元上場企業経理部長・前田康二郎さんに「極意」を聴く|#01 システム導入を渋る社長をどう説得すべきか?

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わたしたちBizpedia編集部員がよく耳にする「導入したいのはやまやまだけど、ウエがね……」。

確かに、現場はシステム化の必要性を理解しているのにもかかわらず、トップは「売上を作らない経理システムは後回し」というケースも多いかもしれません。

しかし、それでも、経営に与えるメリットを無視すべきでない。……それが、わたしたちの結論です。

そこで、「どうしたらウエを説得できるか」を、元上場企業経理部長で、現在は『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)などの著作が人気の、前田康二郎さんに聞きました。

第1回のテーマは、「システム導入しないことの、取り返しのつかないデメリットを知る」こと、そしてそれをトップに伝えることです。

元上場企業経理部長・前田康二郎さんに「極意」を聴く|#02 論理的に説得できないトップへの対策とは?

より最新の経理システムが導入されている会社にモチベーションの高い経理は移動する

経理をはじめとしたシステム導入において、社長など決裁権を持つ方からよく出る質問の一つが「このシステムを導入するとどのようなメリットがあるのですか」という質問です。

販売する側のソフトウェア会社は、「生産性が上がります」「業務が効率化できます」「コストを抑えられます」「作業時間が短縮します」などのメリットを挙げるのですが、決裁権限を有する社長の頭の中の「メリット」というのは、その多くが「売上についてのメリット」を求めています。

たとえば、デイリーで全国の各店舗の売上実績や営業社員一人ひとりの売上を管理するシステムがあれば「よし、これで売上を管理して、売上が未達の店舗や社員に指導をしてやろう」と喜んで導入の決裁をするでしょう。

しかし、経理の申請や処理に関するシステムになると、「経理?経理になんかお金かけたって売上につながらないじゃん」と、そもそも「興味がない」「売上につながらないものに投資をしたくない」方が多いのです。

実際に、モチベーションの高い経理担当者が展示会などで良い経理システムを見つけてきて「社長、この経理システムを入れたいのですが」「今のシステムをアップデートしたいのですが」と言うと、「え?それを入れたら、今経理社員5人いるけど2人くらい減らせるの?」などと、「経理システム=ただの人減らしのツール」としか認識していない社長もいらっしゃいます。

このような回答を受けて、モチベーションの高かった経理社員はやる気を失い、その会社に見切りをつけ、最新の経理システムが導入されている会社へ転職していってしまいます。

反対にそこまでモチベーションの高くない経理担当者は、前述のようなシステム導入を提案する同僚に対して「うちの社長なんて最初から経理になんて興味ないし、そもそも会社の数字もろくに見てないんだから。あの人もモチベーションが高いのか何だか知らないけれど余計なことしてくれるよね。もし導入されたら自分たちリストラされちゃうじゃん。新しいものを覚えるのも面倒くさいし、今のアナログな経理作業でやって定年まで過ごせればいいんだよ」という「諦め」の境地にいることでしょう。

ただ、このような会社は、これまではなんとかやっていけていたかもしれませんが、今後は会社を取り巻く外的環境の変化の波に飲み込まれ、会社が跡形もなくなってしまうということも、現実的にあり得ると思います。

「人口減少」が日本人の働き方の価値観や日本企業の社内体制を大きく変える

直近に訪れた外的環境の大きな変化の一つ目は「人口減少」です。これまでの時代は、人手不足は一部の業界や中小企業などに限られていましたが、今や全ての業界・企業において人手不足の求人リスクは避けられなくなりました。

そのため、「働きやすい職場」「辞めない職場」「小人数でも回せる職場」「業務初心者でもこなせる職場」といったことが人口減少に転じた令和以降の時代には重要になります。

私は昭和48年生まれで、当時は大学受験の浪人生の割合が30%台でした。就職活動の際は私も100社以上に手書きではがきを出し、50社以上回り、何十人ものOBに会い、結果全て落とされました。一旦就職活動を諦め、それから数カ月休んだのち、たまたま訪れた就職課の掲示板に貼られていた上場準備企業の求人に応募し、拾っていただきました。

それが今や浪人生の割合は10%前後となり、就職活動の大変さは今の時代も変わらないと思いますが、「就職浪人」という言葉もあった時代と比べれば、今は選り好みをしなければ会社から内定をいただける時代になりました。

人口減少に対して危機感のある大学は、既にさまざまな魅力ある施設を作ったり学部を新設したりするなど、ハードとソフトの両面で「投資」を行い、受験生や親御さんにアピールをして受験生を確保しています。

企業も同じ努力が必要な時代です。学生さんたちがその後就職活動をする際に、どのような会社を就職先の候補にするかといったら、大学と同様に「魅力あるハードとソフト」があるか、という点になるからです。

