withコロナ時代の健康管理。社員のストレス、会社はどう解消できる?

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新型コロナウイルス感染症の拡大によって多くの企業がリモートワークへと移行するなど、働き方や生き方が大きく変化している2020年。慣れない環境に今までとは違うストレスを受け、心と体に不調を感じる声も聞かれています。

そこで、withコロナ時代の健康管理について、コロナ禍に企業の相談先として民間窓口を設置するなど活動されている産業医・小橋正樹さんにお聞きしました。

【プロフィール】小橋 正樹(こばし まさき)
株式会社oneself.代表。1985年生まれ。産業医科大学医学部医学科卒業。福岡記念病院、南部徳洲会病院にて主に救急診療医・総合診療医として従事。産業医科大学産業医実務研修センター修練医を経て、現在は建設企業の統括産業医のほか、IT、保険、エンタメ業など約10社で嘱託産業医を務める。2019年1月に産業保健の情報交換・発信を目的とした、Facebookグループ「産業保健オンラインカフェ」を開設。コロナ禍では企業の相談先として民間窓口を設置。緊急事態宣言が開けるまで悩み相談に注力した。
Twitter:@masaki_kobashi

在宅勤務が社員にもたらした悩み。出社再開もストレスに

――コロナの影響により、ビジネスパーソンからはどんな悩みが多く聞かれましたか?

2020年の年明けから徐々にコロナに関する相談が増えていました。特に、4月の緊急事態宣言によって多くの企業でほぼ強制的に在宅勤務が始まったことで、さまざまな悩みが一気に噴出しました。本来、在宅勤務を含むリモートワークは場所を選ばない多様な働き方の1つですが、今回は場所を自宅に限定され外出も自粛要請された点がポイントです。

急な在宅勤務による生活や精神面での悩みは、生活環境によって異なります。例えば、一人暮らしの社員からは「一日中、誰ともコミュニケーションを取らず気が滅入る」「雇用は大丈夫かといった変な不安ばかり頭に浮かんでくる」という声が多く挙がりました。

一方で保育園や学校の自粛により自宅にお子さんがいる場合、「家族との時間が取れて嬉しい」という声がある反面、「子どもがいるから日中は仕事にならない」という声が多く聞かれました。結局子どもが寝た後の夜中に仕事せざるをえず寝不足になって疲労が溜まってしまうという人もいましたね。

家から出られないことでの運動不足に関する悩みも目立ちました。さらに、在宅勤務だと1日中パソコンに張り付いているために肩こりや腰痛に悩まされたり、他にやることがなく過食やアルコールの過剰摂取などにつながったという声もありました。

出社によってコントロールできていた生活習慣も、在宅勤務だと全て自己管理になります。そのため、慣れない環境やそのストレスなどが、生活リズムの乱れに大きく影響したのだと思います。

――緊急事態宣言の解除後はいかがでしたか?

出社や自粛が一部解禁となりストレスが緩和されたという声がある一方、緊張がほぐれたと同時に疲れが一気に出て体調を崩した例も多く散見されます。

また、これは緊急事態宣言下でもそうだったのですが、「在宅勤務体制を敷けるはずなのになぜうちの会社は在宅勤務にならないのか」「このまま出社して本当に感染の危険はないのか」などといった出社によるストレスを抱えている社員が一定数いるのも事実です。

会社は、社員が気軽に相談できる環境の用意を

――このような不安や不調のケアとして、企業や経営者が取り組めることを教えてください。

健康には「身体的な健康(フィジカル)」「精神的な健康(メンタル)」「社会的な健康(ソーシャル=つながりや経済的安定など)」という3つの側面があり、個人としても企業としても、これらのバランスを考えたマネジメントが大切です。

経済も健康の立派な構成要素なので、企業は「フィジカル」の感染症対策に取り組みつつも「ソーシャル」の稼ぐという本業を継続させる必要が大前提としてあります。その上で、今回は社員間の関わりを組織的にデザインするという意味での「ソーシャル」、そして「メンタル」を中心に、企業がケアできる部分についてお話していきたいと思います。

まず、直属の上司や人事、産業保健スタッフなどに社員が気軽に相談できる環境を整えましょう。例えば直属の上司であれば「1日のうちこの1時間だけは、いつでもオンライン通話をつないできていい」という時間を作るなどがおすすめです。相談できる環境があれば、孤独や不安の解消につながり、社員の心の不調が改善されやすくなるでしょう。

