- 作成日 : 2025年12月24日
おとり広告とは?発生原因とITによる防止策・効率化
おとり広告とは、実際には取引できない(取引をする意思がない)物件を魅力的に見せて集客する不当表示のことです。発覚すれば、行政処分や法律違反による信頼失墜につながる重大なリスクがあります。物件情報の更新遅れなどで意図せず発生するケースも少なくありません。この記事では、おとり広告の定義・原因・防止策やITツールを活用した改善方法を解説します。
目次
おとり広告とは?
おとり広告とは、実際には取引できない商品やサービス、または現実とは異なる条件を表示して消費者を誘引する不適切な広告のことです。不動産業界では、「物件が存在しない」「物件は存在するが取引の対象となり得ない」「物件は存在するが取引する意思がない」物件をあえて掲載し、問い合わせてきた人に別の物件を勧めるようなパターンがおとり広告に該当します。
おとり広告は、単なる「ミス」や「うっかり」ではなく、消費者を誤認させる行為として法律上も明確に問題視されています。特に不動産広告は、家賃・間取り・所在地といった情報が人生設計に直結するため、誤った情報が与える影響が大きく、一つひとつの表示内容に対して厳格なルールが定められているのが特徴です。
おとり広告が規制される法律的根拠は?
おとり広告は、景品表示法および宅地建物取引業法に基づいて明確に禁止されています。これらの法律は、消費者を保護し、公正な競争が行われる市場環境を維持することを目的としています。
■ 景品表示法(不当表示規制)
景品表示法では、商品やサービスの内容について「実際よりも著しく優良であると誤認させる表示(優良誤認)」や、「価格・取引条件を実際よりも有利だと誤認させる表示(有利誤認)」を禁止しています。おとり広告は、景品表示法第5条第3号に基づく「不動産のおとり広告に関する表示」で不当表示として指定されている行為です。
■ 宅地建物取引業法
不動産広告については、宅地建物取引業法により、さらに厳格な基準が設けられているのが特徴です。同法では「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良
であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しており、すでに成約済みの物件をあたかも募集中のように掲載する行為は明確に違反となります。国土交通省のガイドラインでも具体的な判断基準が示されており、広告掲載時点で成約済みの可能性がある場合には、事前に必ず状況を確認することが求められています。
出典:「おとり広告の禁止に関する注意喚起等について」|全国宅地建物取引業協会連合会
出典:「いわゆる「おとり広告」等の禁止の徹底について」|国土交通省
不動産業界におけるおとり広告の典型例は?
不動産広告におけるおとり広告には、いくつかの典型的なパターンがあります。代表的なのは「取引できない物件」「物件は存在するが取引の対象となり得ない」「取引する意思のない物件」の3タイプです。
ここでは、それぞれのパターンの内容と問題点について紹介します。
取引できない物件の掲載
取引できない物件を掲載し続けることは、おとり広告の中でも特に分かりやすい例です。たとえば、すでに成約済み・申込済みにもかかわらず、空室としてポータルサイトや自社サイトに掲載し続けているケースが挙げられます。また、そもそも実在しない架空の物件を載せたり、貸主・売主と契約関係がない物件を「募集中」であるかのように見せたりするケースも同様です。
表向きの理由が「更新が遅れていただけ」であっても、結果として「実際には取引できない物件で顧客を誘引している」状態になれば、おとり広告とみなされる可能性があります。
取引条件が実際と異なる物件の掲載
物件自体は存在していても、賃料や条件が現実と異なっていれば、おとり広告に該当する可能性があります。たとえば、掲載されている家賃より実際の支払い額のほうが高く、管理費などを含めた総額が表示されていないケースや、「礼金・敷金なし」と記載しながら別途名目の費用が必要になるケースです。
また、「ペット可」としつつ、実際には小型犬のみ・頭数制限ありなど細かな条件が多かったり、専有面積・築年数・設備の内容が現況と食い違っていたりする場合も問題です。こうした条件の違いがあると、問い合わせた顧客は「話が違う」と感じやすく、結果として不動産会社への信頼を大きく損なうことになります。
取引する意思がない物件の掲載
物件情報の内容自体は正しくても、そもそもその条件で取引する意思がなく、「客寄せ」のためだけに掲載している場合も、おとり広告と評価される可能性があります。たとえば、条件のよい目玉物件を長期間掲載し続けながら、問い合わせがあっても実際には他の物件にばかり誘導するケースがあります。また、「その物件はたまたま今切れてしまっていて……」と毎回説明し、結果的に代替物件の案内だけで終わってしまうような対応も典型例です。さらに、価格を極端に安く表示しておきながら、その条件で契約するつもりがない場合も同様に問題となります。
こうした手法は、一時的には問い合わせ件数が増えたように見えるかもしれません。しかし、実際にはクレームの増加や評判の悪化、行政指導につながりやすく、結果的に大きな経営リスクを抱えることになります。
おとり広告がもたらす経営上のリスクは?
