<図で考えると数字は良くなる> 第10回 新規事業で取引先数を増やすことで、会社の自由度を高める

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新規事業を行うことのメリットあれこれ

ここ数年、既存の会社を見ていて思うのは、新規事業に関して消極的な傾向を感じます。特に社員が守りに入っている傾向が高く、経営者や一部の社員は新規事業をやりたいのに、それ以外の反対の声が多くて結局できない、というケースを実際に聞くこともあります。

ただ、そのような会社は「変化する習慣」がなくなっていくので、組織自体はどんどん硬直化し、次第に「変化すること自体に反対」という勢力が台頭し、結局「いつか新規事業を…」の「いつか」、が来ないまま、会社の成長スピードも止まってしまうのです。

新規事業は会社の売上や利益に影響があるだけではなく、新規事業をやることで、社内のさまざまな箇所で変化を自動的、物理的、強制的に引き起こしますので、組織の活性化には不可欠なものです。

多くの会社で「社内の活性化」「組織の硬直化を防ぐ」というテーマで、評価制度を見直したり、福利厚生案を考えたりすることもあるでしょう。「新規事業」をボンボンっと作れば、一気に社内の硬直は崩れ、活性化をせざるをえなくなります。

それくらい新規事業というのは、予算さえあれば組織改善にとって「万能薬」です。

新規事業で想定されるリスク

だからといって何でも手当たり次第にやりたいことに手を出すのはリスクがありますので、新規事業についての主要なリスクとその回避策についても触れておきたいと思います。

  • 失敗リスク…新規事業を実行する前に、撤退時の条件を決めておく。(〇年以内に黒字化できなかったら撤退、など)
  • 反対リスク…変化を嫌う社員が、あらゆる手段で会社の方針に反対する活動を行う。時には新規事業担当の社員への嫌がらせや、事業開始後でも公然と撤退を迫る場合もあるため、経営陣が新規事業担当者を守り抜く覚悟がなければ、新規事業は行わない方が良い。

もともと新規事業は、いくつか行ったうちの一つが当たれば御の字ですが、うまくいかなかった場合でも、「組織の活性化としての費用」という考え方もできますし、新しい分野に挑戦することで、新しい得意先や発注先などの人脈を獲得するという収穫もあります。

その新規事業自体が売上ベース、利益ベースで仮に成功とまではいかなくても、新規事業で得た取引先が既存のビジネスの取引先の一つになってくれるように誘導すればそこで売上や利益が確保できますし、また別の新規事業を興す時に、一度でも仕事をしたことがある協力先でしたらその仕事ぶりや相性もわかっているはずですので一緒に組める可能性もあります。

人間も動かないと仕事をとったり人脈を広げたりすることができないように、会社も常に動いていることで、組織としても広がりが出てきます。

大切なのは「リスクの内容を正確に知った上で新しいことに挑む」ということです。

人は安定した環境にいると徐々に危機意識が薄れていく

なぜ会社が常に動いている状態が大切なのかというと、会社も人も、動かなくても食べていける状態になると、だんだんと今の状態に依存していくようになり、危機意識が低くなっていき、いざという時、万が一の状態のことを考えなくなっていくからです。

これまで好調だった会社が一気に窮地に陥っていった事例を周囲の方々などにヒアリングしていくと、この「依存」というキーワードが浮かび上がります。

    ・社長の力量だけに依存していた
    ・特定の社員の実績だけに依存していた
    ・特定の受注先だけに依存していた

それぞれに特定の1人や1社への依存度が大きいのでいずれはリスクヘッジしなければいけない、と思いつつ、まあまだ大丈夫だろうと、依存し続けていたものが突然頼れなくなる。そのような時に会社というのは一気に資金がなくなり窮地に陥ります。

たとえば全体の売上の半数以上を特定の得意先1社で占めているというような場合、その取引先が突然なくなった場合、次のようなことが起こります。

    1、短期間のうちに資金繰りに窮し、資金を手配する時間がとれない
    2、その取引先だけのために手配していた設備、人材などが全て行き場を失う

特定の1社に売上依存をしている会社の特徴として、その関係性に甘えてしまい、危機感が薄らぎ、新規開拓をしなければというモチベーションが緩んでいます。

そのような時に突如として取引が打ち切りになってしまった場合、その時から新規開拓を始めたところでその会社に代替するレベルの会社と契約を結べるのは、最低でも3か月から半年はかかるでしょうし、それも初回から高額取引ということは少ないので、徐々に信頼を得て受注額を増やしていくとして、どれだけ全てうまくいっても最低1年は見ておかないといけないでしょう。

そこまでしのげる資金繰り用の資金も同時に必要になります。

そこで金融機関に借入の申請をしようというときに、その申請理由が売上の大半を占めていた会社との契約終了のため借入が必要になった、という理由の場合、審査も厳しいものになるはずです。「新たな受注先との契約書などを持ってきてくださればこちらとしても見通しが立てられるので貸出できるのですが…」という話になることもあるでしょう。

また、特定の取引先との関係性が深くなっていくと、その会社のリクエストを受けて、専用の設備を造作したり、備品を購入したり、専任の担当者をつけたりする場合もあります。

その場合、その会社の契約が打ち切りになってしまうと、そうしたものが他のクライアントにそのままスライドできないことも多いので、会社としてお金や設備、人などを無駄にしてしまうことがあります。

相手先との関係性が良くてもリスクが発生することもある

また、相手から契約の打ち切りを言い渡される状況というのも、関係性が良い時でも次のような理由でそうなる場合があります。

    1、相手先の倒産、経営不振
    2、相手先の経費節減
    3、相手先の経営者交代などによる経営方針の転換
    4、相手先の担当者交代による発注先変更

ビジネスですから、相手先自身が経営不振に陥ってしまった場合、「そんなことを言わずになんとか」とお願いしても、「ない袖は振れない」のでどうしようもないことがあります。

特定の1社に売上依存をしている場合は、それを失った場合のリスクもあると気構えておいたほうが良いでしょう。少なくとも他に1社、会社全体の運転資金を賄えるくらいのクライアントが確保できていていれば、そのような売上依存度の高い会社があっても、万が一に備えられますので、その数字を基準に経営戦略を練ると良いと思います。

また、特定の1社に売上を依存せざるを得ない場合は、1製品だけ、1サービスだけを納品、提供するのではなく、さまざまな「汎用性のある」製品やサービスも次々に開発して納品、提供していくことで、万が一のことがあっても汎用性さえあれば他社に営業をかけて受注できる機会もありますので、そのような形でリスクを減らす方法もあります。

新商品、新規サービス、新規ビジネスというのは、単に売上や利益の伸長だけでなく、このような万が一のリスクヘッジにも自然に役立つ側面があるのです。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。

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