元上場企業経理部長・前田康二郎さんに「極意」を聴く|#03 社内プレゼンテーションはどんなメッセージにすべきか?

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「システム導入、プレゼンしても社長の反応がいまいちで……」

わたしたちBizpedia編集部が、よく耳にするお悩みです。経営層は、やはり利益に目が行くもの。そして確かに、システム導入は、すぐに利益を生むわけではありません。

しかし、それでも、経営に与えるメリットを無視すべきでない。……それが、わたしたちの結論です。

そこで課題になるのは「どうしたらトップを説得できるか」。このテーマについて、元スーパー経理部長で、現在は『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)などの著作が人気の、前田康二郎さんに聞きました。

第3回のテーマは、「社内プレゼンテーション」です。

<シリーズ記事>
#01 システム導入を渋る社長をどう説得すべきか?
#02 論理的に説得できないトップへの対策とは?
#03 社内プレゼンテーションはどんなメッセージにすべきか?(本記事)

経理システムは誰のためのもの?

経理システムに対しての誤解の一つは、「経理システムを導入すると経理がラクになるだけでしょ」という現場や経営陣からの指摘です。これは私が会社員時代にも何度も言われた記憶があります。

現場からは「経理がラクになるためだけに新しいシステムを入れて、また新しい申請ルールを覚え直さないといけないわけ?」「へえ、経理に新しいシステムを入れるお金の余裕があるならうちの部署もいろいろ申請してみようかな」というものもあれば、経営陣からは「うちの会社に今そんなお金の余裕はないから」と、にべもなく突っぱねられた、という経験をされた人も少なくないでしょう。

しかし昔はそれが「当たり前」の時代でしたので、私も虚しさはありつつも、腹立たしいとまでは思いませんでした。どの会社も経理システムに対しての理解度は、それくらいの優先度や認識度合だったからです。

ですが、今は違います。1回目のコラムで取り上げた人手不足、2回目のコラムで取り上げたテクノロジーの急速な進化、この二つの理由により、経理システムをはじめとした基幹システムの導入、組織のデジタル化を怠けていると、企業経営そのものにも負の影響が出てくることは間違いないでしょう。

「やらない怠慢」は必ずツケがまわってきます。

そして、会社の経理システムの導入が進まない理由として、経理担当者にも課題があるケースがあります。それは、経理システム導入やアップデートについての提案をする際のプレゼンテーション方法です。

実際に私も会社員時代は間違ったプレゼンをしていました。自分の目線でしかプレゼンをしていなかったのです。どういうことかというと、「上場申請の作業をするためにはこのような経理システムが必要なので導入して欲しい」と繰り返しプレゼンしていたのです。

「どこが間違っているの?」と思うでしょうが、このプレゼン方法では、決裁を下す経営陣からすれば「経理システムは経理担当者の負担をラクにするためのもの」という認識をしてしまい、経営陣にとって「自分ごと」の問題にならないからです。

本来は「導入すると経営陣にどのようなメリットがあるのか」「導入を怠っていると経営陣にどのようなデメリットがあるのか」を念頭にプレゼンをしなければいけなかったのです。そうすれば経営陣も、「自分ごと」として認識をしてくれていたことでしょう。

そこで今回は、経理担当者の皆さんと、「経理システムとは誰のためのものなのか」を改めて確認し、どのように社長にプレゼンをするとよいかお伝えします。

現場や社長のほうが経理より「申請者」になる機会が格段に多い

まず、私たち経理担当者は、経費精算が発生するでしょうか。自分が担当の売上に関する請求書があるでしょうか。支払請求書を取引先から直接受領するでしょうか。そのことについて考えてみましょう。

経理社員は原則一日中社内にいます。外出するにも銀行や郵便局などごく限られています。たまに、経理の外部セミナーに行くとしても年に数回程度でしょう。そのため、経費精算はほとんど発生しません。

また、経理部門は会計上、売上も持っていませんから、自分が担当する売上請求書もありません。売上請求書を作るとしたら、現場担当者の代わりに代理作成をしているという環境くらいでしょう。そして支払請求書も同様です。経理担当者宛てに毎月届く支払請求書は顧問税理士からの請求書など、ごく限られた案件や件数でしょう。

つまり、経理社員は、アナログだろうがデジタルだろうが自身が申請処理する量はそれほどないので「正直どちらだっていいし、どちらでもそれなりに対処できる」というのが現実です。

しかし現場や社長は違います。今挙げた内容のものがそれぞれ大量にある人も多いですから、それらの申請処理がアナログかデジタルかで、仕事の時間配分も大きく変わってきます。

