「AIで作業を自動化」。SNSなどで、そんな話を目にする機会も増えました。
しかし、重要な数字を扱う経理としては慎重に進める必要もあり、「AIを使って効率化したいけれど、具体的に何をすればいいのか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
マネーフォワードの経理部では、各メンバーが生成AIも活用しながら、日々の作業を少しずつ効率化しています。
それは「AIを活用すること」が目的ではなく、「そもそもこの作業は本当に必要なのか」と問い直し、小さな困りごとから手を付けていく、等身大の取り組みです。
今回、経理本部プロセスオーナー部の有村優花さんに、具体的な3つの業務改善例と、それを支える経理部の文化について伺いました。
有村 優花さん
株式会社マネーフォワード
経理本部 プロセスオーナー部
中小企業にて出納・財務、売掛管理、経営管理などを8年間経験。2018年に株式会社マネーフォワードへ入社し、支払業務の効率化、コーポレートカード導入・管理、開示資料作成を担当。2025年8月に約1年間の育休から復帰し、現在のメイン業務はグループ会社含めた経理プロセスの整理・構築およびAIを活用した業務改善。
部のミッションは経理業務の「プロセス」の統一
──有村さんの所属する「プロセスオーナー部」とは、どのような部署なのでしょうか。
プロセスオーナー部(以下、PO部)は、既存組織の名称を変更する形で、2025年に発足した部署です。
マネーフォワードはグループ会社が多く存在するため、グループ会社の経理もマネーフォワード本体の経理も、統一した業務プロセスで進められるといいよね、ということで、経理業務のプロセスを統一することをメインの担当業務としています。なおグループ経理標準化の取り組みについては、PO部が発足以前の2023年頃からスタートしています。
他にもPO部の役割として、各プロダクトのメイン担当者がPO部に多く所属しているため、各プロダクト窓口としての役割もあります。例えば、部内で「クラウド経費のこの使い方ってどうしたらいいんだっけ?」という質問が上がったときに、PO部で確認して回答しています。
- プロセスオーナーとは:
「組織全体の目標をより効果的かつ効率的に実現するために、ビジネスプロセスのパフォーマンスを最適化することを目的として、ビジネスプロセスを適切に管理する責任を負う者」を指す。(引用元:https://effic.be/en/process-ownership-and-process-owners/)- プロセスオーナーを置く意味:
- プロセスを横断的に見ることによる全体最適化
- 各業務の属人化排除
- プロセスオーナーを置く意味:
- マネーフォワード経理本部におけるプロセスオーナー部とは:
- 背景:経理本部は、マネーフォワード本体の経理業務だけでなく、グループ会社各社の経理業務を受託しているため、標準プロセスを管理するメリットが大きい。
- ミッション:経理本部の全体最適に資するプロセスの設計と運営
──経理部の中に、こうした業務に特化した部署がある企業は珍しいのでは?
そうですね。経理の中に、このような業務プロセスの標準化に特化した部署を持っている会社は、私の知る限りでは、あまり聞かないように思います。
──経理業務のAI活用についても、PO部が特化して推進しているのでしょうか?
AIに代替可能な部分は、もちろん置き換えていけたらという話はありますが、AI活用に特化しているわけではありません。「そもそも、現状の業務の回し方が良くないよね」という大前提の部分をPO部で議論し、見直しています。AI活用については、PO部に限らず経理部全体で取り組みが推進されていますね。
きっかけは「面倒すぎる」だった

──有村さんが生成AIとGAS(Google Apps Script)(※1)を活用して、業務効率化を図ったきっかけは、何だったのでしょうか。
育休から復帰して、少し経ったころです。久しぶりに経費精算の申請・承認依頼等、さまざまなリマインド作業をやってみたら、「この作業、面倒すぎる!」と思ったんです。それで、効率化できないかなと考え始めました。
※1:GAS(Google Apps Script)とは、Googleが提供する、GoogleスプレッドシートやGmailなどのサービスを連携・自動化するためのプログラミング環境および言語のこと。
──GASはもともと使えたのですか?
