• 作成日 : 2025年6月16日

跡継ぎとは?「後継ぎ」との違いや求められる資質、選び方について徹底解説

近年、「跡継ぎ」や「後継者」という言葉が、中小企業を中心に大きな注目を集めています。その背景には、日本社会における喫緊の課題である経営者の高齢化が深く関わっています。

この記事では、このような背景を踏まえ、「跡継ぎ」という言葉の基本的な意味から、「後継ぎ」との違い、求められる資質、具体的な選び方、そしてもし見つからない場合の選択肢までを解説します。

「跡継ぎ」とは?

「跡継ぎ」とは、一般的に、家業や財産、地位、権利などを引き継ぐ人を指す言葉として用いられます。

まず、「跡継ぎ」という言葉が持つ基本的な意味合いと、事業承継という文脈においてどのように定義されるのかを解説します。また、「後継ぎ」という言葉との使い分けやニュアンスの違いについても詳しく見ていきましょう。

事業承継における跡継ぎ

特に、血縁関係のある者が代々受け継いできたものを引き継ぐ場合に、「跡継ぎ」という言葉が使われることが多い傾向にありますが、M&A業界においても「跡継ぎ」という言葉は使われます。その意味合いは、単に財産を引き継ぐだけでなく、先代経営者の築き上げてきた事業そのものを受け継ぎ、さらに発展させていくという役割を担う人物を指すことが多くなっています。

事業承継は、会社の経営者が引退する際に、その地位や経営権を後継者に引き継ぐ一連の手続きを指します。現代の事業承継においては、「跡継ぎ」は、単に有形資産を受け継ぐだけでなく、会社の理念やビジョンといった無形の資産をも承継し、事業の継続と成長という重要な使命を担う存在として捉えられています。

「後継ぎ」との違い

「跡継ぎ」とよく似た言葉に「後継ぎ」があります。どちらの言葉も「あとつぎ」と読み、前任者の後を引き継ぐという意味合いを持っていますが、細かく見ると、引き継ぐ対象に違いがあります。一般的に、「後継ぎ」は、事業、学問、地位、役割など、前任者の後を継ぐことを広く意味し、相続を前提としない場合にも用いられます。例えば、企業内での役員交代や、学問や技術を受け継ぐ場面では「後継ぎ」という言葉が用いられます。

一方、「跡継ぎ」は、「後継ぎ」よりも相続者としての意味合いがより強く込められています。財産や事業、権利関係を引き継ぐという意味合いが強く、一家代々で経営してきた事業を長男が引き継ぐような場合に「跡継ぎ」と呼ぶことが多いです。つまり、「跡継ぎ」は、相続という側面をより強調した言葉と言えるでしょう。

ただし、現代のビジネスシーンにおいては、「跡継ぎ」と「後継ぎ」の使い分けは必ずしも厳密ではなく、曖昧に使われることも少なくありません。特に、親族以外の第三者が事業を引き継ぐ場合、「跡継ぎ」よりも「後継ぎ」という言葉が使用される傾向があります。重要なのは、文脈に応じてどちらの言葉がより適切かを理解しておくことです。

跡継ぎ探しと育成にかかる時間

事業承継を成功させるためには、適切な「跡継ぎ」を見つけ、育成していくことが不可欠ですが、これには一般的に長い時間が必要とされます。中小企業庁の調査によると、事業承継の準備には平均して5年から10年程度の期間を要するとされています。

特に、後継者として必要な知識やスキルを習得させ、経営者としての自覚を育むためには、十分な時間をかけた計画的な育成が重要となります。後継者候補の選定から始まり、実際の経営を担えるようになるまでには、様々な経験を積ませる必要があり、一朝一夕には達成できません。そのため、事業承継を検討し始めたら、なるべく早い段階から「跡継ぎ」となる人材を探し始め、長期的な視点で育成に取り組むことが大切です。この長期的な視点は、M&Aを事業承継の手段として検討する場合にも重要であり、買収後の統合プロセスや後継者の育成計画を考慮に入れる必要があります。

跡継ぎに求められる資質

事業を繋げていくためには、どのような資質を持った人物を「跡継ぎ」として選ぶかが非常に重要になります。ここでは、一般的に「跡継ぎ」に求められる主要な資質について解説していきます。