また、社内のオンライン会議の冒頭5分間は雑談タイムにしてみるのもいいと思います。オンラインの場合、対面に比べると効率化や齟齬の軽減のために会議の目的が明確に定まっている場合が多く、雑談が簡素になりやすいです。そこであえて雑談タイムを入れると、参加者がリラックスできたり余裕が生まれたりするでしょう。オンライン懇親会もストレス発散になると人気ですね。ただし、参加や退出を任意にして終了時間をしっかり守るなどのルールを徹底しないと、逆にストレスが溜まるリスクがあるため注意が必要です。

ミーティングや雑談タイムは、「何を自分たちで工夫できるか」といった一人ひとりが自分自身で変えられるものに意識や視点を向けられるように進められるといいですね。

ストレスマネジメントの1つに「自分で変えられるものにエネルギーを注ぐ」という原則があります。「自分ができるだけの感染防止対策をした上で、後は今を楽しみながら乗り切ろう」という人事を尽くして天命を待つマインドで、人の少ない早朝にジョギングしたり家で好きな映画を鑑賞したりと工夫している人は、このコロナ禍でもメンタルが比較的安定している印象です。

経営者や人事担当者は「意思決定」のストレス増加

――緊急事態宣言下では、経営者や企業人事からはどのような相談を受けることが多かったですか?

感染を疑う社員が出た場合の対応や企業における三密対策の相談がメインでした。それと同時に多く寄せられたのが、社員の体調不良アラートついての相談です。

特にメンタルヘルス不調は「いつもと違う」に気づくことがポイントです。出社が前提の環境では、顔色や勤怠状況などである程度社員の健康状態を把握できていましたが、在宅勤務だと顔を合わせていないため実際のところは分からず、その社員の状態はオンライン上のパフォーマンスで見ていくしかありません。

今まで仕事ができていたのに納期を守らなくなった、攻撃的なコミュニケーションになったなど、些細な変化のサインを察知する力がこれまで以上に大切です。そのため、従来のマネジメントでは社員のケアがしにくいと感じている声が挙がっています。

――緊急事態宣言解除後はどのような悩みが聞かれますか?

withコロナという新しい生活様式の中で、どのような体制でマネジメントし、どう仕事を進めていくかという悩みが多いです。

「三密を避けながら事業を本格的に動かしていく際に何をすればいいのか」「延期された健康診断はどのように運用していけばいいか」「重症化リスクが高いと言われている基礎疾患を持つ社員についてはしばらく在宅勤務のほうがよいのか」など、やっていいこと・悪いことの具体的な相談が5月末から増えてきました。

また、経営者や人事担当者自身の相談では、意思決定によるストレスを抱えている人も多いです。特にこのコロナ禍ではどんな意思決定をしても全社員が賛成してくれるわけではありません。

それでも社員を束ねていく立場として意思決定から逃れるわけにはいきませんし、企業には法的に健康配慮義務や合理的配慮義務などが課されているため、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」を駆使しながら社員の健康と誠実に向き合い続けていくことが求められます。そもそも、資金が枯渇してしまえば社員を健全に雇うことすらできません。

そんな複雑性が高く変化の速いカオスの中で迫られる経営者や人事の意思決定には、産業医のサポートやコンサルティングを活かすのも、大切な選択肢だと考えています。

社員の役割を明確にすることがリモートワークのポイント

――今後も拡大が見込まれるリモートワークの課題へは、どのような対応が考えられますか?

多くの現場を見ていて痛感しているのが「情報格差をなくす」ことです。リモートワークでは、直接会っている人同士で勝手に話が進んで、周りが置いてけぼりになるケースが多く見受けられますが、情報の透明性がないと社員に不満や不安が溜まってしまい結果的に生産性が低下します。もちろん機密情報をなんでもかんでも話せというわけではありません。何をどこまで開示し、それはどのような基準で決定するのか。「情報を共有する・しないの基準」「情報格差をなくすためのフローの設定」を作りましょう。また、事前に情報開示のルールを社員に説明すると、より納得性が上がります。

