「わたし、このままでいいんでしょうか?」前田先生に聞く経理の現在地、そして将来のこと ~経理担当者が夜にふと考えてしまう現在・将来に対する不安や悩みにお答えします~

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「今の会社しか知らない自分は、外の世界では通用しないのではないか?」

……この、フとした瞬間の、胸騒ぎ。新卒で今の経理部署に、ということでなくとも、長くひとつの企業で働く多くの人につきまとう不安感だといえるのではないでしょうか。また、経理は会社の外部とのつながりが希薄になりやすい職種でもあり、これも「通用しないかも」と思ってしまう原因かもしれません。

最新刊『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』(クロスメディア・パブリッシング社刊)等も人気の前田康二郎さんの、新連載をお届けします。

連載テーマは、上記のような「経理のリアルなお悩み」。株式上場や中国での業務も含め、多くの「現場」を見てきた前田さんだからこその回答を、経理のみなさんにお届けします。


『デキる上司がデキる部下を潰してしまう。はなぜ起こるのか?』クロスメディア・パブリッシング
前田康二郎 著

 

相談内容:他の会社でも通用するか、不安です

新卒で経理担当として入社し5年になります。ひととおりの経理実務は経験していますが、これまで1社でしか経理を経験していないので、他の会社でも通用するのか、将来を考えると不安になる時があります。

 

1つの会社で継続してキャリアを積めること自体が才能

まず、ご回答の前に相談者の良い点を二つ挙げさせていただきます。一つ目は、1社でそれだけ長く続けられていること自体が才能だと思います。

私の場合は、就職氷河期世代で100社近く応募してやっと入れていただいた会社だというのに、経理の基礎ができていないまま2年弱で次の会社に転職してしまい、会社にも大変ご迷惑をかけました。

周囲からも「こらえ性がない」「そんなんじゃ辞め癖がつくよ」「履歴が汚れるね」など、さんざんな言われようでした。だからその分、2社目以降では結果を出さないといけないと思い、どんなにつらいことがあっても耐えて頑張った記憶があります。

そして私の時代は「転職で入社してくる人=迎え入れる側の社員と同等かそれ以上のレベル」が当たり前の時代でした。自分の知らないことが出てきても「知らない」とはとても言えない空気でした。

たまに知らないことがバレると「派遣社員の私でさえわかるのになんでそんな簡単な経理処理がわからないの!」と、ベテラン派遣社員の方にフロア中に聞こえる大声でわめかれたことは、30年近くたっても未だに忘れられません。

その時に、自分は絶対にこんな意地悪は他人にしないでおこうと誓ったのですが、それでも、その派遣社員の方が言っていることは正しく、私があまりにも「経理だからどの会社でもだいたい同じだろう、なんとかなるだろう」と高をくくっていたのです。

1社目の会社は信販会社でしたので、その業界の売上計上、原価計上のルールはわかっていました。しかし、2社目の音楽制作会社では、前払印税の計上が云々とか、全く未経験の業界の会計処理を初日からしなければいけませんでしたので、混乱してしまいました。

今の時代なら先輩が親切に教えてくれ、業務マニュアルもあるでしょうが、そのようなものもなく「前月とか前年同月とかの帳簿を見ればなんとなくわかるからよろしくね」で引継ぎは終わりでした。

新卒で入社した会社は、直属の上司が親切に教えてくれ、私が間違えていたらさりげなく指摘をしてくました。その時は、それが当たり前のことだと私は思っていましたが、転職をして初めて「大変なところに来てしまった。1社目の会社は本当に親切だったし、皆心配していろいろ厳しい言葉をかけてくれていたんだ」ということに気付きました。

しかしそれも後の祭り、後戻りはできませんので、必死で仕事を覚えました。その時改めて、1社目で経理の基本をひととおり覚えておくことの大切さを身に沁みました。

ご相談者様は、「自分の応用が利くか」を心配されていますが、ご相談者様のように1社でひととおり経理の基本ができていれば応用は利きますので、まずはご安心いただければと思います。

ご相談者様の二つ目の良い点は、「自分はほかの会社で通用するのだろうか」という危機感や客観的視点を持っていらっしゃることです。

私の1社目の時は「自分なら他でも通用するのではないか」と大きな勘違いをしていました。だからきちんとした準備もせず転職して、その分きっちり痛い目に遭いました。

自分のスキルやキャリアを俯瞰できること自体が、今、仮に転職をしたとしても、新しい転職先で「自分に何が足りないのか、自分のスキルをどうやって生かせるのか」ということを素早く理解して順応していけることと思います。

何社経験があるかより何事業の経理処理パターンを知っているか

そのうえで、具体的にアドバイスをさせていただけるとすれば、経理に関して言えば、何社勤めたかよりも「経理処理のバリエーションを何パターン知っているか」が、経理スキルに直結していると思います。

たとえば私のケースでしたら、前述したように、1社目では事業内容が信販事業のみの会社でしたので、売上の計上パターンも原価の計上パターンも1種類(1事業分)だけ覚えれば、あとは簿記のルールに従って処理をすれば問題なく業務が行えました。

