「電子帳簿保存法」へ対応することで、経理業務の効率化を大きく進められると言われています。とはいえ「本当にいま導入する価値はあるのか?」と様子見をする会社も少なくないでしょう。そこで今回は、電子帳簿保存法における国内屈指のスペシャリスト・袖山喜久造税理士にインタビュー。電子化することで実際に会社がどう変わるのかを、最新事情とともに話してもらいました。
袖山 喜久造(そでやま きくぞう)
SKJ総合税理士事務所 税理士。中央大学商学部卒業後、長年に亘って国税庁や東京国税局調査部において大企業の法人税調査事務等に従事。平成24年に退職し、税理士事務所を設立。税務コンサルティングや税務調査対応を行うとともに、電子帳簿保存法に精通した国内屈指のスペシャリストとして、経理書類や証票のペーパーレス化、電子化を普及・促進する。
実は業務の効率化以上に“チェック機能の強化”が大きい
―電子帳簿保存法を利用した国税書類のスキャナ保存をいま導入すべきかどうか、迷っている企業も少なくないと思います。便利になるのは確かかもしれないが、手間やコストに見合った効果はあるのだろうか、と。企業の電子帳簿化の現場に税理士として日々立ち会っている袖山先生はどう考えていますか?
確かに以前であれば国が設けたスキャナ保存のルールが厳しすぎて、運用側に大きな負荷がかかってしまう面がありました。導入するにはちょっとまだ早いかなという印象があったのが正直なところです。
ところが平成27,28年度の電子帳簿保存法の法令改正で規制が緩和され、運用にかかる手間が大きく減りました。また、電子化に対応したシステムについても導入しやすい製品がいろいろ出てきています。大企業のみならず、中小企業にとっても導入しやすい環境がかなり整ってきた、というのが現状です。
実際に、企業からのスキャナ保存に関する相談は非常に増えていますね。
―あらためて、電子化することでどんなメリットを享受できるのでしょう?
電子帳簿保存法というと、とかく経理業務の効率化に注目が集まりますが、1番のメリットは、不正のチェックが強化されることです。私は長年、法人税調査に関わってきましたが、やはり経費精算を通して会社のお金を搾取している社員というのは、金額の多寡はともかく、予想以上に多いものです。
従来の紙ベースの経費精算フローだと、領収書の有無や内容の正否をチェックするのに相当な手間がかかってしまいます。そのため実際には、領収書をろくに見ずにはんこをポンと付くような場面も少なくないでしょう。
それが電子ワークフローになると、領収書の有無が自動的にチェックされますし、スキャナー保存の場合は領収書にタイムスタンプが付けられるので、領収書の使い回しも防げます。従来のように領収書が重ねて貼り付けられるわけではないので、精算書と領収書の照合も容易です。
そうした電子化による恩恵から内部統制(ガバナンス)の強化が進められることが、経営面では非常に大きな意味を持ちます。それは必然的に、税務調査で問題が起こらない企業体質になるということでもあります。
より売上に直結した業務に労働力を割けるようになる
―では経理業務の効率化や、生産性の向上といった面ではいかがでしょう?
書類をデータで保存することになるので、原本を紙で保存するためのファイリング、輸送、保管料等の保存コストや労力がいらなくなります。また経費の精算業務に費やされていた時間が短縮されますので、経理担当者はその分、データを活用したさまざまなチェックや経営分析などに時間を割くことができます。
従業員側の経費精算にかかる労力が減るのも大きいです。たとえば従業員200人の会社で、社員一人ひとりがひと月に1回、2時間かけて経費精算しているとすると、それだけで経費精算に費やされる労働時間は1カ月で総計400時間にもなります。1年間では4800時間。10年間では4万8000時間です。
その時間を電子化で大幅に減らすことで、より売上に直結する業務に労働力を割けるようになるでしょう。さまざまな業務を少人数で兼任することが多い中小企業であれば、その恩恵はより一層大きいです。
また近年は働き方改革と言われるように、労働時間の問題が常にあります。モバイル端末でどこでも経費精算できるようになり残業が減らせるというのは、時代背景ともマッチしています。
近い将来、電子帳簿化が義務化される公算が大きい
―「電子化の導入は、特にこんな会社におすすめ」というのは何かありますか?
特に会社の拠点が複数ある企業にとって、電子化はうってつけです。紙ベースの業務フローだと、遠隔地で出された書類を実際に見て管理するというのは難しいですが、電子化すればデータで簡単にチェックできるので、きちんとIT統制を図ることができます。
―今後、電子帳簿化はどんな流れになっていくのでしょう?
いま税理士会の中では、税務申告等の電子申告の義務化が議題に挙がっています。もし将来、電子申告が義務化されたら、帳簿もデータで保存しましょう、ならば証憑もデータで保存しましょう、という流れに当然なります。
実際、電子帳簿の義務化というのは、かなり現実的な話です。将来的には紙の帳簿が一切ない世界がやってくるでしょう。電子帳簿の導入のスピード今はまだ緩やかですが、ある時点からそのスピードが一気に上がり、5年後には半分以上の会社が電子化を導入しているという状態になると思います。
だからこそ、今の段階から経理業務の電子化をどうするかというのを検討しておくことが重要になってきます。
「電子帳簿化のコストは?デメリットはある?」 (後編)に続きます。
袖山先生に電子帳簿保存法の導入の際に知っておきたいポイントをお聞きし、1つの冊子にまとめました。ダウンロードはこちらから!
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