先ほどの意思決定の話についても、できれば産業医も含めて社員と意見交換する場を持つなどして意思決定のプロセスを明確かつ丁寧に踏んでいけば、社員からの信頼も得られやすいのではないでしょうか。そうなれば経営者や人事担当者が抱えていた意思決定におけるストレスも軽減し、また、そのようなプロセスの繰り返しが、結果的に意思決定の質も上げていくと思います。

次に、「社員の役割を明確にする」こと。急に在宅勤務になった状態でも円滑に回っている企業とそうでない企業の大きな差は、社員個人の仕事上の役割が明確であるかどうかです。一人ひとりが自分が何をするべきかをきちんと理解して、それがメンバー間にも浸透している企業は比較的スムーズに仕事が回っています。反対に、とりあえず集まって仕事を割り振って……といったメンバーシップ型の企業は、今回の在宅勤務で事業が停滞したのではないでしょうか。

もちろん業種によってどのような組織体制・フローが適切かは異なりますが、リモートワークを取り入れる場合はできるだけ社員個人の役割やチームの目標が分かるようにしておきましょう。社員が動きやすいだけでなく、管理側も社員のパフォーマンスを把握しやすくなるので、健康状態やモチベーションの変化にも気づきやすくなります。

また、「あなたには何を期待しているのか」が明確になることで、リモートワークであっても「自分は会社に必要な人間なんだ」と社員の所属欲求や承認欲求が満たされやすくなると考えます。

今こそ、ストレスチェックで組織の健康診断を

――これからの時代、社員の健康状態モチベーションを把握する際、どのような指標を注意してみるべきでしょうか?

健診有所見率、労働時間、離休職の状況など、個人情報に関して留意した上で押さえておくべき指標はたくさんあります。その中でも、今回はストレスチェック結果の有効活用について取り上げたいと思います。

ストレスチェックは法律で社員50人以上の企業には実施が定められているもので、簡単に言うと組織診断に心の健康度チェックが加わった社員向けアンケートです。57問バージョンと80問バージョンが一般的に運用されています。私がお奨めしているのはより詳細な組織診断が可能な80問バージョンで、こちらのバージョンでは「業務」「部署」「企業」の3つのレベルにおいて様々な指標から組織の状況を照らし出すことができます。

ここまでお話ししてきた内容も、このコロナ禍における産業医活動を通じて特に重要だと感じた指標のいくつかをピックアップしたものになります。具体的には、業務レベルの「役割の明確さ」、部署レベルの「上司・同僚のサポート」、企業レベルの「経営層との信頼関係」などの指標を中心にお話ししてきました。

大前提としてストレスチェックは財務諸表と一緒で、これらの指標はOODAループやPDCAサイクルの検証点でしかなく、重要なのはその後のアクションです。ストレスチェックに限った話ではありませんが、せっかく実施をしたのなら有効活用したいですよね。

目まぐるしく環境が変化する状況では短期的な視点に振り回されがちです。でも、こんな時だからこそ、「そもそもなぜ社員の健康が大事なのか」「企業としてどんな健康戦略を描けば良いのか」と、「企業と健康」に対して真剣に向き合う企業が増えることを願っています。

今後景気がよくなってきたら、企業がコロナ禍でとった対応によって、社員や世間による会社の評価がガラッと変わる可能性もあります。

経済産業省の調査でも、就活生やその親がどんな会社に入社してほしいかというアンケートで「従業員の健康や働き方に考慮している」という項目がトップでした。今どれだけ社員に対して誠実に対応しているのかが、後々の評価につながるのではないでしょうか。

――最後に、これからの時代における理想の働き方、それを支える理想の企業のあり方を教えてください。

コロナの影響で、改めて働き方や生き方について考えた人は少なくないでしょう。コロナに限らず、自身の健康を改めて見直すことで、生きがいや人生の方向性が定められるケースは多いです。

自分は人生において何を大切にしているか、その価値観に沿う働き方や生き方を選ぶにはどうしたらいいのか。今後一人ひとりが考えられるようになり、自分の能力を最大限に発揮できる職務に就けたら嬉しいですね。

また、企業にも多様性があって然るべきです。「自社はどこを目指しているのか」「何に価値をおくのか」「どんな行動をするのか」といった、企業としてのキャラクターを表裏なく世の中に対して提示し有言実行できるようになれば、個人と企業がよりマッチングしやすい仕組みができ、お互いが気持ちよく仕事ができる社会につながると思います。

(取材・文:田中さやか、編集:東京通信社)

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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