
社員の健康を増進させ、労働生産性向上を目指す「健康経営」。オーダーメイドウェディング事業を手掛けるCRAZY(クレイジー)は、働き方改革が注目される前の2012年創業時から健康経営に取り組んできました。
その施策の一つに、眠るだけで報酬がもらえる「睡眠報酬制度」というものがあります。このユニークな施策が生まれた背景、制度導入から9カ月間での成果、そしてCRAZYが考える健康経営について、採用責任者の乾将豪さんに聞きました。
1日6時間の睡眠で報酬がもらえる「睡眠報酬制度」
株式会社CRAZY人事/採用責任者
新卒1期生として株式会社UNITED STYLE(現:CRAZY)へ入社。入社後最短でプロデューサーデビューを果たし、多くの結婚式を手がける。同時に営業においても過去最多の功績を残しトップセールスとして活躍。現在は採用責任者を担っている。
Twitter:@Nuinuiqun
CRAZY MAGAZINE:https://www.crazy.co.jp/blog/
――「睡眠報酬制度」とはどんな制度ですか?
2018年10月に導入した制度で、その名の通り、しっかり眠ると報酬がもらえる制度です。1日6時間以上の睡眠をとった社員に対し、社内カフェなどで利用できるポイントを1日100ポイント付与しています。
睡眠報酬制度は強制ではなく、社員の任意で活用してもらっています。6時間眠らなかったからといって、評価が下がることはありません。月によって上下はありますが、現在社内全体の4〜5割の社員が実施しています。
社内のカフェやダイニングではオーガニックの食事を提供(CRAZY提供)
――適切な睡眠時間は人それぞれ異なり、中にはショートスリーパーやロングスリーパーもいます。なぜ「6時間」を基準にしたのですか?
健康的な活動に必要な睡眠時間は6時間から10時間などさまざまな報告がありますが、仕事の時間や家事や家族と過ごす時間とのバランスを考えた上で、まずは最低限睡眠を取ってほしいラインとして6時間に設定しました。もちろん、6時間以上であれば、何時間寝ても報酬はもらえますよ。
ショートスリーパーの方には医師の診断を受けた上で自己申告してもらっています。ただ、ショートスリーパーは人口全体の1〜2%しかおらず、そのほとんどが遺伝によるものだそうです。また、ショートスリーパーだと思い込んでいただけで、実際は慢性的な睡眠不足状態ということもあります。この制度を通して、自身は実際どうなのかを知るきっかけにもなればと思っています。
――社員の睡眠時間はどのように把握しているのでしょうか?
睡眠時間の計測には、エアウィーヴ社のスマホアプリ「sleep analysis」を使っています。アプリの操作方法はとても簡単で、眠る前にいくつかの質問に答え、アラームをかけてスマホを枕元に置き、朝起きたらアラームを止めるだけ。それで「布団に入ってから起きるまでの就寝時間」「実際に眠りに入ってから起きるまでの睡眠時間」「眠りの深さ」が睡眠中の振動で計測できます。
睡眠報酬制度はエアウィーヴ社と共同で取り組んでいる制度なので、特別に、計測したデータは全て会社に転送される仕様にしてもらっています。
社員に必要なアクションは、寝る前のアラームセットのみ。特別な申請や操作は必要ありません。
――健康へのアプローチには様々な要素がありますが、なぜ「睡眠」に着目したのですか?
当社はウェディングサービスを提供する会社として「自分たちが幸せでないと、お客様も幸せにできない」という考えのもと、創業時から社員の健康を経営の優先順位の1番に掲げてきました。
世界保健機構(WHO)憲章の「健康の定義」では、睡眠・栄養・運動による身体的健康、精神的健康、人間関係などの社会的健康がそろって「健康」とされています。当社の健康経営もこの「健康の定義」を参考にしています。
CRAZYが考える健康経営(CRAZY提供)
創業当時から昼食は社員全員で取るという取り組みをしており、「食」に関しての健康経営はすでに実践していました。そこに「睡眠(休養)」を追加すると、より社員の健康と幸せを守ることができ、仕事のパフォーマンスも向上すると考え、睡眠報酬制度を発案・導入しました。
お客様にサービスを提供する私たち自身が幸せでいるために、“健康であること”は避けて通れません。心も体も大切にできるからこそ、良いサービスを提供できると考えています。
――睡眠報酬制度によって、どんな変化がありましたか?
