人気フリーランスが明かす「ギャラ事情」 値上げ交渉の正解は?

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ギャラの値上げ交渉−−それはフリーランスになったら、誰しもが直面する問題。「値上げ交渉したら業界から干される?」「どう交渉したら取引先も納得してくれる?」そんな疑問を抱えていても、誰かに“お金の相談”をするのはちょっと気が引けるなんて方も多いはず。
そこで今回はフリーランスとして最前線で活躍する編集者の池田園子さん、フリー素材モデルの大川竜弥さん、漫画家のとあるアラ子さん、ライターのトイアンナさんの4名(五十音順)を招き、みなさんのギャラ事情についてぶっちゃけトークしてもらいました。今でこそ“売れっ子”として大活躍の4名ですが、苦労や困難もあったはず……。人生ドラマも交えつつ、聞いてみました。

大川竜弥:競合がいないフィールドで勝負する


大川竜弥
自称・日本一インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデル。モデル業の他、司会業や俳優、執筆活動といったマルチタレント的な活動も行う。フリーランス7年目。

——まずは、ネットユーザーなら誰もが見覚えのある、フリー素材モデルの大川さん。「フリー素材モデル」という肩書は珍しいですが、大川さんはいつ頃からこの仕事を始めたのですか?

大川竜弥さん(以下、大川):独立してから7年以上が経ちます。実は僕、単価交渉したことがないんですよ(笑)。特に営業もしていませんが、ありがたいことに依頼も増えて、単価も自然に上がってきました。

——どうやってクライアントを増やしていったのですか?

大川:基本はSNSでの情報発信です。しかも、最初に受注した仕事が大手企業からの依頼で。「なんでこんなに大きな会社が……?」と不思議でした。2012年頃の当時、「フリー素材モデルをしています」とSNSでアピールしているのは僕しかいなくて、面白がってもらえたのでしょうね。競合がいなかったのは、クライアントを増やせた理由の一つだと思います(笑)。

——SNSでどのような投稿をしたら、クライアントの目に留まり、仕事の話が来るようになるのですか?

大川:さっき「営業はしない」と言いましたが、「この企業と一緒に仕事がしたい」と意識してブログに書いています。幸いなことに、そのうち9割の企業と一緒にお仕事をさせてもらえました。とくに、Webでの広告出稿に積極的な企業を意識しています。ネットサーフィンをしていると、「この企業はWeb広告に予算を割いているな」となんとなくわかるようになるんです。

——他に、SNS活用術のポイントがあれば教えてください。

大川:なるべく隙はつくらないようにしています。たとえば、ブログやSNSで文章がちょっと残念な人や、誤字脱字が多い人って、「仕事にだらしないのかな」っていうイメージを持たれかねないじゃないですか。イメージダウンにつながる投稿はしないようにしています。あとは、「この人、気分の浮き沈みが激しいんだな」と分かっちゃうような投稿をしている人もダメですね。自分から精神的に不安定なことをアピールしても、いいことはひとつもありません。

大川竜弥さんが実践してきたこと
・競合がいないフィールドで勝負する
・予算がある企業を見つけたら「一緒に仕事がしたい」とブログに書く
・イメージダウンにつながる投稿はしない

とあるアラ子:実績がないうちは単価にこだわらない


とあるアラ子
漫画家。趣味で書いていた音楽レビューブログの読者が増え、同人誌を自費出版。それが書籍化することになり、本格的に漫画家として活動することに。現在の連載は、『美人が婚活してみたら』(Vコミ)、『あなたよりちょっとマシなわたしでいたい』(晋遊舎・LDK)、『婚活について考えてみました』(ゼクシィ縁結び・ホンネスト)。フリーランス13年目(アルバイトを兼業しながら)。

——とあるアラ子さん(以下、アラ子)はWebをメインに漫画を描かれていますが、ギャラとはどのように向き合っていますか?

アラ子:私の場合はWeb漫画を依頼されて描くことが多いのですが、ギャラ交渉はあまり考えてきませんでした。紙と比べたら、Webでの漫画掲載は新しいビジネスでもあるので、依頼主も相場観がわかっていなかったりします。

だから、すごく安い金額で発注されることもありました(笑)。けど、私もまだまだ駆け出しですし、実績も作っていきたいので、なめられていると思いつつも、言い値で仕事を受けてきましたね。

——どんなときに「なめられてる」と感じましたか?

アラ子:「8ページの漫画を4日で描いてほしい」と言われたときです(笑)。
丸投げのわりに、打ち合わせもあって、その上単価も1万円で……。さすがにその仕事は断りました(笑)。でも、そうやって仕事を選んでいって、自分の価値を高めてしまっても逆に自分の首を絞めてしまう。私の強みは筆が早いことなので、「気軽に声を掛けられたい」「ちょっとなめられて依頼されるぐらいがちょうどいい」という気持ちもあるんです。

——「8ページ=1万円」は衝撃的な原稿料ですね……(笑)。

アラ子:この前、初めて単価交渉してみたら、意外と希望が通ったんです。広告収入で成り立っているWeb漫画サイトはどれだけ読まれたかによって収益が変わります。だから、SNSなどの反響を見て手応えがあったときに交渉すれば、単価を上げてもらえることがわかりました。

——受注する際のルールは決めているのですか?

