BPO組織に学ぶ 未経験経理を戦力にするための「組織の習慣」 アナログ編

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今、多くの企業で課題になっているのが、「経理人材の育成」です。

かつてのように、「OJTで、習うより慣れろ」と言ってもいられない、というのが経理の現場の実情でしょう。

このテーマについて、会計・経理のBPO(* )サービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾篤史さんに聞きました。

BPO組織は、ある意味で「人材育成のプロ」です。その知恵の中から、前編・アナログ編では、人材育成の「原則」とでも言うべき、組織文化の側面から語っていただきます。

* BPO……ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。

経理未経験者を短期間で戦力化する育成戦略:学習する組織文化と実践的アプローチ

近年、多くの企業で経理人材の不足が課題となっています。専門知識が求められる一方で、経験者の採用は難しく、未経験者の採用・育成に舵を切る企業も増えています。

しかし、「未経験者にどうやって経理業務を教えればいいのか」「本当に戦力になるのだろうか」といった不安の声も多く聞かれます。

経理未経験者を採用し、確実に戦力化するための具体的な方法論について、2回にわたって解説します。1回目は研修等のアナログ面からのアプローチについて説明します。

1. 育成の成否を分ける「学習する組織文化」

まず、個別の育成手法に入る前に、最も重要な土台となるのが「組織全体で学習する文化」が醸成されていることです。

経理業務は専門性が高く、法改正やシステム変更など、常に新しい知識の習得が求められます。未経験者が一人で立ち向かうには限界があり、周囲のサポートや、組織として学びを推奨する雰囲気が不可欠です。

具体的には、組織として学習を支援し自律的に学習するメンバーが多くいる環境、質問しやすい雰囲気、挑戦を奨励し失敗を許容する風土、知識や経験を共有する仕組みなどが挙げられます。

このような文化があれば、未経験者は安心して学習に励むことができ、周囲のメンバーも育成に協力的な姿勢を示すようになります。個々の施策が効果を発揮するためにも、まずは自部門、ひいては会社全体の文化を見直すことから始めましょう。

2. 入り口が肝心:採用段階で見極めるべき「学習習慣」

次に重要なのが、採用段階での見極めです。経理の知識や経験がないことは前提として、それ以上に「自ら学習する習慣」を持っているか、あるいはこれから身につけられるポテンシャルがあるかどうかが、その後の成長を大きく左右します。

理想的なのは、過去の実績から学習習慣を確認できる人材です。例えば、資格試験の勉強をして合格した経験がある、あるいは特定の分野について独学で知識を深めた経験があるなど、目標達成のために努力を継続した実績は、入社後の学習意欲を測るうえで有力な指標となります。

もし明確な実績がない場合でも、面接を通じて学習に対する意欲や姿勢を深く確認することが重要です。

「なぜ経理に興味を持ったのか」「新しいことを学ぶ際にどのように取り組むか」「困難な課題に直面したときにどう乗り越えるか」といった質問を通じて、知的好奇心や粘り強さ、成長意欲を見極めましょう。単なる「やる気」だけでなく、具体的な行動計画や学習への取り組み方を語れるかどうかがポイントです。

3. 「自己学習」と「社内研修」の効果的な組み合わせ

入社後の学習は、「自己学習」と「社内研修」の両輪で進めるのが基本です。ここで認識すべきは、両者の時間的なバランスです。

多くの場合、業務時間内、業務時間外問わず確保できる研修時間は限られています。そのため、経理の基礎知識や専門用語の習得といったインプットの多くは、自己学習に頼る部分が大きくなるのが一般的です。

社内研修は、この自己学習を補完し、実践力を養う場として位置づけるのが効果的です。

例えば、自己学習で得た知識が正しく理解できているかを確認するテストやディスカッション、あるいは実務で直面する可能性のある具体的なケースを用いた演習などが考えられます。単なる教科書的な一般論を教えるだけでは、実際の業務にはなかなか結びつきません。

