「転職すべきか迷っています」~要求されるスキルから考えるキャリア戦略~

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ごくごくリアルな経理担当者のお悩みにフォーカスする、前田康二郎さんの連載。第5回のテーマは、「転職」です。

「今の職場は好き。でも、このままで大丈夫なのだろうか?」

そんな迷いを抱える経理担当者の方も多いと思います。転職すべきかを決める前に、まず知っておきたい、会社の「4つの分類」と、経理人ひとりひとりのキャリアとの関係を前田さんが解説します。

【連載一覧】
「わたし、このままでいいんでしょうか?」前田先生に聞く経理の現在地、そして将来のこと ~経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対する不安や悩みにお答えします~
「給料が上がりません」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.2~
「スタッフが辞めてしまいます」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.3~
「不正を見つけてしまいました」。~前田先生に聴く・経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対するお悩み相談Vol.4~

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この記事は、『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』(クロスメディア・パブリッシング社刊)をはじめ人気著書を多数持つ前田康二郎さんが、株式上場や中国での業務など数多くの現場を経験してきたからこそ書ける内容です。ぜひ最後までお楽しみください!




『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』クロスメディア・パブリッシング
前田康二郎 著
 

今回の相談内容:スキルアップのため転職すべきか迷っています。

今の職場は好きですが、先々のことを考えるともっといろいろな会計処理が発生する職場でスキルアップをしたいという願望もあり、転職すべきか、それとも今の会社で働き続けるべきか迷っています。

経理のキャリアアップは、勤めている会社の「状態」に影響を受けやすい

年齢を重ねると「安定した会社でお金を頂ければそれが一番ありがたい」と思う方もいるでしょう。

しかし、20代や30代のうちは、キャリアプランの全体像のようなものがまだ感覚としてつかみきれないことも多いと思いますので、向上心や焦りから「今の状態で満足してしまって大丈夫なのかな」「もっとスキルアップしていないと40代、50代は乗り切れないのではないかな」と、ふと寝る前に思ってしまう方もいるかもしれません。

とくに経理という仕事は、職場環境が良い人ほど「このままで自分は大丈夫なのかな」と、思うことがあるかもしれません。

わからないことがあれば何でも答えてくれる優しい先輩、上司がいて、現場の社員の人たちも協力的で、経費精算なども期日までに全員提出してくれて間違いもほとんどない。皆が「経理がいてくれて助かる、ありがとう」と定期的に感謝してくれる。私は会社員時代、そのような職場を「楽園」と呼んでいました。

つまり現実にはそのような会社など存在しないと会社員時代は思っていましたが、独立していろいろな会社や経理の人たちと触れ合うと、案外そのような会社はあるのだなと思いました。

私は、会社員時代に勤めていた会社のほとんどが上場準備企業か、社員数の少ないオーナー企業でした。上場準備企業に勤めていたときは、上場審査というものは入試と同じなので、試験の時が一番完璧さを求められます。

ある会社で上場審査を担当したとき、当時30代前半だった私は、審査で求められるレベルが高過ぎて明らかに自分の実力が不足していました。だから「もっとレベルの高い仕事がしたい」という不満などありようがなく、毎日必死で仕事をこなすことだけで精一杯でした。

また、オーナー企業の場合は、逆に経理業務のレベルはそれほど高くなく、その代わり、総務人事や秘書業務も含めて広範囲の事務系の仕事全般をやっていました。

庶務的なリクエスト(それを雑用と呼ぶ人もいますが)が社長や現場から日常的にあるので、「業務レベルは高いものは求められていないけれど、自分がいることで皆は助かるのだろうな」という、自分の職場での存在意義というものを直接的に感じることができていました。

ただ、いずれのケースも、人によってはしばらく経つと「私、このままでいいのかな」と思えて来る人もいるのだと思います。

上場準備中は忙しさもあり、新しいことを学ぶ機会も多かったので気が紛れていたけれど、上場してしまえば、開示業務はありますが上場準備中ほどは物理的には忙しくないケースが多いので、「燃え尽き症候群」のようになってしまう人もいるかもしれません。

また、オーナー企業に勤めている人も「和気あいあいとこうしてこれからも過ごしていくのもいいけれど、10年後も同じ状態で本当に私はいいのだろうか」と思う人もいるのではないかなと思います。

経理の視点から見た会社の分類

そこで、経理スキルが会社の状態によってどこまで求められるかを改めて客観的に確認してみたいと思います。これを踏まえることで、「スキルアップのために転職すべきか」という今回のお悩みも、より具体的に考えていけるのではないかと思います。 

    1. 未上場企業(月次決算作業なし)
    2. 未上場企業(月次決算作業あり)
    3. 上場準備企業
    4. 上場企業

1. 未上場企業(月次決算作業なし)

経理スキルでいえば、この中でも一番多くを求められない職場環境だと思いますが、反対に秘書や総務など経理以外の業務を兼任しなければいけない会社が多いと思います。そういった「バックオフィス全体のスキルも知っておいて損はないな」という人なら向いています。

しかし、「私は経理専門で一生やっていきたい」という人だと、フルタイムでそこまでの経理業務がないことが多いので、会社も「経理以外にもいろいろやってほしいのに」と思い、働く側としても「私は経理担当者として入社したはずなのに、どうして経理以外のことをこの会社はいろいろやらせようとしてくるのだろう」と双方が不満を感じてしまうことがあるかもしれません。

2. 未上場企業(月次決算作業あり)

未上場企業で月次決算を行うか行わないかの区分はとくに明確なものはないので、あくまで私の経験上の傾向ということで断りを入れさせていただきますが、全社員の数が数名~数十名以内で、経理社員も一人経理というケースは月次決算を行っていない会社のほうが多いのではないかと思います。

