- 作成日 : 2025年6月9日
SWOT分析とは?やり方や活用方法、具体例を解説
「SWOT分析」という言葉を耳にしたことはありますか?ビジネスの現場でよく使われるこの分析手法は、企業の現状を把握し、将来の戦略を立てる上で非常に役立つフレームワークです。しかし、「なぜわざわざ分析が必要なの?」「具体的にどんな場面で役立つの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。
この記事では、そんなSWOT分析の基本から、具体的な進め方、そしてM&Aをはじめとするビジネスシーンでの活用方法まで、分かりやすく解説していきます。
目次
SWOT分析とは?
「SWOT分析」とは、ビジネスの現状を把握し、将来の戦略を立てる上でとても役立つフレームワークです。特に、企業の合併や買収(M&A)を検討する際には、自社や相手企業の状況を客観的に理解するために、このSWOT分析が非常に有効活用されています。
簡単に言うと、SWOT分析は、会社の健康診断のようなものです。自分の会社の強みや弱み、そして外部環境にあるチャンスや脅威を整理することで、進むべき方向性を見定めるための羅針盤となってくれます。特にM&A(企業の合併・買収)では、買収対象の企業価値を正しく評価したり、統合後のシナジー効果を予測したりするために欠かせません。
SWOT分析の4大要素
ここでは、SWOT分析を構成する「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。これらを正しく理解することが、効果的な分析への第一歩です。
SWOT分析は、以下の4つの頭文字をとって名付けられています。
- Strengths(強み):目標達成に貢献する内部のプラス要因
- Weaknesses(弱み):目標達成の障害となる内部のマイナス要因
- Opportunities(機会):目標達成に貢献する外部のプラス要因
- Threats(脅威):目標達成の障害となる外部のマイナス要因
これらは「内部環境要因(強み・弱み)」と「外部環境要因(機会・脅威)」に分けて考えると理解しやすくなります。内部環境は自社でコントロールできる可能性のある要素、外部環境は自社ではコントロールが難しい要素、と捉えると良いでしょう。
強み(Strengths)
「強み」とは、目標を達成する上で、自社の武器となる内部的な要素のことです。例えば、他社にはない独自の技術力、高いブランドイメージ、優秀な人材、良好な財務状況、効率的な生産体制などが挙げられます。M&Aの場面では、自社の強みを活かして買収対象企業の弱みを補完できるか、といった視点も重要になります。
- 例:
- 長年培ってきた顧客との信頼関係
- 特許を取得している独自の製造プロセス
- 特定の分野に精通した専門家チーム
- 競合他社よりも低いコスト構造
強みを見つける際は、「競合他社と比較して優れている点は何か?」「顧客から評価されている点は何か?」といった問いを立ててみると良いでしょう。
弱み(Weaknesses)
「弱み」とは、目標達成の足かせとなる可能性のある、内部的な要素です。例えば、資金力の不足、人材育成の遅れ、ブランド認知度の低さ、特定の取引先への依存度が高いこと、旧式の設備などが考えられます。弱みを正確に把握することは、改善策を講じるためのスタートラインです。M&Aにおいては、買収によって自社の弱みを補強できるか、あるいは買収対象企業の弱みが自社に悪影響を与えないか、などを検討します。
- 例:
- 新製品開発のスピードが遅い
- 特定の部署での人手不足が慢性化している
- 競合と比べてマーケティング力が劣る
- 意思決定プロセスが複雑で時間がかかる
弱みを分析する際は、つい目を背けたくなりますが、客観的かつ正直に見つめることが大切です。「目標達成を妨げているものは何か?」「競合に劣っている点はどこか?」と考えてみましょう。改善のヒントが見えてくるはずです。
機会(Opportunities)
