<図で考えると数字は良くなる> 第4回 経営者が経理部門への関心度を高めれば、会社の成長も高まる

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社長が細かい実務をしていて会社が大きくなるはずがない

会社の成長がなぜか一定の売上や社員数で止まってしまう理由の一つに、労務、財務、法務などのバックヤード体制が未整備、脆弱であるという点が挙げられます。

目をつぶって想像してみてください。「新しいビジネスが持ちかけられた時、それらを進めるにあたり、契約など諸手続きの実務を経営者自身が行っている会社というのは、何人くらいの社員数の会社を想像するでしょうか。

5人でしょうか、それとも10人、20人、50人でしょうか。いずれにしても経営者がそのような実務をいつまでもやっていては組織の成長スピードは速くなりようがありません。

社員が30人に至るまでには総務と経理それぞれ実務を一人で回せるスキルの社員を入れて、彼らを中心に弁護士や税理士、社労士など士業の先生とやりとりをしたり、ビジネスにおける様々な契約や手配などの諸手続きを行えたりできるような体制作りができていないと30人の壁、50人の壁を超えるのは難しいことでしょう。

経営者がバックヤードにお金を出し惜しみしてしまう3つの理由

なぜ多くの経営者がバックヤードに対する人件費を出し惜しみしてしまうのか。次の理由が挙げられます。

1.現場出身の経営者のため、管理部門に対する認識や関心が低い

多くの経営者、特に起業する方は現場出身の方が中心です。そのため、現場の実務については詳しいですが、管理部門は「単に処理をするだけの部門」という認識の人が多いのが実情です。

会社が成熟期、衰退期に入ってる場合はその通りなのですが、黎明期、成長期においては、新規事業など売上を新たに作るための準備、体制などを素早く整えるためには、優秀な管理部門のスタッフが欠かせません。

また株式上場などを目指す会社であれば、その審査のほとんどが、経理を中心とした管理部門のスタッフで膨大な量のチェック項目、質問事項に完璧に回答していかなければいけません。

勢いやノリだけでは不可能です。実務だけでなくコミュニケーション能力も長けた人間でないと無理です。そのような人材は都合よく簡単に見つかるはずもないですから、かなり前段階から常時探しておく必要があります。

そういった知識がない場合、「上場を目指すぞ!」と掛け声のまま、3年、5年…と経過してしまう会社が非常に多く見られます。

2.経営者が大企業出身のため、管理部門の必要性を実際に目視した経験がない

全員ではないかもしれませんが、大企業出身の知人たちと話をしていたときに、たとえば給与などは、誰がどのような処理をして自分の口座に振り込んでくれているのか全く知らない、と言っていました。おそらく彼らから見たら、総務経理部は町の役所の人、銀行の人くらいの距離感なのだろうなと思いました。

中小企業、初期のベンチャー企業の場合は、ワンフロアに社長、営業、総務、経理など全員がいる会社が多いですから、どの職種の人が会社でどのような役割を担っているかということが常時視界に入ってくるのでわかります。

しかし大企業では、同じフロアに100人同じ職種といったように、他の職種との交流が少ない分、他部署の社員の職務内容など気にする機会も少ないでしょう。

すると、大企業の現場部門の方が起業をすると、管理部門というのが「処理係」で、それ以外に特に仕事がないと勘違いしてしまい、採用を現場部門優先で管理部門の人材を後回しにしたり、人を雇わずに機械だけで全部処理できるんじゃないか、と安易に発想してしまったりします。

大企業出身の方が一から起業をするときなどは、管理部門も含めて自分の出身部署以外の重要性に気付くのが中小企業出身の方と比較すると遅れる傾向があり、その点は物理的に不利になります。

出遅れ、手遅れにならないように、優秀な管理部門のスタッフを早めに確保をして、管理部門の実務に加え、現場部門をサポートしてもらう必要があります。

3.スキルの高い経理部門の社員に出会ったことがない

「ただ作業だけをしている」「変化にネガティブ」「積極性に乏しい」といった社員は大企業でも中小企業でも、そして営業でも経理でもいると思いますが、管理部門は業務内容自体が内向きの仕事も多いですから、管理部門やその社員が、余計にこうした消極的、ネガティブな属性に近いのではないかというバイアス(偏見)が経営者にかかってしまうことも多く見受けられます。

管理部門のためにお金を使うのは「もったいない」という意識が垣間見えることが多いです。

しかし現実には実際に伸びている会社、株式上場など達成している会社などは優秀な管理部門の社員が必ずいますし、上場を果たした管理部門の現役役員の方が登壇している無料セミナーなども今は数多く開催しその重要性を説いています。

どの職種でも優秀な人は会社の成功に大きく寄与しますので、職種にバイアスを持たず、成功した企業担当者の方たちが語る管理部門の役割というのを理解するだけでも、管理部門も現場部門と等しく強化しなければならないことが理解できます。

バックヤードへの投資目安

では、どの程度バックヤード部門を強化するために投資をしたらよいでしょうか。

目安としては、他社の経営者などから「一緒に新規ビジネスをやりませんか」など、売上につながるような新しいビジネスを持ちかけられた時に、「すぐやりましょう。あとはお互いの担当者を紹介しあって実務は彼らに任せましょう」と、即答できる人員が揃っていれば問題ありません。

もし「いいですね」と言った後に「あ、でもうちの会社では手続きの実務対応ができるスタッフがいないのでまた今度いい話があったらお願いします」と、その話を流してしまうようでしたら、相手は二度と仕事の相談は持ちかけないでしょう。

社内の管理体制が足りていないばかりに新しい売上機会を逸するということはあってはならないことです。

ビジネスには、必ず「手続き」と「数字の管理」が必須です。お金をケチらず、売上のない部門へも投資をすることが、結果的には売上や利益を伸ばす近道になるということを経営者にはご理解いただきたいですし、管理部門からも提案していただければと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、YouTubeチャンネル『流しの経理』、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本 プロ経理が教えるお金の勉強法』(PHP研究所)。

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