• 作成日 : 2025年9月9日

会社売却後の人生は?選択肢や影響、メリットを解説

会社を長年経営してきた経営者にとって、会社売却は人生の重要な転換点です。売却により経済的な自由を得られる一方で、経営者としてのアイデンティティを失うことへの不安や、従業員や取引先への影響など、複雑な感情を抱く方も多いでしょう。

会社売却は単なる経済取引ではなく、その後の人生設計に大きな影響を与える決断です。この記事では、会社売却後の経営者の人生がどのように変化するのか、そのメリットとデメリット、さらには従業員や取引先に与える影響までを解説します。

会社売却後の人生はどうなる?

会社売却後、経営者の人生がどうなるかは状況や本人の希望、買い手との交渉によって変わります。従来はオーナー経営者が年齢などを理由に、売却と同時に引退するケースが一般的でした。しかし近年は、引退だけでなく、売却後も社長や会長職、もしくは譲渡先の役員等として残り、会社の成長に引き続き携わるという選択肢も珍しくありません。

売却後も経営に参画するケース

会社売却後、役員や代表としてそのまま働き続けることができる場合があります。これは本人の希望や買い手側からの要望で会社に残るケースが多く、また、会社売却時の契約によって、立場や任期が指定されるケースもあります。

このような場合、働き方は売却前と大きくは変わらない可能性があります。しかし、会社を売却したことで株主総会での議決権は無くなっているため、役員や代表としてその後ずっと残り続けることができる保証はありません。早い段階で、退任後の人生についても計画を立てておくことが重要です。

顧問として継続的に関与するケース

会社売却後も、顧問として継続的に関与し、会社との関係が続くケースがあります。売却後に事業の引き継ぎが求められる場面では、このような形態が取られることがあります。また、経営者本人が継続勤務を望む場合には、顧問としての役割が付与されることもあります。

培ったノウハウを引退後も活かしたいと考える経営者は、顧問として活動を始めるケースが多く見られます。自身の経営経験を若手に伝えて役立てたいという思いがあり、「経営者はいつまでも経営者だ」と感じる方が少なくありません。

完全リタイアによる新たな人生

会社売却後、経営者はリタイアして余暇を楽しむことも選択肢の一つです。これまで多忙な日々を送ってきた経営者にとって、引退後は家族との時間や趣味を楽しむ時間を持ちたいと考える方が多いでしょう。会社売却で得られた利益を生活費や投資に回すことで、経済的な安定を確保できる場合もあります。プライベートを充実させるのも、会社売却後の人生の選択肢の一つです。

新事業への挑戦

会社売却後、新しく会社を立ち上げる経営者もいます。会社を売却することで、まとまった資金を手にでき、その資金を新たな会社の立ち上げに充てられる可能性があります。オーナー経営者は保有株式を買い手に譲渡し、対価として現金を受け取ります。その資金をもとに新しい事業を始めるケースも増えており、これまでの経験を活かして類似事業に挑戦する場合もあれば、全く異なる業種・業界に進出することもあります。

会社売却による経営者へのメリット

経営者が会社売却によって得られる具体的なメリットについて説明します。

経済的自由の獲得

会社売却を実施すれば、その対価として経営者の手元にまとまったお金が入ってきます。得られた資金は、新たに取り組む事業の原資としたり、老後の生活資金として蓄えたりと、さまざまな用途に活用できます。会社売却の理由は「後継者がいないため」「さらなる成長を実現するため」「創業者利益を確保するため」など多岐にわたりますが、いずれの場合も経営者に一定の利益をもたらす点が特徴です。所有していた会社の株式を売却すると、オーナー社長は対価としてまとまった譲渡代金を得られる可能性があります。

個人保証からの解放

中小企業の経営者が金融機関から融資を受ける際、個人保証を求められることがあります。個人保証に応じると融資が受けやすくなる反面、資金難に陥った場合は、経営者の個人資産を切り崩すなど必要が生じます。

ただし、会社売却によって保証は買い手側に承継され、経営者は個人保証から解放されることになります。これにより、経営者個人の財産リスクが大幅に軽減されることになります。