「職場にはどのようなシステムなどの設備や福利厚生などの制度が整っているのか」などのハード面と、「どのような魅力ある社員の方たちが働いているのか」というソフト面が気になるはずです。その両面はまさに「働きやすさ」に直結しているのです。

そして、彼らの親御さんの世代は、バブル世代などから就職氷河期世代へと本格的にシフトしていきます。親世代が就職氷河期世代に代わると何が起こるかというと、「組織に依存しすぎず、子供自身が将来自立するために必要なスキルアップができる会社に入社して欲しい」という希望がこれまで以上に加わります。

私自身も、就職活動で圧迫面接をされ、嫌な目に遭ったことが今でも忘れられません(その会社はその後経営破綻しましたが)。「会社や組織というものに全てを依存することは危険」「会社や組織に左右されず、個人で強みになるスキルを持っていることの大切さ」「どの会社に転職しても即戦力で活躍できる万能なスキルを学べる職場」など、親自身が苦労した分、それらの教訓をお子さんに教えてきた親御さんも多いはずです。

令和時代の就活生の多くが「新卒で入社した会社で定年までいるつもりだ」という比率が少ないのも、若者自身の意見というよりも、就職氷河期で苦労した親御さんの影響が色濃く反映されていることも一端ではないかと思います。

舐めてはいけない就職氷河期親世代の企業に対する「親ブロック」

今後は、就活生自身が「この会社に入りたい」と思っても、親御さんがその会社をチェックして「この会社はやめておきなさい」という「親ブロック」も顕著に増えていくと思います。

では、親御さんが会社の何が気になるかといったら、前述したハード面、ソフト面の充実度に加えて「経営者がどのような考えの持ち主か」ということも重視することでしょう。

たとえば経理システムのような、会社にとって基本中の基本であるものすら社長が投資を出し渋って整備していない会社の場合、そのような会社は他のシステムも同様でしょうから、他社がほとんどデジタル化、自動化してさらに先のレベルの業務を行っている職場環境だというのに、いまだにアナログ作業・処理を一日中やらなければいけないという職場になります。

お子さんから「入社したら経費申請とか社内の作業は手作業ばかりで、学校時代の同級生に聞いたらそんな会社1社もなかった」と聞かされた親御さんは、「そんな必要なものにさえもお金を使いたがらないケチな社長さんの会社、余計な苦労をするだけで時間の無駄だから今すぐ転職しなさい」と言うことでしょう。

私自身も全てアナログを否定しているわけでなく、アナログであるべきところはそうすべきですし、アナログだからこそ身についたスキルもたくさんあります。そして、デジタル化をしても人間によるダブルチェックは必要だと考えます。

ですが、「別にアナログのまま残しておく意味はない」ところをデジタル化しない、というのは怠慢であり、問題です。必要なところに必要な投資をケチってできない社長では、経営判断をする立場としての資質にも関わってきます。

令和の感覚にアップデートされている社長さんとそうでない社長さんの違いは、経理システムなどのデジタルツールに関する費用を、前者は「必要経費」、後者は未だに「無駄な経費、余計な経費」と認識している点です。

前者のマインドの社長さんはこれらの経費を年度予算に入れ、後者のマインドの社長さんは予算外としています。だから前者の場合は、毎年デジタルツールが導入、アップデートされ、後者はいつまでたってもシステムが入らず、全てにおいてアップデートできていないのです。

前者と後者の職場では、おのずと社内の雰囲気や仕事の進め方、そして売上や利益も差が開いていくことは皆さんも頭の中でイメージすればわかるはずです。

経理システムを導入しないこと自体がデメリットしかないことを社長にお伝えするのが経理担当者の使命

もし私が今回の内容をベースに、経理システムの導入やアップデートを経理担当者の立場として社長にご提案させていただくとしたら、

  • 社長、今の時代は経理システムの導入やアップデートは「イレギュラーな経費、無駄な経費、余計な経費」ではなく「必要経費」としてどの会社も皆予算に組んでいますから、当社も今回の予算からそうやって作りましょう
  • 社長、今の時代にアナログ体制のままだと、親御さんが「親ブロック」でお子さんを入社させなかったり、辞めさせてしまったりしますから、早く経理システムを導入して新年度までに社内体制を今の時代に合うように整備しましょう。そしてそれを会社のアピール材料にしましょう
  • 社長、経理システムを導入するメリットはもちろんありますけど、それ以前に、導入しないままだと同業他社から取り残されて日々損失が膨らんでいくだけです。とりあえず今月中にトライアル契約して一旦入れてしまいましょう。それからまた考えましょう。

など、ご提案をさせていただくと思います。ご参考になさってみてください。

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