「機会」とは、自社の目標達成にとって追い風となる可能性のある、外部環境の変化や流れのことです。市場の拡大、法律の改正による規制緩和、新しい技術の登場、競合の撤退、ライフスタイルの変化などが挙げられます。これらのチャンスをどう活かすかが、成長の鍵となります。M&Aでは、市場の成長機会を捉えるために買収を行う、といった戦略的な判断につながります。
- 例:
- ターゲット顧客層の市場が拡大傾向にある
- 自社技術を応用できる新たな分野が登場した
- 政府による特定の産業への支援策が打ち出された
- 競合が力を入れていないニッチ市場がある
機会を見つけるには、常に社会や市場の動向にアンテナを張っておくことが重要です。「自社の強みを活かせる外部の変化は何か?」「新しいニーズは生まれていないか?」といった視点で探してみましょう。
脅威(Threats)
「脅威」とは、目標達成の障害となる可能性のある、外部環境の変化やリスクのことです。強力な競合の出現、景気の悪化、法律の改正による規制強化、技術革新による自社製品の陳腐化、原材料価格の高騰などが考えられます。脅威を事前に認識し、対策を講じることで、リスクの影響を最小限に抑えることができます。M&Aにおいては、買収対象企業が抱える潜在的な脅威(訴訟リスクなど)を評価することも重要です。
- 例:
- 低価格を武器にした新規参入企業の登場
- 関連法規の改正により、事業コストが増加する可能性
- 急速な技術革新により、自社の主力製品が時代遅れになるリスク
- 主要な顧客の経営状況が悪化している
脅威を特定するには、「自社の弱みを突いてくる外部の変化は何か?」「事業継続を脅かす可能性のあるリスクは何か?」といった点を考慮します。早期に対策を打つことが肝心です。
SWOT分析のやり方
ここでは、実際にSWOT分析を進めるための手順や、分析の質を高めるためのポイントについて解説します。フレームワークを正しく使うことで、より客観的で効果的な分析が可能になります。
SWOT分析は、思いつきで要素を挙げるだけでは十分な効果を発揮しません。以下のステップに沿って、体系的に進めることが大切です。
分析のステップ
1.分析の目的を明確にする
まず、「何のためにSWOT分析を行うのか」をはっきりさせましょう。「新規事業の可能性を探るため」「現在の経営戦略を見直すため」「M&Aの候補企業を評価するため」など、目的によって着目すべき点が変わってきます。目的が明確であれば、分析の方向性が定まり、より具体的で実効性のある結果が得られやすくなります。
2.情報収集
目的が決まったら、内部環境(自社の状況)と外部環境(市場、競合、社会動向など)に関する情報を幅広く集めます。社内の各部署からのヒアリング、顧客アンケート、市場調査レポート、業界ニュース、統計データなどが情報源となります。M&Aの場合は、対象企業の財務諸表、事業計画、業界内での評判なども重要な情報です。
3.SWOTの各要素を洗い出す
集めた情報を元に、ブレインストーミングなどを行いながら、「強み」「弱み」「機会」「脅威」に該当する要素を具体的にリストアップしていきます。この段階では、質より量を重視し、思いつく限りの要素を挙げてみましょう。チームで分析を行う場合は、多様な視点を取り入れることが有効です。
4.要素の整理と評価
洗い出した要素を整理し、それぞれの重要度や影響度を評価します。すべての要素が同じように重要とは限りません。特に影響が大きいと思われる要素や、目的に関連性の高い要素に焦点を当てることが重要です。
5.クロスSWOT分析による戦略立案
SWOTの各要素を掛け合わせて具体的な戦略を検討します。これについては後ほど詳しく説明します。
6.戦略の実行と見直し
分析結果に基づいて具体的な行動計画を立て、実行に移します。そして、定期的に状況を確認し、必要に応じて分析や戦略を見直すことが重要です。市場環境は常に変化するため、一度分析したら終わり、ではありません。
フレームワークとテンプレートの活用
SWOT分析を行う際には、以下のようなシンプルなマトリクス(表)を使うのが一般的です。
内部環境 | |||
---|---|---|---|
強み (Strengths) | 弱み (Weaknesses) | ||
外部環境 | 機会 (Opportunities) | ||
