<図で考えると数字は良くなる> 第1回 予算は全員の計数感覚を揃えるためにある

読了まで約 6

先日、『図で考えると会社は良くなる』という本を出版しました。今回のシリーズは、図(グラフ)をベースにして、経理に関わるテーマについてお伝えしていきたいと思います。第1回は、会社の予算と、会社で働く人たちの計数感覚の高さとの関係性についてです。

 

なぜ予算は必要なの?と聞かれたら

経理の皆さんなら会社に予算があることは当たり前に思うでしょうが、予算がない会社も実際にあります。社長が頭の中でわかっているので、社員は社長が指示するとおり、それぞれの仕事を頑張ってくれていればいい、という考えの会社です。それでは一体、予算は何のためにあるのでしょうか。そして会社にとって予算は必要なのでしょうか、それとも不要なのでしょうか。経営者や現場の社員から、「ねえ、何で予算ってあるの?」と聞かれたら、経理の皆さんはどう答えるでしょうか。

「目標があったほうがわかりやすい」「分析ができるからあったほうがいい」「銀行に出せと言われるから必要でしょう」「銀行から借入もしていないしお金も潤沢にあるから今のところは必要性を感じない」。どれも間違ってはいないと思います。一番いけないのは、何も答えられないことです。経理についての質問をされたら、皆さんなりの答えを常に持ち合わせていることが大切です。

経理という仕事は、管理するものがたくさんあります。現場に期限厳守で提出物をお願いしなければいけないこともあれば、予算のように現場に数字の資料を作ってもらわなければいけないこともあります。そのような時に「なぜそれをしなければいけないの?」と皆さんもよく聞かれることがあるのではないでしょうか。

「なぜ必要?」という質問には「なかったらどう困るか」を考える

私も会社員時代に、IPO(株式上場)の準備などでさまざまな内部統制を整備するときに、営業など現場の部長さんたちから「何でこんなことが必要なの?今まで別になくても会社は回っていたじゃない」としょっちゅう質問をされました。現場の方たちのほうが口達者な方ばかりですから、最初は私も言葉に詰まってしまうことが多くありました。どうしたらよいものかと思案していた時、ひらめきました。なぜ必要なのかを説明するのではなく、これがなかったらどれだけ大変なことが起こるか、これをしなかったら会社や自分たちはどんな大変な目に遭うか、ということを説明すれば納得してもらえると思いました。

たとえば内部統制などは、なぜ必要なのかという説明になると「モラルのある会社として、きちんとしたルールがないと…」と硬い説明になってしまい、現場の人たちも自分たちにはあまり関係がないと思って腑に落ちてくれません。これを、「もし内部統制がないままどんどん会社が大きくなったら、悪い社員が在庫を横流ししてもバレないし、キックバックや私物の領収書なども申請し放題で、会社から資金がどんどん流出していずれ潰れますよ」と説明すれば、「そういうことが起こっては困るから、だから内部統制というのは必要なんだね」ということは理解してもらえます。

誰かから「なぜ必要なのか」と問われてとっさに答えなければいけない場合は、「それがないとどんな困ったことが起こるか」と考えて、その事象をいくつか答えれば相手は納得してくれることでしょう。

予算がないと何が困るのか

では、予算もこれと同じように考えてみましょう。「もし予算がなかったら、どんな困ったことが起こるか」ということです。皆さんも次の文章を読む前に、1分くらい考えていくつか心の中で挙げてみてください。

たとえば私がとっさに思いつく「予算がないと起こる困ったこと」は、

1.経費を際限なく使う社員が出てくる

2.売上や発注などの見積もりが甘くなる

3.自分の数値目標がわからないので、どこまで頑張ったらゴールなのかがわからない

このようなことを1分の間にパッと思い浮かべました。

皆さんはどうでしたか。経理部内の定例ミーティングなどでも、このように、皆で短時間に思い浮かんだことを付箋などに書き出して、お互いに発表しあうというトレーニングなどを行うと、現場や経営陣からの質問に対しても反射的に的確な答えを言えるようになります。

1. 経費を際限なく使う社員が出てくる

たとえば営業社員が取引先を接待するとします。お金をかければかけるほど良い接待はできますから、営業の立場としてはお金を使いたいわけです。しかし予算表があれば、営業社員も「一人〇円以内に接待を収めないいといけないんだな」ということが事前にわかりますので、その予算の範囲内で接待をします。

もし予算表がなければ、いくら使っていいかの目安が営業社員もわかりませんので、時には驚くような高額な接待をしてしまい、申請された高額な領収書を社長が見て「何でこんなにお金を使ったんだ!」ということも起こります。

2. 売上や発注などの見積もりが甘くなる

売上の目標が何も言い渡されていなければ、現場社員は受注してもらいやすいように安い金額で見積を出してしまうでしょうし、反対に発注に関しては経費と同様で、高ければ高いほど質やサービスも良いでしょうから、高額な発注をしてしまう可能性があります。結果的に利益が圧迫されていきます。

3. 自分の数値目標がわからないので、どこまで頑張ったらゴールなのかがわからない

売上目標や経費の使用範囲内の予算がないと、「自分たちは、どこまでを目標に頑張ればいいのか」ということがはっきりわかりません。いくら受注をとってきても、「まだまだ売上が足りない」と社長から言われ続け、一般的な金額の経費申請をしても「またこんなに経費を使って!もっと節約しなさい」と毎日経営者から言われ続けたら、社員は皆疲弊してしまいます。

計数感覚は、一人ひとり違う

そもそも金銭感覚や計数感覚というのは、各人バラバラです。それは育ってきた環境が異なるからです。1万円札を見て「1万円もある」と思うか、「なんだ1万円か」と思う人もいます。そのため会社組織の場合は、各人の金銭感覚や計数感覚を揃えていく必要がありますし、そのほうが行動もまとまっていくので利益も出やすくなります。

そのための確認資料、教育資料、すり合わせの資料として最も適しているのが「予算」です。

なぜなら、使ってしまった後にいくら反省してもお金は戻ってこないですし、安く受注してしまった後に後悔しても金額は変えられないからです。

「受注する前」「お金を使う前」に、どれくらいの受注をする予定か、どれくらいのお金を使う予定か、という会社の指針となる予算資料を全員で共有し、理解をすることで、お互いに何をすべきかということがわかり、その「理想」をベースに行動をすることができます。それを繰り返していくことで、金銭感覚がずれていた人や、計数感覚が乏しかった人も、良くなっていきます。

予算というのは、組織に所属している人たちの計数感覚を整え、揃えるためにあります。多くの会社では、予算資料がないよりはあったほうが、より利益が多くなる可能性は高いはずです。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

経費精算システムの導入事例20社を一挙ご紹介!

マネーフォワード クラウド経費を活用いただき、作業の効率化やコスト削減を実施した企業の導入事例集を無料でダウンロードできます。

執筆:前田 康二郎 (まえだ こうじろう)

フリーランステレワーカー。数社の民間企業で経理総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在はフリーランスでのコンサルタント活動、講演・執筆活動の他、節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営している。 著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上 日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』『自分らしくはたらく手帳』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、『経営を強くする戦略経理』(日本能率協会マネジメントセンター)など。最新刊は『図で考えると会社は良くなる』(クロスメディア・パブリッシング)

「マネーフォワード クラウド」のサービス資料