数年前に、一度触ったことがあります。ChatGPTの出始めのころに、スプレッドシートのスナップショットを作るGASを作ってみたいと思い、試してみました。ですので、GASについて少しは知っていた部分もあり、「多分できるはず」という気持ちがありました。もちろん私がコードを自分で書いたわけではなく、Geminiに相談しながら作った形です。
──AIについては、活用に戸惑うことはありましたか?
実は、復職前にはChatGPTしか使用したことがなく、Geminiについてはほぼ知らない状況だったんです。復職後、社内でウェルカムランチならぬ「ウェルカムAIレクチャー」を受けることができ、社内におけるAI活用ルール、Geminiにどのような機能があるか、社内でどのような活用がされているか等をキャッチアップし、スムーズに業務での活用をスタートできました。
業務改善例1:リマインド作業が、ボタン1つで完了【Gemini × GAS】
──ここからは、実際に作った3つの仕組みを教えてください。まず、リマインド業務について、どのくらい工数のかかる作業だったのでしょうか。
私が担当していたのは、工数の入力を促すリマインドでした。毎月1営業日から、「工数を入力してください」と、入力が完了していないメンバーを確認し、対象者へSlackでメンションを送ります。
例えば、1営業日は40人いた対象者が、2営業日は35人、3営業日は30人と、少しずつリマインドする数は減っていくんです。一定の人数を切るまでは毎日リマインドする必要があったので、未入力のメンバーを確認し、毎日リマインドするのはそれなりの工数がかかってしまっていましたね。
場合によっては、メンション数が100人を超えてくることもあり、スプレッドシートから一括でコピー&ペーストができなかったため、これを手作業でやり続けるのは厳しいな、と感じていました。さらに私だけではなく、他の経理部メンバーや、経理責任者の松岡まで複数リマインド作業をしていたため、これは早急に何とかしなくては!と考えたのがきっかけです。
──実際に、どのような仕組みを作ったのですか?
まずスプレッドシートに、元データを入れます。そうすると、営業日ごとのリマインド対象者がシートに出てきます。営業日ごとに、Slackに送る文章も設定してあります。スプレッドシートとSlackをアプリ連携(※2)し、GASを使ってメニューバーに表示させた「Slack送信」というボタンを押すと、対象者にメンションが飛ぶ、という仕様です。
※2:Slackの「Incoming Webhook」というアプリを使い、スプレッドシートからSlackへメンションを自動通知している。(Incoming Webhook:他のアプリから Slack にメッセージを投稿するための方法)
▼Slackでの経費精算リマインド(ボタン1つでメンションされる仕組み)※画像はイメージです

──どのぐらい楽になりましたか?
これまではコピー&ペーストして、合っているか確認しながらメンションをしていたのが、ボタン1つで送れるようになったので、かなり楽になりましたね。手作業だとメンション部分をどうしてもうまく貼り付けられず、対象者が多いと1つのリマインドに数分〜数十分ほどの時間がかかることもありました。それが、GASを通すと一発ででき、作業時間を削減できました。
経費の一次承認で差し戻しされた申請の確認や、支払依頼のリマインドなど、同じようなリマインド作業が6チャンネルぐらいで発生していたので、すべてを足すとかなりの工数削減になっているはずです。
弊社ではSlackを使っていますが、それ以外のチャットツールでも、メンションで使用するIDの取得と、チャットツールとスプレッドシートを連携できる仕組みがあれば、同じ要領で実現可能かと思います。
業務改善例2:人事の組織図を、経理が使いやすい形にコピー【Gemini × GAS】
──2つ目の、組織図のスプレッドシート連携は、どのような課題から生まれたのですか?
経理の月次業務には、組織をベースにしているものが多いです。そのため、組織図から情報を引っ張ってきたいというニーズがあります。ただ、スプレッドシートのIMPORTRANGE(別のファイルからデータを取り込む関数)で、人事が作成している組織体制図を取り込もうとすると、取り込み上限に達してしまいエラーメッセージが出てしまうため、自分でコピー&ペーストするぐらいしかありませんでした。
──どのように解決したのですか?
組織図を複製して、経理がインポートできる形にしました。毎月決まった営業日になったら、最新の組織図をシートに貼り付ける、という処理を、GASで自動化しています。
──工夫した点は、ありますか?