脅威 (Threats) |
この枠組みに沿って要素を書き出すことで、思考が整理され、全体像を把握しやすくなります。インターネット上には様々なテンプレートが存在するので、活用してみるのも良いでしょう。(具体的なテンプレートについては後述します)
SWOT分析のポイントと注意点
より質の高いSWOT分析を行うためには、以下の点に注意しましょう。
客観性を保つ
分析者の主観や希望的観測が入らないように、できるだけ客観的なデータや事実に基づいて判断することが重要です。可能であれば、複数のメンバーで意見交換をしながら進めると、より客観的な視点が得られます。
具体的に記述する
「技術力が高い」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇技術に関する特許を保有しており、競合より製造コストを10%削減できる」のように、具体的に記述することで、後の戦略立案に活かしやすくなります。
目的との関連性を意識する
洗い出した要素が、最初に設定した「分析の目的」とどのように関連しているかを常に意識しましょう。関係のない要素を深掘りしても、有効な戦略にはつながりにくいです。
強みと弱みは相対的に考える
ある要素が強みになるか弱みになるかは、状況や比較対象によって変わることがあります。例えば、「小規模であること」は、意思決定の速さという点では強みになり得ますが、資金力という点では弱みになるかもしれません。
機会と脅威を取り違えない
機械や設備といった「内部」の要素を「機会」と混同したり、競合の戦略といった「外部」の要因を「弱み」と間違えたりしないよう、内部環境と外部環境の区別を意識しましょう。
SWOT分析を最大限に活用する方法
ここでは、SWOT分析の結果を、具体的な戦略策定に繋げるための「クロスSWOT分析」という考え方や、分析を継続的に活かすためのポイントについて説明します。分析は、行動に移してこそ価値が生まれます。
SWOT分析で「強み」「弱み」「機会」「脅威」を洗い出すだけでは、現状を整理したに過ぎません。重要なのは、その分析結果から「では、次に何をすべきか?」という具体的な戦略を導き出すことです。そのために有効なのが「クロスSWOT分析」です。
クロスSWOT分析
クロスSWOT分析とは、SWOT分析で洗い出した4つの要素をそれぞれ掛け合わせることで、戦略の方向性を見出す手法です。以下の4つの視点から戦略を考えます。
分析の視点 | 内容 | 戦略の方向性 |
---|---|---|
強み × 機会 (SO戦略) | 自社の強みを活かして、外部の機会を最大限に利用する | 積極攻勢: 事業拡大、新規市場参入など |
弱み × 機会 (WO戦略) | 外部の機会を利用して、自社の弱みを克服・補強する | 弱点強化: 新技術導入、業務提携など |
強み × 脅威 (ST戦略) | 自社の強みを活かして、外部の脅威の影響を回避・軽減する | 差別化: 競合との差別化、リスク回避策など |
弱み × 脅威 (WT戦略) | 外部の脅威と自社の弱みによる最悪の事態を回避する | 防衛/撤退: 事業縮小、撤退、現状維持など |
例えば、M&Aの場面で考えてみましょう。
- SO戦略: 自社の強力な販売網(強み)を活用し、買収した企業の持つ革新的な技術(機会として捉える)を市場に投入する。
- WO戦略: 買収によって獲得した豊富な資金力(機会)を活用し、自社の弱みであった研究開発体制を強化する。
- ST戦略: 買収によって得たスケールメリット(強み)を活かし、価格競争(脅威)に対抗する。
- WT戦略: 買収対象企業の不採算事業(弱み)が、市場縮小(脅威)の影響を大きく受ける場合、その事業から撤退する。
このようにクロスSWOT分析を行うことで、SWOTの各要素をより深く理解し、具体的で多角的な戦略オプションを検討することができます。
定期的な見直しと更新
ビジネス環境は常に変化しています。市場の動向、競合の動き、技術の進歩、法規制の変更など、外部環境の変化は止まることがありません。また、自社の内部環境も、取り組みによって強みや弱みが変化していきます。
