- 作成日 : 2025年11月6日
飲食店の照明計画完全ガイド|売上を上げる光の演出術
飲食店の照明は、単に店内を明るくするための設備ではありません。料理を美味しそうに見せ、お店のコンセプトに合った雰囲気を演出し、お客様の居心地の良さを左右する、売上に直結する重要な経営要素です。効果的な照明計画は、顧客満足度と客単価の向上に貢献します。
この記事では、飲食店経営者が知っておくべき照明の基本から、具体的なテクニック、法律の基準までを網羅的に解説します。
目次
飲食店における照明が果たす3つの役割
飲食店の照明計画を立てる上で、まず光が持つ役割を理解することが大切です。照明は「料理」「空間」「お客様」の3つの対象に働きかけ、お店の価値を高めます。戦略的な照明計画は、これら3つの役割を最大限に引き出すことを目指します。
料理を魅力的に見せる役割
照明の色や当て方は、料理の見た目を大きく左右します。暖色系の光は料理にツヤと温かみを与え、食欲をそそる効果があります。適切な照明は、シェフが腕によりをかけて作った料理の価値を、お客様に最大限に伝えるための最後の仕上げといえるでしょう。
空間の雰囲気とブランドイメージを演出する役割
照明は、お店のコンセプトを表現するための強力なツールです。たとえば、高級レストランであれば照度を落として落ち着いた非日常感を、ファミリー向けの明るいお店であれば店内全体を均一に照らして安心感を演出します。光をコントロールすることで、お店が目指すブランドイメージをお客様に直感的に伝えることができます。
お客様の心理と行動に影響を与える役割
明るい照明は気分を高揚させ、賑やかな雰囲気を作り出し、お客様の回転率を上げる傾向があります。一方、少し暗めの照明はリラックス効果をもたらし、お客様の滞在時間を延ばし、客単価の上昇につながることがあります。照明計画は、お店のビジネスモデルとも密接に関わっています。
飲食店照明の基本となる3つの要素
お店のコンセプトに合った照明を実現するためには、光の性質を決める基本的な3つの要素を理解しておく必要があります。それは「色温度」「照度」「演色性」です。これらのバランスを考えることが、照明計画の第一歩となります。
光の色合いを決める「色温度(K)」
色温度とは光の色を表す尺度で、単位はケルビン(K)です。数値が低いほど赤みがかった暖色系の光になり、高いほど青みがかった寒色系の光になります。
- 電球色(約2700K~3000K):オレンジがかった温かみのある光。料理を美味しく見せ、リラックスした雰囲気を作るのに適しています。多くの飲食店で基本となる色です。
- 温白色(約3500K):やや黄みがかった自然な光。ナチュラルで落ち着いた雰囲気に合います。
- 昼白色(約5000K):太陽光に近い自然な白い光。清潔感や活気を演出したい厨房や、ファミリーレストランなどに使われます。
- 昼光色(約6500K):青みがかった涼しげな光。オフィスなどで使われることが多く、飲食店では料理が冷たく見えてしまうため、あまり使われません。
空間の明るさを示す「照度(lx)」
照度とは、光に照らされている面の明るさのことで、単位はルクス(lx)です。JIS(日本産業規格)の照明基準では、飲食店の推奨照度が示されており、お店の業態によって適切な明るさは異なります。
- 高級レストラン・バー:50~150lx程度。照度を抑え、落ち着いた雰囲気を演出します。
- 一般のレストラン:200~500lx程度。食事と会話を楽しむのに適した明るさです。
- ファミリーレストラン・カフェ:500~750lx程度。明るく、誰でも入りやすい活気のある雰囲気を作ります。
色の再現性を表す「演色性(Ra)」
演色性とは、照明が物体の色をどれだけ自然光に近く再現できるかを示す指標で、Ra(アールエー)という単位で表されます。100に近いほど色の再現性が高くなります。飲食店では、料理や内装の色を正確に美しく見せるために、演色性がRa80以上の照明器具を選ぶことが推奨されます。とくに、食材の鮮度が問われる寿司店や、彩り豊かなフランス料理店などでは、Ra90以上の高演色な照明が望ましいでしょう。
空間を演出する飲食店照明のテクニック
基本的な3要素を理解したら、次はその光をどのように配置するかを考えます。複数の照明を組み合わせ、光と影を効果的に使うことで、奥行きのある魅力的な空間を創り出すことができます。