私も含めて、「仕事のオンオフの切り替えが上手くなった」という声を多数聞いています。また、まず睡眠時間を確保した上でスケジュールを組むようになったという声もあります。会社、社員のどちらか一方にメリットがあるのではなく、双方がwin-winになっていると感じます。
「管理」ではなく、自ら「やりたい」と思える仕組み作りを
――睡眠時間を会社が把握し、それに合わせて報酬を与えることに、「プライベートまで会社に管理されている」と懸念する声はなかったのでしょうか?
任意ということもありましたし、懸念の声はなかったですね。先ほどお話したとおり、もともと昼食時に全員そろって食事を取るというユニークな取り組みもあったので、食に加えて睡眠をテーマにした制度も歓迎する社員のほうが多かったんです。
社員全員での昼食の時間がコミュニケーションの場にも(CRAZY提供)
繁忙期には、「お客様のために仕事に時間を使いたいので、今月は参加できない」と言ってくれる社員もいます。睡眠報酬制度は強制の制度ではないので、その場合は報酬としてのポイントが受け取れないだけ。働く時間ではなく、睡眠時間に着目することで、もっと働きたい人の働く権利も守られているんですよ。
――睡眠報酬制度を導入するにあたって、気をつけたことはありますか?
「会社が管理します」というイメージを持たせないことですね。人って、管理されたり制限されたりすると、思わず反発したくなるものです。どんな制度も社員自らが「やりたい!」と思えなければ続きません。
だから、「会社は社員が健康で幸せに生きることを大前提として願っている。その上で、提供するサービスでお客様に幸せな価値を提供したい。だからこそ、この制度を取り入れて、まずは自分自身が幸せになってほしい」というストーリーを伝えることを意識しました。
睡眠報酬制度という“点”だけを伝えるのではなく、背景を含んだ“線”として伝えると、より会社が大切にしていることが伝わりやすくなるんです。
――2018年10月の導入から9カ月。制度を定着させるために工夫したことはありますか?
まさに今、制度を定着させるために試行錯誤しています。新しい制度は、最初は取り入れやすいかもしれませんが、続けるのがとても難しい。社員自ら「やってみたい」と思えるような動機付けを日々検討しています。
例えば、睡眠報酬制度がスタートした当初は、1週間のうち1日6時間以上睡眠した日が5日以上あれば報酬を渡す仕組みでした。しかしその仕組みだと、うっかりアプリを使い忘れるなどして「週に5日以上達成できない」とわかるとモチベーションが下がりやすい。なるべくシンプルに作りましたが、それでもルールが足かせになっているとわかったので、1日単位でポイント還元をするように変更しました。
また、社員に「やってみたい」「続けよう」と思ってもらうために、睡眠報酬制度に関する話題の“脳の占有率”を高めることも重要だと考えています。
――脳の占有率を高めるとは?
日々社内で睡眠報酬制度について伝えたり、睡眠データを可視化したりするなど、常に社員が睡眠報酬制度に触れられるようにすることです。話題に触れる頻度を上げる仕組みを作ると、より文化として根付きやすくなります。
まずは社内から睡眠が大切であるという文化を根付かせて、いつか世の中全体に広まっていくといいなと思いますね。
新たな取り組み導入の第一歩は、「自らが行う」こと
――睡眠報酬制度のような健康経営の施策を取り入れたい企業は、どんなことから始めたらいいですか?
大切なのは、制度を作る人事や経営者が「自ら行う」ことです。
当社代表の森山和彦は、睡眠報酬制度でいつもランキング上位にいるんです(笑)。本当に良い制度だと思っているからこそ継続できますし、体験したからこそ語れることがあります。その体験を聞いて社員はどんどん引き込まれていくんですよ。
あとは、制度を導入するだけでなく、その背景にあるストーリーを伝えられるように、それぞれの会社が大切にしているスタンスを振り返ることですね。「私たちにはこういう背景があるからこそ、この制度を社員に体験してほしい」という気持ちがあって、初めて社員に想いが伝わるのだと思います。
現代では、働くことと生きることを分けないといけないと思っている人もいるかもしれません。でも、働いているのも生きているのも同じ「自分」なので、分けきれるものではないと思うんです。
だからこそ、自身の健康を保つことが普段の仕事のクオリティや喜びにつながり、かつお客様の幸せにつながるという循環があれば、それはとても幸せなことですよね。
その仕組みを作るための健康経営が組織に根付くと、幸せな働き方ができる社員がもっと増えるのではないかと思います。
(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)
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