中小企業のRPA活用事例 株式会社ブレインパッドにきく 「RPA」は経理の未来をどう変えるのか?

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手軽に業務の自動化と効率化を進められるツールとして注目されている「RPA(Robotic Process Automation)」。本連載ではこれまで、RPAをよく知る方々やベンダー企業にお話を伺い、RPAの可能性を伝える記事をお届けしてきました。
最終回となる今回のテーマは、導入事例とその導入にあたっての注意点。株式会社ブレインパッドでシニアコンサルタントを務める山内康志さんに、中小企業がRPAを導入する際のポイントについて語っていただきました。

『RPAを自分たちで運用していく体制』が必要

ブレインパッド社は、データを活用したITソリューションを提供している企業。前出のRPAテクノロジーズ社の「BizRobo!」をベースに、標準で搭載しているAPI、プログラム連携機能を利用し、ブレインパッドが持つ技術やツールをつなぐことで、高度活用を実現できる「ブレインロボ(BrainRobo)(以下、ブレインロボ)」というRPAソリューションを提供しています。

「ブレインロボ(BrainRobo)」サービスのイメージ(出典:株式会社ブレインパッド)

「弊社では、ブレインロボの販売自体は2014年から開始していました。当時はお客さまのご相談内容に応じてご提案させていただくプロダクトのひとつ、という扱いでしかありませんでしたが、昨今のRPAブームの盛り上がりに伴い、お客さま側からRPAを導入したいとご相談いただく機会が増えてきました。このなかでRPAをプロダクトとして提供するだけでは、お客さまのRPA導入を十分にご支援できない、と気づきました」

課題となったのは、RPA導入後の運用体制。ブレインパッド社が抱える顧客のなかには、導入後のロボット製作や運用にかかる人的リソースを外部委託する体制をとるケースが散見されたそうです。
しかしこうした運用体制は、システム開発を外注している状況と実質的にほとんど変わらず、このままでは他業務でも積極的にRPAを活用する動きが実現しにくい、と課題視しました。

「単にRPAを導入するだけでなく、『RPAを自分たちで運用していく体制』を整えておくことが重要だ、ということです。そこで弊社では、中小企業のお客さまをはじめとして、RPAに興味はあっても十分な知識がないお客さまを対象に、RPAの導入判断から立ち上げ・社内での定着化までを支援するサービスなど含めて、ソリューションとして提供しています」

入金消し込み作業の自動化ツールや、経理不正を検査するツール例

では、同社のRPAソリューションは、どのように活用されているのでしょうか。

「具体的な活用事例として、入金の消し込み作業を自動化したいという経理部門のお客さまのご要望にお答えして、トライアル的にブレインロボを導入したケースをご紹介しましょう。
お客さまの経理部門では、請求書一覧のデータと銀行への振込金額を突き合わせる作業を人手でおこなっていました。それぞれ3000~4000行はありますので、それだけでも処理が大変なのですが、なかには複数の請求書をまとめて入金しているケースや、請求番号がなぜか本来の記入場所ではなく備考欄に記入されているケースもあり、作業を煩雑化させていました」

そこで山内さんらは、まず社員の方に普段おこなっている経理業務の手順や進め方をヒアリングし、その情報をもとにブレインロボを組み立てました。

「ロボットには備考欄に記入された数字が請求番号か否かを自動的に判別する機能や、備考欄に個人名が記載されていた場合にその人物の所属データを参照して入金記録の重複がないかどうかをチェックする機能を搭載しました。するとそれまで5日間はかかっていた作業日数が、ブレインロボによって1日ほどに短縮できました」

もうひとつの活用事例として山内さんが挙げたのは、交通費など「経費不正の検査をおこなうRPA」です。RPAの実力を示すデモとしてしばしばクライアントに提示しているもので、交通費の経費申請の内容をロボットがチェックします。

