中川淳一郎に聞く、税務調査で「バカでキレる社長」を演じたワケ【法人編】

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「これ信じてもらえないわと思った」――前回の記事で、国税局の税務調査を受け、恐怖感を味わったと話したネットニュース編集者の中川淳一郎さん。

今回は、中川さんが設立した「株式会社ケロジャパン」に税務調査が入った際のエピソードを聞きました。そのとき、顧問税理士に「バカでキレる社長を演じろ」と助言された中川さん。その狙いと、中川さんと税理士が繰り広げた茶番劇とは――。

今度も売上が激増した年に税務調査


※愛用している「KIRIMIちゃん.」の筆箱

【プロフィール】中川 淳一郎(なかがわ じゅんいちろう) @unkotaberuno
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

 

――今回は税務署の税務調査について教えてください。

今度は、俺が会社を設立して3年目の2013年でした。まだフリーランスだった2009年に年商5,700万円になったんだけど、会社経営をしている友人から法人にした方が税金の面でいいと言われたんですよ。それで翌2010年に「株式会社ケロジャパン」を設立した。

俺が社長で、社員は一橋大学で同級生だったY嬢だけです。Y嬢には経理回りを全部任せていて、俺は一切経営に携わってない。こんな感じで2010年からずっと2人でやってます。

税務調査が入った2013年はネットニュースのほかにも広告代理業をやっていた年で、売上が増えたんですよ。法人化してからはちょっと売上額は言えませんが、Y嬢が優秀だったこともあり売上は激増しました。

国税局の調査のときと同じく、前年より収入が激増したから税務調査が入ったんだと思います

<中川さんの収入推移>
2009年:フリーで年商5,700万円。
2010年:株式会社ケロジャパン設立。社員は一橋大学同級生のY嬢のみ。以後売上が増加。
2013年をピークに、その後は下降した後に安定する。

税務調査で「バカでキレる社長」を演じたワケ

――前回は抜き打ちでしたけど、今回はどうでしたか?

今回は抜き打ちじゃなかった。税務調査が入る2週間ぐらい前に、顧問税理士のところに税務署から連絡が入ったんです。それで税理士からY嬢に連絡があり、普段Y嬢が働いている「ケロジャパン第二オフィス」に税務署が来る日が決まったんです。我が社はリモートワークも推進しておるのです。

――今回は事前連絡があったんですね。2週間でなにか準備をしたんですか?

それまでに準備しなきゃいけない書類は税理士が全部揃えてくれました。そして「こういうことを聞かれるから答えるようにしといてください」と助言もくれたんです。Y嬢も取引先との契約書などを全部プリントアウトして用意するわけですよ。事前準備はY嬢と税理士がしっかりやってくれたんですよ。

じゃあ、社長の俺がなにをするかっていう話なんですけど、税理士とY嬢が全部対応するから俺は調査に立ち合うだけでいいと言うんです。

ここからコントみたいになるんだけど、その日は税務調査が13時から18時頃までかかる予定だったんですよ。税理士とY嬢は最初から最後まで立ち合うけど、税理士には俺は14時に来たらいいと言われたんです。しかも、「バカでキレる社長」になりきって登場してくれと言うんです(笑)。

――なんでそんな演技を?(笑) 税理士の狙いはなんだったんでしょう?

税理士としては、巨悪をやっているようには到底見えない小さな会社に税務調査が入るのには、なにか狙いがあると考えたようです。

俺たちは一切不正をしていないし、毎年大金を納税している。それなのに追徴課税を狙って粗探しをしにきたんじゃないかと。本当に疑わしき企業にメスを入れるべきなのに、なぜ大した売上もなく2人しかいない零細企業に税務職員2人がやってくるのか。うちみたいな健全な企業に、公務員2人が膨大な時間を割いて調査する方がよっぽど税金の無駄遣いです。