後継者問題の解決

高齢化する日本で問題となっている後継者不足問題は深刻です。どれほど会社を残したいと願っても、後継者不在により断腸の思いで廃業を決断する経営者も多くいます。その点、会社売却によって買い手が見つかれば、後継者問題を解決できるだけでなく、築き上げてきた会社を未来に残すことが可能です。会社売却による経営権の移転により、事業の継続性を確保できることは大きなメリットです。

経営ストレスからの解放

経営者としての重い責任や重圧から解放されたいが、働くことによる充実感は得たい、といった場合に会社売却は有効な選択肢となります。日々の業務から解放される一方で、新たな目標を見つけることで心理的な空白を埋めることができます。

会社売却による経営者へのデメリット

会社売却により経営者が直面する可能性のあるデメリットについて詳述します。

喪失感と虚無感

会社売却後、経営者が喪失感を抱くことは少なくありません。長年築き上げた企業を手放すことで、自分のアイデンティティを失ったように感じるケースが多く見られます。経営者にとって会社は単なる職場ではなく、人生そのものに近い存在であることが理由です。とりわけ自ら創業した会社では、成長の歩みと人生が重なるため、売却後に「これから何をすべきか」と迷うことがあります。業務から解放される反面、目標を失って心理的な空白を抱える経営者もいます。

経営権の完全喪失

会社売却後は、社長は原則として経営者の立場を失うことになります。元の会社に戻ることはできないため、経営者としてやり残したことがある場合には、その喪失感がデメリットとして大きく感じられる点に留意すべきです。

安定収入の喪失

社長として働いている場合には役員報酬で毎月安定的な収入を得ることができます。会社売却後には、社長を退任することで、毎月の安定的な収入源を失うことになります。

引退する場合には、会社売却で得られた資金で、どれだけの期間をやり繰りできるのかシミュレーションしておくことが大事です。譲渡代金が期待より少なかった場合や、生活水準を維持できない場合は、新たな収入源を確保する必要があります。

競業避止義務による制約

会社売却時には、契約により、競業避止義務を課されるのが一般的です。競業避止義務とは、会社売却後に経営者が一定期間、買い手企業と同じ事業で競合する行為を行うことを禁止するものです。期間や営業エリアは、契約時の取り決めによります。

売却後、経営者として売却した事業と同じ領域の事業を新たに始めたい場合には、一定期間待たなければならないことを念頭に置いておきましょう。これは、新事業立ち上げを考えている経営者にとって大きな制約となる可能性があります。

会社売却が経営者以外にもたらす影響

従業員、役員、取引先など、経営者以外のステークホルダーへの影響について解説します。

従業員への影響

雇用の維持

会社売却において、従業員にとって最大のメリットは雇用が守られる点です。もし会社が廃業してしまえば、従業員本人だけでなく、その家族にも影響を与えます。しかし、売却を行えば、従業員はこれまでのキャリアを無駄にすることなく、新たな環境で仕事に取り組むことができます。

中小企業のM&Aでは、譲受企業の多くは従業員を含めた売り手企業の資産を評価した上で、株式取得を決めているため、多くのM&Aでは雇用の維持が前提とされます。しかし、経営統合の過程で機能が重複する部門などで、人員の再配置や整理が行われる可能性はあります。

労働条件の改善

また、買い手企業との関わりが増えることで、従業員のキャリアアップやスキルアップ、福利厚生の改善も期待できるでしょう。買い手企業は売り手企業よりも経営資源が豊富な場合が多いため、会社売却後は譲渡側の従業員の給与体系が買い手企業に合わせられることが一般的で、結果として給与が改善されるケースが少なくありません。

環境変化によるストレス

一方で、経営者が変わることで従業員の意欲が低下し、離職者が生じるケースも想定されます。

譲受企業の経営方針による変化へのストレスや将来への不安から、社員のモチベーションが低下し、最悪の場合には離職につながる可能性もあります。

役員への影響

役員は会社売却後も引き続き在籍するケースが一般的です。譲受企業の経営方針に従うことで、売却前とは業務内容や方針が変化する可能性はありますが、基本的には会社売却によって退職を迫られることはありません。

会社売却後の役員の処遇は、買い手の方針や個人の能力によって大きく異なります。経営のキーパーソンとして好条件で留任を求められる一方、新体制への移行に伴い退任を促されるなど、厳しい判断を迫られるケースもあります。