しかし2社目では、私は音楽制作会社の中のグループ会社の1社の経理を担当しましたが、その会社自体が「スタジオ運営」「雑誌制作」「著作権印税」「コンサート事業」など、10個近い事業を行っていました。

つまり1つの会社の担当だけれども、10種類近い売上や原価の計上ルールを覚えて処理をしていかなければいけませんでした。ただ、大変な分、そこでかなりのビジネスモデルの売上計上や原価計上のルールを覚えることができました。

さらに30代で転職した会社でも同様に、本業はPR事業の会社でしたが、そこでもスポーツ選手のエージェント事業やカフェの運営など、ありとあらゆる事業を行っていました。

それらの経理処理を経験したので、転職自体は数社でも経理処理は数十社分マスターしたのではないかというくらい経験しました。それが今はとても役に立っていて、クライアント様から「このようなケースってどういう計上処理をしたら良いんですか。AIに質問しても答えがあいまいで」と聞かれたときに、パッと即答することができます。

「どれくらいの事業の経理処理パターンを知っているか」ということはとても有用だと思います。

たとえば、ご相談者様の会社が5つの事業をされていている場合、ご自身では「1社しか勤めていないから」と思っていても、実際には5社分やっているのと同じスキルをそこで養えていると思っていただいて問題ないと思います。

そして、「1社しか経験をしておらず、会社も1事業しかやっていない」という場合でも、このこと自体を理解していれば、経理処理のパターンは一度覚えればそれで済む話ですので、新規事業で新たな経理処理が必要な場合はそこで覚えればいいのです。

転職した場合でも、転職先で、事業ごとの売上計上・原価計上の処理のルールを最初にマスターしてしまえば、そのほかの部分はどの会社でも経理処理は8割方同じだと思いますので、焦らず落ち着いて業務に取り組んでいただければと思います。

2割程度は会社ごとに経理を取り巻くルールや習慣が違う

そして今「8割型はどの会社でも同じ」と言いましたが、残りの2割は会社ごとで「経理」に関するルールや慣習が違います。

大きくいえば二つあり、一つ目は、「経理の業務範囲はどこからどこまでかと社長や現場が捉えているか」という点です。

たとえば、経費精算を期日までに提出するよう催促する作業は、「現場の各部門の上長が自分の部下に遅滞せず提出するよう指導する」場合もあれば、「経理部門が一括して全社員に遅滞なく提出するよう指導する」場合もあります。

どちらのやり方をしているかは社長の意向が大きい傾向があります。そのため、転職した際に「前職は、現場の部長さんたちが経費精算の提出管理はやってくれていたのに、なぜこの会社は経理の私がそれをやらなければいけないんだろう。この会社は間違っている、おかしい」と思ってしまう人もいることと思います。

このような「会社ごとにやり方を決めている」業務に関しては、会社ごとの伝統や慣習があります。それを是正したいなという場合は、一旦既存のルールどおりやってみて、その後に「一旦既存のルールでやらせていただいたのですが、私の前職ではこういうやり方をしていて、とてもよかったので、一度このやり方でやらせていただけませんか」という提案をしてみてもいいと思います。

二つ目は、領収書の紛失や不正、計上漏れ、滞留債権など、経理関連のアクシデントがあった際のルールが、会社ごとに違うことがあります。

たとえば、現場の担当者が領収書を紛失してしまった場合、多くの会社はまず再発行ができないか確認します。それができなければ、始末書とともに出金伝票を書いて本人と直属の上長の承認を経て経理に回覧する、という手順が多いと思います。

しかし、このような手順でないやり方をしていたり、厳しい社長さんの会社だと、領収書をなくしてしまったらそれは自己責任だと言って自腹になってしまったりすることもあります。

また、売上や原価の計上漏れの際も、計上漏れが発覚した時期や金額、その会社が上場か未上場かで月次決算をやり直して再計算するか、やり直さないで最新の月で修正処理してしまうかなども、会社によって基準が異なります。また、滞留債権の取り扱いや、不正が発覚した際の処分内容も会社によって異なることが多いです。

「自分の経験した経理が世の中の経理の全て」と思っていなければ大丈夫

このように、確かに1社で経理を長くやっているということは、限られた環境に違いありませんので不安になったり焦ったりすると思います。

ただ、経理は「簿記」という軸がありますので、営業のように、違う会社に行ったら全く違うものを売らなければならない、ということに比べたら、1社で長く経理をやっていても、他社でも通用するスキルは身についていると思います。

「理屈はわかったけれど、気持ち的にはなんとなく心配」ということでしたら、同業他社の経理社員の方たちと触れ合えるイベントに参加するのもいいと思います。

私もイベント会社と一緒に「経理座談会」という、経理社員だけを数十人集めて各テーブルに数人ずつ座っていただき、ひたすら日頃の悩みや考えていることなどを共有して、お互いにアドバイスするというイベントをここ数年、毎年開いています。同業者の悩みは同業者が一番共感してくれることと思います。

経理は他の職種と違い、外出機会がない分、他社の経理の人たちと触れ合う機会がほとんどありません。一人でモヤモヤと悩んだり不安になったりすることも多いと思います。そのようなときは、経理関連のイベントなどにも気分転換に参加してみるのもいいと思います。

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