そのため、現在でも「営業は営業だけやっていればいい、事務作業は事務員がやればいい」という古風な考えの会社は、現場社員が経理担当者に「はい、領収書」と「ぽいっ」と領収書を渡せば、その場でお金をもらえて経理精算を「やってもらえ」、売上請求書も「作ってもらえ」「送ってもらえ」ていることでしょう。結果、事務員がいないと事務処理が何もできない、という社員に育ってしまっているケースも実際にあります。

経理社員側も「現場社員なんて所詮そんなものだから」と、事務処理を代理でやらされることに抵抗がない人も現実には結構います。全員が「今アナログの状態でもこれでうまくいっているのだから、デジタル化する必要などない」という認識です。

ですが、そのような現場社員では、もう令和の時代では、生き残っていけるほど甘くない状況になっているのです。ましてや社長が同じような感覚では、その会社の未来は明るくはないでしょう。

自分のことを自分でできない、という発想の組織体制は、令和で起業した会社には、もうない

なぜなら、ここ数年のうちに起業をして、最初から経理システムを導入している会社の現場社員や社長さんは、最新の経理システムで経費精算や売上請求書、支払請求書の申請を「自分で」することなど、「なんなく」「簡単に」「片手間に」できてしまっているからです。

前述したようなアナログ体制で、さらに経理社員が社長や現場社員の処理を代行しているような会社であれば、「お前たち経理社員がラクをするためにこんなシステムを入れたら、逆に今度は自分たちが自分でログインしていろいろな申請しないといけなくなるから、営業や制作に集中できないじゃないか」と言う社員も出てくるでしょう。

しかし近年起業した会社にはそのような考えの現場社員や社長は誰もいないわけです。

アナログ管理時代であれば、過去に自分で申請したデータに関して、経理担当者に「昨年の自分の担当した請求書の控えを見せて欲しいのですが」とわざわざお願いする必要がありましたが、今はそのようなことをしなくても手元のデジタル化した申請データの過去履歴を見ればわかります。

優秀な現場社員は、自分で「昨年あの会社にいくら請求したっけ」「昨年の5月より今年の5月のほうが経費節約できたな」など、職場でも外出先でも経理システムを活用できますし、実際にそうしています。

さらに管理職や社長でしたら、データの閲覧権限設定を広く設定してある会社も多いですので、部下一人ひとりの売上や経費の使い方なども実績データを見ながら指導したり、分析をしたりしてマネジメントにも活用しています。

それくらい、今日現在でも優秀な現場社員や社長さん方は経理システムを「なんなく」使いこなしているのです。

経理データを「現場や社長」が活用している会社とそうでない会社の差は開くばかり

そのような会社と、そうでない会社。皆さんの頭の中でイメージしてみてください。どちらの会社がこれから先、売上や利益を伸ばしていけると皆さんはお思いになるでしょうか。

言わずもがな、ということです。経理システムというのは、名前に「経理」とついているので、経理のためだけのものだと誤解をしている方が多いのです。

しかし、実際は現場社員や社長が最も申請をする頻度が高く、そして申請承認後も実績データをもとに分析やマネジメントなど、さまざまに活用ができるシステム、つまり「社長や現場社員のためのシステム」「売上や利益を伸ばす分析や指導のために活用できるシステム」なのです。

もし今回のテーマをもとに私が社長様に経理システム導入のプレゼンテーションをするとしたら、次のようにご提案します。

  • 社長、経理システムというのは、経理よりも社長や現場が一番使うので、社長や現場が一番ラクになるためのシステムなのですよ。
  • 経理システムを導入すれば、社長が我々経理に都度尋ねなくても社長ご自身で常時最新の売上データを確認できますし、社員一人ひとりのお金の使い方もチェックできますから、マネジメントがラクになりますよ。
  • 社長、このような経理システムを導入して売上や利益の改善に活用している同業他社は既にたくさんありますので、うちも早く導入しないと、社長が損をしてしまいますよ。

など、ご提案すると思います。

経理システムというのは、単に「数字のデータをデジタル化して集約し、経理担当者がそのデータをチェックし、確認がとれたら帳票を提出して終わり」ということではなく、ありとあらゆる活用方法があります。

そのアイデアをたくさん出して、社長や現場に提言するするのがAIなどにはできない、「社内の」そして「人間の」経理担当者の役割であり、存在価値だと私は思います。

社内をデジタル化して終わりではなく、そのデジタル化したさまざまなデータを、会社の売上や利益のさらなる向上のためにどのように活用できるかを経理担当者で分析し、社長や現場責任者と共有し、現場の活動などに役立てることができれば、経理システムに投資した金額は、何倍もの収益となって必ず会社や皆さんのもとに戻ってくるはずです。

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#02 論理的に説得できないトップへの対策とは?
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