- 作成日 : 2025年12月24日
賃貸物件の仲介手数料とは?金額の上限や相場・交渉のコツを解説
賃貸の仲介手数料は、上限や負担割合が法令で細かく定められています。誤案内や不適切な広告表示はトラブルだけでなく法令違反につながるため、正確な理解が不可欠です。居住用の片側上限、事業用の取扱い、空き家等特例、公的賃貸での手数料不要など例外も多く見られます。
当記事では、上限ルールや相場、特例の判断基準、広告表示の注意点、書面整合の確認項目を整理し、実務の正確性向上に役立つ知識を解説します。
目次
賃貸の仲介手数料とは?
賃貸の仲介手数料は、宅地建物取引業者が媒介の対価として受け取れる報酬で、原則は契約成立後に請求されます。制度の位置付け、支払時期、共益費などとの違いを整理します。ここでは概要を示します。
仲介手数料の位置付けと発生要件
仲介手数料は、宅地建物取引業者が行う媒介業務に対する対価として位置付けられています。物件紹介や条件調整、契約書類作成の補助など、契約成立までの取引支援が対象で、手数料は契約が成立した時点で発生する成功報酬です。契約に至らなければ請求できず、報酬額は宅地建物取引業法や国土交通省告示により上限が定められています。
また、手数料は媒介契約に基づき受領するもので、依頼者との合意が前提です。これに対し、業者が自ら貸主となる取引は媒介に当たらず、仲介手数料は発生しません。広告費などの実費を請求する場合は、事前の同意が必要です。
仲介手数料の支払時期
仲介手数料の支払時期は、原則として賃貸借契約が成立した時点(重要事項説明と契約書締結後)です。申込時に預かった金銭を手数料に充当する場合でも、契約不成立なら全額返還が原則です。
早期請求や前受けはトラブルの原因となるため、請求根拠・金額・支払期日・振込先を見積書や請求書で明示し、領収書を発行します。更新時は仲介手数料ではなく、別途「更新事務手数料」を設定する運用が見られますが、その要否・金額は契約や募集条件の合意に従います。
法人契約では締め払い・検収書式の指定があるため、社内稟議書類の様式に合わせて対応します。支払方法は銀行振込やカード決済、現金などがあり、振込手数料の負担者や領収書の宛名・但し書きを事前に確認すると円滑です。
共益費や管理費との違い
共益費・管理費は、共用部の光熱清掃や建物運営に要する費用を毎月賃料と併せて支払う継続費用であり、貸主(管理者)が受け取って建物維持に充当します。一方、仲介手数料は賃貸借成立までの媒介業務に対する一度きりの成功報酬で、受領者は宅建業者です。手数料の上限算定の基礎は「月額賃料」であり、共益費・管理費・礼金・敷金は含めません。
したがって、賃料6万円・共益費1万円の募集であれば、上限は賃料6万円を基礎に0.55か月(片側)または1.1か月(一方のみの承諾時)となります。仲介手数料は消費税の課税対象である点も相違点です。また、手数料は契約成立の対価であり、解約の有無にかかわらず原則返還されません。
仲介手数料の上限の基本ルールは?