その一方、未上場企業で月次決算をきちんと行っている会社は、ある程度の社員数や売上規模、拠点規模がある会社に多く、内部統制などもある程度しっかりしている会社ではないかと思います。経理のスキルアップという点においては、それまで1の環境の会社でしか経理経験のない方は、2の環境の職場は月次決算業務など新たな学びが多いのではないかと思います。

3. 上場準備企業

分類した4つの中で、一番経理スキルが上がるのは、この上場準備企業だと思います。

なぜかというと、上場準備企業というのは前述したとおり「受験生が受験勉強をし、きちんと合格しなければいけない」状態です。多くの皆さんは受験の経験があると思いますが、入試が終わって合格してしまったら、入学後の定期試験は入試ほど厳しくありませんし、真面目に取り組みさえすれば進級できることも多いでしょう。

上場審査は、入試と同じでミスが許されないので、「上場企業と同等のレベル」ではなく「上場企業以上のレベル」を現実的には求められます。現に、上場企業から上場準備企業に経理で転職してくる方で「余裕でしょ」と、思って来られる方はまずほとんどの方は職場でうまくいかず数年以内に再度転職されています。

なぜこのようなことが起こるかというと、転職前に勤めていた会社が、数年以内に上場されたなら今の時代の上場基準を満たしていると思いますが、それ以上、たとえば数十年以上前に上場した会社であると、その当時は守っていた厳密な処理が経年でおろそかになり、現場でも経理でも「厳密でない管理や処理が固定化されている」というものがどうしても出てきます。

しかし会計監査などでは監査時間も限られており、会社の全ての業務をチェックすることは不可能ですので、そのような部分があったとして、とくに指摘しないまま終わることもあります。

しかし上場審査の場合は、隅から隅まで全て厳しくチェックをされてしまいますので、上場企業の監査より上場準備企業の審査のほうが段違いに厳しいということが起こります。上場企業から転職されてきた方の中には「上場準備企業がこんなに大変だとは思わなかった」と思う方が出てくる理由です。

見方を変えれば、今、皆さんがお勤めの会社そのものが1⇒2⇒3と順調に成長していけば、転職などしなくても、その職場に留まってひたすら毎日頑張っているだけで必要な経理スキルも段階的にステップアップしていきます。だからスキルアップ、キャリアアップに悩むことはないと思います。

ただ実際には、そううまくいかないケースのほうが多いので、「自分の成長度合いと会社の成長度合い」が乖離してきたときに、多くの人は「今の会社に勤め続けていていいのかな」という悩みが出てくるのだと私は思います。

また、上場企業出身の方が前述したような上場準備企業の難しさを理解されたうえでの転職であれば、まず中心メンバーとしてご活躍することができると思います。この環境で結果を出して上場をし、役員など経営陣を目指されるのもいいと思います。

4. 上場企業

未上場企業と上場企業の違いは、上場企業の場合、月次決算、原価計算、開示資料など、上場企業に求められる様々な処理や資料を「期日内に」終えるということが強く求められるという点だと思います。

未上場企業でしたら、「経理処理が少し遅れていますので明日でもいいですか」と社長や税理士に伝えて許してくれたら許されるものでも、上場企業はそのような発想ではなく、会社が決めた「開示スケジュール」から逆算して、「〇月〇日までにどんなことがあっても必ず月次決算を締める」など、「決められたスケジュールに自分たちが合わせていく」という能力やマインドセットが必要になります。

新卒で最初から上場企業に入社した経理の方は、この点においては「会社の経理とはそういうものだ」と思っているので問題ありませんが、1や2の未上場企業で活躍されてきた経理の方の中には、「自分のスケジュール>会社のスケジュール」という方が一定数いらっしゃいます。その場合、経理実務の実力は上場企業レベルに達しているのですが、協調性の面で周囲とうまくいかず退職される方が多いです。

上場企業では、未上場企業に比べて、さまざまな場面や状況に合わせたコミュニケーションスキルが求められる機会が増えます。1や2の環境で、一通り経理実務はできるようになり、今勤めている会社は上場の予定が当面ないという方で、さらなる飛躍を求めたいという方は、4の上場企業にチャレンジしていただくのも良いと思います。

自分が興味・関心のある商品・サービスを有する会社の経理に携わるという視点も「あり」

会社をこのように経理的な側面から分類してみて、自分がどの状態の会社に向いているかを分析してみるのもいいと思います。

そしてもう一つ、別の側面から会社を見るとすれば、「自分が個人的に興味のある業界や会社かどうか」という点もいいのではないかと思います。

私自身は会社員時代そちらを優先し、エンタテインメント系の会社での経理経験が多く、経理業務をしながら「この商品にはこれだけの原価がかかっているのか」「この作業はこういう会社に発注しているのか」など、忙しいなかでも楽しみながら作業をしていました。

経理業務は一人で集中して行う作業が多く孤独になりやすいですから、こうした視点も経理業務を続けるモチベーションとしては案外重要ではないかと思います。

私の場合は、独立をしてしばらくは、会社員時代には勤めてこなかった業界の経理の仕事を積極的に行い、バランスよくどの業界の経理処理もわかるように実務経験を積むようにしていました。

また、「〇年後、どのような自分になっていたいか」ということを頭で思うだけではなく、具体的に書き出すこともお勧めです。具体的に書き出せれば、それは自分がかなり本気で望んでいることであり、周囲にも具体的に伝えることができる状態です。

もし書き出せない場合は、まだそこまで決意が固まっていないということだと思います。このような、自分を客観視するチェック方法も活用しながら、後悔のない決断をしてください。

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