新しい経理の仕事の骨格 ③職場の計数感覚を育てる

経理の仕事の骨角3

RPAやクラウド、AIなどさまざまなテクノロジーが台頭する昨今、これからの経理の仕事はどうなっていくか。一部では経理の仕事が「なくなる」「奪われる」などといわれるが、実際には経理が本来の仕事をできるようになる、とフリーランスの経理として活躍されている前田康二郎さんは言います。本連載では、前田さんと共に「経理の仕事の骨格」を見つめ直していきたいと思います。

経営者に「経理」をもっと評価してもらうには?

先日、マネーフォワード様のイベントで登壇させていただいたのですが、その後の懇親会で、多くの経理社員の方とお話をさせて頂きました。その中で最も多かった質問が、「どうしたら経理はもっと評価してもらえるのでしょうか」ということでした。

これには2つの意味があると私は思いました。1つは、「経営者が経理という職種の存在そのものにどうしたらより関心を持ってくれるだろうか」ということ、そしてもう一つは、「経営者が経理社員の仕事ぶりにどうしたら関心を持ってもらえるだろうか」ということです。

そこで私はその場で少し考えて、次のような提案をさせて頂きました。

「経営者がまず興味があるのはやはり現場社員ですので、経理が彼ら現場社員の計数感覚を養い、成長した姿を経営者に見せて差し上げれば、経理の重要性がわかり、経理社員の評価も上がるのではないでしょうか」。

そうすれば、経営者も、経理処理がAIなどで簡素化されたとしても、会社に経理という職種が存在する意義や必要性も目に見えてわかりますし、経理社員に対する評価にもおのずと目を向けてくれるはずです。

経営者が「関心のあるもの、こと」は何か、ということを探り、それを良い方向に変化させる、ということが仕事ぶりを気づいてもらえるポイントです。

では、具体的に「現場社員の計数感覚を養う」とはどういうことでしょうか。

見積もりを作る現場社員の計数感覚

私はフリーランスの経理として、いろいろな会社の中に実際に入って仕事をさせていただいます。その中に居てわかったことは、成長している会社というのは、社員も業績に比例してものすごい勢いで成長しているということです。

特に成長している会社というのは、仮にピラミッド型組織であっても、上司自身も実務で忙しいので、おおよその現場対応や実務処理なども、社員が個々人である程度まわせないと、会社の受注案件に対応しきれない、という現実があります。そのような会社では上司はあくまで最終承認、最終決裁だけする、という形です。数字に関する書類も同様です。

このような会社の場合、若手社員であったり、中途入社でその業種が未経験の社員であっても、着任早々、見積書を自分一人で作らなければいけない、というシチュエーションも発生してきます。

そのようなときに、たとえば実費が5万円かかるものなのに、受注先にも5万円で見積明細を作ってしまっている人や、どう考えても実費が5万円かかる予定なのに、見積り方が甘く、あるいは勘違いして4万円と書いてしまったり、というような計数感覚が混乱している社員が散見されることがあります。

そのような人がいる職場では、経理部で月次決算を締め、今日は定時で帰ろう、と思っていると現場の部長さんがやってきて、「ごめん、部下が滅茶苦茶な見積を出しているのに気付いて、その金額で請求書出してしまっているから、これからクライアントと再交渉するので売上確定するの待って」というようなことが実際に起こります。

現場の上司は、部下に見積書の作り方を教えているのですが、現場の社員は数字の見方、作り方に関して数字のプロではないので、上司の説明がよくわからなくても、なんとなく「わかった感じ」で済ませてしまうという人が中にはいます。「わかりません」と言うのが恥ずかしくて、そのままわかったふりをして聞いている、ということがあるのです。そのため、いきなり実際に誰の助けもなく計数的な書類を作成しなければならないときに焦る、ということが起きるのですが、現場の上司も、そこまでケアすることは実際には時間的になかなか難しいのです。

そこで、経理社員の登場というわけです。

 

数字のプロである経理が教えられること

経理の仕事

たとえば、現場の上司が「見積書の作り方を一通り教えたのだけど、少し不安な部下がいる」と連絡があれば、その部下が見積書を作る時に経理が立ち会ってあげ、数字の根拠を理解した上で作っているかを確認しながら見守り、理解不足だったら、その場でもう一度、概念や作り方を教えてあげるということをすると良いと思います。

「仮にうちの会社が5万円お金を使って、5万円しかクライアントに請求しなかったら、1円も利益が残らないし、〇〇さんの給与も会社が払っているのだから、それも経費として差し引いたら赤字になっちゃうでしょう。赤字になるためにわざわざ〇〇さんが仕事をするっておかしいと思わない?」と、冗談も入れながら説明をすると、ほとんどの人が理解します。「そっか、そういう簡単なことだったんですね。『見積はとにかく大事だから利益を考えてきちんと作ってよ』と言われたので、すごく難しいものだと思いこんでしまいました」と言う人もいます。そして次回からは現場社員自身で問題なく見積書を作成でき、現場の上司との会話もスムーズに進められるようになることでしょう。