仲介手数料の上限は、宅建業法と告示で定められています。合計で受け取れる上限と、居住用賃貸における片側上限には特有のルールがあります。ここでは、実務で間違えやすい基本ルールを整理します。
合計の上限は賃料1か月分の1.1倍
仲介手数料の総額は、貸主・借主の双方から受領した合計が「月額賃料の1.1か月分(消費税込)」が上限です。礼金や敷金、共益費は上限算定の基礎に含めません。仲介手数料は「貸主+借主あわせて家賃の1.1か月分が法律上の絶対上限」です。超過分の請求や、契約前の前受け・成功報酬化の否定はトラブルの原因になります。
請求額・根拠・負担内訳を見積書と重要事項説明で明示し、領収書を必ず発行します。上限の基礎となる「賃料」は住戸の月額賃料を指し、駐車場を別契約で貸す場合は原則含めません。住居と駐車場を一体で貸す場合は、賃料全体を基礎に計算します。税率改定があれば上限の税込額も連動して変わるため、見積時点の税率で算定することが重要です。
居住用で片側が負担できる上限は0.5か月もしくは1か月分の1.1倍
居住用建物の賃貸を仲介する場合、片側当事者から受領できる上限は原則「月額賃料の0.55か月分(消費税込)」です。貸主・借主の双方から受領するなら、それぞれ0.55か月分までとして合計1.1か月分に収めます。
一方のみから受領する場合であっても、相手方からは一切受領しないこと、依頼者の事前承諾を得ること、上限・根拠を説明することを満たせば、1.1か月分まで受領できます。承諾は口頭でなく書面化し、見積書・請求書・重要事項説明の記載を整合させます。なお、この0.55か月の特則は居住用に限られ、事業用賃貸は片側1.1か月分までが上限です。更新時の「更新事務手数料」は仲介手数料とは法的性質が異なるため、額や要否は契約上の合意に基づきます。
片側で1か月分の1.1倍にできる条件
片側のみから「1.1か月分」を受領するには、以下の3条件を満たす必要があります。
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申込時や重要事項説明の場で文書化し、募集図面や見積書、請求書の金額と一致させます。口頭のみや、依頼者が不利益を認識していない同意は無効と評価される恐れがあります。割増し目的の過大請求や、成功報酬でない前受けは避け、領収書と説明記録を保存します。
また、対象は居住用建物の賃貸に限られます。事業用では片側1.1か月分までが通常上限であり、特則は不要です。消費税率の変更や賃料改定がある場合は、承諾の再確認と金額の再計算を行い、差額請求や返金が生じないように管理します。
仲介手数料の金額相場は?
仲介手数料の上限は、貸主・借主双方から受領した合計が、住居用賃貸の場合「月額賃料×1.1か月分(税込)」以内とされています。実際の取引では、借主から1.1か月分を受領するか、貸主・借主の双方からそれぞれ0.55か月分ずつ受領するケースが一般的です。
なお、片側のみから受領する場合は、相手方から一切受領しないことを条件に、依頼者の承諾を得て1.1か月分まで請求することが可能です。一方で、礼金や敷金、共益費などは算定の基礎に含まれず、あくまで「住戸の月額賃料」を基準として上限を判断します。
契約が成立しなければ仲介手数料は発生せず、不成立時の手数料請求は認められません。申込時に預り金として受け取る場合でも、不成立時は全額返還が前提であり、成功報酬でない形での前受けはトラブルや違法リスクにつながります。したがって、請求内容・金額・負担割合を明確に説明し、領収書や見積書で確認することが安心です。
空き家等特例の確認ポイント
長期間利用されていない空き家や低価格の住宅を扱う場合、仲介手数料には特例が設けられています。適用には明確な要件と合意が必要で、通常上限を超える報酬も条件付きで認められます。ここでは、特例の適用可否を判断するための重要なポイントを解説します。
長期の空き家等の該当要件