1. 事業への情熱と覚悟

「跡継ぎ」として最も重要な資質の一つは、事業への深い情熱と強いコミットメントです。会社の理念やビジョンに共感し、それを自身のものとして受け継ぎ、実現に向けて努力する覚悟が求められます。事業への情熱は、金融機関や取引先、そして従業員からの信頼を得る上で非常に大きな力となります。後継者が事業に情熱を持って取り組む姿勢を示すことで、周囲の信頼感が高まり、スムーズな事業承継へと繋がります。

また、経営者としての覚悟と責任感は、予期せぬ困難に直面した際に、事業を諦めずに最後までやり抜くために不可欠です。たとえ最初は情熱を持てなかったとしても、会社の歴史や成長の軌跡を知ることで、後継者自身が徐々に会社への思いや情熱を築き上げていくことも可能です。M&Aにおいても、買収先の経営者が事業に情熱を持っているかどうかは、買収後の事業の成長を左右する重要な要素となります。

2. 組織を導く力

組織を率いていくリーダーシップと、周囲を惹きつけ、まとめる求心力も、「跡継ぎ」に不可欠な資質です。リーダーシップは、単に指示を出すだけでなく、従業員一人ひとりの能力を引き出し、組織全体を目標達成に向けて導く力です。

また、従業員や取引先といった多くの関係者との間に信頼関係を築き、困難な状況においても組織をまとめ、前に進めていく求心力も重要となります。経営には、専門知識や実務経験も重要ですが、それ以上に、周囲の人々の意見を尊重しながら、組織をまとめていく統率力が求められます。M&A後においては、異なる企業文化を持つ組織を統合し、新たな目標に向けて一つにまとめるリーダーシップが特に重要になります。

3. 経営に関する知識と判断力・柔軟性

現代の経営環境は常に変化しており、その変化に対応し、未来を切り拓くためには、幅広い経営に関する知識と的確な判断力が必要です。マーケティング、経理、財務、法務など、経営に必要な知識は多岐にわたります。また、常に新しい情報にアンテナを張り、時代のニーズを捉え、変化に柔軟に対応できるスピード感も求められます。

困難な状況においても、冷静に情報を分析し、最適な決断を下す意思決定力も不可欠です。後継者を選ぶ際には、一般的な経営知識だけでなく、自社の事業に関する専門知識や実務経験も重視する傾向があります。M&Aにおいては、買収先の経営者が、自社の事業だけでなく、業界全体の動向を理解し、適切な経営判断を下せる能力を持っているかを見極めることが重要です。

4. コミュニケーション能力

「跡継ぎ」には、社内外の様々な関係者と円滑なコミュニケーションを図る能力が不可欠です。従業員とは、経営理念や目標を共有し、信頼関係を築きながら、組織を活性化していく必要があります。取引先とは、良好な関係を維持し、互いに協力しながら事業を進めていくことが重要です。また、株主や金融機関といった関係者に対しても、会社の状況を正確に伝え、理解と協力を得るためのコミュニケーション能力が求められます。

経営理念や思いを言葉で伝え、社内外で良好な人間関係を構築できる高いコミュニケーション能力は、事業承継を成功させるための重要な要素となります。M&Aにおいては、買収先の経営者が、自社の従業員や取引先とスムーズにコミュニケーションを取り、信頼関係を構築できる能力を持っているかが、統合後の事業運営を左右するポイントとなります。

5. 誠実さと責任感・信頼できる人間性

経営者として、何よりも重要な資質の一つが、誠実さと強い責任感です。高い倫理観を持ち、常に誠実な態度で仕事に取り組むことで、社内外からの信頼を得ることができます。また、自身が下した判断に対して、最後まで責任を持ってやり遂げるという強い責任感も求められます。

従業員や顧客、取引先といった多くの人々の生活を背負う覚悟を持ち、責任感を持って業務を遂行できる人間性を見極めることが重要です。誠実さと責任感は、経営者としての信頼を築き、長期的な事業の発展に不可欠な基盤となります。M&Aにおいては、買収先の経営者の誠実さや責任感は、デューデリジェンス(買収監査)において重要な評価ポイントとなります。

事業承継の方法

事業承継の方法は多岐にわたりますが、ここでは主な継承方法として、親族内承継、従業員承継、外部からの招聘・M&Aの3つを取り上げ、それぞれのメリットとデメリットを比較検討します。