アラ子:最近、条件を明示しない依頼には、ちょっとキレ気味でメールを返すようにしています。最近はあまりにも安い仕事がたくさんくるので、変わった人と思われてもいいやと思って、「ギャラを教えてください。アラ子」みたいに2~3行の短文でそっけなく返信するんです。そうしたら「じゃあ、いいです」とすぐに去っていく人も増えました。それはそれでいいと思っています(笑)。

とあるアラ子さんが実践してきたこと
・実績がないうちは言い値で仕事を受ける
・手応えがあった場合は単価アップを要求する
・条件を明示しない依頼がきたら、冷たい対応をする

池田園子:手当たり次第送りつけている雑な依頼メールはスルーしてもいいと思う


池田園子
DRESS編集長。楽天、リアルワールドを経てフリー編集者/ライターに。関心のあるテーマは人間の生き方や働き方、性、日本の家族制度など。趣味のひとつはプロレス観戦。DRESSプロレス部 部長補佐を務める。著書に『はたらく人の結婚しない生き方』(クロスメディア・パブリッシング)がある。フリーランス7年目。

——池田園子さん(以下、池田)はDRESSの編集長としてご活躍されていますが、それ以外のお仕事もされているのですよね?

池田:はい。メインは編集ですが、フリーライターとして記事を書いたりしています。2012年前後の駆け出しの頃は「モテる女子になる秘訣5選」みたいな恋愛系コラムを書いていたんです。怖いものでそういった記事が今でもネットに残っていて。いまだに半年に1回くらいの頻度で、「恋愛コラムを1500円で書いてください」みたいな依頼がきます。そういった依頼はコピペ的な文章で送られてくるものが多く、私の近年のキャリアや活動をまったく調べてないなと思うので、基本的に返信しないようにしています(笑)。

——ご自身のnoteでは、「ギャラ交渉をしたことがない」と書かれていましたよね。

池田:基本的に、手当たり次第ライターと名乗っている人に送りつけているような依頼には返信しないようにしているので、私も大川さんと一緒で単価交渉をしたことがないんです。

——駆け出しの頃はどのように信頼と実績を重ねていったのですか?

池田: SNSに自分の書いた記事をアップしていました。私がTwitterを始めた2010年頃ってそこまでTwitterをやっている人が多くなかったので、自分のTwitterのフォロワー数が当時としては多い方だったんですね。拡散された記事を見て依頼してくれる人が多かったような気がします。

——「とことん丁寧にやる」「とことん推敲する」とSNSに書かれていましたが、それ以外に心がけていることはありますか?

池田:「めんどくさい人」と思われないように気をつけています。世の中には簡単にすむはずのやり取りにすごく時間がかかる人っているじゃないですか(笑)。関わると「なんか疲れちゃうなぁ(笑)」っていうような人。自分もそうならないように、メールや対面などのあらゆるやりとりの中で、感じのよい、シンプルなコミュニケーションを心がけています。当たり前のことですが、相手が自分のアウトプットをどう受け取るか想像することが大切なんだと思います。

——依頼主はどのようなことを池田さんに期待されていると思いますか?

池田:たぶんですけど、「めんどくさくない」というのと、「締め切りを守る」ことぐらいかな。私は自分の代わりは世の中にたくさんいると思っています。依頼された仕事を断ったときに、たいていは「残念ですが、またの機会に」といった返信がきますけど、まれに「池田さんが取材に来れなくても、別で取材してその音声データを渡すのでご執筆いただけませんか」と言われることがあります。当たり前のことを頑張っていれば、見てくれる人はいるんだと思います。

編集の仕事をしていると、“失踪”して連絡がつかなくなるライターさんがたまにいるんです(笑)。けど、クライアントからお金をもらっているから、案件は進めなくちゃいけない……。自分がそういった損害を被ったことがあるから、人に迷惑をかけないようにしようとは思っています。

池田園子さんが実践してきたこと
・手当たり次第送りつけているような、極端に単価の低い依頼には返信しない
・感じのよい、シンプルなコミュニケーションを心がける
・締め切り厳守、丁寧に推敲するなどの当たり前を、当たり前に頑張る

トイアンナ:猛烈に働くことが苦にならないほど仕事を好きになる


トイアンナ
フリーライター。外資系企業にてマーケティングを約4年担当 した後、フリーライターに。500名を超える相談者のヒアリング実績と、自身の経験から、独自の恋愛・婚活分析論を展開。男女のキャリア・生き方を考えるブログ「トイアンナのぐだぐだ」は月間50万PVを記録。著書に『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)など。フリーランス3年目。

——トイアンナさん(以下トイ)は多忙を極めている印象がありますが、やっぱりお忙しいですか?