とくに有効なのは、自社の業務フローや使用している会計システムに即した、実践形式の研修です。実際の伝票や勘定科目、決算調整項目などを使い、具体的な業務の流れをシミュレーションすることで、座学だけでは得られない実践的なスキルが身につきます。

社内研修だけで全ての業務を習熟させるのは困難ですが、自己学習と組み合わせ、その内容を実務に紐づける役割として活用することで、学習効果を最大化できます。

4. OJTとメンター制度による実践力の強化と定着支援

研修と並行して欠かせないのが、OJT(On-the-Job Training)です。実際の業務を通じて、先輩社員から直接指導を受けることで、研修で学んだ知識がどのように実務で活かされるのかを具体的に理解できます。

OJTを効果的に進めるためには、指導役となる先輩社員が、明確な指示と定期的なフィードバックを行うことが重要です。丸投げするのではなく、目的や背景を丁寧に説明し、進捗を確認しながら進めることで、未経験者は安心して業務に取り組めます。

さらに、とくに入社初年度においては、メンター制度の導入が非常に有効です。OJT担当者とは別に、年齢の近い先輩社員などがメンターとなり、業務上の疑問だけでなく、職場環境への適応やキャリアに関する相談など、幅広いサポートを行います。

未経験者にとっては、些細なことでも質問しやすく、精神的な支えとなる存在がいることは、学習意欲の維持や早期の定着に繋がります。メンターには、未経験者の気持ちに寄り添い、丁寧にコミュニケーションを取る時間を確保してもらうことが重要です。

研修を通じて「学ぶ姿勢」や「学び方」そのものを習得することも、OJTの効果を高めるうえで有益です。どのように情報を収集し、整理し、疑問点を解消していくかというプロセスを身につけることで、OJTにおける吸収力も格段に向上します。

5. 失敗を成長の糧に変える「指摘事項報告書」の活用

経理業務において、ミスはつきものです。とくに未経験者であれば、なおさらです。重要なのは、ミスを単なる失敗として終わらせるのではなく、成長の機会として捉えることです。そのための有効な手法として、「指摘事項報告書」の作成をお勧めします。

これは、上司や先輩社員から業務上のミスや改善点を指摘された際に、その内容を本人が報告書としてまとめるというものです。報告書には、①指摘された具体的な内容(事実)、②なぜその指摘を受けるに至ったのか(原因分析)、③今後同様の指摘を受けないためにどう改善するか(再発防止策)を記述してもらいます。

このプロセスを通じて、本人は指摘された事象を客観的に振り返り、自身の能力不足や仕事の進め方の問題点を具体的に認識することができます。

対外的なミスと、社内での指摘事項は、根本的な原因(知識不足、作業漏れ、プロセス理解の誤りなど)が共通している場合が多くあります。社内での指摘段階で、その原因を深く掘り下げて対策を講じる習慣をつけることで、より深刻な対外的なミスを未然に防ぐことに繋がります。

報告書を作成し、上司がフィードバックを行うことで、本人の自己認識が高まり、具体的な改善行動へと繋がりやすくなります。これは、短期間での確実な成長を促すための強力なツールとなり得ます。

まとめ:組織全体で取り組む未経験者育成

経理未経験者の育成は、決して簡単なことではありません。

しかし、今回ご紹介したように、学習する組織文化を土台とし、採用段階での見極め自己学習と実践的な研修の組み合わせ丁寧なOJTとメンター制度、そして失敗から学ぶ仕組みといった要素を戦略的に組み合わせることで、未経験者は確実に、そして短期間で経理部門の貴重な戦力へと成長します。

未経験者の育成は、単に担当者やOJT指導役任せにするのではなく、経理部門全体、ひいては会社全体で取り組むべき重要な投資です。本稿が、皆様の部門における人材育成の一助となれば幸いです。

「デジタル編」では、システムを活用して未経験者がスムーズに業務を遂行できる「仕組み」を構築する方法について解説しています。
BPO組織に学ぶ 未経験経理を戦力にするための「組織の習慣」 デジタル編

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