親族内継承

親族内承継は、経営者の子供や親族に事業を引き継ぐ方法です。

メリットデメリット
企業理念や文化をスムーズに引き継ぎやすい親族に後継者候補がいない場合がある
取引先や周囲の理解を得やすい後継者以外の親族との間でトラブルが生じる可能性がある
相続税や贈与税の優遇措置を活用しやすい後継者も債務や個人保証を引き継ぐ必要がある
後継者育成に時間をかけやすい後継者に経営者としての適性があるとは限らない
迅速な意思決定が可能経営方針を変えにくい場合がある

親族内承継の最大のメリットは、長年培ってきた企業理念や文化をスムーズに後継者に引き継ぎやすい点です。また、従業員や取引先など、社内外の関係者からの理解や協力を得やすい傾向にあります。さらに、相続や贈与の際には、税制上の優遇措置を受けられる可能性があり、計画的に準備を進めることで、税負担を軽減することができます。後継者候補が早い段階から決まっている場合、時間をかけて育成できる点も大きなメリットです。

一方、デメリットとしては、親族内に適任の後継者が見つからない場合があることや、後継者以外の親族との間で遺産分割や経営権を巡るトラブルが発生する可能性があることが挙げられます。また、後継者自身も、会社の債務や経営者の個人保証を引き継ぐ必要が生じる場合があります。親族という近い関係性から、後継者に経営者としての適性があるかどうかを客観的に判断しにくいという側面もあります。また、先代の意向を尊重するあまり、抜本的な経営改革が難しい場合も見られます。

従業員承継

従業員承継は、長年会社に貢献してきた役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。

メリットデメリット
会社の内情を熟知している人材を選べる後継者に株式取得資金が必要となる場合がある
後継者育成に時間をかけられる経営者の親族から反対される可能性がある
企業文化を引き継ぎやすい後継者に十分な経営手腕がない可能性がある
従業員や取引先からの理解を得やすい個人保証の引き継ぎが必要となる場合がある
後継者選びの幅が広がる社内で権力争いが起こる可能性がある

従業員承継の大きなメリットは、会社の事業内容や企業文化、従業員などを熟知している人材を後継者に選べる点です。長年共に働いてきた従業員であれば、経営理念や業務の流れを理解しており、事業承継後もスムーズに事業を継続できる可能性が高まります。また、社内外からの信頼を得やすく、事業承継に対する理解や協力を得やすい傾向にあります。親族内に後継者候補がいない場合でも、社内の幅広い人材から後継者を探せるという利点もあります。

一方、デメリットとしては、後継者となる従業員が、会社の株式を買い取るための十分な資金を持っていない場合があることが挙げられます。また、これまで親族内承継を行ってきた企業の場合、経営者の親族から従業員への承継に反対される可能性もあります。従業員としての能力が高くても、経営者としての手腕を発揮できるとは限らないという点も考慮する必要があります。さらに、経営者の個人保証を引き継ぐ必要が生じる場合もあり、後継者にとって大きな負担となる可能性があります。社内承継の場合、後継者候補が複数いると、社内で権力争いが生じる可能性も否定できません。

外部からの招聘・M&A

外部からの招聘は、社外から経営者を招き入れる方法であり、M&Aは、第三者に事業を譲渡する方法です。

外部からの招聘

メリットデメリット
より優秀な後継者に引き継げる可能性がある親族よりも後継者に強い意志が求められるため、適任者を見つけにくい
親族や社内に適任者がいない場合でも事業を継続できる社内で反発が起きやすい
引き継ぎに十分な時間を確保する必要がある

外部から経験豊富な経営者を招聘することで、新たな視点や経営ノウハウを取り入れることができる可能性があります。また、親族内や従業員に適任者がいない場合でも、事業を継続できるというメリットがあります。しかし、外部から来た後継者は、会社の文化や従業員との関係性を築くのに時間がかかる場合があり、社内で反発が生じる可能性も考慮する必要があります。また、後継者自身にも、親族から事業を受け継ぐよりも強い意志と覚悟が求められるため、適任者を見つけるのが難しい場合があります。

M&A

メリットデメリット
親族・社内に後継者候補がいなくても事業を残せる売却条件を満たす買い手探しに手間がかかる
従業員の雇用や取引先の仕事を維持できる可能性がある従業員や取引先から反発されるリスクがある
創業者利益の確保が期待できる経営方針や待遇が変更になる可能性がある
個人保証の責任がなくなる可能性がある多くの時間と労力が発生する
シナジー効果が期待できる良い承継先が見つかるとは限らない
廃業コストがかからない情報漏洩による経営への悪影響が懸念される
幅広い選択肢から後継者を選べる譲渡益に税金がかかる

