断が出来ずに没になり得ることも、ご想像のところではないでしょうか。よって、上司のタイプによって交渉術を検討するよりも、シンプルに“自社を良くする”ことを念頭に置いて進めることの方が生産性アップに寄与するはずです。以下に3つのポイントを挙げてみました。

POINT 1 リアリティのある導入企画書を示す。

“システムの導入案”として企画書にすることで、話ベタさんでも、進めやすくなるでしょう。もしも、日々の業務で多忙なのであれば、スキマ時間に感じた点を都度メモしながら、徐々にまとめる方法で充分です。たとえば、特定の部門の精算書に予算科目などの誤りが多かった、提出期限が守られなかった等々の問題点に加えて、誤りが随所にある精算書の現物コピーを資料として添付すれば、言葉よりも導入理由が伝わりやすくなるはずです。

又、これらに関わっていた時間帯人件費を算出して、導入後に予測される人件費回収時期も示せば、説得力が増します。話ベタの方でも、視覚的に表すことで上司を説得できる有効な方法ではないでしょうか。

POINT 2 システムの仕様や具体的なフロー、金額を表す。

“POINT1”で触れた企画書を元にリアルに伝えれば、相手方は、ある程度の現状を把握しているため、ここで具体的なシステムの仕様や導入フローなどをプレゼンしても戸惑うこともないでしょう。導入を現実化するため、単にメーカー側から受けたパンフレットを添付するに留まらず、自社の現状に即した導入フローなども添えることで、イメージしやすくなります。既製のもののみならず、自ら揃えた資料を用意することで、プレゼンする側の強い熱意が伝わる点にも期待できます。

POINT 3 最終ステージでは、自社全体で貢献できることを伝える。

いよいよ最終ステージです。ここでは経営目線を持って導入後のメリットを十分に表します。冒頭の経理チームの例であれば、アグリ事業の新企画室が開設されるということなので、これらに関することも盛り込むと良いでしょう。
たとえば、導入後はシステム内のデータを精査して、新企画室の先行費用の種類を見やすく整理して企画室社員に情報発信したり、既存の部門についてもコストの発生傾向と対応する収益等を分析したり、自社全体に対して貢献できる可能性を十分にプレゼンしましょう。

経験を通して、自社で有効な交渉術が見えてくる

以上のPOINT3点を念頭に交渉に臨めば、どんなタイプの上司であっても、よほどのNG人物ではない限り、何かしらの反応はあるはずです。理由は言わずもがな、導入後は経理担当者の業務のみならず、新企画室も含めた自社全体の生産性アップに繋がるメリットが諸々あるからです。これらは、経営者に近い上司にとっても、メリットであることが一般的でしょう。

たとえ、導入が却下されてもただ諦めてはNG。必ず理由を聞きましょう。そこから聞こえてくる声で、上司の意向、資質、価値観が丸わかりになるのです。そこからの情報を元に他の手段で再チャレンジを図ったり、あるいは、別の方向での生産性アップ策を講じたりといったことにも繫がるかもしれません。

こうした経理担当者の交渉術について、筆者はセミナーやコンサルタント活動の中でお話しすることも多いのですが、受講生は十人十色の方法で、見せ方を工夫し、実践しています。ぜひ、あなたならではの方法を見出し、ステップを踏んではいかがでしょうか。

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