そのため、SWOT分析は一度行ったら終わりではなく、定期的に見直し、内容を更新していくことが非常に重要です。最低でも年に1回、あるいは事業年度の変わり目や、M&Aのような大きな経営判断を行う前など、節目節目でSWOT分析を実施し、現状認識をアップデートすることをおすすめします。これにより、常に変化に対応した最適な戦略を維持することができます。
SWOT分析ツールとテンプレート
ここでは、SWOT分析を効率的に進めるのに役立つツールやテンプレートについてご紹介します。これらを活用することで、分析作業の手間を省き、より本質的な議論に集中することができます。
SWOT分析は、紙とペンがあれば始めることができますが、より効率的に、そしてチームで協力して進めるためには、ツールやテンプレートを活用するのも良い方法です。
オンラインツール
近年では、SWOT分析をサポートする様々なオンラインツールが登場しています。
- マインドマップツール: MiroやMindMeisterなどのマインドマップツールは、ブレインストーミングでアイデアを自由に広げ、視覚的に整理するのに役立ちます。SWOTの各要素を枝として伸ばしていくことができます。
- ホワイトボードツール: Google JamboardやMicrosoft Whiteboardのようなオンラインホワイトボードツールは、複数人でリアルタイムに共同編集するのに適しています。付箋機能を使って、各要素のアイデアを出し合い、グルーピングするような使い方が可能です。
- プロジェクト管理ツール: TrelloやAsanaなどのツールにSWOT分析用のボードを作成し、洗い出した要素をカードとして管理することもできます。戦略実行のタスク管理まで一元化できる可能性があります。
これらのツールは、特にリモートワーク環境下でのチーム分析や、視覚的な分かりやすさを重視する場合に有効です。
テンプレートの活用
複雑なツールを使わなくても、シンプルなテンプレートがあればSWOT分析は十分に可能です。
- ExcelやGoogle スプレッドシート: 最も手軽な方法の一つです。先ほど紹介したような2×2のマトリクスを作成し、各セルに要素を書き込んでいくだけで、基本的なSWOT分析表が完成します。関数を使えば、要素の数をカウントしたり、簡単な評価を加えたりすることも可能です。
- PowerPointやGoogle スライド: プレゼンテーション資料としてまとめる必要がある場合に便利です。図形ツールを使ってマトリクスを作成し、デザインを整えれば、そのまま報告資料としても活用できます。
- Web上のテンプレート: 「SWOT分析 テンプレート」などで検索すると、無料でダウンロードできる様々なデザインのテンプレートが見つかります。自社の目的や使いやすさに合わせて選んでみましょう。
大切なのは、ツールやテンプレートを使うこと自体が目的になるのではなく、あくまで分析を効率化し、質の高い議論や戦略立案をサポートするための手段として活用することです。
SWOT分析をビジネスに活かそう
SWOT分析は、自社の「強み」と「弱み」という内部環境、そして「機会」と「脅威」という外部環境を客観的に把握するための強力なフレームワークです。特にM&Aのように、企業や事業の将来を左右する重要な意思決定を行う際には、現状を冷静に分析し、リスクとチャンスを見極めるために欠かせないプロセスと言えるでしょう。
この記事では、SWOT分析の基本的な考え方から、具体的な進め方、クロスSWOT分析による戦略立案、そして業界別の事例や役立つツールまで、幅広く解説してきました。
SWOT分析は、決して難しい専門家だけのものではありません。今回ご紹介したステップやポイントを押さえれば、どなたでも効果的な分析を行うことが可能です。ぜひ、あなたの会社の現状把握、課題発見、そして未来に向けた戦略立案に、SWOT分析を活用してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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