M&Aは、後継者が見つからない場合の有力な選択肢となります。事業を第三者に譲渡することで、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性があり、創業者自身も売却益を得ることができます。また、譲渡先の企業との間でシナジー効果が生まれ、事業の拡大や新たな成長が期待できる場合もあります。廃業にかかるコストを回避できる点もメリットです。

一方で、M&Aには、条件に合う買い手を探すのに時間がかかることや、従業員や取引先が経営体制の変更に反発するリスクがあります。また、譲渡先の経営方針や労働条件が変わる可能性も考慮する必要があります。M&Aの交渉や手続きには多くの時間と労力がかかり、必ずしも希望通りの条件で譲渡できるとは限りません。交渉過程での情報漏洩が、経営に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。株式譲渡による売却益には税金がかかることも留意しておく必要があります。

跡継ぎを選ぶ流れ

次に、実際に自社にとって最適な「跡継ぎ」を選ぶための具体的な流れについて解説します。

1:現状の把握と将来像をイメージ

まず行うべきことは、自社の現状を正確に把握し、将来どのような姿を目指したいのかを明確にすることです。自社の強みと弱みを分析し、事業承継によって何を達成したいのか、その目的を明確にすることが重要です。会社の財務状況、組織体制、顧客基盤、技術力など、現状の経営状況を詳細に分析し、その上で、将来の市場環境の変化や自社の成長戦略を踏まえ、どのような経営ビジョンを描くのか、具体的な将来像を思い描きましょう。

また、事業承継に関わる可能性のある親族、従業員、取引先などの関係者をリストアップしておくことも有効です。この現状把握と将来像の明確化が、後継者選びの重要な判断軸となります。M&Aを検討している場合も、自社の強みや将来性を明確にすることで、より良い条件での譲渡に繋がります。

2:候補者のリストアップ

現状と将来像が明確になったら、いよいよ「跡継ぎ」の候補者をリストアップする段階に入ります。親族、従業員、そして外部人材の可能性を幅広く検討しましょう。親族内承継を考えている場合は、親族の中で経営に関心のある人物や、経営者としての素質を持つ人物を検討します。

従業員承継を考えている場合は、社内で実績があり、リーダーシップを発揮できる人材を探します。また、必要に応じて、外部から経営者を招聘することも視野に入れましょう。候補者の洗い出しには、自薦、他薦、あるいは適性検査などの方法を用いることもできます。重要なのは、候補者の経営能力や経験だけでなく、事業への情熱やコミットメント、そして将来のビジョンなども考慮に入れることです。M&Aにおいては、買収先の候補となる企業や経営者をリストアップすることになります。

3:候補者を客観的に評価する

リストアップした候補者について、客観的な基準に基づいて評価を行います。候補者の持つ資質、能力、そして事業を継承する意欲などを、多角的に評価することが重要です。親族内承継の場合は、感情的な判断に陥らないように、第三者機関による評価や、社内幹部の意見を参考にすることも有効です。

評価項目としては、経営スキル、意思決定力、リーダーシップ、コミュニケーション能力、人間性などが挙げられます。候補者のこれまでの実績や経験、周囲からの評価なども参考にしながら、客観的な視点で適性を見極めましょう。M&Aにおいては、候補となる企業の財務状況、経営戦略、企業文化などを詳細に評価することになります。

4:育成計画を立て、実行する

選定した候補者が、将来的に経営者として十分に活躍できるよう、計画的な育成を行うことが不可欠です。候補者の現状のスキルや経験に合わせて、必要な知識や経験を習得するための育成計画を策定し、実行します。育成方法としては、社内外での研修やセミナーへの参加、様々な部署での実務経験、経営幹部としての役割を与えることなどが考えられます。

また、現経営者自身がメンターとなり、直接指導やアドバイスを行うことも非常に有効です。育成期間中は、定期的に候補者の成長度合いを評価し、必要に応じて計画を見直すことも重要です。M&Aにおいては、買収後の経営体制や、後継者の育成計画についても、事前に協議しておくことが望ましいです。

5:承継計画を作成し、合意形成を図る

後継者の育成が進んできたら、いよいよ具体的な事業承継計画を策定する段階に入ります。株式や事業用資産をどのように後継者に移転するのか、具体的な方法や時期を検討します。また、事業承継の方法や時期について、後継者本人だけでなく、従業員、取引先、金融機関、株主などの関係者に対して丁寧に説明し、理解と協力を得るための合意形成を図ることが非常に重要です。

特に親族内承継の場合は、後継者以外の親族に対しても、事業承継の方針や資産の分配について十分に説明し、納得してもらうことが、後のトラブルを避けるために不可欠です。M&Aにおいては、譲渡条件やスケジュール、従業員の待遇などについて、譲渡側と譲受側で詳細な合意形成を行う必要があります。

もし跡継ぎが見つからない場合は?