照明の種類と組み合わせ
飲食店の照明は、一つの照明で全体を照らすのではなく、役割の違う複数の照明を組み合わせるのが基本です。
- ベース照明:空間全体を均一に照らす基本的な明かり。ダウンライトやシーリングライトが使われます。
- アクセント照明:テーブルの上や壁のアート、装飾などをピンポイントで照らし、空間にメリハリをつける照明。スポットライトやペンダントライトが効果的です。
- 間接照明:光を壁や天井に当て、その反射光で空間を柔らかく照らす手法。落ち着いた上質な雰囲気を演出します。
「多灯分散」で立体感を出す
一つの強い照明で全体を照らす「一室一灯」方式は、空間が平面的になりがちです。飲食店では、複数の小さな照明をバランスよく配置する「多灯分散」がおすすめです。これにより、空間に明るい場所と暗い場所が生まれ、陰影による立体感と奥行きが生まれます。
陰影(影)を効果的に利用する
意図的に影を作ることで、空間はよりドラマチックでおしゃれな印象になります。たとえば、テーブルの上だけをスポットライトで照らし、周囲を少し暗くすることで、お客様は他のお客さんの視線を気にせず、プライベートな雰囲気で食事と会話に集中できます。高級レストランなどでよく使われる手法です。
飲食店照明に関する照度基準と法律
飲食店を運営する上で、照明に関する法律や基準も知っておく必要があります。お客様の安全はもちろん、従業員が働きやすい環境を整えることは、経営者の義務でもあります。
労働安全衛生法にもとづく照度基準
厚生労働省が定める労働安全衛生規則では、事業者が労働者を働かせる場所の明るさを確保することが定められています。一般的な厨房での調理作業は「普通の作業」に区分され、150ルクス以上の照度が求められます。また、精密な作業(盛り付けなど)を行う場所は300ルクス以上が基準となります。これは、従業員の安全確保と作業効率の向上のための基準です。
出典:労働安全衛生規則 第六百五条(照度)|e-Gov法令検索
消防法で定められた非常灯の設置
火災などの非常時に、お客様や従業員が安全に避難できるよう、消防法では誘導灯や非常用照明の設置が義務付けられています。設置基準は、建物の規模や構造、収容人数によって細かく定められています。店舗の内装工事を行う際は、必ず専門の業者や所轄の消防署に確認しましょう。
シーンで使い分ける飲食店照明のコントロール術
時間帯や客層によってお店の雰囲気を変えたい場合、照明のコントロール機能が非常に有効です。調光・調色システムを導入することで、一日のうちで複数のお店の「顔」を演出できます。
「調光」で時間帯に合わせた明るさを演出
調光とは、照明の明るさを自由に調整できる機能です。たとえば、以下のような使い分けが考えられます。
- ランチタイム:明るさを上げて、活気があり入りやすい雰囲気を演出。回転率を意識した営業に適しています。
- ディナータイム:明るさを落とし、落ち着いたムーディーな雰囲気に。お客様がリラックスして過ごせるため、滞在時間や客単価の向上が期待できます。
- 清掃時:明るさを最大にすることで、隅々まで汚れをチェックしやすくなり、衛生管理に役立ちます。
「調色」で空間のイメージを変える
調色とは、光の色合い(色温度)を電球色から昼白色などへ調整できる機能です。調光と組み合わせることで、より多彩な演出ができます。たとえば、昼間は自然光に近い白い光で爽やかなカフェの雰囲気にし、夜は温かみのあるオレンジの光で落ち着いたバーの雰囲気に変える、といったことが可能になります。
戦略的な飲食店照明がお店のブランド価値を高める
飲食店の照明は、空間を照らす機能的な役割だけでなく、お店のブランド価値を創造し、お客様の体験を豊かにするための戦略的なツールです。料理を最高に美味しい状態で見せ、コンセプトに合った世界観を演出し、お客様に「また来たい」と思ってもらう。そのすべてに、光は深く関わっています。
照明の基本要素を理解し、テクニックを駆使して光をデザインすること。それが、競争の激しい飲食業界において、他店との差別化を図り、長く愛されるお店を創り上げるための一つの答えとなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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