現場の上司は手短、簡単に説明をすることも多いので、計数的なことがわかっている人には問題ないのですが、そうでない人にとっては、理解があやふやなまま数字の証憑を作るというのは、苦手意識やプレッシャーに感じている人も多いのです。

このように、経理に関する証憑(見積書、請求書、経費精算など)をきっかけにして、経理の皆さんが現場社員とコミュニケーションをとり、相手が助かることを提案、ヘルプをしていけば、経理が急いでいる時、困っている時、内部統制などで多少現場に負担を強いてもらわないといけないときなども、協力してくれたり助けてくれたりします。現場の上司も、自分の部下の変化を見て、経理の必要性を認識して「経理がいてくれると助かる」と思ってくれるはずです。

こうした経理と現場のコミュニケーションの繰り返しによって、会社の数字自体も向上していくのですが、ただ、それが「経理の貢献も会社の数字向上の一因だ」と経営者に認識されるのかというと、はっきり目に見えないこともあります。

そこで私は、こうした現場へのヘルプをする前と後とで「数値を計測する」ということをお勧めしています。

経理の仕事の成果を数値で計測する

経費精算を例にとりましょう。たとえば、社員が50人いる会社で、経費精算の回収をしました。以下のような課題が残りました。

<先月実績>

提出期限に間に合わなかった人・・・3人
申請内容の不備・・・4人(領収書延べ枚数10枚)

これを改善していきます。たとえば、提出遅延や申請ミスがあった人を中心に「あさって経費精算の締めですけど処理は順調ですか」、「もし申請方法で難しいところがあったらフォローしますので」と、経理社員が、声掛けやフォローを事前にしていきます。

遅延やミスをする人の中には、「なぜ経費精算を期限までに申請する必要があるのか(1日くらい遅れても別にいいのでは)」と考えていたり、経理の皆さんが想定しているよりも極端に機械操作が苦手という人もいます。

そのような場合、まず遅延をする人に対しては、「これは経営者が経営判断をするために、早く試算表を作らなければならず、その日付から逆算して経費精算の締め日を決めているので、提出が遅れると私が困るのではなく、経営者が困る、という理屈なんですよ」と、笑顔も交えながらロジックを説明します。

また、機械操作が苦手な人と実際に一緒に操作することによって「このソフトだったら誰でも簡単に経費申請できると思っていたけれど、この表示部分はやはり事前に一言フォローしないと現場の人だと入力に迷ってしまうかもしれないな」ということに気付けて、自分達の啓蒙不足に気付けたりするかもしれません。

このように努力をした結果、

<当月実績>

提出期限に間に合わなかった人・・・0人
申請内容の不備・・・1人(領収書枚数、延べ1枚)

というように、改善したことを計数で測り、それを経営者に報告するのです。

多くの経理社員の人たちは、今までは「これくらいのこと、報告するまでもないようなことだから」「当たり前の努力だから」と思っていた人も多いと思います。

しかし私は「経理社員がなぜ評価されにくいのか」ということを問われて改めて自分の会社員時代も含めて理由を考えてみると、あまりにも成果を報告してこなかったのではないか、そして「人知れず」ということを美徳としてとらえすぎてきた面もあったのかもしれないと思いました。

傲慢になってはいけませんが、「成果を報告する」ということは、あくまでただ事実を淡々と述べるだけのことですし、営業などの他部署であれば、当たり前に行っていることです。他部署が当たり前に行っている「習慣」を経理も取り入れて、よりオープンに、経理が何をやり、どう会社に貢献しているかを経理自身が周囲に伝えることも、これからの経理の仕事の一つでもあると思います。

成果を数値で示すことで、評価は得やすくなる

このように成果を明示することで、経営者も、「経理は自発的に会社の改善をしてくれている」と関心を示してくれるはずです。

なぜかというと、この報告には「数字」が入っているからです。単に「頑張っています」「努力しています」という日本語より、こうした数字の結果比較を提出してもらうと、評価する側というのは非常に助かります。これは、社員の評価査定をした経験のある人ならわかると思いますが「頑張っている」と言われるだけだと、皆頑張っているので、どう評価をしてあげればよいか、ということに迷ってしまうのです。数字が入ることで、その迷いが軽減されるのです。そして数字というのは人間の印象に残ります。「頑張り」、「成果」を数字で明確に示す、ということも評価されるコツの一つです。

たとえば、私がある会社の経理部長だとしたら、数字で示せそうな職場の改善項目はないか、ということを皆で洗い出し、それを毎月1個ずつ、計12個改善していきます。

そしてそれと試算表とを比較して経営者に報告します。もし前年対比よりも数字が向上し、期首よりも期末のほうが利益が改善していたら、それは経理部での改善が何らかの良い影響を及ぼしている、と経営者は理解し、経理の重要性を認識してくれるはずです。

社員の均一、統一した計数感覚は数字を向上させます。そのリーディング(誘導)が経理社員の重要な仕事の一つであり、人間対人間でなければできない仕事の一つであると私は思います。

次回も、新たな時代における経理の仕事について考えていきたいと思います。(毎月更新予定)
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執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、執筆活動の他、日本語教師としても活動している。 著書に『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(日本経済新聞出版社)。



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