<図で考えると数字は良くなる> 第6回 事業・製品・サービス数を増やすほど、外的環境の変化に対応しやすい

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予見はできても防ぎようがない外的リスク

前回は、特定の1製品、1事業に売上が集中する場合のメリットを書きましたが、その一方で大きなリスクの一つは、外的リスクです。ビジネスにおいて売上や原価に影響を与える外的リスクは、

    ・同業他社との競争
    ・天変地異による被害、政治問題の影響
    ・生活様式の変化に伴う消費動向の変化

などが主にあります。

1.同業他社との競争

近年は豊富な資金を元手にM&Aを繰り返して、お金にものを言わせて業界のシェアをとる動きが活発化しています。「多くの人間はお金になびく」という本質を突いています。

品がないやり方だと言われても、シェアをとったものが勝ち、という発想の人達に負けないためには、第2、第3の製品、サービスの準備をしておく必要があります。そしてその準備さえしておけば、トカゲのしっぽ切りのように、敵が迫ってきたら「どうぞ」と差し出して、その間に逃げて、また安全な場所でしっぽを生やせばいいのです。

M&Aを多く実施している会社は、時間をお金で買っている、つまり裏を返せば社内に新規事業を考え、マネジメントできる社員が不足しているということが言えます。お金があるうちは脅威ですが、買収した事業や会社が黒字化できなければ資金も枯渇していきますし、買収してもマネジメントしきれていないという証拠にもなります。

その場合、即座に撤退という経営決断をすることもあり得ますから、新規事業を自生できる体制のある組織であれば、そうしたライバルの登場に一時的には脅威を感じても、持久戦に持ち込んで粘り勝ちすることはできると思います。

2.天変地異による被害、政治問題の影響

天候不順や災害などで製造拠点そのものに被害が及んで製造ができない状態になる、あるいは生産スケジュールに影響が出ることがあります。

国外から原材料などを仕入れる場合、または海外に製造ラインがある場合に、日本とその拠点になっている外国との間で政治的問題が発生した場合、輸出入のスケジュールに影響があったり、税金の率が変わったりという影響が出ます。

また、現地で労働争議が起きるといったリスクもあります。そのようなリスクを恐れて国内に製造拠点を置いていても、日本は昔から地震大国、台風銀座と呼ばれるくらい、自然災害の脅威を受け続けます。

製造拠点、販売拠点、運営拠点なども密集していたほうが、生産性は良いのですが、こうした災害リスクを考えて、太平洋側と日本海側、北海道と九州・沖縄、山側と海側などに分散するという発想もリスクが生じた場合には素早いカバーや対応ができるのではないかと思います。

3.生活様式の変化に伴う消費動向の変化

たとえばスマートフォンの台頭により、通信費やアプリの課金にお金がかかるようになった分、これまで使っていた費用を削るようになった、というような、消費動向の変化を受けやすい製品、サービスの場合は、自社の品質が良くても、外的要因の変化で売上が落ちていく可能性があります。

今後も、スマートフォンに変わる「魅力的な何か」が、数年以内に台頭し、それに関する費用に多くの人がそれにお金をかけるようになるかもしれません。そのような危機意識は社内や自社製品、自社の業界に目を向けるだけでは気づくことができません。世の中の潮流を常にチェックしておく必要があります。

これらのリスクは、いくら健全に会社経営を自社で行っていても関係なく起こります。しかし、製品やサービスを複数ラインアップしておくことで、このリスクを丸被りすることを避けることはできます。

しかし前回もお読みくださった方なら矛盾を感じると思います。1製品、1事業に絞ったほうが生産性や利益率も高まりやすいのに、単にリスク分散のためだけに生産性を下げるような多角化は会社経営として賢明でない気がする、と感じる人もいるかもしれません。

その矛盾を極力最小限にとどめるために、リスク分散のためだったらどんな事業を始めたっていい、ということではなく、「極力生産性を下げず、かつ同じリスクを被らない製品やサービス」を企画時点から考えるという発想が大切になります。

危機回避をしつつも、効率的な再投資方法を考える

たとえば、あるラーメン店の利益が出て、その資金を再投資して事業を拡大しようと考えた場合、方法としてはいくつか考えられると思います。

    1.同じ味・店名・ブランドコンセプトの2店舗目のラーメン店を開店させる
    2.違う味・店名・ブランドコンセプトのラーメン店を開店させる
    3.ラーメン店でない飲食店を開店させる
    4.飲食店でない店舗を開店させる
    5.ラーメンのオンライン通販を始める
    6.他社とライセンス契約を結んでコラボ商品を企画する
    7.飲食コンサルを始める

まだまだ考えれば出てくるでしょうが、皆さんならどれを薦めるでしょうか。

これは「外的リスクを考えない場合」と「外的リスクを考えた場合」とでは大きく違ってきます。もし外的リスクを一切考えないのであれば、1から7の順番で売上は大きく上がる可能性は高いと思いますので、多少前後はあってもおよそこの1から7の順番で周囲も薦め、経営者ご自身もそうされるのではないかと思います。

しかし、「外的リスクを考えた場合」はどうでしょうか。かなり推薦する順位も変わってくると思います。

たとえばもし今回のようなコロナ禍で外出もままならない状況になった場合、1から3は、売上が下がり0(ゼロ)に近い状態になることもあります。それだけでなく、家賃や人件費、在庫の食材の陳腐化など固定費は継続して発生しますので赤字が膨らみます。4も同様ですが、販売する商品・サービスの内容によってはコロナの影響を受けない可能性もあります。

一方で5から7は、売上や利益は1から4に比べてそれほどなくても、オンライン下、テレワーク下でも対応が可能ですので、コロナ禍でもなんとかやりくりしていける可能性も残されており、家賃などの固定費もそれほどかけずにできます。

また、5から7をコロナ前から少しでも実際に行っていれば、コロナのような実店舗が開けない状況下になった場合に、社員を5から7の仕事にすぐシフトをさせることもできます。これが、何も取り組んでいなければ、少なくとも5から7を行うのに最低数カ月は準備期間が必要になりますので、スタートダッシュが遅れて商機を逃してしまった会社もあったと思います。

コロナ禍でもスムーズに対応できた企業は、そのリスク回避のノウハウをパッケージ化して7の商品として、独立開業したい方達にビジネスとして伝授してもいいかもしれません。

身を守りながら攻める戦略も不可能ではない

このように、リスク回避の観点からビジネスを見るという視点も非常に大切ですし、それは保守的ではなく攻めの戦略、無駄のない生産性の高い戦略でもあるということがおわかりいただけると思います。

こうしたことが発想できるのは、イケイケドンドンの現場ではなく、常に危機対応を考えているバックオフィスであり、売上やコストを考えている経理だからこそできるのではないかと思うのです。

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