取引先への影響

譲渡企業が築き上げてきた取引先や顧客ネットワークを引き継ぐことは、譲受企業がM&Aを実施する主要な目的の一つです。一般的に取引先との関係維持はM&Aの交渉条件にあらかじめ盛り込まれ、会社売却後も継続されるケースが一般的です。

ただし、多くの中小企業では前オーナー経営者とのつながりが取引先との関係に大きく影響するため、オーナーの退任が取引に悪影響を及ぼす可能性があります。その結果、経営者交代のタイミングで取引中止を申し出られることも考えられます。こうした事態を防ぎ、会社売却後も安定した取引を続けるには、取引先に対して事前に十分な説明を行うことが重要です。売却の経緯や、買い手企業が信頼できる存在であることを理解してもらう必要があります。

会社売却の注意点

会社売却を成功させるために経営者が注意すべき重要なポイントについて説明します。

売却タイミングの重要性

会社売却後の人生を豊かにするためには、会社売却自体を成功させなければなりません。その鍵となるのが、会社売却を行うタイミングです。

タイミングを間違えると買い手がなかなか見つからなかったり、得られるはずだった高い譲渡代金をみすみす逃してしまったりといったデメリットが生じてしまいます。現在、M&A市場は売り手市場となっていますが、買い手は交渉するうえで値下げを迫ってくる可能性があります。

希望条件の現実的な設定

希望通りの会社売却ができるとは限りません。できるだけ高い価格で売りたい気持ちはわかりますが、あまりにも売却額にこだわりすぎていると買い手は買収を止めてしまう恐れがあります。ときには譲歩することも大切です。

売却価格だけでなく、従業員の処遇や取引先との関係維持など、総合的な観点から売却条件を検討することが必要です。

従業員への適切な情報開示

従業員とのトラブルを避けるには、適切な情報開示とフォローが重要です。会社売却に伴う情報開示の場では、オーナーや譲受け企業が売却の背景と今後の方針を丁寧に説明し、不安を解消するフォローを行うことが重要です。

従業員への情報開示は、不確定な情報による混乱を避けるため、最終契約の締結後に行うのが一般的です。ただし、最適なタイミングは状況によるため、キーパーソンへの事前相談など、慎重な計画が求められます。

買い手企業の慎重な選定

会社売却後の社員や取引先のことも考えて売却先を選定する必要があります。会社売却は、自分だけが高値で売却できれば良いというものではなく、関係するすべてのステークホルダーが幸せになれる取引であることが求められます。

経営者としてできることの一つは、買い手企業の文化や社風を事前に確認し、社員との相性を考慮しておくことです。重要な人材が流出してしまえば、会社の存続にとっても大きな痛手になります。社員や取引先のことを大切に考えてくれる買い手候補を探す努力が大切です。

専門家の活用

会社売却は一人の力で成功させるには難度が高すぎます。会社売却の成功確率を高めるためには、信頼できるM&A仲介会社、FAなどの会社売却の専門家やM&Aマッチングサイトを活用することが重要です。自社の規模や業種に合ったM&Aサービスを利用するようにしましょう。

情報開示で話す内容、表現、タイミングなどは経験豊富な外部の専門家のアドバイスを仰ぐとよいでしょう。

会社売却後の人生として豊かなセカンドライフを

会社売却は終わりではなく、新たな人生の始まりです。

会社売却をゴールではなく新たな挑戦の出発点と捉えることで、経営者のキャリアは一層広がっていきます。実際に、売却を契機に新事業へ挑戦したり、投資や社会貢献活動に取り組むことで喪失感を乗り越えた事例は少なくありません。

会社を売却すると、会社はもちろん、経営者や社員などあらゆるステークホルダーにプラスやマイナスの影響を及ぼします。そのため、会社売却を成功に導くためには、メリットを最大化させるようにしながら、リスクを回避することが大切です。

経営者にとって、会社は単なるビジネスではなく、人生の一部です。売却後のキャリアや生活がどう変わるのか、どのようなメリットやデメリットがあるのかを知っておくことは、後悔しない決断をするために不可欠です。十分な準備と計画により、会社売却後も充実した人生を送ることができるでしょう。


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