おとり広告は、「少しクレームが増えるだけ」の問題ではありません。企業ブランドへの信頼失墜や収益への打撃だけでなく、中長期的には事業存続にも影響しうる深刻なリスクとなります。
以下では、おとり広告によって生じる代表的な経営上のリスクを紹介します。
消費者からの信頼失墜
おとり広告によって最初に表面化しやすいのが、顧客からの信頼を失うリスクです。問い合わせた物件が「すでに決まった」と繰り返し案内されたり、来店時に広告と違う物件ばかり勧められたりすると、顧客は不信感を抱きます。その評価は店舗単位にとどまらず、企業全体の印象にも影響するでしょう。
加えて、否定的な体験談は口コミやSNSであっという間に拡散されます。一度悪い評判が広がると、しばらくの間は来店数や問い合わせ数の減少が続く可能性も否定できません。不動産会社にとって、「誠実に相談に乗ってくれる」という信頼は何よりも重要なお客様資産です。おとり広告は、その信頼を自ら手放してしまうリスクの高い行為だと理解しておく必要があります。
行政処分や罰則の適用
おとり広告が悪質と判断された場合、行政処分や罰則の対象となる可能性があります。具体的には、行政からの指導・改善勧告に加え、措置命令や業務停止命令、さらに悪質なケースでは免許取消処分に至ることもあります。
これらの処分は営業活動に直接的な制約を与えるだけでなく、金融機関からの信用低下や取引先との関係悪化、人材採用への影響などにつながりかねません。実際には目に見えなくても、結果的に損失も大きくなるでしょう。
また、一度行政処分を受けると、再発防止策として内部監査や社内研修、システムの導入など追加のコストが発生します。コンプライアンス違反は「発覚したら損」ではなく、「発覚する前からすでに損をしている」という意識を持つことが重要です。
なぜおとり広告は発生してしまうのか?
おとり広告は、意図的な違反だけでなく、業務フローや管理体制の不備によっても生じます。実際の現場では、担当者の知識不足や属人的な運用、チェック体制の不十分さが複合的に重なり、結果としておとり広告につながってしまうケースが少なくありません。
ここでは、おとり広告が発生する主な要因を紹介します。
担当者の知識・モラルが不足しているため
おとり広告が発生する背景には、担当者が基本的なルールや法的な位置づけを十分に理解していないことがあります。たとえば、「更新が遅れただけだから問題ない」と軽く考えてしまったり、景品表示法や宅建業法で定められているNGラインを把握していなかったりするケースです。また、従業員がノルマや集客プレッシャーから、「少しくらいなら大丈夫だろう」という判断が働いてしまうかもしれません。
こうした状態では、悪意がなくても不適切な広告につながるリスクが高まります。特に、法令や業界ルールに関する教育・研修が定期的に行われていない会社では、この問題が表面化しやすくなります。
属人的な情報管理に依存しているため
物件情報が担当者ごとにExcelや紙の資料、メールフォルダなどへ分散して管理されている場合、どうしても更新漏れが発生しやすくなります。管理台帳の形式が営業担当者ごとにバラバラであったり、成約やキャンセル情報が社内で共有されるまで時間差が生じたりすることも珍しくありません。また、ポータルサイト・自社サイト・店頭POPがそれぞれ別々に管理されているケースでは、どれか1つの更新が遅れただけで情報の整合性が崩れてしまいます。
このように属人的な管理体制だと、「誰かが更新し忘れた」という単純なミスでも、おとり広告に該当する状況が生まれてしまいます。担当者の善意や注意力だけに依存した運用には、どうしても限界があると言えるでしょう。
広告出稿のチェック体制が機能していないため
広告の掲載前後に行うチェックプロセスが形だけになっているケースも、おとり広告の発生要因としてよく見られます。たとえば、掲載前の確認が形式的なダブルチェックにとどまり、実質的には誰も内容を精査できていなかったり、掲載後の棚卸しや在庫確認が定期的に行われていなかったりする場合です。また、NG表現集やガイドラインが準備されていても、現場に十分浸透していなければ意味を成しません。
このように、チェックの仕組み自体があってもルールが煩雑だったり、ITツールと連携していなかったりすると実効性が低くなります。おとり広告を防ぐためには、「人による確認」と「システムによる仕組みづくり」の両方を組み合わせることが欠かせません。
おとり広告を防ぐための具体的な対策
おとり広告を限りなくゼロに近づけるためには、担当者の意識だけに頼るのではなく、業務プロセス全体と運用の仕組みそのものを整備することが重要です。
ここでは、現場で実践しやすく、効果が出やすい対策を3つ紹介します。
物件情報の正確性を担保する
おとり広告を防ぐ上で基本となるのが、物件情報を常に正確な状態に保つ仕組みを整えることです。登録・更新のフローを明確にし、成約や解約があった際にはどのタイミングで情報を更新するかを定めておくことで、更新漏れを防ぎやすくなります。また、ポータルサイト・自社サイト・店頭資料をそれぞれ別管理にするのではなく、可能な限り一元化されたシステムで扱うことも、精度を高める上で欠かせません。