「乗車区間の乗り換え検索をおこない、申請された交通費が検索結果のなかで最高額の想定運賃を超過していた場合、その申請を自動的にはねのけます。NGを出す基準はお客さまのポリシーごとに変更可能です。たとえば最も早く目的地に到着できる電車を選んでいなければNGという企業もあれば、最安値の電車を選ばなければNGだという企業もあります」

これらの案件以外にも、ブレインパッド社は経理や人事系の業務担当者向けに従業員の勤怠実績から残業時間を予測して三六協定の違反可能性を自動判定してくれるRPAツールなども提供しています。RPAという仕組み・考え方がどれほど幅広い業務案件に対応できるかを示す、ひとつの判断材料になるでしょう。

RPAとAIの連携は業務要件に応じて判断すべき

山内さんはRPA導入の注意点として、前出の『RPAを自分たちで運用していく体制』の他に、下記2点を挙げます。

  • 高度なものを求めすぎない
  • 社内の業務内容を整理してみること

「高度なもの」というのは、たとえば複雑な作業に対応させるために、RPAとAIを連携させることです。こうした相談を受けても、山内さんは必ずしも応じるとは限らないといいます。

「お客さまにヒアリングをおこなうと、AIよりもまずはRPAによる業務効率化を優先すべきではないか、あるいは、AIを使わずともRPAだけで十分処理できるのではないか、と思わされる事例に遭遇することもしばしばです。
もちろんAIや複雑なデータを分析するのは弊社の得意分野で、ぜひお客さまに活用していただきたい気持ちはありますが、導入はあくまで必要性があると我々が判断した業務要件に限定しております」

また、山内さんは、最近の傾向として、『ブレインロボそのものにAIが備わっている』と誤解している相談者が多いことも指摘します。

「実際には、ブレインロボはRPAとAIが外部連携によってつなげられたものであり、本来は別のものです。図式的にいえば、単純なルールに沿って動作するRPAに、高度な情報処理を可能とする機械学習などAIの『頭脳』を搭載する、という格好です。
もしも本当にAIを業務に活用したいのであれば、RPAと連携させるのではなくAI単体での導入を検討するのもひとつの手かと思います。またAIだけでなく、PepperのようなコミュニケーションロボットとRPAを連携させることで、ずっと複雑で高度な業務を任せることも可能です。しかし、そうしたステージにいく以前に、RPA単体で業務改善を達成することが本当にできないか、一度社内の業務内容を整理して確認してみることをおすすめします」

導入前にまずは社内業務のボトルネックをしっかり確認すること

RPAの導入によって、スタッフの仕事が奪われてしまうのではないか――。
ブレインパッド社も、こうした懸念の声を把握しています。RPA導入を検討している人、特に業務系部門の人から頻繁に聞かれるそうです。しかし山内さんは、RPAへのこうした見方には否定的な立場を示します。

「RPAは会社のポストをめぐって人間と競合するような存在ではありません。現在の業務で煩雑になりがちな作業やルーティーンの作業をRPAに代行させて、代わりに人間はなにかを『考える』ことに時間を費やせるようになる、そうしたかたちで人間と『共存』していくツールなのです」

同時に山内さんは、『なんでもいいから、とにかくRPAを業務に導入したい』と導入に前のめりの姿勢でいることもまた危険だと忠告します。

「たとえば私が担当させていただいた案件のなかで『導入コストがかかっても後々ペイできる。RPAが役に立つことはわかっているから、すぐに入れろ』と部下にハッパをかける社長の姿をお見かけしたことがあります。また『導入のための予算はすでに確保したので、トライアルはパスしてすぐにRPAを使いたい』というお客さまもいらっしゃいます。
けれども弊社では、RPAによってお客さま自身が最終的に目指されるゴールが明確でない場合、導入をお引き止めしております。
まずはRPA導入に先立ち、社内業務における既知のボトルネックを洗い出すこと、そして、RPAを使う業務やテーマをピックアップしていただくこと、これらの確認作業を徹底することが大切です」

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