<図で考えると数字は良くなる> 第2回 数字の集計が早い組織ほど経営決断が早い

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経理の皆さんは、経営者から月次決算の早期化を求められて大変、ということが往々にしてあるのではないでしょうか。今回は、月次決算のスピードと、会社の経営判断のスピードの関連性についてです。

経営判断に一貫性がある会社、一貫性がない会社の差

経営判断に一貫性がある会社とそうでない会社の差はシンプルです。それは経営者が、常に「数字」を見た上で判断しているかいないかの差です。

たとえば月次決算の数字というのは「過去結果の事実」ですので、それを毎回見て分析した上で経営判断をしている人は、経営判断の基準が固定化されています。そのため、社内の人間や株主などの投資家や金融機関の担当者は、経営判断に一貫性があると感じ取れます。仮に経営方針の転換をしても、「実績数値を見て方針転換したのだな」ということが質問しなくてもわかります。

しかし、数字に興味がない経営者や、なかなか月次決算が早くできあがらない会社の場合、経営者の経営判断は「状況判断」によることが多くなります。「人手不足だからこうしよう」、「生産ラインがまわらないからこうしよう」など、数字の判断ではなく事象判断になるのです。しかし、投資家や金融機関の担当者はそのような内部事情など知る由もありませんから「なぜ突然そのような経営方針の転換をしたのか」「同じ数字内容なのに以前と経営判断が変わっている」など、判断に一定の規則性を感じ取れず、理解できないことが多くなります。なぜそのような経営判断をしたのか説明をしてください、という質問が、このような会社の場合は、おのずと多くなります。

月次決算は経営者の直感との「答え合わせ」の資料

数字を参考にしない経営判断は、社内・社外の人間にとって、その根拠が不安定、不透明な印象を受けるため、会社そのものに対する信頼感も同じような印象にしてしまうこともあり得ます。

「社長の気分次第」「社長の直感だけ」で経営のかじ取りをしている印象のある会社に、皆さんは自分の大事な資産を投資するでしょうか。あぶく銭なら投資するでしょうが、大事な資産は投資しないと思います。その差です。

現実には社長の直感で経営をしている会社というのは多数あります。ただしそのような経営者の多くがその「答え合わせ」として、月次決算などの数字資料と自分の直感とを照らし合わせています。

「自分の直感だと、今のコロナ禍での外的環境だとこのくらいの数字になっているはず…」という直感と、実際に経理部門が集計した数値とを答え合わせをし、合致していたら「直感通り伸びてるな、じゃあさらに攻めよう」「やはり想定通りの数字の下がり具合だな…すぐ業態展開の決断を幹部に伝えよう」など、「次の行動」への後押しとなる資料になります。

その資料が速く経営者の手元に届けば届くほど、経営決断も早くできます。攻めの時には他社よりも早く攻めの経営決断ができ、先んじて市場を独占することができるかもしれません。またピンチの時には、いち早くピンチの状況に止血をして、次の新しい事柄にチャレンジする体制を作ることができ、損失を最小限に抑えることができることでしょう。

このように「速さ」というのは、プラス作用に働くことが数多くあります。ただし、その速さにも条件が一つあります。それは、「正確であること」です。

速さだけ求めても無意味。「正確かつ速い」がキー

「日次決算をしています」という会社がありました。それはすごいですね、と資料を見せてもらったところ、たしかに売上は日次で出ているのですが、預金残高や売掛金の残高などは明らかに日次では合わせていませんでした。

経営者の中には、単に売上日報を日次で集計していることが「うちの会社は日次決算をしている」と認識違いをしておられる方がいます。数日後に大きな売上のキャンセル分が発生してもそれは日次の売上報告に入れておらず、経営者への報告が漏れた結果、経営者が実際の売上を過大に認識して経営判断してしまっていた…ということも起こりがちです。

