有価証券報告書の早期開示、「一本化構想」に向けて見直すべき開示プロセス

読了まで約 8 分

「有価証券報告書は、株主総会が終わってから出すもの」—長年そう運用してきた企業にとって、この前提が崩れつつあります。

有価証券報告書を株主総会前に提出する企業の割合は、2024年3月期の1.8%から、2025年3月期にはわずか1年で57.7%へと急増しました(※1)。

「うちはまだ株主総会後提出だから関係ない」と思っている経理・IR担当者の方も、この流れはもはや一部の先進企業だけの話ではなくなっています。今回は、なぜこの変化が起きているのか、そして現場で何が起きているのかを改めて整理します。

※本記事は、有価証券報告書の開示早期化に関するビジネス上の気づきを提供するものです。個別の開示実務・法令解釈については、専門家にご相談ください。

【執筆者】
株式会社マネーフォワード
ERPドメインリサーチャー
合江 篤

2019年に株式会社マネーフォワードに入社。Fintech研究所にて金融制度、年金制度、海外金融サービス動向を中心とする調査研究をはじめ、弊社Fintech研究所Blogにおける海外Fintech企業の動向の発信や、金融財政事情などの金融専門誌への寄稿などを行う。
2022年から電子帳簿保存法・インボイス制度対応など法制度関連のマーケティング施策に従事。2024年12月からERPマーケティング本部にて企業のバックオフィス業務効率化・DXを推進する取り組みや、企業の経理・財務領域を中心としたバックオフィスパーソンへの情報発信を行っている。

日本と米国の開示制度の構造的な違い

ご承知のとおり、日本の上場企業は同一の決算内容について、下記の3種類をはじめとした開示書類を、90日以内に作成してきました。

  • 取引所規則に基づく決算短信(決算期末後45日以内が目安)
  • 会社法に基づく事業報告等(株主総会の2週間前までに招集通知とともに発送)
  • 金融商品取引法に基づく有価証券報告書(事業年度終了後3か月以内)

このうち会社法に基づく事業報告等と金融商品取引法に基づく有価証券報告書については、それぞれ固有の開示項目と共通の開示事項が混在する構成となっているものの共通化がされておらず、別々に開示書類の作成が必要となっていたため、開示書類作成の業務負担の一因とされてきました。

米国を例に挙げてみると、年次報告書(Form 10-K)は、会計年度末から60〜90日以内の開示が求められており、決算後に求められる開示期限の日数としては差分が無いように思えます。しかし、米国と日本の開示制度で決定的に違うのは「米国では、株主総会で議決権を行使する際の判断材料となる情報が、株主総会の開催前に開示される」ということです。「有価証券報告書が、「株主総会の当日及び開催後」に開示されてきたという日本の慣習とは構造的に異なるといえます。

これは株主総会の目的に鑑みれば、米国の開示制度が本来のあり方と考えられます。

転換点:2025年3月の金融担当大臣要請

冒頭に挙げた通り、2025年には6割近くの企業が有価証券報告書を株主総会前に提出しました。

その転換点の1つとなったのが、2025年3月の金融担当大臣による要請です。「有価証券報告書は本来、株主総会の3週間以上前に提出することが最も望ましい」としつつも、実務上の課題に配慮し、「まずは第一歩として、株主総会の前日ないし数日前に提出することを検討してほしい」という、段階的なものでした(※2)。

この要請を受け、2025年3月期決算の上場会社を中心に株主総会前の開示が一気に広がりました。金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの資料では、この急増ぶりが明確な数字で示されています(※3)。

「早期」の本来の目的と、実現に向けた体制整備

一方で、当然ながら開示が「早ければいい」というものでもありません。

例年より数週間も前倒しになったスケジュールの中、監査法人とのやり取り、サステナビリティ情報の記載内容の確認、経営企画部門との数値のすり合わせが同時並行で進み、提出直前は「確認不足のまま出してしまうのではないか」という緊張感が続き、やっとの思いで間に合わせた。