「長期の空き家等」とは、現に人の居住や使用の実態がなく、今後も使用の見込みが乏しい宅地建物を指します。具体的には、長期間(少なくとも1年以上)、光熱水費の契約が停止している物件や、相続後も管理のみ行われている家屋などが該当します。
国土交通省の通達では、こうした物件を流通させる目的で、通常より高い仲介手数料の上限を認めています。適用の可否を判断するには、所有者へのヒアリング、利用履歴、管理状況、賃貸募集の有無などを確認することが重要です。該当性を誤ると過大請求とみなされる恐れがあるため、媒介契約書や社内記録に事実を明確に残すことが求められます。媒介契約時に特例適用の可能性を説明し、依頼者からの同意を取得した上で手続きを進めることが実務上の基本です。
特例適用時の上限と合意の必須事項
空き家等特例が適用される場合、賃貸の媒介で受け取れる報酬上限は「月額賃料の2.2か月分(税込)」まで引き上げられます。売買においても、800万円以下の「低廉な空き家」では報酬上限を「30万円の1.1倍(税込)」までとすることが可能です。いずれの特例も、媒介契約締結時に依頼者へ内容を説明し、報酬額・算定基礎・適用理由を明確に合意しておくことが前提です。
合意の書面化は必須であり、重要事項説明書・見積書・請求書の金額を一致させ、証跡を残すことが求められます。特例を適用する場合は、通常ルールとの差異を明確に説明し、依頼者が不利益を被らないよう十分な理解を得ることが重要です。
該当と非該当の判断例
空き家等特例に該当するのは、長期間空室で居住や賃貸の見込みがない家屋、相続後も利用予定がない家屋、または放置によって劣化が進んでいる家屋などです。公共料金の契約停止や郵便物の未配達など、実際の居住実態を示す資料が判断の目安になります。一方、短期間の空室で入居者募集を継続している場合や、将来的に建替え・自己利用の予定がある場合は非該当となります。
売買では、物件価格が800万円を超える場合は「低廉な空き家」に該当しません。適用の可否は、物件の利用実態・所有者の意向・管理状況を総合的に判断し、確認書類を社内決裁資料として保管します。国土交通省の指針では、適用誤りは行政処分の対象となる恐れがあるため、慎重な判断と書面記録が不可欠です。
仲介手数料が無料や半額になる主な仕組み
仲介手数料が無料や半額と表示される背景には、仲介を介さない申込経路や、費用を誰が負担するかという実務上の仕組みがあります。ここでは、代表的なパターンと確認すべき注意点を簡潔に整理します。必要項目だけ押さえましょう。
公的賃貸で仲介手数料が不要となるケース
UR賃貸住宅・JKK住宅・公営住宅など公的賃貸は、仲介会社を介さず管理主体が直接募集・契約を行うため、仲介手数料の対象になりません。自社サイトへの掲載や来店客への紹介を行う際は、「手数料無料=初期費用がゼロ」ではない点を明確に説明し、誤解によるクレームを防ぐことが重要です。
敷金・前家賃・鍵交換費・火災保険料など、入居時に必要となる費用は物件ごとに異なるため、最新の募集要項を必ず一次情報で確認します。また、URでは礼金・更新料が不要のケースが多いものの、制度変更や物件区分により条件が異なります。不動産会社としては、公的賃貸を紹介する場合の説明資料や費用一覧を整備し、問い合わせ内容を記録化しておくことで、接客の品質とリスク管理の両立を図れます。
貸主負担や自社管理で低額化するケース
民間賃貸では、貸主が客付け会社へ広告料(AD)を支払う取引や、管理会社が自社で募集するスキームにより、借主負担の仲介手数料を無料・半額に設定するケースがあります。
元付直募集や貸主代理契約の場合は、借主側の媒介が発生しないため、手数料を請求しない運用が可能です。オーナーや・管理者としては、低額化の方針を採用する際、社内での説明基準・見積書の書式・重要事項説明との整合性を統一し、任意サービス(室内消毒・24時間サポートなど)の扱いを明確にすることが不可欠です。任意性が曖昧なまま必須化するとトラブル要因となるため、費用の根拠・受領者・税込額の区分を明示し、フリーレントなど賃料施策との内訳管理も徹底します。
仲介手数料の広告で注意したい表示や条件の確認事項は?