更新のタイミングです。月初に更新されると、前月のデータが欲しいときに困るので、5営業日ぐらいに更新されるようにしました。
また、使う人が迷わないように、更新が成功したか、最終更新日がいつか、どの月の組織図が反映されているかが分かるようにしました。
──GeminiでこのGASを作るのは、難しかったですか?
先に紹介したリマインド業務よりも、スムーズにできました。思ったより簡単にできましたね。
業務改善例3:部定例の議事録を統一【Gem】
──3つ目の、議事録について教えてください。
こちらはGASを使った事例ではないのですが、経理部内で議事録を定型化しているという話です。
議事録をAIで作っている人は多いと思いますが、経理部では部定例の議事録を、GeminiのGem機能を活用して自動整形しています。
Zoomで文字起こしをしておいて、それをポイっと投げると、登録しているGem(あらかじめ指示を登録しておけるGeminiの機能)で一定の形の議事録ができます。それを経理部のチャンネルや、共有したい相手のいるチャンネルにSlackで投稿し、文章でも残しています。
経理部内のミーティングでも誰かが代表して議事録を投稿しますし、経理と別部署のミーティングでも、「こういうミーティングがありました」と共有できるように、議事録を投稿しています。
文字起こしのデータさえあれば、誰でも使えるのが良いですね。
「その作業、本当に必要?」を問い続ける文化
──毎月の経理業務だけでも忙しいと思いますが、これだけ多くの業務改善が生まれるのは、なぜでしょうか。
毎月なんとなく作業してしまっていたけれど、「本当にこの作業って必要なんだっけ?」というところを意識するようにしています。経理責任者の松岡がそこを意識していて、「この作業が大変なんです」と相談をすると、「それってそもそも必要なんだっけ」という話になることが、結構あるんです。
これは経理全体としても、共通して意識していることだと思いますね。だから、改善につなげやすいのかな、という感覚があります。
──改善したことが、評価に反映される仕組みなどはありますか?
毎月の振り返りの場で、改善系のプロジェクトも組み込むようにしています。「これぐらい進んだ」「ここはうまくいかなかった」と振り返って、半期が終わったときに、「どれぐらい達成できたか」という話ができる状態にしています。
評価に反映されることはもちろんですが、「この作業は必要ないんだ」と気づけたことが1回でもあると、ハマってしまう感じはありますね。これは、PO部だけではなく、経理部全体の雰囲気としてもあると思います。
AI活用のルールと範囲
──マネーフォワードは内部統制報告制度(J-SOX)の対象である上場企業として、AIエージェントを使った経理処理の自動化については監査対応やセキュリティなど、考慮すべきことが多いと思いますが、AIで処理を自動化する際のルールはどのようになっていますか?
はい。部内でも完全にルールがあります。当然ですが、許可されていないツールは使いません。AIとアプリを勝手にAPIで連携させるようなことは基本的にせず、GASとCanvas(Google Geminiの機能)の中だけで完結させています。
AIに入力してよい情報、いけない情報についても、部内で何度も共有されています。共通の意識としてきちんと持てるように、かなり徹底されていますね。
仕訳につながる経理業務についても、中長期的にはAIエージェントなどを活用した自動化を目指していますが、セキュリティや監査対応といった課題が多いため、現在は専門部門と連携しながら慎重に検証を進めています。
そのため短期的には、業務の全自動化や会計処理に直結する計算を任せることは想定せず、AIでGASを生成して定型的な繰り返し作業の効率化を図ることに注力しています。
あくまで人のチェックを軸とし、負荷の大きい作業を機械に支援してもらうスタンスで、段階的に取り組みを進めていきます。
AIの使い方と、社内への広げ方

──これからAIを使い始める経理担当者は、何から手を付けたら良いでしょうか。
私が使い始めたころ、社内や部内で「こういう使い方をしているよ」と話してくださる方がいました。
その中で「良いな」と思った活用法の一つは、他の方が作ったスプレッドシートの解説をAIにしてもらう、という使い方です。他の人が作ったシートには、自分が普段使わない関数が入っていることがありますよね。「これ、何をしているのかよく分からないな」というときに、その関数をAIに貼り付けて、「これって何をしているの?」と聞く、という方がいたのです。
あとは、過去に作成されたシートの関数について、「もう少しスマートに置き換えられないか」という使い方も参考になりました。なくても困らないけれど、少し使いやすくなる、という点は、AIの良い使いどころなのかもしれないなと思っています。
──最初からAIで何かを作る、というより、解説してもらう、改善してもらう活用から始める、ということですね。
そうですね。壁打ち相手としても、すごくいいなと思っています。解説を見ても分からないときは、「何も知らない人に説明するぐらいの感じで、もう1回説明して」とAIには言いやすいんです。丁寧に説明してもらい、「あ、理解できたな」というところまで付き合ってもらっていました。上司が忙しそうで、わざわざ聞きづらい、というときにも良いと思います。
──最近のAIの使い方で、変わったことはありますか?