様々な努力をしても、どうしても「跡継ぎ」が見つからない場合もあります。そのような状況に陥った際に検討すべき選択肢について解説します。

専門機関・相談窓口を頼る

もし自社だけで後継者を見つけることが難しいと感じたら、積極的に外部の専門機関や相談窓口を活用しましょう。全国47都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継に関するあらゆる相談に無料で対応しており、親族内承継、従業員承継、そしてM&Aによる第三者への承継まで、幅広い支援を受けることができます。

また、地域の商工会議所も、経営相談や専門家の紹介、事業承継に関するセミナーの開催などを通じて、中小企業の事業承継を支援しています。金融機関も、事業承継に関する相談窓口を設けている場合があり、M&A仲介会社などの専門家を紹介してくれることもあります。M&Aによる事業承継を検討する場合は、M&A仲介会社やマッチングサイトの専門的なサポートを受けることで、スムーズな取引が期待できます。その他にも、弁護士、税理士、公認会計士、中小企業診断士など、各分野の専門家が事業承継に関する様々な相談に応じてくれます。これらの専門機関や相談窓口を積極的に活用することで、後継者不在という課題の解決に繋がる可能性があります。

M&A(事業譲渡や株式譲渡など)を行う

後継者が見つからない場合の有力な選択肢の一つが、M&A(企業の合併・買収)です。M&Aには、後継者問題を解決できるだけでなく、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性や、創業者自身が利益を確保できるといったメリットがあります。一方、従業員や取引先からの反発、経営方針の変更、情報漏洩のリスクなどのデメリットも存在します。

M&Aの手法としては、主に事業譲渡と株式譲渡があります。事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を譲渡する方法で、法人格は維持されます。譲渡する事業の範囲を個別に決めるため、手続きが複雑になる場合があります。株式譲渡は、現経営者が保有する株式を後継者(または買収企業)に譲り渡す方法で、会社の経営権が移転します。事業全体を包括的に承継するため、手続きが比較的スムーズに進めやすいとされています。どちらの方法を選択するかは、会社の状況や譲渡側の希望によって異なります。M&Aを検討する際は、専門家と相談しながら、自社にとって最適な方法を選択することが重要です。

廃業・清算する

後継者が見つからず、M&Aも成立しない場合、最終的な選択肢として廃業・清算という道を選ぶことになります。廃業の手続きは煩雑であり、株主総会での解散決議、清算人の選任、法務局への登記、債権者への公告、資産の現金化、債務の弁済など、多くの手続きが必要となります。廃業は、経営者自身に経済的な負担がかかるだけでなく、従業員の雇用が失われたり、取引先にも影響が及んだりするなど、周囲に大きな影響を与える可能性があります。そのため、廃業はあくまで最終手段として捉え、可能な限り事業承継を目指すことが望ましいと言えるでしょう。

跡継ぎ探し・事業承継を成功させるには早期準備が大切

この記事では、「跡継ぎ」とは何か、その基本的な意味から、後継ぎとの違い、求められる資質、選び方、そして見つからない場合の選択肢について詳しく解説してきました。

事業承継は、会社がその歴史を未来へと繋ぎ、持続的に成長していくために不可欠なプロセスです。適切な「跡継ぎ」または「後継者」を選ぶことは、事業承継の成否を大きく左右する最も重要な要素の一つと言えるでしょう。後継者不足は、個々の企業の存続を脅かすだけでなく、地域経済の衰退や、ひいては日本経済全体の活力低下にも繋がりかねない深刻な問題です。

法務、税務、財務など、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。そのため、事業承継を成功させるためには、専門家のサポートが不可欠と言えるでしょう。事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所など、無料で相談できる窓口も積極的に活用し、M&Aを検討する際には、M&A仲介会社などの専門家の支援を受けることで、よりスムーズな取引が期待できます。専門家の知識と経験を借りながら、自社にとって最適な事業承継の形を実現していきましょう。


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