さらに、一定期間以上更新されていない物件を自動的に非表示にする仕組みを導入すれば、「気づいたら古い情報が残っていた」という事態も避けられます。基幹となる物件管理システムに情報を集約し、各媒体へ自動連携する仕組みを構築できれば、情報更新の抜け漏れを大幅に削減できるでしょう。
広告の表現ルールを社内で統一する
おとり広告を防ぐには、広告表現の基準を社内で統一し、誰でも適切に判断できる状態にすることが重要です。景品表示法や宅建業法に沿ったNG表現をリスト化し、実際に使われるキャッチコピーのOK例・NG例をセットで共有すれば、現場で迷う場面が減ります。また、「駅徒歩」「専有面積」「設備」「費用」など、解釈がブレやすい項目については、共通の表現ルールを定めると情報のばらつきがなくなるでしょう。
新人向けには、過去の不適切事例を元にしたチェックシートやミニテストを用意しておくと理解が定着しやすく、実務での誤りも減少します。なお、ルールを厳密にしすぎるとかえって現場の負担が増えるため、「絶対に避けるべきレッドライン」と「迷ったら相談するグレーゾーン」に分けて整理することが、運用しやすい体制づくりのポイントです。
担当者へのコンプライアンス研修を実施する
おとり広告の発生を抑えるには、担当者が法令や業界ルールを正しく理解するためのコンプライアンス研修を継続して行う必要があります。まずは景品表示法・宅建業法の基礎や、おとり広告に該当する具体的な行為を丁寧に解説し、判断基準を明確にします。さらに、行政処分の実例やニュースを題材にディスカッションすることで、ルール違反が企業にどのような影響を与えるのかを実感しやすくなる研修内容にすることが重要です。
研修では自社の運用フローを見直し、どこにリスクが潜んでいるかを洗い出す作業も効果的です。eラーニングや確認テストを組み合わせて学習内容を定着させ、継続的にレベルを引き上げていきます。また、法改正や社内規定の変更があれば研修内容を随時アップデートし、現場の認識を最新の状態に保つことで、おとり広告の発生確率を着実に下げられるでしょう。
ITツール導入がおとり広告防止と業務効率化につながる理由
おとり広告の防止は、担当者の注意力や意識だけに依存していては限界があります。そこで有効なのが、ITツールを活用して情報更新やチェック作業を仕組み化する方法です。
ここでは、ITツール導入がおとり広告防止と業務効率化につながる理由を解説します。
リアルタイムな情報更新が可能になるため
物件管理システムや不動産向けクラウドツールを導入すると、最新の物件情報を一元管理し、各媒体へ自動的に反映できるようになります。成約や解約といったステータス変更が即座に自社サイトやポータルサイトへ反映されるため、古い情報が残るリスクを大幅に抑えられるでしょう。
また、更新日や掲載期限をシステム側で自動管理できるため、期限切れの物件が掲載し続けられる状態も回避できます。こうした仕組みにより、「すでに成約していた物件が1週間以上掲載されていた」といったトラブルを防げます。
広告表現の自動チェックが利用できるため
近年の不動産向けITツールには、広告表現の誤りや不適切な文言を自動で検知する機能を備えたものが増えています。景品表示法や宅建業法に抵触しやすい表現を見つけてアラートを出したり、自社で設定したNGフレーズに一致した場合に警告を表示したりと、担当者では気づきにくいポイントをシステム側が補完してくれるため、運用精度を高めやすいのが特徴です。
また、家賃や面積などの数値項目についても整合性を自動チェックできるため、入力ミスや情報の矛盾を早い段階で防げます。最終的な判断は人が行いつつ、初期チェックをツールに任せることで、ヒューマンエラーの発生を大幅に減らすことが可能です。
人的ミスを最小限に抑えられるため
ITツールの導入は、単に作業を効率化するだけでなく、人的ミスそのものを構造的に減らす仕組みづくりにつながります。入力必須項目を設定しておけば、必要な情報が抜け落ちるのを防げるほか、ワークフロー機能を活用すれば「作成→チェック→承認」というプロセスが標準化され、担当者ごとの判断や対応のばらつきも解消できるでしょう。
また、更新履歴が自動で記録されるため、誰が・いつ・どの項目を変更したのかを追跡でき、情報更新の齟齬が発生しにくくなります。こうした仕組みを整えることで、「更新したと思っていたが実は誰も作業していなかった」という事態を防ぎつつ、おとり広告対策と日常の運用効率化を同時に図れます。
信頼される広告運用でコンプライアンスと効率化を両立しよう
おとり広告とは、実際と異なる条件で消費者を誘引する不適切な広告で、景品表示法や宅建業法で禁止されている行為です。誤表示や成約済み物件の掲載は信頼低下や行政処分につながります。防止には、情報管理の徹底、広告表現ルールの統一、継続的な研修に加え、ITツールによる自動チェックが有効です。仕組みと効率化を組み合わせ、選ばれる不動産会社を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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