以前は、Geminiのチャットに聞いて、実際の作業は自分で手を動かしていました。「この関数ってどう書けばいいの?」と聞いて、教えてもらった関数を入力するなど。
最近は、スプレッドシートのビルド機能(※3)をよく使っています。「こういう表がほしい」「この条件で集計したい」と、やりたいことを自然な言葉で伝えると、AIが実際にシートや関数を更新してくれます。コピペが不要になって楽になったのはもちろん、実際にスプレッドシート上で関数が追記されていくのを見てワクワクしました。
関数を調べて組み立てる作業をAIに任せられるようになったので、自分は「何を作りたいか」を考えることに時間を使えるようになりました。「AIに聞いて、自分で作る」から「AIに頼んで、作ってもらう」に変わってきた感覚があります。
もちろん、できあがったシートの数式や数字が合っているか、自分の欲しかったものがきちんと出来上がっているかは、必ず確認しています。AIに土台を作ってもらい、人がチェックするという流れですね。
※3:スプレッドシート上、画面右側のGeminiサイドパネルを通じて、自然言語の指示(プロンプト)だけでシート全体の設計や編集をAIに自動生成させる機能。
──社内では、AI活用はどのように広がっているのでしょうか。
経理責任者の松岡が「ちゃんと使っていこうね」と率先して伝えてくれるので、経理全体で使おうという意識は高いと思います。全社でも、定期的にAI活用のTips紹介などがありますね。
3つの仕組みを作って、気づいたこと
──3つの仕組みを作ってみて、気づいたことはありますか?
これまで自分一人ではできなかったことが、AIを使うことでできるようになっています。自分では書けないコードも、AIに書いてもらうことで少し背伸びした業務ができて、楽しいなと感じています。
実際、過去には無理かもと思っていたことが、どんどん実現されていっている印象もあります。今できないことも書き留めておいて、数カ月後に、もう1回試してみようと考えています。
今後、「業務改善したいことリスト」のようなものを作っておき、あれもやりたい、これもやりたい、というのを溜めていきたいですね。
──次にやってみたいことは、ありますか?
最近、ループエンジニアリング(※4)という単語をようやく知ったので、そこを意識して改善をしたいですね。具体的に何を改善するかは検討する必要がありますが、経理は毎月定期の対応が多いので、改善できることが多々ありそうです。
※4:AIエージェントに毎回手動でプロンプトを入力するのをやめ、「AIが自律的に実行・検証・修正を繰り返して目的を達成する仕組み(制御ループ)」を人間が設計・構築する手法のこと。
また、作業シートをもっと使いやすくしたいなど、細かい部分でも改善したいことはたくさんありますね。
具体的には、開示用のスプレッドシートの改善が止まってしまっているので、進めたいです。最終的な表示・出力形式にあわせて、よりシンプルかつ更新手順等もわかりやすい形にしたいと思っています。ビルド機能で一から作ってみるのもありかもしれません。
──最後に、AIで業務改善をしたくても「自分には無理」「時間がない」と感じている方へ、お伝えできることはありますか。
些細なことで良いので、まずは使ってみてください。自分が思ってもみない方向で改善案が飛んできたりするので、同僚に話しかける感覚でAIとコミュニケーションを取ってみる、というスタンスが良いかなと思います。
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