……にも関わらず、投資家からは特段の反応はなかった。

これは単なるイメージですが、しかし、近いことが、多くの企業で見られたのではないでしょうか。

開示早期化は「単に実行すればいい」というものではなく、投資家との対話という本来の目的を中心に据え、また相応の体制整備を伴って初めて意味を持つ業務だといえます。

「一本化」という、さらに先にある構想

この変化は、単に「提出タイミングを早める」だけの話ではありません。法務省と金融庁は、有価証券報告書と事業報告等を「一本化」し、有価証券報告書に必要な情報を追加することで、事業報告等の作成そのものを不要にする方針を示しています。

実務面でも動きがありました。2026年2月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正により、株主総会前に有価証券報告書を提出する場合、これまで必要だった株主総会の決議予定事項(役員選任・配当など)の概要記載が、自己株式の取得及び剰余金の配当に関するものを除き、原則不要になりました。これは、株主総会前開示を行う企業の実務負荷を軽減する、具体的な一歩だといえます(※4)。

さらに、2026年5月の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループでは、「有価証券報告書の記載内容の整理について、抜本的なスクラップ・アンド・ビルドがそろそろ必要」という、かなり踏み込んだ問題提起もなされています。開示早期化は、今後、有価証券報告書そのものの記載内容の見直しにまで広がっていく可能性があります。

余談ですが、こうした企業の開示負担に対する見直しは、適時開示の領域においてもみられます。東京証券取引所が2027年夏にも適時開示情報閲覧サービス(TDnet)を刷新し、企業が開示したい事実を入力すると、AIが開示の必要性や内容の過不足を判断し、ひな型を作成する仕組みを導入する予定と報じられました。法定開示・適時開示の双方で、「開示の負担を減らしつつ、投資家への情報提供の質とスピードを上げる」という同じ方向の変化が進んでいるといえます。

経営企画・経理・IR・法務部門がいま備えるべきこと

  • 決算スケジュール全体の棚卸し

    • 決算短信・有価証券報告書・(将来的には一本化される可能性のある)事業報告等の作成プロセスを、個別最適ではなく一連の流れとして見直す
  • 部門間の連携体制の構築

    • 経理部門だけでなく、IR部門(投資家対応)、法務部門(株主総会関連書類)、サステナビリティ推進部門(非財務情報)との連携スケジュールを前倒しする
  • 監査法人との早期すり合わせ

    • 株主総会前提出のスケジュールに合わせて、監査手続きの進め方を監査法人と事前に協議しておく
  • 「なぜ前倒しするのか」の社内合意形成を社内横断で今のうちに行う

    • 目的が共有されないまま前倒しだけが先行すると、現場の疲弊につながりやすい。投資家との対話強化という本来の目的を、経営層を含めて共有しておく

まとめ

有価証券報告書の開示早期化は、単発のスケジュール変更ではなく、決算短信・事業報告等・有価証券報告書という、長年別々に運用されてきた開示プロセス全体の設計を見直す、業務改革の入り口といえます。「株主総会前に出せるかどうか」という目先の対応だけでなく、年間を通じた決算・開示プロセスそのものを、経理・IR・法務が一体となって再設計する視点が、これからの経理財務パーソンに求められそうです。

バックオフィス業務の効率化やデジタル化は、こうした開示早期化の流れに対応するための土台づくりとしても、改めて重要性を増しているといえるでしょう。

【出典・参考文献】
※1 出典:金融庁『第5回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和7年度) 事務局説明資料』(金融庁、2026年)P22、https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/shiryou/20260518/01.pdf(最終閲覧日:2026年10月26日)
※2 出典:金融庁「株主総会前の適切な情報提供について」『金融庁公式サイト』、2025年3月28日、https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250328-2/20250328-2.html(最終閲覧日:2026年10月26日)
※3 出典:金融庁『第5回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和7年度) 事務局説明資料』(金融庁、2026年)P24,25、https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/shiryou/20260518/01.pdf(最終閲覧日:2026年10月26日)
※4 出典:金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』等の公布及びパブリックコメントの結果について」『金融庁公式サイト』、2026年2月20日(3月19日更新)、https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20260220/20260220.html(最終閲覧日:2026年10月26日)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。