仲介手数料の広告では、景品表示法と宅建業法の両面で適正な表示が求められます。誤認や苦情を防ぐためには、表示の根拠や適用条件、算定基礎を事前に精査することが重要です。媒体ごとに表現が異なるため、確認体制を整えることが求められます。ここでは注意点を整理します。
半額や無料の表示で確認すべき根拠
「半額」「無料」と表示する場合は、実際に誰がどの費用を負担するのか、その根拠を明確に説明できることが前提になります。典型的な例としては、貸主が客付け会社へ広告料を支払うケースや、管理会社が自社で募集を行う場合、または貸主の代理契約で借主側の媒介が発生しない場合などが挙げられます。表示する際は、以下を明示する必要があります。
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また、室内消毒や24時間サポートなどの任意サービスを、手数料の代わりに必須化する事例は誤認を招きやすく、任意性や料金を明確に区分して表示することが欠かせません。仲介手数料は成功報酬であり、前受けは認められていないため、見積書・重要事項説明・請求書の金額整合と返金条件の明示も必要です。広告媒体によって字数制限がある場合は、詳細ページへ誘導し、社内審査や監修日付の管理も徹底します。
おとり広告の典型例
おとり広告の典型例としては、以下のようなものがあります。
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防止するためには、在庫情報の即時更新、表示根拠の保存、注記の近接記載(本文と同等の視認性)、任意費用の明確な区分、適用外条件(法人契約・特定経路のみなど)の明示が必要です。問い合わせ獲得を目的とした“釣り”表示は景品表示法や宅建業法の観点からリスクが高く、社内での広告チェック体制や監査を強化することが重要です。
さらに、ポータルサイトだけでなく、SNS広告やリスティング広告も同じ基準で管理し、証跡化・是正フロー・営業スタッフへの教育を組み込みます。違反が生じた場合は行政指導や信用の失墜につながる可能性があるため、定期的なレビューと改善を継続することが求められます。
交渉の進め方と事前チェック
仲介手数料や付随費用の交渉では、事前の合意事項と根拠の確認が成否を左右します。誤認や齟齬を避けるための基本手順を押さえることが重要です。ここでは交渉の進め方と事前チェックの要点を示します。
媒介依頼前後に確認すべき承諾内容
媒介依頼の前後では、手数料の負担者・料率・算定基礎(住戸の月額賃料のみ/税込)を明確にし、居住用で片側のみから受領する場合は「相手方からは受領しない旨」と「依頼者の承諾」を事前に確認します。支払時期(契約成立時)と前受け不可、返金の要否、任意サービス(室内消毒・サポートなど)の任意性も書面化します。
ADなどの広告料の有無と受領先、駐車場を別契約とする場合の扱い、更新時の事務手数料の要否、見積・重要事項説明・請求書の金額整合、承諾書の保管責任を合意し、記録に残します。法人契約では検収・締め支払い条件、請求先名義、振込手数料の負担も確認します。キャンペーンや半額表示がある場合は期間・対象物件・申込経路・併用可否を注記し、総額表示と根拠資料の保存、説明者の氏名・日時を台帳に記録して、後日の紛争予防に備えます。
見積と請求書で確認する項目
見積書では、手数料の計算式(賃料×率)、税込額、根拠(片側0.55か月/合計1.1か月、片側1.1か月は承諾有り)を明示し、算定基礎が住戸の月額賃料で、共益費などは含めない旨を注記します。任意で追加するサービスに関しては名称・単価・任意性を別行で表示し、フリーレントなどは手数料と区分して記載します。
請求書では支払期日、振込先、振込手数料の負担、領収書の宛名・但し書きを特定し、契約不成立時の返金条件、相手方からは受領しない旨(該当時)を明記し、見積・重説と金額を一致させます。駐車場を別契約で媒介する場合は計上区分を分け、対象外である旨を整理します。広告料(AD)や更新事務手数料は受領者・負担者・税区分を明示し、相殺の有無も記載します。法人契約では検収書式・請求先部署・締め支払い条件を反映し、請求番号・案件ID・説明者名、承諾書写しを添付し、内部統制の証跡として保存します。
仲介手数料の実務を正しく押さえ、表示と交渉を適正化しましょう
賃貸の仲介手数料は成功報酬で、支払は契約成立時とし、上限は居住用で片側0.55か月・合計1.1か月(片側1.1か月は相手方無受領と承諾が必要)と定められています。共益費は算定外とし、見積・重説・請求を同額で整合させます。広告は無料・半額の根拠と条件を記載し、おとり表示を避けます。
公的賃貸や空き家等特例の有無、法人の検収条件、証跡保存も事前に確認します。駐車場を別契約とする場合は基礎から除外し、自社で任意するサービスは任意性と料金を明示します。不成立時の返金条件や振込手数料の負担も書面で確認すれば、法令違反やトラブルを避けられるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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