それで税理士は理不尽に感じたわけです。会社の財務状況が良いというだけで、こんなふうに疑われて、税務署がやってくるのはおかしいと。それで、我々が感じた理不尽さや不快感を、俺が「キレる」という態度で示そうとしたんです。

<税務調査当日までの準備>
・顧問税理士が必要書類を用意
・必要書類以外にも、取引先との契約書や記事などの制作物も用意

顧問税理士らと繰り広げた茶番劇


※税務調査当日の様子を再現

――それで、税務調査の開始1時間後に不機嫌な中川さんが登場することになった(笑)。

ここからは「劇団ケロジャパン」の始まりですよ(笑)。

その日は、一番ボロボロの T シャツを着て、汚い短パンを履いて、「これが社長?」と目を疑うような身なりで行きました。

まず「なんだよ、クソ忙しいのによ~!?」と言いながら登場したんです。そしたら税理士が「中川社長、これは大事な調査でして……お忙しいのにお時間作っていただき申し訳ございません」と頭を下げるんです。

俺はY嬢にもこう畳み掛けるんです。

中川「お前、なんでこんなバカなことで俺を呼ぶんだよ。社員だったらお前一人で片付けろこのボケ!」
Y嬢「すみません、どうしても責任者がいないと、ということでして……」
中川「酒はねーのかよ!?」
Y嬢「今日は大事な話なのでありません」

これ、完全な茶番でしょ?(笑)

――場が凍り付きそうです(笑)。

税務職員にも「税務署のエリート様がよぉ、なんでうちみたいな会社に調査に来るんだよ?」とまくし立てるんですよ。

中川「なんで俺のところなの?」
職員「いや、ランダムです」
中川「俺のところからなら取りやすそうと思って、狙ってきてんだろ?」
職員「いや、ランダムです」
中川「じゃあ年収150万円のフリーランスにも税務調査してるの?」

そしたら税務職員2人は黙りました。こんな風に、俺は「バカでキレる社長」を演じました。

――それからどうしたんですか?

そこからは職員の質問に丁寧に答えていきましたよ。でも、ここで面白いことが起こって、14時から15時までの間に3件電話がかかってきたんですよ。

1時間に3件も電話がかかってくると、職員も「中川社長は多忙そうだ」と思うわけです。しかも3件目の電話は急ぎの仕事の話だったんです。

「すみません、すみません! 今はちょっと手が離せないんですが……終わり次第にすぐ原稿を修正します! 誠に申し訳ございません!」と言って電話を切ると、税理士が「社長、先ほどの最後の電話、対応しないとまずくないですか……?」と言ってくれたんですよ。

それで、俺は居直って「今日、税務調査に入られたことに正直腹が立っていたんです。仕事もあるのでもういいですか?」と丁寧に話して抜けました。あとはY嬢と税理士が全部対応してくれて、疑いも晴れました。

――2回目の税務調査は、精神的負担はどうでしたか?

前回話した初めての税務調査のときは本当に怖かったけど、2度目の税務調査は、俺の税理士が本当に優秀だったから不安もストレスもありませんでした。

ただ、やっぱり国税庁のことは「儲かっているところから、取れるところから取ろう」という魂胆なんじゃないかと感じてしまうわけです。全く不正していない立場からすると、そういった組織の姿勢に振り回されて、不安を搔き立てられるのはたまりませんからね。

――ありがとうございました。税務調査は夏から秋にかけて活発になるとも言われています。フリーランスの方も経営者の方も、今回の話をぜひ参考にしてみてください。

<税務調査に備えて日頃からできること>
・正しく帳簿をつけること。帳簿内容の正しさを証明する記録も合わせて残しておくこと
・信頼できる税理士のサポートを受けること

(執筆:久住梨子)

中川さんが初めて税務調査を受けた話はこちらから

■2018年11月14日掲載:
「これ信じてもらえないわ」 中川淳一郎が語る、本当に怖かった税務調査【フリーランス編】

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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