日次決算というのは、このように「変更」「取り消し」「修正」などがあったときに、報告漏れが月次決算よりも起こりやすいため、経営者が考えているよりも非常に高いレベルの人材でないと、こなすことは困難です。

また、別の会社の例では、経理の人数も不足し、会計ソフトや在庫管理のシステムも未整備の状態で「とにかく日次決算をしたいからよろしく」と、予算も出さずに社員に無理難題を強いることもあります。

そのような環境下の場合、経営者に叱責されるのを恐れて「社長は日次決算の難しさをわかっていないから、仕訳も暫定で入れて後でまた振替仕訳を入れて調整してもわからないだろう」と、社員がその場しのぎの数字を適当に入力をして、あとでそれを直すはずが忘れてしまうなどのミスも起こりやすくなります。また、そのやり方が常態化してしまい、本来の正しい経理処理でない状態になってしまうという事態も起こりかねません。

日次決算は、少なくとも人材とソフトウェアにそれなりのお金をかけないと実現は難しいので、多くの会社は月次決算レベルで経営判断すれば十分に速いと思います。

日次の売上を経営者が確認している会社は、それ自体は良いことだと思いますが、必ず月次決算の数字も確認していただきたいと思います。前述した「変更」「取り消し」「修正」などもすべて加味して反映されたものが月次決算ですから、そこで最終的な「経営者の感覚」とのすり合わせのチェックは必ずしていただきたいと思います。

月次決算を速めると、会社全体の動きも速くなる

月次決算を早くするということは、経営判断のみならず、社員一人ひとり、つまり会社全体の動きを速くします。その理由は月次決算がなかなか早く締まらない理由を挙げてみればわかります。

  • 経費精算が集まらない(いくら費用がかかったか把握できない)
  • 支払請求書が集まらない(いくら費用がかかったか把握できない)
  • 在庫表が集まらない(いくら費用に計上されるべきか把握できない)
  • 売上請求書が集まらない(いくら売上があるのか把握できない)

このように文字化するだけでも、この会社がどのような会社かイメージも膨らむのではないでしょうか。経理社員は、「あの人が提出してくれないから決算が固まらない」とイライラしつつも、「どうせ現場から在庫表が提出されるのが遅いから、ゆっくり経理処理すればいいや」というモチベーションで仕事をしているかもしれません。

その反対に、

  • 経理精算もすぐ集まる
  • 支払請求書もすぐ集まる
  • 在庫表もすぐ集まる
  • 売上請求書もすぐ集まる

このような会社だったらどうでしょう。経理社員は、「資料が集まらない」というストレスを抱えることなく仕事ができる反面、良い意味でプレッシャーがかかっているのではないでしょうか。

現場が速く資料を提出しているのに、経理がまごまごと何日も集計に手間取っていたら「経理はいつまで時間かかって作業しているの?早く月次決算の結果教えてよ」と、現場や経営者から突かれるかもしれません。それぐらいの勢いで月次決算が締まるのを待っていることでしょう。

おのずと経理社員は処理スピードを上げ、かつ「自分が経理処理を間違えて(経営者や現場に)指摘されたら大変だ」と緊張感を持ち、作業スキル、チェックスキルも向上することでしょう。きびきびと会社全体が動いているイメージが湧くのではないでしょうか。

強い会社は、社員が経営者に良い意味でプレッシャーをかけてくる

このように組織において月次決算を早く確定することは、最終的には経営者に良い意味でのプレッシャーがかかってきます。「まだ数字が出ていないから状況判断で経営決断をするしかないじゃない」という言い訳が経営者にできてしまうと、経営者が「普段から数字を見ない」という習慣がついてしまいます。

経営者が数字に興味のない会社ほど恐ろしいものはありません。本当に強い組織というのは社長が社員を引率する組織ではなく、社員が社長の背中を押し出す組織なのです。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『図で考えると会社は良くなる』(クロスメディア・パブリッシング)

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