トイ:そうですね。今は月40〜50本の原稿を書きながら、月に1冊の本を書いています。目下の悩みはキーボードを叩きすぎて手が痛いこと(笑)。

——月に40本以上!? 1日に何本の原稿を書いているのですか?

トイ:1日1500〜2000文字の原稿を6本くらい書いています。執筆に5〜6時間、インプットに5〜6時間、その他に映画を観たり、ヒアリング調査もしたりしているので、1日15〜17時間は稼働しています。でも、私の場合は「仕事が好き」という病なので。早死にするので真似しないでください(笑)。

——何がきっかけでライターになったのですか?

トイ:もともと外資大手メーカーでマーケティングの仕事をしていて、それこそ深夜土日問わず働いていました。その後、海外高級ブランドグループに転職すると、定時退社できるようになったんです。

それで、「どうしよう、まだ外が明るい! これからどうやって生きていこう」というアイデンティティを失った状態になって、ブログを始めたんです。そうしたら、ライターのお仕事を相談されるようになったのですが、会社は副業禁止だったんです。だから、全部タダで仕事を引き受けていました。その代わり、納期も守らないし、クオリティも担保しない(笑)。

——そこから、どのような経緯でライターに転身したのですか?

トイ:今は離婚したのですが、当時の夫がイギリスに転勤することになってしまい。勤めていた会社にイギリスのポジションはなかったので、会社を辞めて駐在員の妻になるしかなくて。でも仕事をしない生活が自分には合わないことはわかりきっていたので、個人事業主としてこっそりフリーライターをやることにしたんです。

とはいえ、すぐには仕事もないので、なるべく早く会社を辞めて海外に行くまでの半年弱の間でめちゃくちゃいろんな飲み会に顔を出して営業をしました。

——どのような方々に営業をかけたのですか?

トイ:ライター、編集者、業界の大御所の先輩。とにかくいろんな人と飲みました。だいたい週3日ペースで(笑)。「何か仕事ありますか?」「それ書きたいです」みたいなゆるふわ営業を片っ端からかけていたので、今思えば大変失礼だったのですが、おかげさまでいろんな方からお仕事をいただきました。

——その姿勢はぜひ見習いたいです。仕事を受ける際に心がけていることはありますか?

トイ:フィーが高すぎる仕事はお断りしています。フィーが上がりすぎると期待値も上がってしまうので。たとえば、他の案件を断って100万円の新規案件を受けたとします。それでクライアントの求めるPVに届かなかったら、次はないし自分も辛い。それなら、細く長くお仕事をいただけた方が個人的にはありがたいんです。だから受注金額の上限と下限を決めて、その範囲内で単価交渉するようにと、マネージャーには伝えています。

——普通は高単価の仕事なら飛びつきそうなものですが、期待値コントロールされているのですね。報酬以外で仕事を受ける際に気をつけていることってありますか?

トイ:仕事を受けるかどうかの判断基準を設けるために、私は案件管理表に媒体名、原稿料、納期に加えて、フィーの高さ、やりたい度、モチベーションをそれぞれ5段階評価で入力しています。

たとえば、フィーの高さが1でも、モチベーションが5だったら、総合評価でその案件は受けることになります。一時期はフィーの高さだけで受けるかどうかを判断していたんですけど、だんだんテンションが下がっている自分に気づいたので、判断基準を考え直したんです。

トイアンナさんが実践してきたこと
・人脈がないうちは業界関係者と飲みまくる(そして営業する)
・フィーが高すぎる案件は期待値も高くなるので断る
・やりたい仕事はたとえフィーが安くても断らない

単価を上げたい方へのメッセージ

——最後に単価交渉に悩むフリーランスの方に、みなさんからアドバイスをお願いします。

大川:僕からのアドバイスは「ぜひ発注側も経験してほしい」ということです。発注側の気持ちがわかれば、適切な理由がなければ単価アップはできないということがよくわかるはずです。根拠もなく値上げ交渉をしていたら「半年後はもうないぞ」と思います。

アラ子:やっぱり報酬が発生するシステムを理解することが大事だと思います。私は今、Web媒体でアルバイトをしたいと思っているんですね。どのような流れでお金が発生しているのか全く理解していないので。私は漫画家だけど、Webの仕事をしているから、SNSでの発信を頑張るだけじゃなくって、もっとWebのことを理解しないといけないと思っています。

池田:たとえばライターの方だったら、編集プロダクションに業務委託で入ることをおすすめします。編プロってある意味一番“美味しい”と思うんですよ。媒体、クライアント、フリーランス、それぞれの相場観が丸見えなので。お金をもらいながら業界のことを学べて一石二鳥だと思います。

トイアンナ:地位と名誉とお金の優先順位を決めれば、自ずと価格交渉ができると思います。全部揃っている仕事はほとんどありません(笑)。この仕事はお金がほしい。この仕事は名誉がほしい。この仕事はタダだけどブランディングになる。この仕事は署名なしだけど、お金がいいからやる。とか、優先順位を決めて仕事を受ければ、病むことはないと思いますよ!

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